勇気その一五 ~ 勇気その二一
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勇気その一五 『魔王が住まう城』
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ほんの数秒だった。
ナーガさんが展開させた転送魔法はあっという間に“魔王城”の城門前へと僕らを運んでいるのだった。
広大な城塞を囲む絶壁、その城へ辿り着ける唯一の方法は草の一本も生えていない山道を登ってくる他はない。そんな僻地も僻地、誰も寄り付かないであろう場所にその城はあった。
目の前に聳え立つ堂々たる様はまさしく魔の城だと僕は思った。
紫色の空と黒い雲がその城の異彩さを際立たせている。
ギーギーと怪鳥が鳴く声が否応なく僕の心を波立たせ、不吉さを感じさせる。
ここが……《ディカイオシュネ》の本拠地“魔王城”……!
あの誰もが恐れる“魔王”さんがいる場所……!
辺りを漂う異様な空気に口が渇き、ごくりと生唾を飲み込む。
どうにも緊張のせいか胃がキリキリと痛み始めていた。
お、落ち着け……! 落ち着くんだブレイブ……! “魔王”とて人の子じゃないか……! 悪魔と契約しているとか、視線を合わせたら魂を喰われるなんて噂ぜったいデタラメだ……! 実際、会ってみれば普通の人に決まってる……!
そうだよ! 普通だよ、普通! 恐ろしいと思うから恐ろしくなるんだ!
だがそんな僕の懇願ともとれる内心をせせら笑うかのように、心の臓に悪い轟音と地響きが城門の向こう側からした。
次いで何十トンはあろうかという城門が眩い閃光とともに内側からひしゃげ、僕らの頭上を吹き飛んでいく。
「「「ぎゃあああぁああああああああああああああ!!」」」
複数の叫び声が一緒に頭上を通過していき、僕は慌てて後方へ振り返る。
すると、きっと打倒“魔王”を掲げた正義の使者たち――挑戦者なのだろう――何十人ものプレイヤーが城門と一緒に空へと舞っていた。
普通じゃなぁあいっ! もう絶対フツーじゃないよね、この城はさぁ!!
「……おぉー。今日も元気に飛んでるじゃないか、はははは」
お星様になったプレイヤーたちを見上げ、ユーティさんは暢気に笑っていた。
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勇気その一六 『モンスター?』
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ずずん……、と巨人が歩んでいるかのような音と振動に、再び“魔王城”の城門があった方へと顔をやる。
朦々と立ち上る土煙からぬぅっと、大きな――人にしてはあまりに巨大な左手が伸びてきてもともと城門があった淵――城壁の側面に手をかけた。手の位置は遥かに高く、それだけでその手を持つ者の全体像がいかに馬鹿でかいものか簡単に推察できてしまう。
僕はその巨大な手を見上げたまま思わず後ずさりして尻餅をついた。
そしてついに煙の中からそれは顔をだした。
結論からいえば猛牛の頭だった。天に歯向かうように曲がり立つ二本の角、大きな鼻輪、左眼は縦に入った刀傷で塞がれているものの、ぎょろりと動く右眼はその燃え盛らんばかりの狂気を表すかのように赤く爛々と輝いていた。上半身は裸で分厚い筋肉の鎧をまとっており、下半身は毛むくじゃらでつま先は牛同様に二つに割れたひづめになっている。その存在のどれもが驚愕だったが中でも眼を引くのが右手にぶら下げている巨大な鉄斧だった。
――ミノタウロスだ……!! 神話に登場する半人半牛の化け物ッ……!! まさか《ディカイオシュネ》はあんなモンスターまで庭に飼っているだなんて……!
