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29-3・輪島さん

 夜になって、宿屋のバイトを終えた由井さんが、僕と真田さんと吉見くんが待機している部屋の扉をノックする。


〈終わった?もう入っても大丈夫?〉

「終わってないから入って来るな!」

〈あっ!ごめ~ん!〉


 真田さんみたく誰とでも仲良くできるタイプですら、由井さんのことは苦手らしい。


「そ、それは違うって、真田さん」

〈10分後に出直すから、頑張って終わらせておいてね〉

「10分じゃ終わらないから来るな!」

「違うって!終わるようなことは何もしてないよ。

 ・・・どうぞ、入って下さい」

「ちゃんと服着てる?入ったら裸とかはセクハラだよ」

「服を脱ぐようなことは何もしていないよ!」

「なら、おぢゃましま~す」


 扉が開いて由井さんが顔を覗かせる。前回を経験している僕としては、ここまでの会話の遣り取りは覚悟していたというか、想定の範囲内。


「こ、こんばんは」

「・・・ん?」


 早速、想定外発生。由井さんの後から、隣のクラスの輪島さんが入ってきた。


「なんで輪島さんがここに?」

「ちょっと色々あってね」


 輪島輪珠わじま わじゅ。隣のクラス。ショートヘア。真田さんや由井さんと比較するとポッチャリ体型に見えるけど、それは真田さん達が幼児体型だから。身長と体重のバランスが良い健康的な体格。胸は大きい。同世代が痩せることばかりを意識しすぎてるせいで、ちょっと損をしている。

 全く話したことが無いのでどんな性格か解らないけど、穏やかな顔つきで、性格は良さそうなイメージ。


「色々ってなに?」

「わぢゅちゃん、帰るところが無くなっちゃったの。

 アタシが帝都に行ってあげるかわりに、わぢゅちゃんも養ってほしいの」

「仲間が増えるのは、僕等としては大歓迎だけどさ・・・」


 帰るところが無いのは、異世界に転移をしてしまった全員の共通事項。皆がその状況で、自分の生活基盤を作り、それができなかった者は早々に脱落をした。だから、今まで生き残ったのに「帰るところが無い」の意味が解らない。 

 真田さんと視線を合わせて首を傾げた後、真田さんが質問をする。


「どゆこと?」

「わぢゅちゃん、ルービイ騎士団とサファイ騎士団の武力衝突の生存者なの。

 お友達、いっぱい死んじゃって、どうにかチート君から逃げて、

 この町に辿り着いて、アタシが保護してたの」

「・・・・・・・・・???」


 情報が凝縮されすぎていて良く解らない。

 ルービイ騎士団は南都市サウザンに所属する赤い鎧とマントの騎士団で、サファイ騎士団は東都市アーズマに所属する青い鎧とマントの騎士団。サファイ騎士団には僕自身が殺されかけた苦い経験がある。

 サウザンは智人チートがいる西都市セイの派閥で、アーズマはブラークさんがいる北都市ノスの派閥なので、セイとノスの対立に影響されて険悪化をした。

 輪島さんは、ルービイ騎士団かサファイ騎士団に所属していて、武力衝突に巻き込まれて逃走をしたのかな?ここまでは、由井さんの説明が下手でも想像できる。


「お友達って、この世界の人?・・・それとも、まさか?」


 質問に対して、輪島さんは涙ぐみ、喋りにくそうにしていたけど、間を置いて深呼吸で気持ちを落ち着けてから説明をしてくれた。


「渡辺君、毛利さん、木下さん、柳生君、芹沢君、武田君・・・

 みんな死んじゃった」

「・・・え?」

「徳川智人君が乱入して、みんな、殺されちゃった。

 『選別をしてやる』とかって偉そうなことを言って・・・」


 耳を疑った。智人チートが、自分に敵意を向けていないクラスメイトを一方的に虐殺した?



 南都市サウザンルービイ騎士団には、以前に聞いた菅原さんと前田さんの他に、柳生くんと芹沢くん、計4人の転移者が所属をしていた。

 東都市アーズマサファイ騎士団には、以前に聞いた和田さんと渡辺くん、武田くんと毛利さんと木下さん、そしてここにいる輪島さん、計6人の転移者が所属をしていた。


 ルービイ騎士団とサファイ騎士団が衝突をした理由は、政敵間の均衡が崩れて、収拾不能なレベルの険悪化をしたため。そして、権力闘争の中枢にいた西都市セイ北都市ノスの統治者が立て続けに亡くなったので、今まで温和しくしていたサウザンのオポチュニ・ヒョリミー公爵と、アーズマのノーキン・クレジー公爵が「次の坐」を狙って動き出したのだ。


 アーズマの連隊(サファイ騎士団500騎を含む)がサウザンに向けて軍事侵攻を開始。防衛隊5000(ルービイ騎士団500騎を含む)はサウザンから15㎞くらい東の平原に布陣して迎え撃つ。

 各騎士団に所属していた転移者達は事前に内通しており、「互いの生存を優先させる」「仲間同士では戦わない」「無駄に抗わず、負けた側の全員が勝った側に投降する」と決めていた。特殊能力が戦闘向きではない輪島さんは後方支援を担当しており、他の9人は前線に立って、互いに敵軍に所属する仲間の位置を確認する。


「お~お~・・・集まってるな。

 生かす価値が有るかどうか・・・俺が選別してやるよ」


 その戦場に、200騎程度のパルー騎士団を率いた智人チートが乱入する。先ずは、サファイ騎士団に所属していた渡辺くんと武田くんが、周りの青騎士の中隊諸共に問答無用で倒された。残酷だけど、チートが「互いの生存を優先」の約定を知らず、且つ、「同盟軍を助ける為に敵勢力を攻撃した」と解釈すれば、まだ納得はできる。

 だけど、チートの思惑は違った。


「俺に傅けば生かしてやる」


 最初に反発をしたのはサファイ騎士団の木下さんと毛利さんだった。だけど、チートは聞く耳を持たずに周りの青騎士諸共に脱落させる。

 アーズマ軍とサウザン軍は、「真っ先に倒さなければならない」とチートに突撃をしたが、火柱、地震、剣雨で、あっという間に1/3の兵を失う。

 残った前線の転移者5人が戸惑っていると、「見せしめ」と言わんばかりに味方のはずの芹沢くんが倒された。この時点で、転移者達は戦意が喪失して、チートに降伏をする。


「あっ!攻撃力は足りてるから、攻撃系の富醒を持つ男はイラネ」


 たったそれだけの理由で、降伏をしたにもかかわらず柳生くんが倒された。後方にいたためにチートから認識されていなかった輪島さんは震えながら逃走する。両軍の騎士達は動揺をしていたため、輪島さんの敵前逃亡を咎める者は誰もいなかった。




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