【18】〈悲報〉両親の異世界転移に巻き込まれた件〈強制イベント〉
帰宅してから、唯と水族館で過ごした時間をほけっと思い返しては時々赤面して、なんてのんびりしていたら騒動の元凶が揃って帰宅した。
「晴ちゃんただいま〜!」
「晩ご飯どうした?まだだったらどうする?」
「お帰り、とうさん、かあさん。ご飯はまだ考えてないけど…帰るの早かったね。話し合いは決着ついたの?」
ふと見ると、二人が視線を交わして頷いた。
ヤバい。これはロクでもないこと言い出すヤツだ。
「………晴ちゃん。何でそんな警戒心も露わな顔するの…?」
「流石に二人の子供だもん。学習するんですよーだ。」
「え!ひどっ!」
「酷くないし当然の結果でしょ!」
「まぁまぁまぁ、ほら、二人とも落ち着いて…」
「他人事みたいに言うなし!」
「ゴメンナサイ」
とうさんがしょぼくれた所で、仕切り直しとばかりにかあさんが切り出した。
「あのね、話し合った結果なんだけど…。晴ちゃんにも手伝ってもらわないといけない事態になっちゃったというか…。」
「本当は、ほんっとうに、巻き込みたくなかったんだけど…。晴ちゃんにも状況を知った上で協力してもらう必要があるってわかっちゃったんだ…。」
「「ゴメンナサイ、助けてください。」」
二人して頭を下げてしまった。え、どうしたら良いのこれ。
「えと、あのさ、助けるもなんもさっぱり何がどういうことなのか聞いてみないと判断できないんだけど!」
内心アワアワしながら尋ねると、二人揃って勢いよくガバッと起き上がった。しかも目を潤ませて感極まったようににじり寄ってくる。
「聞いてくれるんだね!良かった!」
その後に続いた壮大かつ信じられないような話にうっかり「聞く」と答えてしまったことを後悔したが…後の祭りだった。
「え~と…つまり…とうさんとかあさんはそれぞれ別の世界の人で?本来ならどっちも埋もれたり消えたりするはずが出会って結婚しちゃって私が生まれたから?」
「世界に『二人一組の異物』として認識されちゃった。」
「だから何もしなくても迂闊に世界線またいじゃうし、それが?二人セット??」
「そうなんだよ。違う場所にいても同じ世界線へと同時にまたいじゃうんだ。」
「扉作る前はどうやって戻ってきてたの?」
「結婚した時に、結婚指輪同士で量子もつれを…」
「それが二人同時に飛ばされる理由なんじゃないの?!」
思わずノータイムで突っ込んでしまった。
「いやいや、晴ちゃんが生まれる前は単独で飛ばされてたんだよ。」
「え?!」
「結婚する前は、私は実家の自分の部屋に、凪ちゃんは自分の工房というか、仕事道具を目印に戻ってきてたんだ。」
「ほら、私たちって大きな出来事で世界線をまたいだ経験者でしょ?またそうなるかもって思ったら帰る目印がいるなーって思いつくじゃない。」
「いや思いつかないけど」
「私も凪ちゃんもそれぞれ独自に思いついて形にできてたんだから凄いよね。」
「私は理屈なんてわからなかったけど、自分と周りの道具の結び付きを大事にしろって師匠のおやっさんから仕込まれてたからねぇ。」
「で、結婚するにあたってお互いを目印に帰ってこようっていって指輪をもつれさせたんだよ。」
両親が想定以上に深い絆で結ばれてた事を知った娘の気持ちを100字以内で述べよ。てかどんな顔でどうリアクションしたら良いんだ!両親がラブラブって思春期の娘には荷が重いです!
