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終わったならまた始めればいいじゃないか-推敲Ver-  作者: 朝倉新五郎
第二章 国王と神
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11話 西グレイス帝国

 城に帰り着くとすぐにオサムはグリオン王の所へ飛び、ライツェン南の領地交換を申し出た。

 グリオン王は必要なだけの領土をグレイスに割譲することに同意した。


 オサムは謝意を示し、早速レギオーラとグリオン、ライツェンの新領地の整備を行いだした。

 城塞都市と道路網を中心に工事を進めた。


 古い砦や小さな城塞、森林だった場所に最新の大きな城塞都市を3箇所作ることとし、ライツェンまで舗装路をつなぐ。

 オサムの築く城塞都市は帝都に倣い、広大な敷地を持つ城と計画的に作られた街となるはずだ。

 城壁も城門も頑丈に作られ、100万人は住める都市が作られるだろう。


 これにはクイード達の領地も含まれたが、献上という形で皇帝であるオサムの持つ直轄領となった。

 「これで実質的にライツェンとの往来は安全だな。」オサムは少し考え

 各国に点在するグレイスに関わる領土を出来るだけまとめようと地図を見た。


 「ムルトワとレーラリア、デレル、ウィンディア、ジェイド、トムル、コスティカ、スロヴィア

 クイント、ゴータス、アスタ、スワン、サトルリア、カトル、ルマリア、ミスリル大公国・・・無理だな」

 オサムは諦めた。


 幸い他国にある領地の城塞はそれほど手をかけていない。

 手を引くか、いや、住民が居るしな。と考えて、結局放っておくことにした。

 出来上がっているものをむやみに壊さずとも良い。



 そしてまた大規模な戦が起きた。

 大陸西側、山脈の北にあるゴータス王国とアスタ王国が全面対決することになった。

 国力が拮抗するこの2つの国家は以前から敵対している。

 山脈の盆地にあるサイス王国とチャスコ王国、どちらも小国だが、その2国の王位継承権をめぐる戦だった。


 長年に渡る戦のため、ゴータスやアスタに領地を持つオサムやクイード、タキトス、ハンビィは困っていた。

 小さな領地に続々と人々が流れ込んでくるのだ。これ以上は迎え入れられない。

 職人や農民、孤児等様々だが、オサム達は彼等を本国に受け入れ続けた。


 クラウド達を残して4人はゴータスとアスタに飛んだ。

 様子を見ているだけだが、今回は以前までのような数千人単位ではなく十数万人の決戦のようだった。

 戦力は拮抗していると言えども、ゴータスの兵は精強である。

 アスタ王国は7カ国に囲まれており、全ての兵をゴータスとの戦には使えない。

 特に西側はクイント王国、スワン王国、サトルリア王国といういずれも強国に囲まれている。


 ゴータス王国との戦端が開かれた時、呼応するかのようにこの3国も兵を動かした。

 アスタ王国は4カ国と戦わねばならない状況に追い込まれたが、ゴータスが1番の強敵だ。

 じわじわと攻め込まれるアスタ王国の王はクイードやタキトスの領地へ応援要請を届けたが傍観するだけである。

 兵士と共に逃げ込もうとして来たため追い払った。ただし、最終的には助けるつもりである。

 国民を放置して自分だけが逃げることをオサムが許さなかっただけだ。


 アスタ王国は領土を削り取られ、じわじわと侵略された。

 グレイス帝国の各人が持つ領地に大量の難民が流入してきたため、オサムはゴータス王国及びアスタ王国へ行き


 「てめぇらの国なんかどうなろうが知ったこっちゃねえ、早く終わらせねぇなら両国ともぶっ潰すぞ」

 と脅した。


 結果、ゴータス王国はムルトワへの抑えとしていた約10万人を西側へ投入し、アスタ王国は善戦虚しく滅んだ。


 事前にオサムがグレイス皇帝として周辺国の王に会い

 「非戦闘員に被害が出るなら俺が王やお前達の兵を皆殺しにする」と伝えていたが、それでも被害は出た。

 難民の流入がその証拠である。民は苦しみ、やはり小さな村や町では兵の暴走は止まらなかった。


 ゴータスは勝利したが、ムルトワ王国軍により東側の領土を王都近くまで失った。

 ムルトワ王国は民衆には一切手出しせず抵抗する城塞都市は通り過ぎ王都へと兵を進めた。

 グレイスの、オサムの事を知っているため軍規を厳しくし、被害を出すことは無かった。


 戦争は半年以上続き、終わったときにはグレイス帝国に保護した難民は50万人を越えた。

 アスタ王国に攻め込んだ他の3国は若干の領土を得て引き返した。


 そしてオサムは今回の戦乱により民衆が苦しんだことに対しての怒りを伝えるために

 ゴータス王国、クイント王国、スワン王国、サトルリア王国がモンスターに襲われても放置する。

 と各国の王、兵士、民衆に告げた。

 各国国王はうろたえ、どうにか止めようとしたが無駄だった。

 オサムは今回の戦争で少なからず民衆に犠牲が出たことを知っていたため激怒していた。


 その結果ムルトワ王国が獲得した領土の城塞都市は全てムルトワ王国へ抵抗なく加わり、

 ゴータス王国からはムルトワ王国、サイス王国やチャスコ王国、ウィンディア王国へ民衆や兵の多くが逃げ出した。


 同じようにクイント王国やスワン王国、サトルリア王国からも多くの兵や民衆が周辺の国家やオサム達の領地へ逃げた。

 オサム達は逃げ延びる者達を自国や他国へ連れて行った。


 これによりゴータスやクイント、スワン、サトルリアの人口は激減していくことになった。


 そして、それに呼応するかのようにオサムが見捨てた4国の城塞都市や王都が次々とモンスターの大群に襲われた。

 しかし、オサムは8人に「放っておけ、自領と民衆だけ守れ」と言い、上空から監視をしているだけで戦わずに放っておいた。

 4国の比較的レベルの高い騎士や剣士は全滅したが、その後クイード達がモンスターを片付けた。

 

