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筋肉おやじ②

 「ん~! たあ!」

 福が女に向かって突進した。左ジャブを放つ。

 「シッ」

 正確に放たれたはずの福のジャブを、女は事も無げにかわした。

 「! シッ、シッ」

 ジャブを連打する。しかし、女は全てのこぶしを薄笑いを浮かべながら避けて行く。弾く、ガードするでは無く避けていくのだ。ジャブは元々、攻撃の起点を作る、または相手の攻撃の機先を制するためのものだ。KOは望めないが当たりやすい。と、言うか連打されたジャブをこのように全てかわす事など不可能に近い。

 「くうぅぅぅっ。たぁぁぁあ」

 業を煮やしたか、福が右足を振り上げた。中段回し蹴りだ。だが、福の右足は軽く下げたような女の左手で受けられる。女の手のひらと福のあしが激突して弾けるような音が室内にこだました。

 

 攻撃をかわされたからと言って大技に切り替えるのは関心しないなぁ。

 「うるさい! これから!」

 おお! 福は受けられた右足を膝を曲げて一旦引き戻すと、今度は頭目がけて上段回し蹴りに移行した。2段蹴り。最初の中段蹴りはフェイントか。やるなぁ、福。

 スカッ。

 「あれ?」

 決まったかに見えた上段回し蹴りが空を切った。反動で福はくるりと一回転してしまう。女は……女は膝を屈め福の足をくぐってかわしたのだ。福は女に背を向ける格好になってしまっている。

 「あッ!」

 女に左手首を掴まれた、そのまま後ろ手に決められる。もう福は身動きできない。

 「あ! う、うん」

 身をよじって抵抗を試みるがびくともしない。かえって決められた関節の位置が深まるだけだ。

 

 「つくづく驚いたお譲ちゃんだ。でもぉ~、女の子は、も少し、おしとやかじゃなくっちゃねぇ」

 女の顔が福の肩越しに近づく。

 「ッ! あん、あん、あん!」

 急に福の抵抗が増した。体を振動させて振りほどこうとする。腕を掴む力が緩み、開放される。女の方から福を放したのだ。

 「はァ、はァ」

 部屋の隅まで逃げた福は振り返り、手を頬に当て目を丸くしている。

 どうした?

 「チューされた。ほっぺに」

 

 福の顔がホオズキのように赤い。見ると女は口に手を当て笑っている。

 「あら。かーわいいねぇ。未通娘(おぼこ)ちゃんかい?」

 (作者)

 ん?

 (おぼこって何よ?)

 ……ハァー。未通娘。おぼことは生娘、バージンの女性を指して言う。

 「そーよ。バージンよ! 文句ある!」

 なにっ! ふむふむ。福、処女っと。

 「なにメモってんのよ!」

 「別にメモっちゃあいないけどさ」

 見ろ。変に誤解された。考えるだけで作者には伝わるのだから口に出すなっての。

 (判ってるけど、つい喋っちゃうんだよ)

 

 「まあ、まあ。落ち着きなよ」

 女が手を振りながら近づいてくる。今度は口だけでなく目鼻も見える。その女が困り笑いとも取れる苦笑を浮かべながら福に手を合わせてきた。

 「ごめんねぇ~。引くでしょ。ねえ、やっぱ引くわよねぇえ」

 引くには引くが……なにに対して? おやじか? この女の物腰か?

 「それに引き換え! なにやってんのよッ。あんたはッ」

 女は両手を腰にあて仁王立ちになり、おやじに向き直った。

 「まったく! せっかくあたしがあっためてやったってーのに。あー、もー、暑くて前髪、鬱陶しい!」

 

 先ほどまで前に垂らしていた髪をかき上げ、後ろで束ねた。女の顔がはっきり見て取れる。落ち着いて見るとすごい美人だ。くっきりした目鼻立ちに赤の際立つ妖艶な唇。身長は福より高く170㎝以上あるだろう。先ほど束ねた髪は漆黒で、濡れたような光沢がある。

 彼女が着る白い服の正体は和服だった。しかし、和服の上からでもその巨乳ぶりが見て取れる。少し下げた長襦袢の胸元から、溢れんばかりの桃の果肉のようなふくらみが、深淵を臨む神秘の渓谷が。福と同等のFカップは確実にあるだろう。いや、ひょっとすると……惜しむらくは彼女の着物である。元来、和服は着崩れないように体のへこんでいる部分にタオルなどの布をあて、胸が強調されない構造になっている。それでもこのスーパードームぶりとは……次回があれば是非そのサイズ、形式まではっきり認識できる、和服以外の服装を拝見したい!

 

 (作者ってさー。必ず胸の描写入れるのな……)

 作者が思うに……女性の胸には男の望む全てのものが詰まっている。美、欲望、母性、崇拝、やすらぎ、そして愛。ゆえに巨乳は良いっ! 全男性のを魅了してやまない人類の財産とも言える。

 「お金は詰まってないの?」

 そのようなゲスな物を神聖な乳房に詰め込むなど許さん!

 「乳房とか言葉で口に出す男ってさいてー」

 

 「誰と話てんの?」

 女がきょとんとした顔で福に尋ねる。その後ろでは、蹴り倒された筋肉おやじが右手で顔面を押さえ、起き上がりつつあった。

 「あ。いえ、なんでもないですぅ~」

 「その様子だと……もう、怖がってないわねぇ?」

 「え。ええ、まぁ」

 「はァ~」

 がっかりした表情の女はうつむくと、眉間に皺を寄せ深いため息を付いた。

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