18話 グレイス帝国と世界の未来
「リムルー?」オサムが呼ぶと1階から階段を上がってきた。
「何でしょう?ご主人様」リムルが尋ねると
「俺、王様になっちゃった。グレイス王国国王なんだってさ」
オサムもわけがわからないまま話が進んだので実感がない。
それを聞いてリムルは
「はい?国王陛下ですか?グレイス王国?聞いたことが無いですが」
そう言われオサムは説明を始めた。
しかし、肝心なところはぼかしていた。自分が聖騎士であるということを。
「グリーシア帝国と同盟ですか、私にはわかりませんがすごいことなのでしょう?」
リムルがわからないのは当然だったが、伯爵にも言わなくてはならない。
オサムは城へと向かった。
伯爵にグリーシア皇帝とのことを伝えると
「やはりな、個の武にも秀でてはいるが、軍略や政治の才もある・・・か、さすがグリーシア皇帝」
「聖騎士とはそう言う存在ということだな、全ての戦を無くせるかもしれん」
伯爵は明らかにオサムの扱いに悩んでいた。他国に利用され始めたのだ。
オサムはと言うと、それはどうでも良かった。
ただ、自分が王になったということで、王都、特に城や屋敷、王宮や雑多に入り組んだ街を中心に改装させた。
風呂とトイレは絶対に譲れない。
屋敷や迎賓館も含め、他は任せることにした。
もう戦は無いのでグリーシアの騎士や兵士の多くは引き上げていった。
オサムは国内の全ての都市を見て回り、改造すべき事を書き上げた。
オサムが手に入れたグレイス王国の領土は大陸でもかなり豊かな土地であり、交易路も通っている。
他国が虎視眈々と狙うのもわかるが、それを皇帝はいきなり手放した。
巨大な帝国の小さな領地とは言え帝国にとっては痛いはずなのだが、それ以上の効果があるのだろう。
20万以上の兵を常時維持しておくことと天秤にかけたのかもしれない。
オサム一人で百万の兵に匹敵する。
それが皇帝の出した結論だったのだろう。
しかしオサムは記憶がほとんど戻らない。戸惑ってばかりの毎日だった。
それでもリムルの顔を見るだけで心が解ける。それが記憶に関係しているのは分かっていた。
恐らく以前愛した女性なのだろう。
だが、オサムは結論を急がず待つことにした。
オサムは皆が自分の事に関心を持つのでクリューズに聞いてみることにした。
「聖騎士様は神に一番近い存在なのです」そう言われたが
グランパープルでは”神々の一人”と言われた。
剣のことでも色々と言われたので尋ねると
「意識を集中して剣を見るのです、そして自分のことを考えるようにすると自分のレベルも見えます」
オサムは腰の剣を見るとぼうっと浮かんだ、トールアーク、インペリアルセイヴァーレベル500、と見えた。
同じく自分にも意識を集中してみた。”Gods”レベルは無い。
恐らくインペリアルセイヴァーと言う者の上位の存在なのだろう。
「見えますね、インペリアルセイヴァーでレベルが500、これが聖騎士ですか?」
クリューズは
「それはその剣を扱えるレベルのことです、歴史上存在しませんが。自分のレベルはわかりましたか?」
そうオサムに尋ねると
「はい、インペリアルセイヴァーではないです。Godsになってます、レベルは有りません」
「Gods?なんですかそれは?確か古文書に書かれてたような。確かめてみます」クリューズに言われ
「確かグランパープルでは神々の一人だと言われましたが、これがそうなんでしょうか?」
オサムは訊き返した。
クリューズは次の言葉が思い浮かばなかった。神々の一人?それならば納得できる材料である。
「しかし、いや、私にはわかりません、エリトール様。理解の範疇を超えています」
オサムにとってはどうでも良かったが、答えは無いのかもしれない。
それはそれでいい。ゆったりと暮らせている。
自分が何者なのかはもう知っている。秋葉オサムだ。それで良い。
オサムは自分の王都が出来上がるまでの間屋敷の方で暮らすことに決めていた。
その間一度たりとて他国が攻めてきたという話は聞かなかった。