 「強いと言っても騎士やパラディンの50台だろ?剣士も50から70、まず無理だな」

 オサムはそう言って自分達に与えられた領地と城塞内の民衆だけを守った。


 4国は民に逃げられ、兵を失い、荒廃した。それでもオサムは放置した。

 各国の王はオサムの赦しを乞うために国中の宝物を送ってきたが、送り返した。

 グレイス帝国ではその程度の物は宝物ですら無い。


 さらに王達は直接帝都に来てグランチューナーとしての役割を伏して望んだがオサムは無視した。


 とうとうゴータス、クイント、スワン、サトルリアの4カ国はグレイス帝国に国を譲渡した。

 最初は属国という条件を出してきたがオサムは断り続け、その間にも続々と人口が減り続ける。

 もはや国家として成り立たない状態にまで追い込まれた時、王達は国を諦らめた。


 オサムは各王達に小さな子爵領と屋敷を与え、全て旧ゴータスのムルトワ国境に置いた。

 そして旧アスタ、ゴータス、クイント、スワン、サトルリアを手に入れた。


 激減した人口は4国がグレイス帝国領となった途端に増え始めた。

 オサムはまた領土内に道路網を張り巡らし、城塞都市を整理することにした。

 国境警護のための城塞や要塞は不要なので取り払い、地図を見ながら都市の場所を決め直す。


 土木工事や建造、建設工事のために大量の労働者が必要だったが、

 元の住民達や兵達が帰って来たため、労働者が足りなくなることはなかった。


 約3年でオサムの計画通りの領土に変わるだろう。


 クイードが

 「これで争いの続いていた大陸西方から戦はなくなりますね、陛下の思った通りです」

 そう言ったが

 「違う、これは民の事を考えて居るわけではなく恐怖に過ぎない。恐怖で行われた支配はいずれ瓦解する」


 「ともあれ、戦が無くなるのは良いことだ。戦で夫や息子、父を失う民も居なくなる」

 オサムはとりあえずの結果には満足していた。



 この件で各国の王達は恐怖した。

 グレイス帝国に攻められれば滅びる。それはわかっていたが、

 グレイス帝国に見放されただけでも国が滅びることを知った。


 民衆に少しでも被害が出ればグレイス帝国から見放される。

 戦争どころか小競り合いや増税すら出来ず、力を使うことを自ら封印し出した。


 全ては話し合いで片付けよう、ということになった。

 ライツェンとレギオーラは別格だった。ムルトワとレーラリアも分かっていた。

 その他の10カ国以上が態度を変えることになった。


 トムル王国やデレル王国などは属国の話を持ってきたが、レギオーラが間にあるためオサムは断った。

 実際には今回譲渡された国々に接している国もあるのだが、オサムは身勝手な事を許さない。

 「今のまま穏やかな国政を続ければモンスターから守る」と確約して安心させた。


 旧アスタ、ゴータス、クイント、スワン、サトルリアの地域を合わせるとグリーシア帝国に匹敵する。

 これらは西グレイス帝国としてまとめ上げ、オサムが皇帝となった。

 そしてオサムはまた8人に西グレイス帝国のダンジョン調査を命じた。

 大量に投入された資材と人材により旧5カ国の国土は様相を変えていった。

