わたしの放課後
主人公の名前は「さき」です。
ちーちゃんの名前は「ちえ」です。
二人が通ってる高校は共学で、男子もいます(描写されないだけで)。
時期的には4月か5月のつもり。
放課後になった。午後の授業は起きてはいたけど、先生の言っていることのほとんどが意味不明だった。あとでちーちゃんに教えてもらおう。ちーちゃんの教え方はわたしにも分かりやすいし。
「ちーちゃん、かえろー」
「はいよー」
帰りもちーちゃんと一緒。おたがいの家が歩きで3分くらいの近所で、帰り道もわたしの家の前まで一緒。ふたり並んで、朝は走って通った道を、今度は歩いて帰る。さすがに手をつないだりはしないけど。
「さきってさー、まだ切らないの、髪?」
「うん?」
前髪をひと房つまんでみる。確かにけっこー伸びたなー。うしろの髪なんか、もうすぐ腰に届きそうなくらい。最後に髪切ったの、いつだっけ?
「うーーん?」
「おーい」
「うん?」
「で、切らないの?」
「うーん、まだいいかな」
髪を切るときはいつも、おばちゃんがやってる近所の床屋で切っている。小さい頃から親に連れられて行っていたから、あそこ以外で切るのは考えたこともない。なんか気持ち悪いし。昔はよくちーちゃんとも一緒に行っていた。
「ちーちゃんは?」
「あたしはこの前切ったばっかだし」
確かに、ちーちゃんの髪は肩に付かないくらい短い。昔から、いつもこのくらいの長さをキープしている気がする。
「ていうか、何で切らないの? いつもそのくらいで切ってない?」
「ふところが寒ーございまして」
「あー、またあれ買ったの?」
「うん」
あれというのは、ぬいぐるみのこと。わたしはぬいぐるみが好きで、カワイイやつを見かけるとすぐ買ってしまう。それがUFOキャッチャーの中にいるときは、自分でもこわい。ときには福沢さんをバラバラにしてでも、取れるまでトライし続けるから。取れたときは幸せいっぱいなのだけど、サイフの中身を確認したときの切なさが何とも言えない。
「あんたの部屋、すでにあふれかえるほどいっぱいあるじゃん。まだ足りないの?」
「いやー、足りないっていうか、カワイイものはいくらあってもいい、っていうか……」
「はぁ、まったく。相変わらずだね、さきは」
「えへへ……」
「なんでや、ねん!」
「あてっ」
またデコピンされた。今度はあんまり痛くなかった。
「さきもさ、もうちょい身だしなみっていうか、オシャレっていうか、そういうのにもお金使った方がいいんでない? ぬいぐるみ買うんじゃなく」
「えー、いいよ」
「えー、じゃない。そんなんじゃ、いつまで経っても彼氏の一人もできないぞー」
「別にいいよー」
「はぁ、だめだこりゃ」
「……ちーちゃんは?」
「んー?」
「彼氏。いるの?」
「いたらとっくに自慢してるってー、の!」
「たっ」
痛い。今までくらったやつの中でも上位にくいこむ痛さである。今までちーちゃんに彼氏自慢をされたことはないから、たぶん今までいたことないんだろうなー。……そっか。いないのか。
「……ふふ」
「何笑ってんの?」
「なーんでーもなーい」
そっかー、いないのかー。ふっふっふー。ちーちゃんには彼氏がいない。これからもずっといないといいなー。ふふふ。
「こらー、なに笑ってんのかー」
「ふっふふのふー」
ちーちゃんに彼氏ができなければ、ずっとこのままでいられる。朝起こしてくれて、一緒に学校行って、一緒にお昼食べて、一緒に帰って、ときどき勉強教えてもらって、いつも一緒にいられる。だからわたしは、祈ることにした。ちーちゃんに彼氏ができませんように。そして、わたしのそばにいてくれますように。
ここまでで一区切りつきます。
あと、ちーちゃんは(まだ)ノンケです。