17話 最強の騎士エリトール
「伯爵閣下、結果だけ申し上げます。100階層まで3時間程度。聖騎士様に間違いありません」
クリューズが伯爵に報告した。
その報告に対し伯爵の言葉は
「聖騎士か、ロードナイトやドラグーンでさえ世界を探しても居るかどうかだが」
「守護者様から託されたとなれば無碍には出来んな、エリトールを継がそう」だった。
「陛下にも報告せねばならぬか、いや、守護者様の真意が見えぬな」伯爵は考え込んだ。
次の日、オサムは伯爵に呼び出され、大広間に連れてゆかれてエリトール騎士領を与えられた。
これによりオサムはアキバ・オサム・エリトール。以前と同様筆頭騎士の座を得た。
屋敷も城の敷地に作って住むとのことだった。
その間は城の客間がオサムの部屋となった。
その夜、エリトールのための食事会が開かれた。
全てがオサムの意志を無視して行われるため、オサムは少々混乱していた。
食事会が終わり、窮屈な服を脱ごうとした時に部屋に女性が居るのが見えた。
「えーと、あれ?見覚えがあるような・・・君は誰?」オサムが尋ねると
「侍女のリムル・シャッセと申します、エリトール様の専属侍女ですので何なりとお申し付け下さい」
オサムは何か頭に靄がかかったような状態だったが
「うん、リムル・シャッセさんか、リムルって呼べばいいのかな?」
何故かそう呼ぶのが正しい気がした。
「はい、エリトール様。着替えのお手伝いを致しましょうか?」と言われて。
「うん、頼むよリムル」と自然に口に出てきた。
どうもおかしい。オサムは考えていた。
そう言えばこの世界のことを思い出すとかなんとか言ってたな?
しかしまだぼんやりとも思い出せない。体が覚えているだけのようだ。
封印した記憶とはどんなもんなのだったのだろうか?
少なくとも持ち物を見る限りかなりの人物であったのには間違いない。
恐らく自分が「以前」居た場所がここなのだろう。
リムル・シャッセと言う侍女を見た時には何故か心臓が高鳴った。
100パーセント自分の好みであることは間違いないが、恋とはまた違う。
単純に考えて自分が3次元の女性に恋をする訳がない。
それがたとえ、異世界のメイドであったとしても。
もっと他の大切な、そういう存在に思えたが、まだわからない。
広い部屋が与えられ、食事等の心配もいらない上に自動的に領地から収入が入る。
超高級ニート待遇である。しかし何かはしなければならないだろう。
自分が何をすべきか、それを考えるだけだ。
オサムは伯爵から新しい服も数着与えられた。城下へ出る時に着る貴族のような服だ。
しかしあまり気に入らなかったので、その日は服を買いに城下を回って見ることにした。
伯爵領の中心都市であるこの街はそれほど広くない。
住民数は5万人を超えるが、住居密度が高く城塞の直径は1.5キロ程度だろう、皇居より少し広いくらいか。
考えている間にリムルが朝食を運んできた。
「おはよう、リムル」そういうのが当たり前のようになっていた。
「おはようございます、エリトール様」
リムルは持ってきた食事をテーブルに並べ、ワゴンを下げて、扉近くに立っていた。
オサムはそれを食べながら「リムルは城下に詳しいのかな?」と尋ねた。
「はい、5歳から13歳まで城下で育ちましたので」リムルは答えた。
オサムは少し考えて
「じゃあ今日ちょっと城下を案内してもらえるかな?用があるなら一人で行くけど」
「街のどこからでも城が見えるから帰り道に迷うことは無いとは思う」
リムルに言うと
「いえ、ご一緒させていただきます。専属の侍女ですので、エリトール様に付き従うのがお役目です」と答えた。
オサムとリムルはまず換金所へ向かった。
「金貨を10万枚、銀貨を100万枚残して全部預けたい。」
そう言って金貨と銀貨のポーチを開いて渡した。
その時に「銀貨何十億枚もあるかもしれないけど絶対枚数のこと言わないでね、驚きもしないで、頼んだよ?結果だけ教えて」
そう受付の女性に頼んだ。
暫くして女性がゆっくり近づいてきて
「エリトール様、金貨が1億枚程、銀貨が30億枚ほどでした」
「金貨10万枚と銀貨100万枚はこのポーチに残しています」
そう言ってオサムが渡したポーチを差し出した
オサムは「そうですか、ありがとうございます」とポーチを受け取った。
『やはりあの話は本当だったんだ、てことは青銅貨も30億枚か、多すぎるし両替出来るのかな?』
