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29-2・かくれんぼ

 宿泊予定の部屋まで案内されて、先頭を歩いていた由井さんが振り返る。


「んじゃ、ゆっくりと30数えたら入ってきてね」

「ああ・・・うん」

「制限時間は?」


 漠然と隠れんぼをする気になっていた僕とは対照的に、吉見くんが質問をする。


「う~ん・・・制限時間は『お日様が沈むまで』くらいにしとこっか」


 日暮れまでは、まだ2時間くらいある。そんなに長い間、狭い部屋で隠れんぼをして、見付からない自信があるの?


「途中で探すのを諦める場合はどうすれば良い?」

「その時は『降参』って言ってね」

「了解。『降参』って言ったら僕等が『負けを認める』ってことでいいね」

「うん、オッケー!」

「念の為に確認しとくけど、隠れるのはあくまでも部屋の中だけ。

 窓から外に行ったり、別の部屋に隠れるのは無しだよね?」

「うん、もちろん」


 ルールをしっかりと決めて、由井さんが部屋に入って扉を閉める。


「小っちゃくなれるとか、透明になれるとか、そ~ゆ~特殊能力かな?」

「さぁ・・・入ってみれば解るんじゃない?」


 吉見くんを見たら自信がありそうな表情をしてたので、「何らかの予想を立てているのかな~」と思って聞いてみたけど、見当を付けている感じは特にない。


 指定された通り「ゆっくりと30」を数えて、部屋の中に入る。室内には、窓が1つ、簡素な机と椅子が1組、何の変哲もない壁、シンプルな天井と吊り下げられた魔力ランプ。1人用のベッドの真ん中に由井さんが座っている。


「どこに隠れたかな?」


 先ずは、ベッド周りとベッドの下を探す。続けて机の周りを探す。これで、もう隠れられそうな場所は無い。壁を軽く叩いて隠し扉を探したり、椅子を引っ張り出して上がって天井の抜け穴を探すけど、それっぽい空間は無い。

 隠れんぼ開始から15分くらいしか経過していないのに、探す場所が無くなってしまった。


「え?え?どうなってるの?」


 仮に小さくなってるとしても、物が少ないこの部屋なら見付けられるはず。透明になってたとしても、この狭い部屋を動き回れば触れられるはず。


「空気とか椅子に変身してる?」


 念の為に椅子をコチョコチョとくすぐるけど、椅子は笑ってくれない。


「僕等には見付けられそうにないね。由井さん、ギブアップするよ」

「えぇっ!?もう!?」


 一切何もせずに、僕が捜索する様子を眺めていた吉見くんが敗北宣言をした。


「んっへっへっへっへ!アタシの勝ち~~!・・・富醒解除!」


 途端に、ベッドの真ん中に座っていた由井さんが、ベッドの真ん中で姿を現す。


「え?なんで?いつからそこにいた?」

「ずっといたよ」

「透明になってた?」

「なってないよ」

「小さくなってた?」

「なってないよ」


 ちょっと待って。なんかおかしい。部屋に入って直ぐに、僕は由井さんの姿を確認していた。それなのに由井さんがどこにいるのか解らなくて探し回っていた。


「どうなってるの?」

「アタシの富醒はアダプトってゆーんだよ」

「適応とか、順応って意味だよね」

「言葉の意味はよく解んない。

 発動すると周りに馴染んで、探している人の目にはアタシが見えるんだけど、

 ノーミソが認識しなくなるんだよ」


 由井さんが「秘境者狩りに狙われても逃げられる」と自信を持ってた理由が解った。今まで堂々と宿の受付をして、転移した仲間達と親しく会話をしているのに、仲間達以外から目を付けられなかった原因が理解できた。


「うわぁ~~~・・・便利」

「んへへっ!スゴいでしょ!」


 目の前にいるのに探せなくなる。相手が殺意を持っていても平然とやり過ごせる。絶対に捕まらない特殊能力だ。


「効果が干渉するのは由井さんだけ?」

「うんにゃ、半径1mくらいは効果あるよ。

 大声出したり殺気持ったりすると効果が切れちゃうけど、

 なんかね、熟練度が上がると、そ~ゆ~のも隠せちゃうんだってさ」

「熟練度は上げてるの?」

「上げてないよ」

「なんで?」

「だって、殺したい人なんていないもん。隠れられればイイぢゃん」


 由井さんの特殊能力って、熟練度が上がれば、堂々と敵に接近して、全く抵抗されることなく暗殺できるってことじゃん。適応とか順応とか馴染むって意味では、どのグループにでも平然と転がり込める由井さんらしい特殊能力なんだけど、見方次第では才能の凄まじい無駄遣いをしている。その辺の含めて、浮き世離れした由井さんらしいと言うべきなんだろうか?


「はい、由井さん、見付けた」


 それまで黙って成り行きを見ていた吉見くんが寄って来て、ベッドに座っている由井さんにタッチをする。


「これで僕達の勝ちね」

「・・・・・・・・・・ん?」

「・・・・・・・・・・へ?」

「吉見くん、何言ってるの?さっき、ギブアップって・・・・」

「『降参』って言ったら僕等の負けって決めたよね。

 僕『ギブアップ』とは言ったけど『降参』とは言ってないよ」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」×2


 確かに吉見くんの言う通り。道理で「たかが隠れんぼ」なのに明確なルールに拘ったわけだ。


「・・・なんか・・・せこくね?」

「セコくても勝ちは勝ちだよ」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」×2

「由井さんが自信を持っていて、隠れんぼの範囲が僕達に圧倒的に有利。

 この条件を考慮すれば、『絶対に見付けられない』が前提になるからさ。

 『探す』じゃなくて、『どうやって誘き出すか?』を考えるべきなんだよね」


 さすがは頭脳明晰な吉見くん。考え無しに探し回ってた僕とは違って、隠れんぼが始まる前に勝ち筋を立てていたってことね。


「・・・でも・・・すっごくせこい」

「凄くセコくても勝ちは勝ちだよ。

 約束通り、僕等のチームに参加してよね」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」×2


 由井さんが納得をしてくれたかどうか以前に、僕自身が納得できたのか納得できないのかよく解らないまま、僕等は由井さんに完全勝利をした。


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