待っている間はいつもと同じように暮らしていたが、報告が届いた。
グリーシア皇帝からもらった城の改築や屋敷の建築、城下の整備が終わったらしい。
最終的には住人の数倍のもの労働者を雇い、その労働者達も住めるように外周を広げて住宅や道路を作らせた。
オサムはグランパープルに飛び、ライツェン王国から出ても良いか訊いた。
守護者はそうすべきだと言う。
そのため準備を整えていった。
ライツェン国王の所へ行くと「聖騎士様よくぞいらっしゃいました」と言われた。
どうやら他国も知っているようにライツェン国王も知っているようだ。
グレイス王国に移ろうと思う、という事を伝えると祝わせてくれと言われた。
同盟を結びたいという旨の話もしたので恐らく同盟祝いなのだろう。
オサムはそういう事は苦手だが断るのも失礼だと考え了承した。
当日、グレイス王国とライツェン王国同盟の盛大な宴が開かれた。
国中の貴族が集まったのだろう、かなりの人数だ。
グレイス王国と同盟したということで、西側のムルトワ王国やレーラリア王国もライツェン王国に手出しは出来なくなったためだろう。
その中には伯爵も居たので話をしてバルコニーへ出た。
テープルと椅子を用意し食事や飲み物が出され、給仕係がバルコニーの出入り口付近に立っている。
そこへ一人の女性がやって来た。
「グレイス国王陛下、以前伯爵閣下の城でお会いしましたロレーヌ・マンセルと申します」
そしてその後ろにも誰かが居た。
「この子はファシリア・ユーリヒといいます。よろしければご一緒しても?」
ロレーヌと言う女性が言うので、従者である3人も呼んだ。
オサムは食事をしながらふと横を見るとバルコニーに一人で出てきた女性が居た。
男の数のほうが多いためその女性にも声を掛けることにした。
名前をミーシャ・ツォレルンと言う男爵家の令嬢らしい。
この3人の女性も自分の記憶に関係しているに違いない。
ひと目見た時に会っている様に思えたからだ。特にロレーヌという女性には強く惹かれる。
7人で楽しく話をしながらオサムは記憶を探ったがやはり思い出せない。
しかしそれでも構わなかった、徐々に記憶が戻るのだろう。
クイード達3人やロレーヌという女性達3人には他者と違う感覚で接している自分を知った。
親しくしていた者たちなのだろう。恐らくだが。
宴も終わりに近づき大広間に戻らなければならなくなったので、3人の女性に
「いつでもグレイスに来て下さい、歓迎しますので」そう言って席を立った。
ライツェン国王と公式の文書を取り交わし、盛大な拍手で式典は終わった。
その後2日間に渡って宴は続いたが、オサムにとっては苦痛だった。
数ヶ月が過ぎても王宮や王城には慣れなかった。以前の屋敷でさえ広すぎたのだから仕方がない。
オサムはグレイス王国と伯爵の城を往復していた。
グリオンとレギオーラに出向き、ライツェン国との間にある領土の買収も持ちかけた。
脅したわけではないが、オサムに言われて断れる国王など居ない。
それぞれ銀貨3億枚と言う膨大な金額を提示すると二つ返事で小さな領土をグレイス王国に売り渡した。
これは両国の国家予算の5年分以上に相当する。
それにこれでグリオンとレギオーラの間にグレイスの領土が割り込むため、両国の戦争も無くなる。
レギオーラはライツェンと姻戚関係があるため、オサムはレギオーラ王国とも同盟関係を築いた。
このことにより伯爵の領地と地続きになるため気兼ねなくライツェンとの往来ができるようになった。
屋敷や城が持てたのは良いが、信用できる物がほとんど居ないのが問題だ。
オサムは伯爵に相談し、出来るだけ見知った者達。侍女を1名そして5人の従者と召使いを10名程度引き渡された。
この者達を連れてグレイス王国に完全に移住することにした。
伯爵領からグレイス王都までは馬車で10日も掛からない。途中に街もあるため楽しい旅だった。
モンスターもオサムやクイード達の騎乗するナイトメアを恐れて出て来ない。