オサムは考えて「両替とか出来る場所は無い?青銅貨や黄銅貨、白銅貨も預けたいんだけど」
受付の女性に言うと「白銅貨はわかりませんが、青銅貨や黄銅貨の両替はあちらの受付カウンターで行っています」
そう言われたので指示されたカウンターに向かった。
「すいません、両替をお願いして銀貨として預けたいんですが?」
オサムが青銅貨と黄銅貸、白銅貨のポーチを出した。
「全部100万枚残して銀貨に替えてもらえますか?」カウンターに置いた。
「で、枚数のことで驚かないように、結果だけ教えてくれると良いから」
同じように受付の女性に言った。
暫くすると女性は帰ってきて
「銀貨で1億8000万枚程になりました。エリトール様の口座に入れておきました。
しかしこの白銅貨というものは現在流通している貨幣では無いので両替が出来ません」
白銅貨は銅とニッケルが主になっている合金だ。やはりこの世界にはニッケルという金属は精錬されていないのだろう。
『銀貨1枚の価値がわからないな、青銅貨100枚で銀貨1枚だったか?ということは黄銅貨20枚で銀貨1枚か』
オサムは「そっか、じゃあ残りは持って帰るよ」目の前のポーチを受け取りバッグに入れた。
『金貨1億枚に銀貨30億枚以上か、俺って何者だったんだろう?』
少しだけ考えたが、リムルが待っていることを思い出した。
二人は換金所を出て鍛冶屋へ向かった。
鍛冶屋に着くと「すみません、どなたか居ますか?作って欲しいんですが」
すぐに奥から鍛冶師が出てきた。
「えーと、街の中を持って歩けるレイピアを1本作って欲しいんです、出来るだけ丈夫な物を」
オサムが言うと、鍛冶師が「丈夫なものですか、レアアイテムなどはお持ちで?」
そう訊いてきたので、オサムは「何が使えるのかわからないけど」
と言いつつバッグから大量のアイテムを出し続けた。
その中にはシルバードラゴンやゴールドドラゴンの鱗や角、牙を始め様々な物が有った。
鍛冶師は「ちょ、ちょっとお待ち下さい、奥の方へお願いします」とアイテムを革袋に入れてオサムを連れて行った。
「全体的にこのシルバーとゴールドドラゴンの鱗や角で作れますが・・・」
言葉を止めて「何故こんなとんでもない代物を沢山お持ちで?」と驚いていた。
オサムは「それがよくわからない、ドラゴンは倒したけど元からバッグに入ってたものがかなり多いね」
そう説明した。
鍛冶師は「分かりました」と言って素材を分けだした。
「これだけあればかなりの物が作れます、ただ使いこなせるかと言うとわかりませんが・・・」
「とにかく作ってみます」と言うので、オサムは「あ、ちょっと紙と書くものあるかな?」と言った。
鍛冶師は「ありますが、何をなさるつもりで?」そう訊かれたので
「ちょっと変わったデザインにしたい、今から描くよ」と出された紙に書いていった。
「ほう、これはレイピアにしては変わってますね、サーベルの要素も入ってますな?」
鍛冶師はじっとデザイン画を見て「分かりました、1ヶ月下さい、素材が硬いので時間がかかります」
そう答えて「それで、工賃ですが銀貨500枚程頂けますか?ずっとこれに打ち込まんとならんので。あとこのミノタウロスの鎚を2本お借りします」
しかしオサムは
「工具が必要ならなんでも使ってくれてかまわないんだけど、他にも何か要るなら今とっといて?これからも頼むだろうしあげるよ」
そうするとビーツは
「ではこの鎚と金床、細かい細工にミラージュシャドウの刀身と研ぎにユースプリズムの粉を。
しかしどえらい物ばかりですな、頂くわけにはいきませんのでお借りすると言うことで」
そう言って感心していた。
オサムはポーチを取り出し銀貨をジャラジャラと出しながら数えていった。
「500枚あるかな?」二人で確認して渡した。
「じゃあよろしく頼みます。」そう言い、不要な素材をバッグに詰めていった。
その時鍛冶師が
「それはマジックバッグですな、先程のポーチもですがかなり上等な造りかと。一度クライアンにも会ってみてはどうですかね?」
「ここをお城の方に戻っていって、右に行くとマジックアイテムの店がありますんで」
「鍛冶屋のビーツの紹介って言えばすぐ会えます」
オサムにはよくわからなかったが行ってみることにした。
「ここかな?魔法物品店?」ドアを開けてリムルと入った。
丁度人が居たので「クライアンという人に会いたいのだけど、鍛冶屋のビーツという方に紹介されました」
