38-3・ブラーク出奔
北都市の子息と西都市の息女の婚約発表と姉妹都市締結は、その日のうちに町中に伝わる。戦渦と敗戦、君主の死で打ちのめされていたノスにとって大きな希望となり、民達は盛大に祝った。
「シリーガルさんとバクニーちゃん、幸せになれるよね」
僕と真田さんは、祝いの歓声で湧く食堂で夕食を取っていた。ブラークさんに同席してもらって「乾杯したい(僕等はミルクで)」ってことで、上杉さんにはブラークさんを呼びに行ってもらっている。
「シリーガルさんとバクニーちゃん、幸せになれるよね」
「・・・ん?なんで同じこと2回言った?」
「同意を催促してんのっ!幸せになれるよね」
「ああ・・・うん、きっと幸せになれるよ」
「だよねっ!」
真田さんが、昼間の盛大な婚約発表の余韻に浸って「むふふ」と笑う。僕は、真田さんの新しい一面に見入ってしまう。女の子って、友達の幸せを自分のことみたく喜べるんだ?それとも真田さんが特別なのかな?
「僕達がノスでやるべきことは終わったね。
もうしばらく見守っていたいけど、あとはブラークさんに任せよう」
同盟成立のために北都市に残ったのは、僕と真田さんと上杉さんだけ。司と我田さんと輪島さんと若林さんは、次の仲間を求めて2日前に発った。きっと今頃は、北東村で北条くん&平家さんと合流しているんだろうな。
「もうっ!無神経っ!
言われなくても解ってるけど、もう少しくらい幸せの余韻に浸らせてよねっ!」
ん?「現実主義」「夢が無い」とかじゃなくて「無神経」?神経質な方が良いの?怒られ方の種類が、ちょっと解らない。
「早璃ちゃん、源君、大変だよっ!!」
上杉さんが血相を変えて戻ってきた。ブラークさんを呼びに行ってもらったのに、ブラークさんの姿は無い。
「ブラークさん、いなくなっちゃった!」
「残念だけど仕方無いよ。きっと、同僚の騎士さんと一緒にお祝いしてるんだね」
「そうじゃないのっ!
こんな書き置きが家の前に貼ってあって、家の中には騎士の鎧が残ってるのに、
旅の荷物は無くて、馬もいないの!」
上杉さんが見せてくれた紙には「出奔する」と書かれている。
「えっ?なんで?」
お祝いをする暇も無いまま慌ただしく次の任務に就いたなら話は解る。でも、黒騎士の鎧は残したまま「出奔」ってことは、黒騎士団を辞めて、どこかに行っちゃったってこと?
「嘘でしょ、ブラークさん?」
これからって時期に・・・生まれ変わった北都市の屋台骨をしてもらわなきゃならないのに・・・いなくなっちゃ困る。
「急いで追わなきゃっ!」
「追うったって、どこに行くの?
輪島さんの特殊能力をレンタルしなきゃ、方向すら・・・」
ゴククア公が倒れて以降、ブラークさんは無理ばかりしている。打倒チートを諦めたとは思えない。帝皇からチートに権力譲渡がされる情報は北都市にも伝わっているはず。
「多分・・・南だよ!帝都に向かってるっ!」
黒騎士の鎧を置いていったのは、再スタートをした北都市とは無関係の一個人としてチートと戦うため。
僕がブラークさんならそうする。チートに大切なものを奪われた僕が打倒を諦めていないんだから、ブラークさんだって同じはず。僕には失った仲間以外にも大切な人がいるから暴発せずに済んでいるけど、守るものが無ければ同じことをしている。
「真田さん、ごめん!僕、ブラークさんを追っ掛ける」
悠長に夕食を楽しんでいる余裕なんて無い。お祝い気分も吹っ飛んでしまった。
宿に戻って先生の剣だけを護身用に持って、町の南門に向かって駆ける。走って追い付けるかどうか解らない。だけど、ジッとしていられない。
「宿場町で一泊するなら追い付けるけど、
ブラークさんはスルーして先を急ぎそう」
追う方向が見当違いで、ブラークさんはチートを討つ気が無くて南には向かっておらず、僕の焦りが無駄足に終わるならそれで良い。とにかく、「ブラークさんがチートと戦う」だけは阻止したい。
「尊人くんっ!」
後方から声がしたので振り返ったら、真田さんと上杉さんが一頭ずつ馬を駆って追い付いてきた。
「もうっ!走って追うなんて無茶だって!後ろに乗って!」
「ありがとうっ!」
差し出された手を握って後ろに乗せてもらって、馬で南に向かう。南門を通過して街道へ。もう暗くなっていて先は見えない。でも、「ブラークさんは、この先にいる」って確信はある。
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北都市を出て、2時間くらい経過しただろうか?馬に休息無しで頑張ってもらって、星の明かりを頼りにして、ひたすら南に進む。
「ん?先の方で、雄叫びが聞こえたよね?」
「モンスターの咆吼?」
「こんな時にモンスター?急いでるのに、交戦で足止めされるのは避けたいね」
次の瞬間、正面で炎の閃光が一文字に放たれ、モンスターっぽい悲鳴が聞こえた!
「今の・・・もしかしたら、マジックソード?
ブラークさんがモンスターと戦っている?」
モンスター、グッジョブ!ブラークさんを足止めしてくれている。
「真田さん、急いで!」
間違いなく、誰かがモンスターと戦っている。閃光が放たれるたびに人影が照らされる。まだハッキリとブラークさんの姿は確認できないけど、魔力の塊を飛ばすのではなく、剣から魔力の閃光を発している。その技を使う人を、僕はブラークさん以外には知らない。
「やっぱり南に向かっていたんですね、ブラークさん」
剣から炎の刃が放たれて、オーガの上半身が吹っ飛ばされる。
「こんな所で何やってるんですか!?」
モンスターを焼く炎に照らされて振り返った人は、黒騎士の鎧ではなく、軽装の鉄の胸当てを装備していた。だけど、間違いなくブラークさんだ。
「・・・ミコトか?何故、ここに?」
僕の予想は当たっていた。




