表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

63/105

第63話 霧中戦

 ――中央広場。


 朝だというのに、霧は濃い。


 昨日よりも、明らかに。



視聴者:312

【霧濃くない?】

【なんか空気重い】

【嫌な予感しかしない】



 広場の中央に、人だかりができている。


 レインとミナが近づく。


 中心に立っていたのは――


 霧騎士団長、グレイヴ。



「本日、秩序維持のための公開処理を行う」


 低い声が霧を震わせる。


 その足元には、縄で縛られた男。


 昨夜、記録庁に抗議に行った商人だ。



「私は、妻の名を戻せと言っただけだ!」


 叫びが、霧に吸い込まれる。



 グレイヴが淡々と告げる。


「記録に存在しない者の名を呼ぶ行為は、混乱を生む」


「よって――」


 剣が、ゆっくりと持ち上がる。



 ミナが息を呑む。


「……やめて」



 レインは、足元に生成円を刻んだ。


 霧を固定するための、簡易階層。


 だが。


 輪郭が、定まらない。



(座標が……揺れる)



 霧が、円を侵食する。


 生成が歪む。


 階層が、安定しない。



視聴者:348

【生成効かない】

【霧が妨害してる】

【これヤバい】



 グレイヴの視線が、レインに向く。


「また貴様か」


 剣に刻まれた紋様が、光る。


 埋め込み型。


 強化個体。



「排除対象、確認」


 足元の石畳が爆ぜる。


 グレイヴが一瞬で距離を詰めた。



 金属音。


 レインは生成した石壁で受ける。


 だが、壁が霧の中で薄れる。


 強度が落ちる。



(固定できない)



 グレイヴの二撃目。


 石壁が砕け、衝撃がレインを吹き飛ばす。



視聴者:391

【押されてる!?】

【初めて本気で不利】

【団長つよ】



 地面を転がりながら、レインは鑑定を走らせる。


 《霧干渉:座標撹乱型》

 《生成安定度:40%低下》


(霧が、生成空間の基準を狂わせてる)



 グレイヴが低く言う。


「この国では、“存在が曖昧”な者は弱い」


「記録されぬ者は、形を保てぬ」



 再び剣が振り下ろされる。


 レインは咄嗟に足元を生成。


 石柱を斜めに生やす。


 グレイヴの軌道を逸らす。



 だが霧が揺らぎ、柱が崩れる。


 強度不足。



 ミナが叫ぶ。


「レイン!」



 レインは立ち上がる。


 息が荒い。


 生成円が、ぼやけている。



(今までの戦いは、“固定された空間”だった)


(水も、砂も、地盤はあった)


(だが霧は……流体)



 グレイヴが距離を取る。


 剣先が、わずかに震えている。


 紋様が、脈打つ。



「貴様の生成は、環境依存だ」


「ここでは機能しない」



視聴者:427

【メタられてる】

【弱点バレた】

【どうする】



 レインは、ゆっくり息を吐いた。


 足元ではなく。


 霧を見る。



(霧を消すんじゃない)


(霧の“流れ”を読む)



 鑑定。


 《霧循環経路:中央記録庁接続》

 《圧縮点:三箇所》



 グレイヴが再び突進。


 今度は正面から。



 レインは横へ跳ぶ。


 同時に、三点に小規模生成。


 霧の流れを一瞬だけ乱す。



 視界が、ほんの一瞬だけ晴れた。



視聴者:462

【今見えた!】

【霧薄くなった?】

【突破口?】



 レインは理解する。


(固定はできない)


(だが、“瞬間的な安定”なら作れる)



 グレイヴの剣が振り下ろされる。


 その瞬間。


 レインは足元に極小ダンジョンを生成。


 一歩分だけ、完全固定。



 金属音。


 剣が弾かれる。



 だが次の瞬間、霧が再び濃くなる。


 生成が崩れる。


 グレイヴの蹴りが腹に入る。



 衝撃。


 息が詰まる。



視聴者:503

【ガチで押されてる】

【これ無双じゃない】

【学習回だ】



 レインは地面に膝をつく。


 霧の中で、グレイヴの影が迫る。



 そのとき。


 ミナが前に出た。


「やめて!」



 霧が、わずかに揺れる。


 ほんの一瞬。



 グレイヴの動きが止まる。



(……感情に反応?)



 レインはその隙に、地面を叩いた。


 小規模生成。


 足場を一段下へ。



 地面が崩れ、レインとミナは下層へ落ちる。


 即席の地下空間。



 上から、グレイヴの声が響く。


「逃げ場はない」



 レインは荒い呼吸のまま言う。


「……分かった」


「霧を相手にするな」


「霧を“階層に変える”」



 ミナが見上げる。


「できるの……?」



 レインは、まだ答えない。


 今は。


 まだ、足りない。



 地上では、広場が静まり返っている。


 商人の姿は、もうない。


 記録は、消えた。



視聴者:548

【救えてない…】

【悔しい回】

【ここからだろ】



 霧の王国ヴェイル。


 霧の中では、生成は不完全。


 そして――


 レインは初めて、本気で押された。



 だが。


 崩れたのは、敗北ではない。


 理解だ。



(第63話・完)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