オサムがそう言うと「ビーツの紹介ですか?マジックアイテムの作成ですね」
恐らくこの人物がクライアンなのだろう。
「えーと、よくわからないんだけど」とバッグを外してカウンターに置いた。
「この中に素材があるので何か作ってもらえるかな?」とオサムが頼んだ。
クライアンというマジックアイテム店の店主はバッグを開けようとしたが開かない。
「これは、持ち主の方じゃないと開けられませんね、革や素材もかなり特殊なものを使ってますし、誰の作品ですか?よく出来ています」
店主の話によると、 ベルト部分はハミアンとナーガ、ヒュージワイバーンの革にドラゴンスパイダーの織物で強化されているらしい。
バッグ本体もそれらに加えて知らない材料が使われているということだった。
オサムはバッグを開けて「このカウンターには乗り切らないんだけど、広い場所ありますか?」と訊き、奥の工房へ通された。
バッグを開けてある程度の素材を出して、ちょっとした小山を複数作った。
「これは」とクライアンが言ったきり黙り込んだ。
オサムは「何か問題がありますか?使えないなら持って帰りますが」と言うと
「いえいえ、出来れば全て置いていって頂きたいです。相当な物が色々と作れます」
そう言われたので「では預けますね、まだバッグには沢山入ってますが。出来上がったものはどうしましょうか?」
と言って工房に出せる分のアイテムだけでもとてつもない量になった。出せない分はクライアンの持つバッグに移した。
クライアンは最初以上に驚いていたがオサムにはよくわからない。多分レアアイテムが多いんだろうな、と思っただけだった。
クライアンは「出来上がったものがある程度溜まればご連絡します、お名前をうかがっても?」
と言われて「アキバ・オサムです。あ、今はエリトールだったかな?」首を傾げた。
「エリトール様でしたか、では使いの者に連絡させますので暫くの間お待ち下さい」
クライアンはそう言って素材を確認していた。
「何を作るかはお任せいただいても?」と言われたので「はい、お願いします」と答えた。
マジックバッグに入れると重量は感じないのだが、雑多に物が入っていると少し困る。
これで金貨や銀貨等のポーチ以外には何も無くなった。
オサムは「次は服屋に行きたいんだけど、リムルの服も買っておく?」
そういうのが当然の様に口をついて出た。
リムルが「はい?私の服ですか?」と訊いてきたので
「うん、何故かそうしないといけないように思えたから。なんなんだろうね?」オサムが答えた。
「そんな、私はエリトール様の侍女ですので。それに伯爵様からも頂いておりますし」
困惑したかのようにリムルが言うと
「これは秘密なんだけど、今金貨10万枚と銀貨100万枚あるんだ、内緒だよ?」
驚いたリムルの口を塞いだ。
「驚かないで、俺もわけがわからないから」
「ただリムルには色々としてあげたいって何故か思うんだ。だからプレゼントさせて?」
オサムは自分の服を10着と「そんなに、要りません」と言うリムルの服30着を買った。
置いておく場所が無いと言うのでオサムの部屋のクローゼットを使うことにした。
「夕食までの間に伯爵様に頼んでくるよ」と言って自分の部屋を出た。
「侍女に服を?それで本題はなんだ?」伯爵に尋ねられて
「出来れば俺の使ってない部屋に居てもらいたいんですが、ダメでしょうか?」
オサムは何故かリムルと居たかった。
「あの子とは何故かわかりませんがずっと一緒に居たいと思ってしまうんです」
「そうなのか?では直接雇うか、エリトールの侍女として」伯爵が言うと
「良いんですか?そうすれば部屋に居てもらえますか?」オサムは喜んだ。
伯爵は
「城の侍女ではなくなるからな、空いている部屋を使わせれば良い」
「お前は何故か不思議な事を言うな、まぁグランパープルから預かっているので好きにせよ」
そして何やら書類を出してさらさらと書き「ここにサインをしろ」と言われた。
「えーと、文字ですか?ここに」とオサムは迷ったが、何故か簡単に書けた。
「あれ?文字がわかる。これは契約書ですね?」不思議に思ったが記憶と関係しているのだろう。
伯爵が「これであの侍女はお前が雇うことになる。屋敷が出来れば一緒に移れ」
そう言われてオサムは嬉しげに部屋へ帰った。
そこにはリムルが居り、書類を見せた。