王都に全員が着いたときには新しく注文していた屋敷等の建物や城も設計通りに出来上がっていた。
オサムは城に入ると懐かしく感じた。これも以前の記憶が関係しているのだろう。
オサムは少しでも胸に引っかかる人物を片っ端から集めた。ビーツやクライアンも呼んでいた。
ただ、妃の居ない王なので各国から姫君を紹介されるのが疎ましかった。
オサムは形だけ、という理由をつけてリムルを強引に公爵にして王妃にした。
リムルは嫌がっては居なかったが身分違いということで遠慮していたためだ。
伯爵や同盟国であるグリーシア帝国、ライツェン王国の手助けで行政等の組織は作り上げた。
攻め込んでくる国はまず無いのでオサムは城でゆったりと過ごした。
グリーシアの騎士や剣士はかなりの人数が本国に戻ったが、引き続き残る騎士や剣士も大勢いる。
これは剣聖と呼ばれる国王の騎士となりたいがためだったが、騎士団は全て国家に属するものとした。
だが、それでも良かったようだ。数千人居る騎士達は各個に名付けられた騎士団に振り分けられた。
中でも近衛騎士団に準ずる王立騎士団と、オサム自身が面接で選んだ黒狼騎士団は別格と言われた。
王立騎士団は白銀に金をあしらった豪華な甲冑で、比較的身分の高い騎士が選ばれた。
黒狼騎士団は狼を模した左肩のアーマーに象徴され、グレイス王国でも特別な色とされる黒い甲冑と楯、剣を与えられ国内の都市の城代として派遣される。
いわば王の代理であり最高の名誉職でもある。
しかしグレイスは戦に備えることもないので警察機構を作りそこに一般の騎士団や兵士を配属した。
総人口500万人に対して10万人の警備兵数なので犯罪率はみるみる低下していった。
牢を作ると経費がかさむため、懲罰は罰金と流刑のみにした。
丁度グレイス王国の南に脱出不可能な島があるのでそこを使うことにした。
完全なジャングルのため、最初だけオサム自身が人の住める島へ少し開発した。
流刑者を運ぶにはグレートドラゴンが必要だが、騎士レベル95以上でないと扱えない。
オサム自身が運んでいった。後は食物の苗や種、穀物を数年分置いておくだけである。
その内にオサムは鉄が不足しだしたため、作ることにした。
グリーシア帝国の向こう、砂漠や森林地帯で鉱山を探して廻った。
砂漠周辺に大規模な鉄鉱石鉱山と石炭鉱山を見つけたためその周辺の都市国家を全て従えた。
人口数千から最大でも数万の小規模な交易都市のため政治は不安定である。
全ての都市を交渉で支配下に入れるまでに期間はそうかからなかった。
これによって東の端のシャングール帝国の領土と接するまでオサムの支配が及ぶことになった。
1年も掛けずにオサムの王国は巨大な領土を持つことになったが他国に言う必要は無いと本国でのんびりとしていた。
数十の城塞都市と10箇所を超える巨大鉱山の近くに作った新しい城塞都市。
それもまたオサムにとっては必要なだけのものであり、大したことではないと考え、黒狼騎士団員に預けていた。
また、森林地帯でも有望な資源が見つかるので目印として周囲1キロ程の木を斬り倒した。
その場所に石材を運び、都市を作るまでの間放置した。まだ移民させられるほどグレイスの人口は多くない。
その間に高炉や転炉を図面どおりに作り用意は出来た。
後はコークスと鉄鉱石があれば量産できる。
その用意をしていたときだった。東のシャングール帝国が軍を動かした。
国境近くの都市には用心させていたが、突然国境を越え数十万人の軍が進軍してきているらしい。
オサムはすぐにグレートドラゴンで向かった。
確かに数十万人の軍が城塞都市に近づいてきている。
オサムはその軍の先頭にグレートドラゴンで降り立ち
「既に我が領土に侵入しているが、引き返してもらいたい」
「そうでなければ全員を殺さざるをえないが、どうする!」そう叫んだが敵は進軍を止めない。
『嫌だけど仕方ないか』と考えてグレートドラゴンで焼き払っていった。
一部ドラゴンのブレスが効かない者が居たが、それはオサムが自ら斬った。
1時間も掛からず数十万もの軍は瓦解し、壊滅した。