頭を抱えている間にも話は進んでいく。
「でね、晴ちゃんを産んだら、ちょっと状況というか世界から受ける感覚が変わったのよね。」
「世界から受ける感覚」
「それまでは自分が心許ないというか、存在が不確かだっていう感触が常にあったんだよ。これは違う世界から来た者じゃないと説明が難しいんだけど。思春期とかモラトリアム期で感じるセンチメンタリズムとは違って、自分が消えそうな感覚なんだよなぁ。」
「そうそう、だからその感覚が分かり合える相手と会ったらそりゃー仲良くもなるよね。」
「で、凪ちゃんと一緒にいるとその感覚が少し楽になって、結婚したらもっと楽になって…。」
「晴ちゃんが生まれたら、その感覚が消えたの。」
訝しげに首を傾げた私に、かあさんが目を細めて言った。
「晴ちゃんっていうこの世界の存在が、私たちをこの世界に繋ぎ止めてくれたんだよ。」
「まぁ、それでも『仮置き』に過ぎないけどね。私と凪ちゃんセットで、晴ちゃんを生み出した存在として許容されてるだけらしい。」
「因果律の話をしたらそれこそドライな法則論ばっかりになっちゃってつまらないじゃない。もうちょっとウェットに考えた方が楽しいよ?」
「私はそのドライな法則を仕事にしてるんだけどなぁ…。」
とうさんは苦笑しながらも、かあさんのウェットな考え方を否定するつもりはなさそうだ。
そんなこんなで、世界線を「意図せずに」「二人揃って」またいでしまうのは不可抗力であること、それならいっそ自分たちからまたぎにいって安全に帰ってこようじゃないか!というのが今回の扉の作成と旅立ちの最大の理由だと力説された。
…正直、理解が追いつかない。どこかのファンタジー小説ですか?!って叫びたい。
なのに、説明はまだまだ終わっていなかったようだ。
「でね。ここからが一番晴ちゃんにとって大事な話なんだけど…。私たちは世界線の破断という重大なアクシデントの影響を調査し続けて来たんだが、そろそろ情報収集が頭打ちになってきてたんだよ。」
「だけど、その情報を別の世界の私たちとすり合わせたくても、私たちと出会えないのよ。」
「え?何で?会いに行けばいいのに…?」
「歴史蓋然性が近いほど〜ってさっき説明したでしょ?つまり…。 」
「会いに行った先の私たちも別の世界に行っちゃってるんだよ、ところてんみたいにね。」
「ああーー!!」
そうだ、そうだった!そりゃーとうさんとかあさんのことだもの!違う世界だってとうさんとかあさんに決まってるよね!行動原理なんて同じに決まってるわ!
「…何か失礼なこと考えてるでしょ。言っとくけど、これが晴ちゃんだって会えないんだからね!」
「え?!………あ。そうか…。 」
「わかってもらえたようで良かった。」
何か両親と同じ扱いされたようで納得したくないけど、理屈で言えば確かにそうかも。ところてんみたいな、って笑っちゃいそうだけどあながち見当外れな例えでもないんだな。
「でね、私たちが遭遇できないなら情報ハブステーションとして別の人物を設定したら?って考えたのよ。最初は紙媒体なり電子情報なりを決まった場所に置いとけば良いかとも一瞬思ったんだけど…。」
「その情報にアクセスできる存在が私たちだけとは限らないとなると、危険でね。やはりゲートキーパーとしての人物が必要になってくるんだ。」
「で、白羽の矢が立ったのが私、と。」
でっかいため息をついて、またしても頭を抱えてしまった。確かに色々考えたら、私以外がこの役目を担うのは無理筋だ。私以外で、となると次点で黒部家の皆さん方だけど、昔なじみとはいえ他人を巻き込むべきではないのくらい私でもわかる。
わかるのだが…。
「やりたくねぇぇぇ………!」
思わず本心がダダ漏れた。
「デスヨネー………」
「でも、他に良い案がないんだよ…晴ちゃんごめん、ほんっとうにごめんなんだけど、お願いだよぉ…!」
とうさんの(いつもっちゃいつもなんだけど)情けない懇願にちょっぴり罪悪感も湧いたりして。
かあさんの、これまた「ダメならダメでしょうがない」と悲壮な覚悟を思わせる視線に気付いてしまい。
「………ああぁぁ、もう!!…どういう条件で、どんな事すれば良いのかと、報酬。そこんところ詳しく教えてもらえないならやんない。」
「「晴ちゃん…!」」
「特に!報酬!そこがショボかったら絶対にやんないからね!!」
「「ありがとおおおおおお!!!」」
ガバリと両側から抱きつかれて、危うく潰されるところだった!
「ちょ!苦しっ!ギブギブ!」
「晴ちゃん優しい愛してるぅぅ!」
「雪雄さんちょっと力加減!」
「はーなーしーてーー!!」
こうして大騒ぎの中、波乱万丈な生活が(いまさらながら改めて)はじまるのであった…。