「エリトール様の侍女になったのですか?でもどうすれば?」とリムルが言うので
「奥の部屋のベッドルームで寝起きすることになるらしいよ?いいよね?」
オサムは楽しかった。理由は分からないがリムルと居たかった。
そのまま夕食前に侍女の部屋へ行き、リムルの荷物を自分の部屋に一緒に持ってきた。
「これでずっと一緒だね?嫌かな?」オサムは不安になったがその必要は無かった。
「こんなきれいなお部屋をいただけるのですか?よろしいのでしょうか」
そういうリムルに「使ってない部屋だから、自由に使ってね」と言うと
「分かりました、ご主人様。ありがとうございます」
とりあえず自分の荷物を奥のベッドルームに運んだ。
侍女とはこれほど持ち物が少ないのか、と思わせる量だったが、クローゼットに収まる。
リムルのために買った服もその部屋のクローゼットに移した。
そしてオサムのクローゼットの空いた場所に甲冑と剣を押し込んだ。
それにしてもこんなに重い装備で何故あんなに早く動けるのだろうか?跳躍すると30mは飛び上がることが出来る。
それはそうと、朝食も夕食もリビングで二人で食べることにした。オサムは理解の出来ない幸せを感じていた。
オサムの食事とリムルの食事は当然だが違う。騎士と侍女の違いらしい。
それが気に入らなかったため、伯爵に銀貨10万枚を渡して同じ食事にしてもらった。
屋敷の代金と部屋代、食事代としてだが、伯爵の領地から年間に入る税の1割にもならないとのことだった。
一旦は断られたが強引に渡した。ダンジョンで稼いだ銀貨であり、数十億枚を持つオサムには痛くも痒くもない。
結局、屋敷の調度品や他にも必要なものを購入しておいて貰うという落とし所で収まった。
毎日何もやることがない。オサムは伯爵に頼んで本を取り寄せてもらった。
また銀貨10万枚、例の塔で40万枚貰えたから伯爵は驚いては居なかった。
各国の本をありったけ取り寄せてくれ、オサムの書斎はちょっとした図書館になっていた。
魔法書も含め殆どの書物が揃っているだろう。
国によって文字も言語も違うのだが、オサムは全てを読むことが出来た。
「文字は読める、言葉も通じる、モンスターとの対戦も体が勝手に動く、でも記憶はない。一種の記憶喪失だな」
確かそんな症状だったはずだ。はたしてこのまま暮らしていたところで戻るのだろうか?
だがオサムはのんびりと構えていた。この世界は元の世界ほど慌ただしくない。
というよりもやることが殆ど無いのである。貴族の暮らしとはこういうもんなのか、と勝手に納得して読書を続けていた。
そしてオサムは問題を抱えていた。風呂がない。トイレもひどい作りだ。
オサムはクライアンに防水のマジックボトルを数多く注文していた。
マジックバッグに入っていた膨大な量のヴァレスの革や滅多に手に入らないというレアアイテムを駆使して作らせた。
プール数百杯以上。恐らく湖がまるごと入るボトルで、暇を見つけてはペガサスに乗って湧き水の出る場所に置いておき蓄えていた。
マジックバッグの中は次元が違うと言う事で時間が極めてゆっくりと流れるために食べ物も飲み物も痛む事は無いらしい。
膨大な量の清水をオサムは蓄えていた。湖でも試したが、どんどん入ってしまい湖が空になりそうになったため中止した。
水はいくら有っても有りすぎることは無いため、各地の水源で無理のない量をずっと蓄えて続けていた。
現在ある水だけでもこの大陸最大の湖数個分になる。それでもオサムは水を蓄え続けた。
屋敷がもうすぐ出来上がる、と言う段階でオサムは風呂と水洗トイレを作らせた。
設計はオサムが行い、石工が風呂を作りビーツが湯沸かし装置を作った。
しかし、流石にトイレの方は排水が大掛かりな工事となった。
城の方からも水は引いてきていたが量に限りがあるため殆ど使わないことにした。マジックボトルの水があれば十分である。
これらで若干工期が伸びたため、自分のポケットマネーから銀貨300枚を追加で支払った。
屋敷が出来上がり、従者3人とリムルを含め侍女が2人、執事と召使いが6人
それらが屋敷に移ってきた。
早速オサムは風呂へ入りゆったりと出来た。従者3名と入ると気に入ったらしい。
湯を使った風呂はかなり評判が良く、また、屋敷には水浴びの場所は無いため自由に使えと言う事で召使い達も夕食後に使うようになっていた。
10人程度なら一度に入れる大きさに作っているため、問題はない。