そしてオサムはシャングールの帝都にドラゴンで降り立った。
暫くすると2000人程度の兵を引き連れて将軍らしき人物が出てきた。
「貴様は誰だ!ここは皇宮である、用件は何だ?」と訊いてきたが
「我が領土に侵入した目的は?」と問い返した
質問してきた男は
「領土の拡大だが?何が悪い?皇帝陛下の勅命だ」そう言い放った。
「皇帝?では皇帝を出せ!」オサムは言い返しすと
「お前のような者が陛下に会えるか!」そう言われたのでドラゴンに乗り櫓などを焼いて破壊した。
そしてまた降り「このままこの国を焼き尽くしてもいいが?」ただの脅しだが効果はあるだろう。
男はじっと考え「少し待て」と言い、皇帝を強引に引きずり出してきた。
「何をする!ロウ!」と言われながらだが、そのロウと言う男は何も言わずオサムの前に皇帝を連れてきた。
取り乱し慌てふためく皇帝にはグリーシア皇帝のような威厳は全く無い。
男がその皇帝を見る目も冷たいものだった。
「どうする?」オサムが言うと
「何をだ!?」と皇帝が言うので
オサムは「俺にこの国を譲るか死ぬかだが?民と一緒に灰になるか?」と言うと
皇帝は「お前のような者にこの帝国を渡せるか!民とともに滅んでやるわ!」と答えた。
オサムの怒りが一気に吹き出し、そのまま皇帝を真っ二つにして石作りの舗装が割れ、その剣撃は200メートル先まで破壊した。
「民とともに死ぬだと?お前に皇帝の資格はない!」
その様子を見ていたロウと言う者に向かって「次はお前だ、どうする?」と訊くと
後ろの兵に向かって「この国を譲り渡す!皇帝に連なる者すべて斬ってこい!」
そう命令を下した。恐らくロウの私兵か皇帝よりよほど慕われているのだろう。
数百の老若男女が引きずり出されてきた。
「そこまでするのか?」オサムは少々気分が悪かった。
「ここまでせねばこの国は滅びる、一部の者達が国に寄生しているのでな、いい機会だ。私の親戚も含まれているが手加減はせぬ」
「これで、この国は救われるかも知れぬ、お前次第だが」ロウは現在の帝国を危惧していたようだ。
「お前の名は?俺はアキバ・オサム・グレイスだ」と言うと
「私はロウ・ウェン、この国の宰相であり大将軍でもある。いや、だった、か。この国はもう終わっていた」
憎々しげに並べられた遺体を見て「奴らが国を食い物にしていた、民は疲れきっている」
オサムは「そうか、では今年は無税その後の税は2割とせよ。当面の国費は我が国から出す、安心せよ」
「1年で銀貨何枚必要になる?」ロウに訊いた
「銀貨ならば1億枚程度になるか、国事次第だが。しかし今年は無税だと?税も半分以下にするのか?」そう答えてロウは黙ってしまった。
そんな大金をポンと用意できるわけがない。今年無税にするならばそれに変わる金が必要だ。
「わかった、ではとりあえず3億枚持ってこよう、一度戻るがすぐに来る」
オサムは続けて
「皇帝に媚びて財を成したものや、何もせぬ貴族の財産を没収する。1ヶ月後までにこの場に集めよ。断るものが居るならば全財産を没収して砂漠に放り出せ。では一旦帰る」
オサムは飛び立っていった。
ロウは提示された金額とオサムの考えに唖然としていた。
2日後オサムが姿を現した。ロウを呼ぶとドラゴンに気がついていたのかすぐに出てきた。
「銀貨を持ってきた、蔵に案内しろ。」そう言って蔵に着くと
「国庫はこれだけか?」見たところ数万枚の銀貨しか無かった。
「約束の3億枚持ってきた」とオサムは数ある蔵をことごとく銀貨で埋めていった」
貴族の領地全てを皇帝直轄の領地にすれば5年は持つはずだ。
「それでロウよ、後宮はあるのか?あるのであれば女は家に返して後宮を壊せ、俺には用が無いものだ」
オサムはリムルという妃が居るため必要がなかった。
「他にも奢侈な行事はできるだけ控えて国の再建に努力しろ」
「最後だが、今後この国を乱すであろう者達は居るか?旧皇帝に忠誠を誓った軍や外敵などだが」
オサムが言うとロウは説明しだした。
「北方の敵とその防衛のための軍だな?今から片付けてくる」
