表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/5

勇気その八 ~ 勇気その一四

================================================

 勇気その八 『視認できない』

================================================


 誰がどう見ても隙だらけな彼女の様子に《十字に略》さんたちは互いに目配せをしてほくそ笑んだ。


「……脆そうだぜ……。こりゃ……喰っちまえるな」


「《ディカイオシュネ》の一人を討ち取ったとなりゃー俺たちの名も鰻登り……!」


「はぁーっはっはっは! 運も実力のうちってやつだぁ! ぶち殺せぇええ!」


 ドタバタと得物を振り上げて彼女に殺到する《十字略》さんたち。


「あ、危ないっ!」


 僕が声をあげたせいか、それとも野盗たちの敵意によるものなのか、彼女の鼻ちょうちんがぱちんっと割れた。


「…………ん」


 眼をこすり、彼女は競うように迫る男たちを一瞥する。


「なんだ……敵だったか」


 彼女がすっと深く足幅を広げたことで、ローブの隙間から長刀の鞘がちらりと見えた。

そして彼女はその鞘に左手をやり、その親指で鯉口をすっとあげ――


 ――チン。


 と、彼女が右手で刀を納める音が静かに響く。

 刀が抜き放たれたようには見えない。

 攻撃をしたようには見えない。

 だが唐突にそれはやってきた。

 彼ら一〇人全員に斬撃が疾るエフェクトと効果音。

 そして僕が見たこともない桁外れなダメージ数が筆文字で彼らに浮き上がっていたのだ。




================================================

 勇気その九 『僕は僕の力で』

================================================


 まるで閃きのような一瞬の出来事に僕も呆気にとられる。

 くず折れ、地に伏して色を無くした一〇人のプレイヤー。

 そして縁側でお腹をだして日向ぼっこしている猫のように「ふわぁ~」とあくびを噛み殺す能天気な《ディカイオシュネ》の少女。

 ――強い。圧倒的なまでに。これが……《ディカイオシュネ》の実力なのか……!

 僕はごきゅりと生唾を呑んだ。

 心が震えた。胸が踊った。圧巻した。

 別世界、別次元の強さだ。

 この人に指導してもらったら僕も少しは強くなれるだろうか。

 そんな疑問が脳裏をかすめたが僕は慌てて首を横に振った。

 よせ、よすんだ、ブレイブ! この人はあの《ディカイオシュネ》なんだ! 悪名高く、各地で猛威を奮う“魔王”さんの軍団! 天災とも呼ばれる人たちだ! 関わっていたら命が幾つあっても足りないよ! 悪魔と契約することなんてできない! そうだ……! 僕は……僕の力で強くなろう!

 僕は青い空を見上げぎゅっと拳を握り決意を固くした。

 だが、僕の服の裾が誰かにくいくいっと引かれる。恐る恐るそちらを見てみると、


「……私は寝る。あとはよろしく……すぴー」


 そうとだけ言い残して彼女は夢の中へ旅立った。


「だから僕にどうしろとぉおぉ!?」




================================================

 勇気その一〇 『妖艶な彼女』

================================================


「起きてぇ! 起きてくださいよぉ!」


「……くかー……すぴー……」


 僕が眼から心の汗を流しつつ揺らしても彼女は起きる様子をまったく見せなかった。


「……見つけたわ、ユーティ。……まったく、信じられないほどの方向音痴っぷりだわ。帰巣本能さえないだなんて犬にも劣るミニマム脳ね」


 背後から女性の声がして僕はそちらへと振り返る。

 そこには紫色の長髪に黒い妖艶なドレスを着た女性が立っていた。その露出度が非常に高い黒ドレスに膝上まである黒のブーツ、蛇の腕輪が彼女を悪者の魔女っぽく見せている。

 でも、その鋭く見える眼はどこか理知的で根は優しそうに僕は感じた。


「えっと、あの……」


 僕が戸惑っていることなどお構いなく妖艶な彼女は眠っている少女――ユーティという名前らしい――へと近寄る。

 そして、右拳を振りかぶると……思いっきりユーティさんの顔面を殴り飛ばした。


「ふんぎゃにっ!!」


 意味不明な言葉を吐きだしてユーティさんが地に転がる。

 どぅええええ!? 根は優しそうだったのに、優しさ皆無の起こし方!?



