表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

9/9

9.物語は進んでいく

お越しくださりありがとうございます。

「おはようごっざいましゅミネルバお嬢しゃま」

 私は髪をお団子にし、メガネをかけてミネルバお嬢様の前へ立った。

「おはようサラ……よね?」

 認識阻害メガネのおかげで、ミネルバお嬢様も私の顔が認識できないようです。

「今日から私はサラ=アンとして、新たな人生を歩みましゅの」

 ミネルバお嬢様はアン姉さまが公爵家の陰になったことを知っています。聡いお嬢様はすぐに察してくださったようです。

「そう。よろしくねサラ=アン」

 こうしてマクライン伯爵家での生活が幕を開けました。

 と言っても、昨日着いたばかりですし、今日は屋敷の案内くらいです。

 朝食も、疲れているだろうと部屋まで持ってきてくれました。


 朝食を終え、お茶を飲んでいるとシイラがたくさんドレスを持ってやってきた。

「さあ、ミネルバお嬢様、ジョセフ様が迎えに来る前にさらに美しさに磨きをかけましょうね」

 侍女であるお母様のシイラがミネルバ様とドレスを選び始めました。

「やっぱりジョセフ様と同じ目の色のこの若草色のドレスなんていかがですか?」

「そんなにあからさまだと、ジョセフ様に引かれないかしら」

「しょんなことございましぇん! お嬢しゃまの魅力にメロメロになりましゅわ!」

 結婚までに何とかして仲を取り持たねば。

「ふふ。ありがとうサラ=アン。あなたにそういってもらえたらなんだか勇気が出て来たわ」

 ミネルバ様の優しい笑顔に私まで嬉しくなってしまいました。


 万端の準備をして待っていると、10時きっかりに扉をたたく音がしました。

 完璧な装いで座っていたミネルバお嬢様は、体をぴくっと震わせながらもそんな気配はみじんも感じさせることのない声で言いました。

「どうぞ」

 入ってきたのはジョセフ様ではありませんでした。

「おはようございます。私ジョセフ様の側近をしておりますローラン=バルシュールと申します」

「おはようございます。クラジオ公爵家が長女ミネルバでございます」

 お互い挨拶をしあった後、しばし二人の間に沈黙が流れます。

 先に口を開いたのはミネルバお嬢様でした。

「あの、ジョセフ様は?」

 ローランは困った笑顔を向けました。どこにでもいる茶色い髪にヘーゼル色の少したれ目の瞳が優しい印象を与える、なかなかに癒し系なイケメンです。

「申し訳ございません。主は急用の為来られなくなってしまいました。大変申し訳ないと申しておりました」

 嘘ね。来たくなかったから、適当に相手していろとでも言ったに違いないわ! なんてちっさい男なの。私は心の中でぷりぷりしました。でもお嬢様はさすが違います。

「かしこまりました。承りましたとお伝えください」

 がっかりしたであろうに、そんなことはおくびにも出さず、たおやかな笑顔でローランに応えました。それだけでお嬢様の周りに一瞬にして花が咲いたようです。

 ローランもミネルバお嬢様の笑顔に目を奪われたらしく、一瞬固まっていました。

 さすがですお嬢様。ジョシュア野郎もちっさい器だけど、私もちっさかったですわ。

 ローランはお嬢様に手を差し出しました。

「主に変わってお詫び申し上げます。よろしければ私ローランに屋敷をご案内させていただけませんでしょうか」

「でも……」

 ミネルバお嬢様は困って私たちの方を伺います。

 お母様もジョセフ野郎の対応に怒っているのでしょう。

「こんなに天気が良いのです。折角ですしお受けしましょう」

「そうね。じゃあ折角だから、お願いいたしますわ」

「喜んで」

 お嬢様はローランにエスコートされ、部屋を出ていきました。

 お母様も日傘を持って後に続きます。

 私は一瞬動作が遅れました。

「サラ=アン早くいらっしゃい」

 お母様が呼んでいます。私は慌てて後を追いかけた。


 ジョセフ野郎の側近ローラン。この名前を聞いた瞬間、私の脳裏に新たな記憶がよみがえってきた。

 それと同時に気づきました。


 やばいですわ!


 乙女ゲーム「フラワーガーデン」は、いくつか世界観が繋がったシリーズがある。そのうちの一つ「ジュエリーボックス -君は僕の宝物ー」。

 これはフラワーガーデンの次世代の物語。

 ジュエリーボックスでは、今の王太子と乙女との間に生まれる男の子が第一攻略者。

 そして、ミネルバお嬢様とローランの間に生まれる不貞の子が悪役令嬢として登場するのです。


 そう、不貞の子! 不倫ですわ!!


 生まれた子は王家特有のオレンジ色の瞳と赤髪を有していました。ジョセフは実の子でもなく、王家特有の色を持つ娘を毛嫌いし、娘に近寄ろうともしません。でも外聞の為自分の娘として認知はします。ミネルバお嬢様とローランはそんなジョセフに嫌気がさし、娘を置いて屋敷から逃げ出してしまいました。置いて行かれた娘は放置状態。わがままし放題。手のつけようのない令嬢へと成長していくのです。

 その後は、よくあるストーリーです。

 娘は嫌われて断罪されて不幸へ真っ逆さま。


 今のって確実にミネルバお嬢様とローランの出会いのシーンだわ!

お読みくださりありがとうございます。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