第103話 均衡の提案
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蒼の奔流。
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原脈の深層。
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星の圧力が、
まだレインへ流れ込んでいる。
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止まらない。
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「……流す」
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その言葉だけが、
繰り返される。
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意識は、
ほとんど沈んでいた。
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その時。
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黒が、
手を伸ばす。
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黒い鎖。
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だが。
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それは拘束ではない。
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接続。
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黒が、
レインの核へ触れる。
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ドクン。
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蒼が、
一瞬だけ整った。
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視聴者:1,405,441,882
【止まった?】
【黒介入】
【助けてる】
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黒が言う。
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「……干渉補助」
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蒼の奔流が、
わずかに落ち着く。
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その瞬間。
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レインの意識が、
浮かび上がる。
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視界。
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蒼。
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星の流れ。
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そして――
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「……黒?」
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黒が答える。
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「お前の崩壊を防いだ」
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視聴者:1,410,002,441
【黒が味方】
【観測者仕事した】
【好きになっちゃったの】
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レインが息を吐く。
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まだ、
原脈の圧は強い。
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だが。
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思考は戻った。
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レインは、
蒼を広げる。
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生成ダンジョン。
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無数の出口。
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星中に広がる流路。
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それらを、
繋ぐ。
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原脈。
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核。
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ダンジョン。
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一本の巨大な流路が、
星の中に生まれる。
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「……流れる」
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蒼が、
整った。
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原脈の圧が、
次々とダンジョンへ流れていく。
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その出口。
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人の住まぬ場所。
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極北の氷海。
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砂漠の奥。
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深い峡谷。
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密林の奥地。
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世界の果て。
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そのすべての大地で――
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蒼が、浮かび上がる。
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空中。
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巨大な紋様。
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幾何学の円。
幾重もの蒼い環。
無数の紋線。
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それらが、
空を覆うように展開される。
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第一環。
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第二環。
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第三環。
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さらに外側へ。
さらに高く。
さらに深く。
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紋様は、
星の大地と空を繋ぐように、
幾重にも重なり合う。
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蒼い光が、
中心へ収束する。
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次の瞬間。
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大地が、開く。
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轟音。
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地面の奥から、
巨大な構造体がせり上がる。
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塔。
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蒼き迷宮。
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排出用の生成ダンジョン。
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それは、
城より高く、
山より細く、
空へ突き刺さる。
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塔の外壁を、
蒼の紋様が流れている。
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原脈の力が、
その内部へ吸い込まれ、
上空へと放出される。
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蒼い奔流。
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まるで、
星の呼吸。
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世界各地で、
同時に、
その光景が現れる。
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氷海に、
蒼の塔。
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砂漠に、
蒼の塔。
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峡谷に、
蒼の塔。
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密林に、
蒼の塔。
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人なき秘境に、
蒼の塔。
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空へ向かって、
静かに立ち上がる。
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その数、
数え切れない。
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星中に広がる、
排出路。
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それらすべてが、
ひとつの核へ繋がっている。
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蒼の中心。
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レイン。
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星の深層で、
彼は静かに立っていた。
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蒼が流れる。
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星の力が、
吐き出されていく。
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まるで、
この星そのものが、
呼吸を取り戻したように。
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視聴者:1,416,441,882
【排出成功】
【ダンジョン排気口】
【天才かっ】
【塔でっか】
【世界樹かな?】
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だが。
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レインは、
気づく。
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流れている。
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だが――
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終わらない。
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星に溜まった力は、
膨大すぎる。
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黒が答える。
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「計算結果」
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「排出完了まで」
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一拍。
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「人間寿命では」
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「不足」
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視聴者:1,420,002,441
【え】
【レイン寿命】
【ちーん】
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レインは、
黙る。
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もし。
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途中で死ねば。
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排出は止まる。
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そして。
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再び。
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再置換。
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黒が、
静かに言う。
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「提案がある」
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レインが、
黒を見る。
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「……なんだ」
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黒の声は、
変わらない。
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だが。
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その内容は、
観測ではなかった。
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「人間をやめますか」
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一拍。
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「星と同化し」
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「永久排出機関となれば、死ぬことはありません」
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沈黙。
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蒼の奔流だけが、
静かに流れている。
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視聴者:1,426,441,882
【ひく】
【人間やめますか?】
【究極の提案やん】
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レインは、
答えない。
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ただ。
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静かに、星の流れを、
見ていた。
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(第103話・完)