「これはご主人様が考えて作られたとか?」
クイード・ローレンダーク
タキトス・シュルツ
ハンビィ・ストワード
この3名が従者なのだが、不思議とオサムは最初から知っているかのように思えていた。
「そうだね、俺はこれがないと疲れが取れないから」そう言って体を洗っていた。
オサムが自分の体を自ら洗っていると聞いて、リムルもオサムと一緒に入るようになった。
「ありがとう、助かるよ、リムル。背中に手が届かなくてね。ブラシがあると良いんだけど」
「けど裸で恥ずかしくない?無理しなくてもいいよ?」オサムが言うと
「ご主人様の侍女ですから、少し恥ずかしいですけど」リムルは笑った。
オサムの設計した様々な物はうまく機能していた。
もちろんビーツやクライアンの腕の結果だが。
そして、ビーツに頼んだレイピアが出来上がった。仕上がりは完璧だ。
出来上がった剣はロードナイトやドラグーンの80レベルの物だったため、ビーツは困ったようだったがオサムが自由に扱えるところを見せると驚いていた。
クライアンからも色々とマジックアイテムが届く。
オサムはそれらを試しては気に入った物を使っていた。
しかしやることと言えば月に数回の城での夕食会くらいで日がな一日本を読んでいた。
時々街に出かけては買い物をして帰る。そして様々なダンジョンにも入るようになっていた。
危険だと言われているダンジョンも簡単に攻略出来る。殆ど無敵だった。
他にはビーツに従者用の甲冑や剣を作らせて冒険に行かせている。
オサムはかなり暇を持て余していた。この世界での記憶が戻る様子もない。切っ掛けがわからない。
様子を見とくか、その内色んな国を見て回ろう。と考えていた。
時々暇つぶしにアレシャルの塔に行っては数回クリアして帰ってくる。
その内ペガサスの笛やグレートドラゴンの笛を幾つか手に入れた。
クライアンに鑑定してもらったが、預けているアイテムの中にはかなりの数の笛が有るということだった。
ただし、専用で使う笛を選んでそれだけを使うようにとクライアンに言われた。
別の笛を使うと別のモンスターを召喚してしまうらしい。
例えばペガサスに付けた鞍等は別の笛のペガサスには付いていない。当たり前と言えば当たり前だが呼べる召喚獣の種類は同じだが個体が違う。
リーファが一番乗りやすいのだが、聖獣であり、言葉も理解するため気を遣ってしまうのでペガサスかグリフォンに乗ることにした。
この世界で最強のモンスターはグレートドラゴンだと教えられていたが大きすぎる。
オサムにとっては弱い相手なのだが広い場所が必要で使いにくい上に皆が驚いてしまうだろうという事で主にペガサスやグリフォンを使った。
そして更に遠い場所まで乗って行き、更に多くのダンジョンをクリアした。
ダンジョン毎に出てくるモンスターが違うため、暇つぶしには丁度良い。
夜は屋敷に帰るので半日で戻れる場所、とは言ってもほぼ全てのダンジョンに行ける。
オサムはドラゴンやナイトメア、ヴァルキリーやガルダの出るダンジョンも2時間も掛けず出てこられる。
メラススの塔と言う200層もあるダンジョンでも5時間も掛からない。
オサムの手持ちの銀貨やレアアイテムは増える一方だった。
ヴァレスというモンスターの革を特に多く集めた。マジックバッグの材料なので、狩り尽くす勢いで倒した。
ヴァレスの晶石20個以上をグレートドラゴンの階層に転がし、リジェネレートさせては狩っていた。
従者達のレベルに合わせて装備も作り続けさせた。彼等もオサムの期待を感じてオサム以上に戦い続けていた。
オサムの作らせる武器や防具は通常のそれと違い相当な魔力を帯びていると言う。そのためか従者達はかなり早くレベルアップしているようだ。
オサムはその頃になると、すべての本を読んでしまっていた。1日数冊読んでしまう。
「もっと便利にするために元の世界の専門書がほしいな」
読み終わった本をまた読みながら考えていた。
自分がこんなに勉強家だとは思っていなかったが、知識を得るのは楽しい行為だった。
どうしても自分が居た世界の技術を知りたい、何かに使えるかもしれない。
そう考えオサムはグランパープルに飛んだ。元の世界の情報を知る方法があるかもしれない。
オサムは守護者に元の世界に少しの間だけでも戻る事はできないのか、と問うた。
今のオサムなら可能だという。
