48 久々の出張です
黙ってられないサシャさんは、自分達が魔物の洞窟を攻略したと教会の人に言ったそうだ。それを信じてもらえたかどうかは別として、実際に村の洞窟がなくなった事により、ミラさんがいた隣の町にまた行くことになったようだ。今のところは他に何か変わった事はないけど、これからどうなるのか。
⋯⋯ま、それはそれとして。
「出張ですか?」
「うん。取引先への納品と説明なんだけど、佐藤さん、前の部署でやってたよね?」
「はい、やってました」
「ここなんだけど⋯」
渡された資料を見ると、退職前に何度も訪問したことのある会社だった。病気になったから退職するって話した時は随分と親身になって話してくれた記憶がある。
「今の担当者が佐藤さんが復帰したって話をしたら、ぜひ一度よこしてくれって言われたんだって」
「なるほど。⋯それはありがたいですね」
仕事上の関係とはいえ、気にかけてもらえていたようでなんだか嬉しい。⋯⋯いや、無理難題を言う為じゃないだろうな?
という訳で、新幹線の何駅かの距離にある県に一泊二日の出張にきている。今は駅前にあるレンタカー会社で同行者が車を借りる手続きをしている。
「佐藤さんは荷物の確認をお願いできますか?」
「わかりました」
レンタカー会社に届くようにしていた荷物を確認する。
「⋯なんだか懐かしいな」
もうやらない、やれないと思っていた仕事を今こうしてやれている。本当にありがたい事だ。⋯⋯その代償として?なのか、サシャさんの相手をしているけど、それはそれで楽しんでいる。
「手続き終わりましたよ」
「あ、じゃあこれ積んじゃいましょう」
借りた商用車のバンに荷物を積んでいく。結構な量を積んだけど、まだスペースには余裕がある。
「このサイズじゃなくてもよかったかな」
「まぁ、積めないよりはいいじゃないですか」
「そうですね」
「じゃあそろそろ出発しましょう」
「あ、はい。お願いします」
運転席に乗りこみ、車を出発させる。このサイズの車の運転もまた懐かしい。
「近藤さんは何度か行ってるんですよね?」
「そうですね」
俺の後任として担当となった近藤さんとはあまり接点はない。退職前の有給消化し始めたあたりで異動というタイミングもあり、本来やるべき引き継ぎをあまりできなかった。それもあってなんだか話しづらい。年齢は近いはずだから、もう少し話せるようになれればいいんだけど。
「事情が事情だったので、佐藤さんの事はあまり話題にしてなかったんですけど、復帰したならいいかと思って」
「そうですね。ありがとうござ⋯⋯⋯え、マジか」
「??佐藤さん??」
「あ、いえ、なんか珍しい車を見かけたので⋯」
なんでよ⋯いやー、どうすっかなぁ⋯。
同乗者は一緒に出張に来ている近藤さんだけ。⋯⋯⋯だったのに二人増えてしまった。
「おっと、ここは⋯?」
信号待ちというタイミングがいいのか、悪いのか、ちゃんと二人とも後部座席に座っている。ただ、そのせいでサシャさんのつぶやきを近藤さんが拾ってしまった。
「え?⋯⋯⋯⋯え??佐藤さん、後部座席に誰かいませんか?!?え?!」
「え?何かいるんですか?!近藤さんって何か見える人なんですか?!霊感でもあるんですか?!」
「え?!俺しか見えてない?!え?女性が二人後ろに乗ってない?!」
「え?何言ってんすか??どこにいるんすか?怖いこと言わないでくださいよー」
これは苦しいか⋯?どうだ⋯?
近藤さんには悪いけど、このまま見えてないふりで乗り切れないだろうか。ただ、サシャさんに話しかけられればこの目論見は即終了する事になる。
「え?⋯⋯やっぱり見えてないのか⋯?俺だけ⋯?」
よし、いけるか?!
