第68話 造形師
ついに、造形師登場です!!
――霧都ダンジョン、最深層。
力の解放は、終わった。
古い力は、生成ダンジョンの深層へ流れきった。
地下空洞は静まり返っている。
鉱脈の脈動は穏やかだ。
霧は、ただの霧へ戻った。
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視聴者:731,004
【本当に終わったのか】
【静かすぎる】
【嵐の前じゃないよな】
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レインはゆっくりと息を整える。
胸の奥の灼けるような感覚も、もう薄い。
ミナが隣で小さく笑う。
「……助かったね」
「ああ」
頷いた、その瞬間だった。
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空気が、整う。
霧が、自然に裂ける。
押し広げられたわけでもない。
吹き飛ばされたわけでもない。
ただ――
“整列”した。
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その中央に。
人が立っていた。
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豪奢ではない衣服。
淡い灰色の外套。
無駄のない立ち姿。
年齢は三十代半ばほど。
目は静かで、揺れない。
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レインが眉を寄せる。
「……誰だ」
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男は、わずかに視線を向ける。
感情はない。
怒りも、敵意も。
ただ観察。
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「造形師と呼ばれている」
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視聴者:802,119
【出た】
【ラスボス!?】
【本人!?】
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ミナが一歩下がる。
だが男は構えない。
武器も持っていない。
ただ立っている。
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「解放の、完了を確認した」
静かな声。
まるで報告書を読むような口調。
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レインは警戒を解かない。
「……排除しに来たのか」
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わずかに、首を横に振る。
「方針を変更した」
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視聴者:843,990
【方針変更?】
【え、殺さない?】
【きた思想戦】
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男は続ける。
「これまで君は、予測不能な核干渉者だった」
「だが本日、証明された」
一拍。
「古い力を安定して処理できる存在だと」
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ミナが息を呑む。
レインは黙ったまま、男を見据える。
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「再配置は必要だ」
男は言う。
「だが無秩序は不要だ」
「我々は、被害を最小化する」
「文明を残す」
「選別する」
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視聴者:901,550
【きた】
【思想出た】
【選別って言ったぞ】
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レインの目が細くなる。
「選別?」
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「合理だ」
即答。
「無差別に消えるより、価値の高い拠点を残す方が効率的だ」
「人類は、世界を設計できる段階に来ている」
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静かな確信。
迷いはない。
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「そのために、核干渉者が必要だ」
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地下空間が、さらに静まる。
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「君一人で肩代わりを続ければ、限界が来る」
「だが我々が管理すれば、持続可能な体制を築ける」
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レインは短く息を吐く。
「……つまり」
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「我々と来い」
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視聴者:1,012,442
【勧誘だ】
【管理ルートきた】
【断るなよレイン(いや断れ)】
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男は続ける。
「自由は保証する」
「ただし干渉の優先順位は我々が決める」
「再配置発生時の処理地点も選別する」
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レインの視線が鋭くなる。
「消す場所を決めるってことか」
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「淘汰は進化だ」
「文明は選択の連続だ」
「感情は合理を超えない」
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静かに。
断言。
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レインはしばらく黙り込む。
霧の薄い天井を見上げる。
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「……世界は設計図じゃない」
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男の目が、わずかに細まる。
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「生き物だ」
「壊さなくても代謝はできる」
「肩代わりできるなら、淘汰はいらない」
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沈黙。
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男はしばらくレインを見つめた。
怒りはない。
失望もない。
ただ計算。
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「感情的だな」
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レインは肩をすくめる。
「そうかもな」
「でも、それでいい」
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視聴者:1,144,330
【主人公発言】
【ここ痺れる】
【完全拒否】
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男は静かに頷いた。
「了解した」
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あまりにあっさり。
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「では次の段階へ移行する」
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地下の紋様が、わずかに光る。
だが攻撃ではない。
計測。
記録。
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「君は排除対象ではない」
「管理対象だ」
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ミナが息を呑む。
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「次に会う時は、提案ではない」
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霧が整列する。
男の輪郭が薄れる。
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「核干渉者は、世界資産だ」
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最後に視線を向ける。
そこに、怒りも憎しみもない。
ただ合理。
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男は消えた。
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視聴者:1,203,551
【怖い】
【殺さない方が怖い】
【管理対象って言った】
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地下空洞に静寂が戻る。
ミナが小さく言う。
「……どうするの?」
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レインは深く息を吐いた。
「どうもしない」
「俺は俺のやり方でやる」
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だが胸の奥に、冷たい予感が残る。
排除ではない。
管理。
制御。
設計。
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霧都ヴェイルは救われた。
だが物語は、次の段階へ進んだ。
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(第68話・完)
いつも読んでいただき有難うございます。ちょっとした時間に楽しんでいただければ嬉しいです。引き続き宜しくお願いします。