エンフォーセとオサムの力で一時的にだが帰れるらしい。
神としての力を使うことでかなりの体力を消耗するとのことだが。
全てを見透かされているようで気分が悪かったが可能ならやるべきである。
早速オサムは元の世界で着ていても問題の無さそうな服や靴を作らせた。
そしてグランパープルの”次元の聖殿”という場所から以前の自分の世界へと戻った。
3日と居ることが出来ないということなので、急いで本を買い集めた。
それを繰り返し、元の世界の専門書を何千冊と買った。
不思議なことに毎回戻るごとに同じ日の同じ時間に戻る。
飛行機に乗る約1ヶ月前だった。
これは都合が良い。貯金が無くなることがないからだ。
これを繰り返し行うとかなりの専門書や書籍が手に入る。しかし元の世界ではマジックバッグはただのバッグになってしまう。
オサムは大型のトランクを書い、それで本を持って帰ることにした。
何度も繰り返して元の世界に行くのだが、感覚的には”行って帰ってくる”というものだ。オサムにとっては異世界の方が本当の世界の様に感じていた。
書籍保管用にクライアンに作らせた大型のマジックバッグには1万冊に近い書籍が入っていた。
オサムは屋敷2階の客間の1つを改装し、据え付けで本棚を作らせた。
新しい書籍が手に入ると、まず全てを読んでしまう。毎日が読書だった。
冒険は当然楽しいが、強敵と呼べるものが居ないので必然的にダンジョンに行くよりも読書に使う時間が多くなる。
この結果、戦闘力だけではなく知識も世界で一番になっていった。
暇潰しでの読書だったが、この世界にも応用出来ることを多く知ることになった。
特に近世の蒸気機関等の科学技術は魔法を使えば簡単に再現出来るだろう。
電子機器どころか真空管さえ作ることは憚られるが、可能かと言われれば可能かもしれない。
ただ、機械で再現するよりも魔法を使ったほうが便利なものも多いため、建築や建造、土木や化学、金属精錬の技術以外は詳しく読まなかった。
魔法は見せてもらったが、剣士には使えないと聞いた。しかし便利なものである。
大地魔法、氷水魔法、風雷魔法、火炎魔法、神聖魔法の5種で、ありがちな暗黒魔法はないらしい。
いずれ魔法書を研究して極めるつもりだ。神ならどんな魔法でも使えるはずである。
既にある程度の魔法は使えることを確かめている。剣にまとわせて使うと威力が数倍に上がる。
ある日、城が騒がしいので外を見ると騎士や剣士がかなりの数集まっていた。
話を聞くと、どうやら戦争があるらしい。
戦の話は極力聞きたくなかったが総大将のクリューズに尋ねると、隣の伯爵領が襲われたということだった。
村を3つ滅ぼして、女性も酷い目に遭わされたという。
オサムはリムルの話を思い出した。
平和に暮らしていた村が突然襲われ両親を殺された。隣国グリオン王国が伯爵の領地にあった村を責め滅ぼしたらしい。
何故農民や庶民を殺す必要が有るのかオサムには理解出来なかったが、奪い取った領土に自分の国の農奴を移住させるためだという。
この世界では当たり前のことらしいが、オサムには違う。決して許せない行いだ。
オサムは戦に参加することにした。
クリューズはオサムの力を知っているため悩んだようだが「頼めるのなら」と承知した。
今行軍中の敵部隊を全滅させるか追い払うのだと言う。
そして騎士達は出発した。
オサムはペガサスで行くことにしたので部屋に戻り黒い甲冑と剣を装備して飛んだ。
先行しているクリューズ達を追い抜き30分もかからず現地に到着した。
そこに居た騎士達は突然の漆黒の騎士の出現に慌てて臨戦態勢を取ったが、剣は抜かず兜を取り、その騎士団に事情を話した。
すると伯爵本人が来ていると言われ、今回の事情を説明すると、是非にと言う事で戦いに参加することとなった。
まだ敵は到着していないが、真っ直ぐにこちらを目指していると言う。
この地で待ち受けることにした。
敵が現れ出し陣形を組むのを遠くの丘の上から見ていた。オサムにとっては陣形など意味はない。
オサムは伯爵に説明していた通り、ナイトメアに乗り換えて単騎で駆け出した。
「何故罪もない村人を殺した!」敵の兵士にも家族はいるだろう、しかし兵とは死の覚悟を決めた者達だ。
遠慮はしない、放って置けばまた同じようなことをするんだろう。オサムは全滅させることにした。
敵の正面50mの位置から「フレイムスパーク!」縦一線の豪火の剣撃「セイヴァースラッシュ!」横一閃の風の剣撃。