「……む、あれは……〈ブル〉じゃないか。今日の門番はブルだったのか」
「って、あれプレイヤーなの!? モンスターにしか見えないんですけど!? 中の人はどうしてあんなキャラクターメイクしちゃったの!? どうして人間辞めちゃったの!?」
何の冗談だろうか、ユーティさんの反応からして、ミノタウロス――あの人がプレイヤーであることは間違いなさそうだった。
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勇気一七 『流行りの挨拶』
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冷静なナーガさんや能天気なユーティさんとは違い、恐怖のあまり僕が進むのを尻ごみしていると天高くから声がした。
「もぉ~。アゲハの出番ないじゃなーい。しかもブルちんったらまぁた壊しちゃってー。“魔王”様にメッされてもアゲハ知らないからねぇ?」
幼い少女の声だ。よぉく眼をこらして見てみるとミノタウロスの右肩に女の子――黒と赤を基調とした服装に背中から生える小さな悪魔の羽を持つ少女――〈アゲハ〉という名らしい――アゲハさん、いや、アゲハちゃんがちょこんと腰掛けていた。
ブルさんはアゲハちゃんの言葉を聞いているのかいないのか無反応だった。
だけど返答がないことに気を害した様子もなくアゲハちゃんは親指と人差し指で輪を作って覗き、残党がいないか辺りを探し始める。
そしてすぐに僕らを見つけた。
「あっれ~? そこにいるのはナーガとユーティじゃーん。はろあぐ~」
アゲハちゃんが握った拳から親指と小指を立てて聞いたことも見たことも無い奇抜な挨拶をしてきた。
それにユーティさんも同じポーズで応える。
「はろあぐ~。アゲハもいたのか」
何なのその気の抜ける挨拶っ! 《ディカイオシュネ》の中で流行ってるの!?
もしかしてあの絶対無敵の“魔王”さんもそれやってるの!?
出会う人出会う人が一癖二癖あることに僕は不安を抱かざるを得なかった。
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勇気その一八 『握手』
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アゲハちゃんがパタパタと小さな悪魔羽を動かして僕らの前に着地した。
「はろあぐ! あなたはどこの死に損ない様?」
興味深げにアゲハちゃんが僕を見上げてくる。し、死に損ない? あの……それやっぱり僕はこの後、殺されるてしまうんでしょうか……?
「……ブ、ブレイブといいます。かくかくしかじかでユーティさんとナーガさんに同行しまして……」
内心でびくびくしながら僕はアゲハちゃんに事のあらましを説明した。
「へぇ、そうなんだぁ。アゲハはねぇ、アゲハだよ。二つ名は“小悪魔”って呼ばれてるんだ~。よろしくね~、はい、お近づきの握手っ!」
アゲハちゃんが小さな手を差し出してくる。
へぇ、外見通り中の人は幼い感じだけど意外としっかりとしてる子なのかな?
僕はアゲハちゃんと握手しようと手を伸ばした。
「……あ」とナーガさんがなぜか握手を止めさせようとする仕草をした。
その反応を訝しく思いつつも僕はアゲハちゃんの手を握る。
「……これでアゲハたちは……『お友達』……だね」
にこりと笑うアゲハちゃんの笑顔になぜだか僕の背筋に冷たいものが流れた。
眩しい笑顔のまま明るくアゲハちゃんは続ける。
「アゲハの『お友達』ならアゲハのために何でもするのが当たり前だよね」
「………え。…………え?」
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勇気その一九 『お友達』
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「だってぇアゲハはぁ可愛くてぇ幼くてぇか弱いからぁー『お友達』に助けてもらうのが当然なんだもーん。アゲハの『お友達』ならアゲハのために戦って、アゲハのために欲しいアイテムとってきて、アゲハの踏み台になって、アゲハのために死ぬのが当然なの。分かるでしょー?」
「……あ、えーっと……は?」
理解が追いつかない。っていうか、理解したくないです。
「良かったぁ、『お友達』が増えてぇ。あなたもアゲハのために頑張ってね♪」
ちゅっ、と投げキッスをよこす“小悪魔”さん。
ナーガさんが止めようとした理由を理解した。
もしかしなくても、どうやら僕は彼女の罠に嵌ってしまったらしい。
……まあ、罠というよりも宗教に強制入会させられたような気分なんだけど。
「ちなみに三歩歩けばみーんな忘れる鳥頭のユーティもアゲハの『お友達』なんだぁ。ねっ、ユーティ♪」
「ん? ああ、そうだな。私はアゲハの友達だぞ」
腕を組んでうんうんと頷いているユーティさん。
あぁん、もうっ、ユーティさん素直すぎっ!