オサムはそう言い、北方の騎馬民族を全滅させ、旧皇帝派の軍を取り除いた。
オサムが「約束通り金も与えた、敵も潰してきた、俺を皇帝にしろ、今すぐにだ」
そう言うとロウが儀式を始めた。簡単な儀式だがオサムはシャングールの皇帝になった。
そして国名もグレイス帝国と改めた。
王国と砂漠地帯に森林地帯、それにシャングールをオサムは得た。
例の商人や貴族の件も全員銀貨1000枚だけ渡し、城下に住まわせるよう言い付けた。
必要ならば相談しに来い、とペガサスの笛も渡した。
「暫くこの国を頼む」
そう言い残して去っていった。
しばらくしてロウに使者を出した。
そして決めた日の昼、オサムが旧シャングールの皇宮上空からその広大な庭の真上から眺めると大勢の者が居た。
賭けだったがロウは約束を守っていた。王宮の庭には数百人程度の者達が兵に囲まれている。
オサムがグレートドラゴンで降り立つと全員が恐怖で顔を引きつらせていた。
「聞いているかもしれんが、お前達の財産は銀貨1000枚を残して全て没収する。
国の寄生虫達よ、お前らの幸せな時間はもう過ぎた。大人しく皇帝の命に従え」
オサムはその言葉に続けて
「しかし、1つだけ選ばせてやる。死んで没収か生きて没収かだ、どちらか選べ」
オサムの言っていることは無茶苦茶である。しかし汚れた利権にまみれた者に慈悲は要らない。
誰も一言も喋らない。
「では、皆生きていたいということだな?城下に小さな屋敷をもたせるので各自帰れ」
オサムがそう言うと皆肩を落とし、兵士に連れられていった。
「さて、ロウよ、没収した資産は国費何年分になった?それと他に案じていることは?」
オサムが言うとロウは
「陛下から頂いた銀貨を合わせると30年は保ちます、税を2割にしても問題有りません」
「他に案じているのは、今回の件に逆らう者達が私兵と共に要塞で抵抗しております。旧皇帝派の重臣や将軍、兵達も。数は約5万です20万の兵でも攻略できません」
「今は囲んでいるだけで、兵糧が尽きるのを待っています」
そう言われたのでロウに案内させた。
「この要塞です。この国でももっとも堅固なもののうちの1つで攻めるのは困難を極めます」
ロウに連れてこられた要塞はかなり大きい。回りをぐるりとグレイス帝国軍が囲んでいるが、膠着状態に見える。
オサムは要塞近くの陣地に降り立ち、背中の大剣を抜き。
「兵を下がらせろ、今から要塞ごと全滅させる」オサムが言うとロウは退避を命令した。
オサムは魔法の中から炎系の最強呪文に属するフレイムナパームとフレイムスパークを使うことにした。
魔法を剣にまとわせ弓の射程外で剣を構えた。
同じく剣技の最高スキルであるデュランドスラッシュとエクススラッシュを要塞めがけて振り下ろした。
たった2回の攻撃で要塞は城壁ごと破壊され、炎は全てを焼き尽くした。
「これで抵抗する人間は居なくなったな?ロウ」
目の前で起こったことが信じられず呆然と言葉を失ったロウに軍を帰還させた。
「この国はもう安心だろう?この後は北方に入り支配下に置いておけ。砂漠周辺や西の端までの無人の森林地帯は既に我が領土となっている」
「一旦全てこの国かもしくは砂漠地帯に人を集めて管理せよ。南は要らぬ。こちらから攻めることは許さん。わかったか?ロウ?」
オサムが言うと、ロウは「わかりました」とだけ答えた。
オサムはその後1ヶ月掛けて資源の調査を行った。
森林地帯も有望な炭鉱や金属鉱山を見つけ出し、すぐ近くに広大な空き地を作った。
岩を運び木を斬り倒し、10万人規模の都市を幾つも作れるように下準備だけは行った。
また、インフラの整備も銀貨5億枚を渡し、ロウに命じて行わせた。
大量の労働者が職を得て、停滞していた経済も活発に動き出した。
シャングールを得た事によって、北方森林地帯の鉱山労働者もグレイス帝国から多数の移民によって確保できた。
グレイス帝国は50程度の城塞都市にまとめ上げ、中央の砂漠や北の森林地帯にも50程の城塞都市が出来た。
