16 変化球
昨日は存分に引きこもった。でも、そのせいなのか体がすごくだるい。適度に動いた方が良さそうだ。⋯うん、今日はボタンを押そう。
ぽちっとな。
今日も教会だけど、まだ隣の町かな?
「ユウジさん!今日は来てくれたんですね!来るのを今か今かと待ってましたよ!」
「え?あ、そうなんだ?」
「来てくれないとニホンに行けないし、美味しいのが食べれないですからね!」
「⋯⋯うん、そうだね。ごめんね」
いつも通りな普通の会話をしているものの、周りのコチラを見る目がいろいろだ。興味、恐怖、困惑といった所だろうか。まぁ、突然現れるんだから、仕方ない。そんな人の中から、サシャさんが一人連れてきた。
「早速ですが、こちらの方を治して下さい。症状としては怪我、そして毒です」
連れてこられた人は困惑気味だ。近くにいたミラさんも困惑気味に見える。
「せ、聖女様。こちらの方は⋯」
「大丈夫。聖魔法が使える人ですから、安心して下さいね。さ、ユウジさん!先に解毒、次に回復をぱぱっとやって下さい」
「そんな言い方していいのかよ⋯」
『解毒』
『回復』
サシャさんの指示通りに魔法をかけていく。
連れてこられた人はびくびくしていたが、治っていく様を見ていて落ち着いたようだ。
「あ、ありがとうございます!」
すっかり元気になったようで、軽い足取りで教会から出ていった。そのお陰か、こっちを見る目から恐怖や、困惑といったものがなくなったように思う。でも、ミラさんだけは困惑したままのように見える。
「ほ、本当に聖魔法使ってる⋯」
「さ、次の人ですよー」
『回復』
『回復』
『解毒』
『回復』
サシャさんが連れてくる患者さんを指示通りに治し続ける。こんなに連続で魔法を使ったのは初めてだ。魔力が持つのかと心配だったが、時間の方が先に限界がきそうだ。
「サシャさん、そろそろ⋯」
「じゃあ、一旦休憩をさせていただきます!ちょっとしたら、再開するから待ってて下さいね!」
サシャさんが宣言すると同時に、がしっと掴まれ、奥に連れられていく。ミラさんもついてきた。
「昨日行けなかった分、今日は絶対行きますから!」
「わかってるよー。⋯あれ?もう時間のはずなんだけど⋯」
「っ!?⋯ユウジさん、状態を!」
「え?あー、はいはい」
『状態』
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ユウジ・サトウ
職業 無職
位階 五
体力 満
魔力 小
能力 世界移動 十分間+五分間
学習
学習による効果 回復
解毒
突進
炎
水
経験増
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「何か変わってますか?!」
「⋯えーと、位階が五になったね。あと、時間が十分間になってる」
「⋯⋯⋯⋯⋯⋯キタキタキタキタキターッッー!!!ヒャアッッホォー!!!」
「サ、サシャ?どうしたの?!」
「初めて見ると、困るよねー⋯」
サシャさんから離れたい気持ちでいっぱいだけど、とりあえず連れてかないと、後が面倒になる。
「⋯一定の位階になると時間が増えるのは、これで確定!となると、次の時間が増えるのは⋯」
部屋に戻ってきたけど、ずっとブツブツ喋ってる。いいのかな?⋯でも、この状態の時は下手に話しかけない方がいいような⋯。
「ユウジさんは回復だけではなく、解毒も使えるんですね」
「そうだね。サシャさんのおかげというか、サシャさんのせいというか⋯」
「サシャの?」
「そう。魔法とか、体験すると使えるようになるみたいなんだよね」
「え、どういう事ですか?」
「最初は、俺の病気を治す為に回復をかけてもらったんだ。そしたら、回復が使えるようになったんだよ」
「⋯⋯え?」
「んで、最近、スイセンを食べさせられたんだよね。あれってさ、毒があるでしょ?すぐに解毒をかけてもらったんだ」
「⋯え?⋯え?」
「で、使えるようになったと。すぐ治すにしてもさー、毒を食べさせるなんて、普通やんないよねぇ?」
「⋯⋯は⋯⋯⋯⋯なんじゃぁ!そりゃあーー?!!」
「あ⋯⋯あー⋯⋯」
聖女が二人ともおかしくなってしまい、結局何もしないまま消えてしまった。
⋯来た意味なかったじゃん。聖女って、みんなあんな風になんのかな。⋯⋯こわ。
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「あ、あれ?ユウジさんが居ない?一人で戻っちゃったのかな?」
「サシャもニホンに行ったよ。でも、ずっとブツブツ喋ってたんだよ?」
「え?!なんてもったいない事をしたの?!」
「さ、休憩はもう終わりにしないと!」
「え!もう!?」
「サシャが悪いんでしょ」
普通に話しているが、何か顔が赤く見える。
「ミラ、ニホンで何かありました?汗かいてません?」
「な、何もないよ。ユウジさんと話してただけだよ」
「そうですか?⋯⋯⋯んん?あれ?なんか叫んでなかった?」
「え?!さ、叫ばないよ!サシャじゃないんだから!」
「ミラだって叫ぶって事、知ってますからね?」
「ほ、ほらほら!待たせちゃってるんだから!」
⋯あやしいなぁ。何話してたんだろ。




