第67話 鉱脈、代謝の肩代わり
――霧都ヴェイル、中央広場。
街は、まだ霧の中にある。
だが曖昧ではない。
レインが生成した層が、
広場から上空へ、中継柱へと繋がり、
霧の循環を“構造”に変えている。
⸻
視聴者:241,880
【霧が板になったまま保ってる】
【これ維持コストえぐそう】
【まだ終わってない感ある】
⸻
塔の上層。
レメルが帳簿を閉じる。
「霧循環、再圧縮」
紋様が強く光る。
街全域に、重い圧が落ちる。
生成した層が、わずかに軋む。
⸻
視聴者:259,004
【押してきた】
【全域圧縮二段目】
【団長どころじゃない】
⸻
レインは空を見上げる。
(広場は守った)
(でも、供給源を止めない限り、押し返され続ける)
視線を落とす。
地面。
塔の地下。
霧を強くしている“根”。
⸻
足元に生成円。
石畳を壊さないよう、荷重を逃がしながら、
螺旋階段を地下へと生成する。
街そのものが第一階層になっている以上、
基礎を傷つければ、上が揺らぐ。
だから、支える生成。
⸻
視聴者:277,316
【壊さない生成いい】
【都市ダンジョンの下にさらにダンジョン】
【レインの設計力が怖い】
⸻
階段を降りる。
霧は薄くなる。
代わりに、冷たい圧が増す。
やがて空間が開けた。
巨大な地下空洞。
壁一面に走る鉱脈。
白銀に蒼を帯びた鉱石が、静かに脈打っている。
⸻
《アストラル・オリハル系鉱脈:大規模》
《増幅率:推定 300倍以上》
《霧生成能力:増幅中》
⸻
ミナが小さく息を呑む。
「……これが」
「ああ」
レインは頷く。
「敵は、この鉱石の力を借りて霧の生成能力を上げている」
「増幅された霧が、街を圧迫していた。」
⸻
視聴者:312,990
【鉱石バフ勢確定】
【鉱石欲しい!くれ!】
【ペンダントにしたい!】
⸻
その瞬間。
地下空洞の奥で、霧が濃縮される。
霧騎士団長グレイヴが立っていた。
「地下まで来たか」
右腕の装具に埋め込まれた増幅石片が光る。
霧が槍の形を取り、一直線に放たれる。
⸻
レインは鑑定する。
《霧槍:鉱脈増幅 312倍》
《維持点:右腕装具》
(増幅点を折れば崩れる)
⸻
霧槍が迫る。
レインは足元を極小固定。
霧の軌道上に、斜めの石板を一瞬だけ生成。
槍が逸れる。
次の一撃。
床下に支柱を一本だけ生やし、
グレイヴの体勢をわずかに崩す。
増幅石片の角度がずれる。
霧が乱れる。
そこへ石の枷を生成。
右腕装具を拘束。
霧がほどける。
⸻
視聴者:401,554
【増幅点折った】
【借り物バフ対策完璧】
【知性で勝つ主人公】
⸻
グレイヴは膝をつく。
レインは拘束檻を生成。
霧が侵食しても崩れない層構造。
グレイヴは動けなくなった。
⸻
地上では。
霧の圧縮が続いている。
レメルは再圧縮を繰り返す。
だが地下で増幅効率が落ち始めていることには、まだ気づいていない。
霧は重いままだが、決定打がない。
時間が、レイン側へ流れ始める。
⸻
視聴者:427,990
【地下で削ってる】
【地上は膠着】
【長期戦突入】
⸻
そのとき、コメント欄が流れる。
【中継柱の下、供給ノードある】
【地下の紋様、流路になってる】
【名前:カイ】
⸻
レインは目を細める。
(……流路)
鉱脈の周囲に刻まれた紋様。
霧を街へ流すための導線。
それを利用すれば――
⸻
レインは目を閉じる。
周囲にある再配置の核へ意識を伸ばす。
触れる。
重い。
熱い。
だが引く。
星に溜まっていた古い力が、レインの核へ流れ込む。
内側から焼けるような痛みが走る。
⸻
視聴者:463,912
【何か来た!!】
【核干渉って何!?】
【どうなるんだー!?】
⸻
生成円を刻む。
鉱脈の真下に、深いダンジョンの生成を開始する。
今回は、造形師が霧を操るために作った紋様へ接続し、それも利用して生成する。
霧の流路を、そのまま力の放出路へ転用する。
⸻
(王都では、力の解放に三年かかった)
(鉱石の量が限られていた)
(流路も自分で作った)
(だが、ここでは違う)
(鉱石が多い)
(しかも既に大規模な流路がすでにある)
(だから――早い)
⸻
溜まっていた力が、レインの核を介して流れ込む。
生成ダンジョン内へ。
紋様を通り、
緩衝層で薄まり、
深層へと流し続ける。
⸻
地上。
霧の圧縮が弱まる。
だが完全には消えない。
レメルは塔の上で、増幅の再計算を続ける。
「供給が……揺らぐ?」
それでもまだ、原因は掴めない。
地下で起きている“肩代わり”を、感知できない。
⸻
時間が流れる。
半日。
夕刻。
レインは立ったまま、流し続ける。
ミナが側で見守る。
声をかけない。
ただ、離れない。
⸻
視聴者:589,002
【丸一日やるのか】
【いつまで続くの?】
【風呂入ってくる】
⸻
夜。
地下空洞の光が静まる。
鉱脈の脈動が穏やかになる。
抑制紋様が沈黙する。
古い力の圧が、ほぼ消える。
⸻
地上。
霧が軽くなる。
消えない。
だが押し潰さない。
ただの気候現象のように漂う。
⸻
視聴者:650,112
【終わった?】
【霧が普通になった】
【24時間働けました】
⸻
レインは壁に手をつき、息を吐く。
(王都は三年)
(ここは一日)
(鉱石の量と、既存の紋様の差だな)
造形師が霧を操るために築いた流路。
それを利用したからこそ、早く済んだ。
⸻
塔の上層。
レメルが帳簿を閉じる。
霧が、命令に従わない。
「……供給が断たれた」
背後の紋様が静かに脈打つ。
「造形師に、報告を」
⸻
視聴者:702,884
【黒幕に報告】
【階層上がる】
【まだ続く】
⸻
地下空洞。
レインは立ち上がる。
鉱脈は静かだ。
霧は、もう街を削らない。
霧都ヴェイルの再配置危機も、回避された。
⸻
だが、空洞の奥。
異様に精密な線が、ひとつ浮かぶ。
造形師の痕跡。
見ている。
⸻
(第67話・完)
ここまで読んでくださり、ありがとうございます。
よろしければ、感想や評価、ブックマークで応援いただけると励みになります。