⋯⋯いや、いけなさそうだ。無駄な足掻きだったんだろう。車内をキョロキョロしてたサシャさんとミラー越しに目が合ってしまった。いつもの調子で話しかけられる。
「ユウジさん!これは何ですか!?この前のデンシャとは違いますよね?」
「あ、動いたよ。馬車かな?」
「⋯⋯⋯⋯⋯」
「あれ、ユウジさんですよね?!ちょっと聞いてますか?!」
「⋯⋯⋯⋯⋯」
「⋯佐藤さんて、下の名前⋯ユウジじゃなかった?⋯あれ、この人達会社の近くで見たことあるような⋯」
おっと、近藤さん。それはそうだけど、それに触れてはいけない。
「⋯⋯⋯⋯⋯」
「ユウジさん?!」
「佐藤さん?」
「⋯⋯いや、ちょっと今運転中なんで⋯⋯」
「いやいやいや、めっちゃ呼ばれてますよ?」
「え?近藤さんにだけ見える幽霊にですか?」
「幽霊?!どこどこっ?!ヤダヤダヤダッ!!」
「えー、いないんじゃない??」
「佐藤さんも本当は見えてるし、聞こえてるよね?!」
「⋯⋯⋯⋯⋯」
サシャさん達はともかく近藤さんもとなると、これ以上はもうダメかもしれない。数分間とはいえ、このままだとカオスな車内になりそうだ。
「⋯えーとね。サシャさん、これは電車と違って車っていうんだよ。だから、馬車じゃないんだよ、ミラさん。これに馬はいらないんだ。⋯近藤さん、すみません。俺にもちゃんと見えてます。あとで説明します」
「クルマ?あー、見たことはありますね。あれの中ですか!」
「これもキカイってこと?」
「⋯え、どういう事なの。なんなのこの人達は⋯」
うーん、近藤さんになんて言おう。⋯⋯そのまま言えば案外わかってくれたりしないかな。
「こうなってくると、結果的にこのサイズの車で良かったのかな。⋯いや、逆か?このサイズだからこうなってるのか?」
小さいサイズの車だったら、二人が車内に現れる事もなく、こんなことにはならなかったかもしれない。
「あ、そうだ。サシャさん」
「なんですか?」
「俺の隣に座ってる人、同じ会社の近藤さんていうんだけど⋯」
「はい。コンドウさんですか。私はサシャ、こっちはミラです」
「え、あ、はい⋯近藤です⋯」
急に話しかけられた近藤さんは、なんとか返事をしている。
「肩でもいいから、触っててもらえないかな?」
「はい?なんで俺の肩?」
「私はいいんですけど、ユウジさんはいいんですか?」
「本当はよくないけど、いなかったはずのサシャさん達が現れた以上、今さらの話だよ」
そう、今さら気にしてられない。むしろ、説明するだけよりは真実味も増していいはず。
「あー、なるほど」
そう言ってサシャさんは、近藤さんの肩に手をおく。
「佐藤さん?なになに?!どういう事?!」
「そうですねぇ、近藤さん。簡単に言うと、彼女達は異世界の人です」
「⋯⋯はい??」
「といっても、理解してもらえないかと思います。何を言ってるんだ、と。⋯でも、もう少ししたらわかってもらえるんじゃないかと」
「もう少し??」
「えぇ、身をもって。そろそろかなー?サシャさん」
「そろそ⋯」
サシャさんは時計を見ながら、ミラさんは外を見ながら、近藤さんはどんな感情なのかわからない顔をしながら消えていった。
「⋯ちょっと、コンビニに車止めて待ってみるか」
どこに戻ってくるのかよく分からない。だから動かずに待っていた方が無難だろう。どうせ数分間程度のはず。それくらいなら今日の仕事には影響がないだろう。
⋯⋯スケジュール的には大丈夫だけど、近藤さんは大丈夫かな。戻ってきたらどうなるかなぁ⋯。