真空の刃と凄まじい炎が敵軍を斬り倒し、焼き尽くした。たった2回の攻撃で敵は一人残らず全滅した。
オサムは陣地に戻り伯爵に「この後クリューズという者が来るので」と言うとすぐに帰っていった。
戦いぶりを見ていた全員が言葉を失っていたが、クリューズに任せることにした。
数日の間、本を読みながらオサムは考えていた。
罪のない村を襲った軍と自分が殺した兵達。結果だけを見ると自分のほうがより多く殺している。
日本で生まれ育ったオサムだが、ニュースやネットで戦争の悲惨さは知っていた。
しかし自分が巻き込まれるとは考えていなかった。
不思議なことに自分で考えていたよりも心理的ダメージが小さいのだ、これも過去の記憶と関係するのかもしれない。
オサムは「孫氏」を手に取ってパラパラとめくっていった。
”兵は拙速を聞くも、いまだ巧久を賭ざるなり”
これが全てに当てはまるわけではないが、伯爵の兵の損耗は一兵も無かった。
それで良しとしておくことにした。しかし敵兵の事を考えると心には若干の傷として残るだろう。
10日程してクリューズが帰ってきた。そしてオサムの屋敷を訪ねた。
ただ往復しただけになってしまったが、たった数秒で1000以上の敵兵を屠った事で何かを訊かれたのだろう。
「エリトール様、一撃で敵軍を全滅させたとか?伯爵や騎士達が恐れていました」
「あまり力を使い過ぎぬようお願いします。説明に苦慮しました、聖騎士とは言えませんので」
クリューズはやんわりと説教をしたが
「そうですよね、やりすぎたとは思います」オサムが言うと
「おわかり下さっていただければ良いのです。それと、伯爵が礼をしたいと言われてました」
『礼か、銀貨はたくさん持ってるし正直要らないけど、断るのも失礼だし』オサムは考え
「そうですか、わかりました」とだけ答えた。
そしてクリューズは帰っていった。
オサムはリムルと共に朝食をとり、最近ずっと行っているダンジョンに向かった。
メラススの塔。恐らくこの世界で最強なのだろう。アレシャルの塔には居ないモンスターも出る。
特に急いだわけではないが6時間で2回クリアした。
オサムはヴァレスの革とその他のレアアイテムで作ったグランパープルの革袋を大小2つ付けていた。
勿論以前持っていたバッグも身につけている。
大きいものがいっぱいになると換金をし、レアアイテムはクライアンとビーツに届ける。
パーティーですら倒すことの出来ない敵を簡単に倒す漆黒の甲冑と剣を持つ者。
騎士には絶対に不可能な魔法を使った剣撃を操る者。
攻略不可能と言われている塔を簡単に倒しきり、莫大な銀貨を手にする姿。
その内”黒騎士”の噂が広まった。
冒険者は決まった国に所属しておらず、自由に国を巡れるが、オサムは違った。
伯爵から騎士位を貰っているためライツェン国に属しているはずだ。
しかし、グリーシア帝国皇帝は寛大な方なのだろう。領内のダンジョンは自由にしても良いらしい。
一度、塔の中でオサムを待っていたグリーシアの騎士に言われたのだった。
これが各国に伝わったのか、他国の殆ども同じような扱いをしてくれた。
ライツェンの騎士ではあるが一介の冒険者と考えてくれているようだ。
いつものようにメラススの塔に昼前に到着した時、10騎の騎士が集まっていた。
オサムがグリフォンで降りるとこちらに向かってくる。
剣は抜いてない、槍も持っていない。
なんだろう?と短剣だけに手をかけていた。
「貴方が黒騎士のアキバ・オサム・エリトールでしょうか?」騎士が尋ねてきた。
「黒騎士とは名乗っていませんが、そうです。何か御用ですか?」オサムが訊き返すと
「皇帝陛下より命を受けて待っておりました、帝都に行っていただけないでしょうか?」
どうやらグリーシア帝国の皇帝がオサムに用があるらしいが、思案した。
「陛下に謁見でしょうか?しかし何故?この武装のままでも良いのですか?必要ならそれなりの服に着替えてきますが?」
オサムが確かめると「はい、甲冑のままでかまいません。剣もそのままで、と言われております」
不思議に思ったが、塔の件で礼を言わなければならない。
「分かりました」と言ってオサムはグリフォンでグリーシア帝都に向かった。
帝都の外に到着し、門番に「ライツェン国のエリトールというものですが」そう言うとすぐに
「陛下がお待ちです。これを渡すように言われています」