================================================

 勇気その一一 『無言の圧力(物理)』

================================================


「むぅー……。……痛い……。なんだ……、何が起こった……?」


 ユーティさんが重たい頭を振りながら身を起こした。

 そして妖艶な女性の姿を見止め、不満げに眉を曲げる。


「……おお、ナーガか。まったく……迎えにくるのが遅いじゃないか」


「……………………」


 ユーティさんのしれっとした物言いに無言になるナーガさん。

 僕には分かる。彼女らはきっと迎えにいく約束なんてしてなかったはずだ。

 だというのに『迎えに来るのが当然』と言わんばかりのユーティさんの態度にナーガさんも呆れて言葉を無くしてしまったに違いない。

 そんなナーガさんの心情を知ってか知らずか、ユーティさんは地面に足を伸ばして座ったままあくびを一つ。


「ふぁ~あ。では、ナーガ。ぱぱっと転送を頼んだぞ、ぱぱっと」


 ぷちっ、とナーガさんの額の血管が切れる音がした。

 ナーガさんは無言のままユーティさんの顔面までブーツの靴底をあげる。

 そしてぐいぐいとユーティさんのほっぺたを踏みつけた。


「ふんぎゃにっ! にゃ、にゃにをする、ニャーガ……! や、やめろっ!」


 僕はなんとなくナーガさんに同情してしまった。




================================================

 勇気その一二 『知り合い?』

================================================


「ほら、ワンと鳴きなさいな。それとも犬以下のミニマム脳みそのあなたじゃ犬の鳴き真似はできないかしら。ほらほら、どうしたの」


 ユーティさんのほっぺたをぐいぐい踏みつけ、仄かに頬を上気させる楽しそうなナーガさんを眺めていると、ふと彼女が僕に気づいた。


「ところで……あなたは? ユーティの知り合いかしら」


《ディカイオシュネ》の知り合いだなんて冗談じゃない。僕は大きく首を振った。


「あ、いえ……僕はただ通りすがっただけで……!」


 わんわんきゃいんきゃいんと必死に鳴いていたユーティさんが思い出したように僕を見た。


「…………むー?」


 そしてなぜか首を傾げている。

 彼女の怪訝そうな表情を見て、僕はすでに嫌な予感がしていた。


「…………お前、誰だ?」


「ほぉら、やっぱりねっ! そうなるよね! そうくると思っていたよっ!」




================================================

 勇気その一三 『衝撃』

================================================


 不意に思い出したかのようにユーティさんがぽんと手の平を打つ。


「おお、そうだそうだ。そうだった。私は道に迷っているようだったからな。そいつが案内をしてくれていたんだ」


 話を聞いたナーガさんがやれやれとばかりに額に手をやって頭を振る。


「……はふぅ。……ユーティの案内だなんて……迷惑をかけたわ……。大変だったでしょう。えーっと……あなたは……」


「あ、ブレイブといいます。迷惑だなんてそんなっ……僕は何もしてませんから!」


「あら、謙虚なのね。自己紹介が遅れたわ。私はナーガ。ナーガ様と呼んで頂戴」


「は、はあ……」と僕は生返事をする。


 なんだろうこの人。いきなり初対面の人に様付けを強要してくるあたり変な人だなぁ。

 それにしてもユーティさんが言っていたナーガさんってこの人のことだったのか……。

 ん? あれ……〈ナーガ〉って名前……何かとてもよくない方面で聞いたことが……。


「あ、あの……もしかしてなんですけど、ナーガさんって……その……」


 言葉を濁す僕にナーガさんは何か悟ったように口を笑みにした。


「ええ。《ディカイオシュネ》というセルズの軍師兼参謀をしているわ」


 …………《ディカイオシュネ》? 参謀軍師? ナーガ……。――って!!

 そこで僕に全身を雷に打たれたような衝撃が走った。

 この人っ……! 泣く子も死んだふりをするっていう“魔蛇”のナーガさん!?

【二つ名持ち】の中でも超有名なプレイヤーじゃないかっ!!




================================================

 勇気その一四 『もう逃げられない』

================================================


 な、なんてことだろう。

《ディカイオシュネ》の頭脳と呼ばれる人が今目の前に立っている。

 ユーティさんが言ってたナーガさんがまさか“魔蛇”の〈ナーガ〉だなんて……。

 あ、あわわわ、ま、まずいことになってきた……! 不用意な発言が死を招くかも……!

 僕が頭の中で必死にこの状況から早く脱出する算段をたてていると、


「ブレイブくん。悪いのだけれど私たちの城へ同行してくれるかしら。ユーティが迷惑をかけたお詫びに武器庫から欲しい装備の二つ三つくらいは譲るわよ」


 彼女ら《ディカイオシュネ》の城といえば……イクォール……“魔王城”!?

 数々のセルズ連合が攻め込んでも未だ城の中にさえ入れていないっていうあの難攻不落の“魔王城”!? 新たなる未攻略クエストなんて呼ばれているあの“魔王城”!?

 おそらく古今東西のレア武器が集められているであろうその武器庫から二つ、三つ!?


「いえいえいえっ……! そんなっ、お気になさらないで下さいっ……!」


「あら、私の招待を断るなんて。女としてのプライドを傷つけてくれるわね」


 すっ、とナーガさんの眼が鋭くなった。ひぃいぃいぃ!!


「あははは! じ、実は前から“魔王城”を見学してみたかったんですよねぇ、僕! いやぁ、あの“魔王城”を見学できるなんて僕ぁラッキーだなぁあ!」


「ははは。泣くほど嬉しいのか。良かったな」


 ぽんぽん、とユーティさんが僕の肩に手をやった。僕の眼から溢れるものは決して嬉し涙じゃないんだけれど、そのことに彼女が気づく様子はまるでないのだった。



推敲しませんうpるまでは

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