東グレイス帝国の平原地帯に国有の大穀倉地帯も作り、穀物も有り余る程手に入る。
東側はこれでいい。大量に産出する石炭や鉄鉱石を保管するためにオサムはヴァレスを狩り続けた。
クイードやタキトス、ハンビィ、クラウド、アンカール、ギルビィ、レオン、ジン達腹心達にも狩らせた。
クライアンの研究によりほぼ無限に入る大型のマジックボックスを大量に作り、石炭等をストックした。
工場の方はと言うと、やっと稼働しだして月平均500万トンの鉄や鋼鉄を作り出していた。
鉄製品専用の工場も作り、鉄の板や柱等様々な鉄製品を作っている。
グレイス王国はその規模に比して異常な富を蓄えていた。
オサムがやって来て2年で此処まで作り上げた。
その間に、豊富な資源や穀物の採れる領土を狙って南から攻め込んで来る国が有ったが
ロウとオサムは逆にその軍を滅ぼして、南方も平定した。東グレイス帝国は大陸の半分を支配下に置くこととなった。
元々広かったグレイス王国の王都はその面積を20倍に広げ、城の敷地も魔法加工された鋼鉄や石垣で30倍に広げた。
前の城の近くに10倍の大きさの城を建て、前の城は迎賓館として使うため、拡張と改造を行った。
憲法や法律を整備し、絶対王政から立憲君主国に近い制度へと変え、グレイス王国及び東グレイス帝国の市民は公共サービスにより守られることになった。
移住してくる者達にも同じように仕事や恩恵を与え、ますます発展していく。
オサムは各国から奴隷状態の人々を強引に買い集め、自由民として北方の都市群に住まわせ労働者とする。
学校も各都市に作り教育は無料とした。
医療に関しては問題がない。
神聖魔法士による治療院も各都市に複数作り民達は何の不安もなく暮らせるようになった。
大陸全体の8割、約2億人を抱える大帝国でありながら純粋な兵士は居らず犯罪取締りのため300万人を雇用している。
犯罪率は他国と比べ非常に低いが、流刑地の島には既に数万人が暮らしている。
小国家の様相を呈していたが、オサムは放っておく事にした。
一方、クライアンやビーツには大量のマジックアイテムや武器、防具を作らせていた。
これは自分のためではなく主要な従者8人のためのものだった。
ふんだんにレアアイテムを使用した武器や防具は強力過ぎて他の者に持たせる訳にはいかない。
オサムが信頼する8名だけに使わせていた。
しかし、レベルが上がり使わなくなった装備は城にあるオサムにしか開けられないマジックボックスに封印した。
並の剣士を騎士のような強さにしてしまうような危険な装備は流通させることは出来ない。
クイード、タキトス、ハンビィは既に高レベルのロードナイトとなっていた。
クラウド、アンカール、ギルビィ、レオン、ジンは騎士の最終段階であった。
短期間で作り上げた国だが、他国と比べると住みやすいのに違いない。移住者は増え続けた。
労働者や技術者が王国と帝国に溢れた。しかし旺盛な需要により国家は潤い、民も潤った。
その時である。オサムは気がついた。
現在の王国と帝国の全財産は金貨10億枚と銀貨500億枚である。
白銅貨や青銅貨、黄銅貸も大きさを変えて作らせている。その総数は1兆枚を超える。
特に白銅貨は以前持っていたものと同じに大きさやデザインにした上で新規に流通させていた。
「俺は以前同じようなことをしたのだな?そのうちの一部を身に着けていた、そういうことか」
「1回目が終わり、2回目が始まった。いや何回目かは分からないが」
早速オサムはグランパープルへ飛んで守護者に会った。
「俺がこの世界で生きるのは何回目ですか?」オサムが尋ねると
「厳密には2回目だ、後何度続けるかはお主次第だが」そう答えられた。
「私は”時”の守護者だ。これは初めて言うが、過去現在未来、異世界の時、すべてを知ることが出来る」
守護者は語り始めた。
「1度目のお主は、不老不死を手に入れ、愛した者を全て失った、そして死を選んだ」
「しかし神は死ねぬ。絶望したお主はこの世界のことを全て忘れて元の世界へ帰った」