門番に書類を手渡された。
どうやら全て準備されているようだ。
そのままずっと街並みを見ながら城へと歩いていった。あまりにも広いので歩くと相当時間が掛かるが伯爵の街よりも大きく見ているだけで楽しい。
「かなり広いな、城も相当大きい」オサムは良く整えられた街を観光気分で見物していた。
城に到着し、書類を見せると2名の騎士に城へ案内された。
やはり城は中も広い。しかも入り組んでいるので迷うに違いないとオサムは思った。
皇帝は豪華な部屋で待っていた。
オサムが通されると、じっとオサムを見て
「その剣を扱うことが出来ますのか?聞くところによるとそれは聖騎士のものだとか」挨拶もしないで尋ねてきた
「はい、話というのはそのことだけですか?」オサムは次に何を訊かれるのか予想出来ない。
皇帝は「その剣を見せてもらえますか」と訊いてきたが、何故丁寧な言葉を使うのかをオサムは考えていた。
とりあえず腰と背中の剣を外して「机の上に置いてよろしいですか?」と2本共置いた。
「剣をご覧になるために呼ばれたのですか?」オサムが不思議に思って尋ねると
「そうではありませんが、インペリアルセイヴァーレベル500の剣・・・持ち上げることも出来ませぬな」
黙ってしまったが、ただ考え込んでるだけのようだ。
しばらく無言が続いた後
「国を渡すので私の臣下になるつもりはありませぬか?」皇帝が聞いてきた。
オサムは少し混乱したが、引き抜きか?と考え
「申し訳有りませんが主はもう居りますので」そう答えた。
しかし皇帝は引かなかった。
「帝国の一番西の地に隣国グリオンとレギオーラが攻めてくるので民達が苦しんでおりまして、どちらも強国ですが」
「聖騎士であられるエリトール様が城主として治めてくれればそれも無くなると考えておるのですが」
明らかにオサムの気になることを突いてくる。聖騎士と言われたが剣を見て確信したらしい。
「正式な返答は出来ませんが、私の名を使うことで民衆が少しでも助かるのなら」
オサムに断る理由は無かったが、自分を騎士に取り立ててくれた恩人である伯爵に聞く必要が有る。
ただの伯爵家の騎士が大国グリーシアの王の一人になっても良いものだろうか?
「ただ、我が主に一度聞いてきてもよろしいでしょうか?その後正式に返答します」
オサムは一度伯爵の城へ戻り、伯爵を訪ねて今回の件を全て話した。
「グランパープル聖国から預かっているだけなので問題は無いだろう」
「我が国ライツェン国王陛下の家臣ではないしな。他国に領地を持つ王も居る」
そう言われたので、そのままグリーシア皇帝に伝えた。
「ただ、常駐出来るわけでは無いので領地経営が出来ません」オサムが言うと
「あの地は度々戦火に見舞われるため皇帝直轄領となっております、名前だけで良いのです」
「しかし実際に治めてもらっても構いません。聖騎士様の国となりますので」
グリーシア皇帝はオサムの住むライツェン国の半分程度の国をオサムに与えた。
形式上では無く実際にオサムの国ということで国名もオサムがつい口にしたグレイス王国とした。
グリーシア帝国の一部だったが独立し、固い同盟を結ぶこととなった。
グリーシア帝国のプロトン・グリーシア皇帝といえば勇猛な将であり名君でもある。
オサムの持つ力を十分に使い、レギオーラ、グリオン、エスカニア各王国に使者も送った。
聖騎士の力は一国の兵力を軽く凌ぐ。それを直接では無いとしても持っている。
小国のエスカニアはともかくレギオーラやグリオン、グリーシア帝国に隣接する3カ国は手出しができなくなった。
オサム自身は何もしなくてもその「銘」は畏怖され敬われる。
事実として国境での小競り合いすら無くなった。
オサムは国王としては何もしないが、多くの民や兵士の命を救ったことになる。
誰ともなくオサムのことを”剣聖”と呼ぶものが現れだしていた。
史上最強の騎士であり、今後も絶対に現れないであろう存在だ。
もしその銘を継げる者が居るとすれば剣聖の直系の息子であろう。だが未だそれは存在しない。
ただ、当の本人であるオサムは相変わらずのんびりと過ごすことにした。
この世界には興味があるが、かといってやるべきことは無い。やりたいことをやりたいだけ出来る、それでいい。
しかしこの世界にとってオサムの存在は巨大な変数である。カオス理論に基づけば世界を変えてしまう変数となり得るだろう。




