45-2・さよならモーソーワールド
「ふざけんなっ!これのどこが俺の負けだっ!」
智人が体を揺さぶってペアストレッチ(背筋伸ばし)からの脱出をしようとしたので、両腕のクラッチを強くして、足を広げてバランスを崩さないように踏ん張って耐える。
「なんでストレッチ?」
「源君、どういうつもり?」
「トドメを刺さないのかよ?」
退避をしていた真田さん&吉見くん&武藤さんが寄って来て、立て続けに疑問をぶつけてくる。司や長野さんは「僕の暴挙(?)」に困惑している。倒すチャンスを棒に振ってペアストレッチ(背筋伸ばし)なんてしてれば当然だろうな。
「ねぇ、智人。その体勢じゃ踏ん張れないから、力業じゃ脱出できない。
それでも脱出したいなら、特殊能力を使うしかないよね?」
真田さんと吉見くんが、僕の魂胆に気付いたっぽい。
「尊人くん・・・それって?」
「それが源君の答え?」
「まぁ~ね。そーゆーこと」
剣雨、火玉、巨大火玉、火柱、雷、地震、底無沼・・・密着状態の僕を討つ技なんて、チートは幾らでも使える。
「でもね、今の僕は、君の動きを先読みできる」
チートの発する攻撃が飛んで来た瞬間に、僕はチートを盾にするつもりだ。僕は脱落をしちゃうだろうけど、僕より先にチートが自分の技で脱落をする。
「それにね」
楠木くんと若林さんが接近してきて構えている。僕が失敗をして、チートが拘束から脱出した瞬間に、特殊能力を発動するつもりだ。
「地割れに飲み込まれるのと、巨人に潰されるのと・・・どっちが良い?
先に言うけど、楠木くん達を退けるために灼熱半球を発動したら、
僕は、智人を担いだまま、その光に飛び込むからね」
吉見くんからは「真田さんのために戦うのは禁止」「自分のために戦え」と言われた。だけど僕には「自分のために戦え」で腹を括ることができない。情けないんだけど、自分のために戦ったら、「どうでもいいや」になって集中力を保たせられない。
だから、僕は「智人を救うため」に戦った。
「君は完全に詰んだ。降伏をしてほしい。
でも、どうしても僕に負けるのがイヤなら、引き分けの共倒れを選べば良い。
プライドがあって敗北がイヤなら、僕が一緒に痛い思いをする。
それでも、僕等の勝利に変わりはないからね」
「本気で言ってるのか?」
「本気だよ。意気地無しの僕なりの本気。
自分の手を血で染める勇気は無いけど、君と一緒に死ぬことなら選べる」
背の上で抵抗をしていた智人が脱力をする。負けを認めてくれたらしい。
「解ってくれてありがとう」
チートを背負ったまま、吉見くん&武藤さん、楠木くん&司&北条くん&長野さん&平家さん&若林さん&龍造寺先生、上杉さん&菅原さん、由井さん&前田さん、我田さん&和田さん、そして真田さん、戦い抜いた仲間達を順番に見回す。
「どう考えても、このタイミングだよね」
この世界に対する名残惜しさはある。連合軍がどう勝利をするのか気になる。ブラークさんやホーマン姉妹にちゃんとお別れを言えないのは申し訳なく感じる。
だけど、あとで、「やっぱりやめた」を防止するために、このままここで決める。
「『現実世界に帰る』に賛成の人は意思表示をしてください」
次々と手が上がっていく。菅原さん&前田さん&和田さんも手を上げてくれた。僕に見える範囲の全員が賛成をしている。
「智人・・・あとは君だけだよ」
反対をした瞬間に、仲間が僕ごとチートを討つ。生きたまま帰還をするか、死んで強制帰還をするか、チートの選択肢はそれしかない。
「尊人・・・君の勝ちだ。
『現実世界に帰る』に賛成をする」
渋々だろうけど、智人が受け入れてくれた。
一緒に死ぬ覚悟はしていたけど、本音では痛い思いなんてしたくなかった。
「ありがとう。智人」
これで、生き残った転移者全員の意思が統一され、「現実世界に帰る」の条件が満たされた。仲間達は鮮明な姿を保ったまま、それまで鮮明だった周りの風景に白い靄がかかる。
「君の勝ちは認める。だけど俺の負けは認めない」
急に智人を背負っていた圧迫感が消えて、前のめりに踏ん張っていた僕は地面に両膝を付いた。
「チートがっ!なんで?」
真田さんに指摘されて振り返り、我が目を疑う。仲間達は鮮明な姿のままなのに、智人だけが周りの風景と同一化をして白い靄の向こう側にいた。
「智人!?なんでっ!?」
智人に手を伸ばして触れるんだけど、手がチートの体を通過をして触れることができない。チートが、悔しさを滲ませた笑顔で僕を見つめている。
「尊人。これで君達は、リアルワールドに帰れる。
でも俺は、モーソーワールドに残るよ」
「なんでっ!?なんで智人だけが帰れないの?」
「『帰れない』んじゃない。『帰らない』んだ。
モーソーワールドは、転移の発起人が優遇される世界。
君の意見には賛成をしたけど、俺だけは全員一致の外側で、
特別に『帰還と残留』を選べるんだ」
「ちょっと待ってっ!『帰る』を希望してっ!
智人も一緒に・・・・」
必死になって智人を掴むんだけど擦り抜けてしまって掴めない。
「俺は色んなことを知りすぎてしまった。
もう、君達と同じ目線での青春を楽しむことはできない」
「格好付けるなっ!たくさんの人を傷付けてしまった事実から目を背けるなっ!
現実世界に帰って、ちゃんと向き合えっ!」
「俺はモーソーワールドに残って、俺の宿命を背負い続けるよ」
「この世界に君が背負う物なんて何も無いっ!」
トモらしい言い訳と負け惜しみだ。納得なんてできるわけがない。
「現実から逃げるなっ!責任から逃げるな!この卑怯者がぁぁっっっっっ!!」
怒号がトモの耳に届いたのかどうかさえ解らない。
僕と仲間達は、真っ白で何も無い空間に立っていた。
「うわぁぁっっっっっっ!!!智人の大バカ野郎っっっっっ!!!!」
問答無用で智人にトドメを刺していれば、彼の意思なんて無視して現実世界への強制送還ができたのに・・・自分の手を血で染めたくないという甘い考えのせいで、取り返しの付かないミスをしてしまった・・・。
仲間のアドバイスを無視して自己満足を通した結果、僕は「かつての唯一の親友」だけを取り零した。
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