「だが、運命は変えられぬ、お主はこれからも失い続ける。大切な者達をな」
「耐えれるか?耐えねばならぬ」しかし、含みのある言い方だった。
オサムは理解できた。自分の強さ、治癒の早さ、そして自分が”神”の一人であること。
「守護者殿、貴方は時の神ということですね?そして俺は・・・」と言いかけた時
「そうじゃ、私は時の神。そしてお前は万能の神の一人、この意味を知れば答えが出せよう」
守護者は言った。
「そういうことですか、では私の記憶はこの国にあるのですね?”時”として」
「それを見ればわかる、思い出せる」オサムは守護者ではなく自分に言った。
「もう理解は出来た、時の神よ、私の記憶を返す時が来た」オサムはゆっくりと言った。
”自ら消した記憶はこの世界に居ればいつか戻る”と言われた。
その”いつか”が今なのだろう。
「気が付きましたか、では案内しましょう」守護者の語調が変わった。
そして、神殿の更に奥へと案内された。
「ここが時と記憶の間です」時の守護者はそう言い、小さいがクリスタルで出来た部屋へオサムを入れた。
「1日だけ頂きます」そう守護者が言うとオサムは立ったまま意識を失った。
夢の中で全ての記憶が流れ込んで来る。
『そうだ、これが俺が封印した記憶だ』オサムはゆっくりと目を開けた。
守護者は居なかった。
祭壇に戻り、守護者に「全て思い出した。私が神だと言うこともな」
「もうこのハイドステータスの腕輪はいらないな」と腕輪を触り念じると黒い腕輪が銀に変わった。
「エンフォーセだけあれば良い」そう言ってオサムはグランパープルから帰った。
考えては首を振り、また思索の深みに落ちては振り払う。
それを1週間程続け、やがて微笑んだ。
「リムル、答えろ。何を失っても俺と一緒に居たいか?」オサムは突然リムルに訊いた。
「私は旦那様と一緒ならどこでも何があってもかまいません。元々貧しい庶民でしたので」
真剣な表情のオサムは珍しい。リムルは本当の気持を伝えた。
「お前を不老不死にしても良いか?友も子も老いて死ぬが俺だけは残る」
オサムがそう言うと「旦那様がお望みなのでしょう?その望みが私ならば喜んで」
「苦しいぞ?本当に良いか?」オサムが言うと
「旦那様が苦しいのであればそれを半分に出来ます、お望みのままに」
リムルは決心していた。
「では今からお前を不老不死にする、左腕を出せ」と言ってリムルの左手首を両手で握った。
オサムがリムルの手首から手を離すと、エンフォーセの付いた銀の腕輪が嵌められていた。
「すまんが、お前を神にした。わけが分からぬかもしれないが、信じて欲しい」
オサムはリムルを神にしてしまった。記憶を繰り返すつもりはないがロレーヌに会いに行った。
子爵の屋敷に入りロレーヌを呼んだ。
「グレイス国王陛下、どのようなご用件でしょうか」
ロレーヌはオサムの姿を見るなりかしこまった
「突然来てすまない、子爵とも話がしたい良いか?」
オサムが言うと
「わかりました、すぐに用意いたします、客間でお待ち下さい」
ロレーヌは階段を登り、オサムは客間に案内された。
待っていると子爵とロレーヌがやって来た。
「お待たせして申し訳ありません、グレイス陛下」
子爵はそう言って頭を下げ
「どのような用件でお越しなされたのでしょうか?」と訊いた
オサムは少し考え、どう言い始めるかを決めた
「いきなりですが、ロレーヌを側室として娶りたいと考えております」
オサムがそう言うと
「えぇ!?」と二人が驚いた。
それはそうだろう”以前の時”のようにはロレーヌとはあまり関わっていない。
良い説明を無理にでも作り出す必要がある。以前側室だったとはいえない。
「以前エリトールだった頃ですか、ロレーヌのことを美しいと思っていましたが、子爵令嬢でしたので」
「しかし今は国王でもあり、東を統べる皇帝でもありますゆえ、胸の思いを吐き出せました」
オサムは少し嘘を混ぜた、これは以前の思いだ。
「いや、しかしグレイス陛下ならば側室とて各国の王から姫を紹介されるのでは?」