馬鹿にされていることに気づいてないし!
アゲハちゃんにいいように使われてるんだろうなぁ、ユーティさんっ!
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勇気その二〇 『リアル猛牛』
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あははは~、と和やかに笑い合っているユーティさんとアゲハちゃんを横目にしてナーガさんが僕に声をかける。
「……はふぅ。ちょうどいいから紹介しておくわ。あのミノタウロス――彼は“鬼牛”の〈ブル〉よ。《ディカイオシュネ》随一の豪腕だわ」
もちろんその二つ名は耳にしたことがある。凶暴、凶悪、すべてを己の肉体――腕力だけで破壊するプレイヤー……その姿は二つの角も相まって鬼と見間違えるほどだとか……。
それが”鬼牛”の二つ名を持つ《ディカイオシュネ》の〈ブル〉さんだ。
ナーガさんの有難い心遣いに僕は挨拶しようとブルさんを見上げた。
しかし、そこにブルさんの姿はなく紫の空が広がっているだけだった。不思議に思い、視線を下げると二メートル大まで小さくなったブルさんの姿があった。
「縮んでらっしゃる!? 縮むことができるんですか!?」
「当たり前だわ。あんな大きさじゃ城の中には入れないでしょう」
ブルさんは両の鼻の穴から『ゴフゥウ』と白い蒸気をだしていた。
その眼は荒れ狂う猛牛のそれだった。
怖い。容赦なく怖い。完全に僕が喰われる立場なわけですがこれは。
しかもなんでこの人、猛牛が突進する前みたく足で何度も地面を掻いてるの?
僕は少しでも気さくに見えるように《ディカイオシュネ》内で流行っているらしい挨拶でブルさんに声をかけてみた。
「え、えーっと、はろあぐ~……。僕はブレイブっていいます。ははは、よろしく……」
しかしどうやらブルさんは僕がお気に召さなかったらしい。
「ブルゥウオォオオォォオッ!!」
獣の咆哮とともに斧を放り投げてブルさんが僕を捕まえようと突進してきた。
「ぎゃああああああああああぁあ!?」
僕は涙をちょちょぎらせて一目散に走りだしていた。
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勇気その二一 『“鬼牛”の中の人って』
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僕の脚力じゃブルさんの砂埃を巻き上げるほどの突進からは逃げ出せなかった。
あっさりとブルさんの両腕に捕まれ、僕の両足が宙を掻く。
「ひいぃいぃ! い、命だけはっ! デスペナいやぁああ!」
眼から鼻から、涙と鼻水を垂れ流し、顔をぐしゃぐしゃにして僕は泣き叫ぶ。
そんな僕の顔をくっつくぐらい間近で見つめるブルさん。
その恐怖たるや夢に出るなんてものを越えて心的障害一歩手前である。
そしてやっとブルさんはプレイヤーであることを証明するようにドスの利いた渋いだみ声で人の言葉を発した。
「あっら~~ん! かわぃいじゃないのぉ~~! わたしのタ・イ・プだわぁ~~んっ! もう食べちゃいたいくらいよぉ~~っ! ゴフゥフッ!! “魔王”様みたいに凛々しいのもいいけれど、こういうのもわたしはイケるわよぉおおおおん!! ゴフフフゥ!!」
完全に僕の心が破壊された瞬間だった。
僕の口から魂が抜け、肉体が真っ白に染まっていくのを感じた。
《ディカイオシュネ》随一の豪腕、“鬼牛”の〈ブル〉さんは――
――オカマさんだった。
まだキャラ紹介パート