子爵はそう言ったが
「私はロレーヌに居て欲しい、それだけです」そうオサムは答えた。
「グレイス陛下がお望みなら」子爵もロレーヌも承諾した。
「では3ヶ月後に式を行うので、その少し前にロレーヌをグレイスに」そう言い残して去った。
そして、ロレーヌとの式の1週間前にグレイスに呼んだ。
ロレーヌは緊張していたが、伝えなければならないことがあるとオサムが言う。
「神ですか!?」ロレーヌは驚いていたが、オサムのステータスを見て信じざるを得なかった。
そしてリムルも”Gods”である。
オサムは以前の世界の話をした、丸1日掛けて。
信じられないが信じるしか無かった。
そして共に生きるかどうか問われて「私はこのままで」と返答をした。
グレイス王国での式は盛大に行われた。
オサムはつかの間の”本当の人生”を楽しんだ。
従者であるクイード達8人もインペリアルセイヴァーとなり、以前と同様に楽しんでいた。
歴史はオサムの行動により少しは変わったが、それぞれの伴侶は以前と同じだった。
楽しい日々はすぐに過ぎる。過去の記憶からオサムは知っていたが、敢えて前回同様に振る舞った。
オサムとリムルは年を取らない。死ぬこともない。
リムルやロレーヌとの間に息子や娘達も出来た。
リムルとの間に産まれた子供は神となるのかと考えていたが長子のスウェンを始め全ての子供達は”Gods”ではなかった。
オサムはグレイス帝国を中心とする各王国から移民を募り他の大陸の開発も行った。
徐々に世界は出来上がり、戦のない世界で人々は幸福に暮らした。
オサムとリムルはその衰えない若さと力により神聖視され、グレイス帝国は世界の中心となっていった。
オサムの息子や娘、孫達は各国の第一王位継承者と次々に結ばれていった。
この結果、全ての王国はグレイス帝国に属するようになり、オサムは「星帝」と呼ばれるようになった。
グレイス王国はオサムが王位に付いたままだったが
グレイス帝国を分割して作った各王国やロムドール大陸にある国家はグレイス王国に属する20の王国に整理され直系の子孫達に受け継がれていった。
他の大陸にも国家が出来上がり、世界には50程の王国が出来ていた。
各国国内の人々による対立を防ぐため、移住初期から人種や民族の人数を同等に配分し、人種や民族と言う意識を無くさせた。
これはオサムの居た世界の国々が民族や人種による紛争を絶やせなかったからである。
そして重要な宗教だが、元々この世界の人々はほぼ全てが単一の多神教を信じていたためにそのままとした。
オサムやリムルも神ではあるが、その神々の地上の代表者として崇められた。
知る限りの全ての対立の根源を無くし、グランパープル聖国とグレイス聖王国を頂点とした各国家を作った。
両聖国の君主は死ぬことも老いることも無く、この世界の調和と安定の中心となった。
オサムは各地のダンジョンに神の力で封印を施しその周囲に何重にも壁を作り誰も入れぬようにした。
これにより危険なモンスターは殆どが排除され、地上に出没するモンスターは見かけなくなり安全が確保されることとなった。
今後の事を考えて全てのダンジョンを封印することはせずにオサムが管理出来るだけのダンジョンがグレイス聖王国内にだけ少数残された。
剣士や魔法士は自由にこれらのダンジョンへ入ることを許されたが、少数の冒険者達だけが使うのみであり、これより先は世界から強力な戦闘力を持つ騎士や魔導士はほとんど居なくなっていった。
代わりにオサムは元の世界に近づけるように普通の人々を増やすことにした。
そして1000年が過ぎ・・・
文明はオサムの元々居た世界を遥かに超え、魔法の力により世界は維持された。
1000歳を超えるオサムとリムルは相変わらず若いままに世界に君臨した。
全てを超越した二人は穏やかに自分達の作った世界を眺め続けることになる。
もう終わりは来ない。二人は永遠を過ごすことを笑顔で見つめていた。
神の世界へ旅立つまでのオサムとリムルにとってはほんの短い時間の間だけを。