 しかしオサムの考える国にするには3年や5年はかかるだろう。


 数ヶ月掛けたゆっくりとした調査は終わり、地図に書き込み、今までのように詳細をノートに書きとどめた。

 ロレーヌがそろそろ出産する時期でもあった。

 そわそわと落ち着かないオサムを見てロレーヌは

 「陛下、焦っても早くは産まれませんよ」と笑ったが

 

 「毎回こうなる、自分でも抑えられないから良いよ」

 とロレーヌに言うと

 「ダンジョンや戦場では無敵の陛下でも焦ることがあるのですね」

 ロレーヌに笑われた。



 いよいよ出産という時になると、またオサムはグランパープルへ飛び、守護者と会った。

 名と贈り物を貰い、何か言われると思っていたが、先のゴータスとアスタ両王国の事は何も言われなかった。


 ロレーヌは今回も安産で男児を産んだ。

 名をもらった時には分かっていたが安堵した。

 ゼイノン・オルトール・グレイス、それが今回の子の名前だった。


 「4人の子持ちか、大家族だなぁ」オサムが言うと

 「各国の王達はもっと多いですよ?少なすぎるくらいです。リムル様と私だけでは限界があります」ロレーヌは答えたが


 「そんな多く要らないよ、けどまだ増えるだろうなぁ」オサムは子供達を見ながらそう言った。



 半年程してオサムは海の事を考えだした。

 南に広がる海の島々である。北から順に調査することにした


 念のため完全武装し、ジンを連れてグレートドラゴンで向かった。

 漁師の話では、海流が荒いため相当巨大で強力な船でなければ来ることは不可能だという。

 事実上今の造船技術では不可能ということらしい。


 砂漠が整備され流刑に向かなくなったため、新たな流刑地として使えるか確認した。

 砂漠の真ん中で岩塩や石油、貴金属の鉱床が見つかったため、流刑地は一番近い城塞都市から100キロメルトと大分近くなってしまった。

 レギオーラやグリーシアの南からずっと数十の島が点在する

 

 どうやら全ての島は無人だが生きて行くことには事欠かないだけの水や食料、動物が居る。

 オサムはこの島を流刑地にすることに決めた。

 他の島から遠く離れた孤島を2つ、砂漠よりは暮らしやすいがまず帰ってこれないだろう。


 南から北へ順に調査したが、人間の痕跡があるのはグリーシアから最も近い島だけのようだ。

 もっとも、その島はグリーシアからも見えるほど近くにあるため、漁民が使っているだけだった。


 「よし、一番離れている2つの島を少し開拓しようか。まずは城壁を石造りで作ろう」

 オサムはそう言って石の取れそうな場所で剣を振るい巨大な石を切り出していった。

 ジンも同じように切り出していった。

 2人のインペリアルセイヴァーがスキルを使い岩を斬ると簡単に大量の石材が確保出来た。


 「このくらいの石が1500もあれば大丈夫だろう」グレートドラゴンに運ばせた。


 小高い丘と周囲の樹木を斬り倒し材木を集めた上で地面を焼き払い、地面に穴を掘り巨大な石を建てていった。

 オサムの火炎魔法と大地魔法は強力で、地形を変えるのは難しくなかった。

 それをジンが見ながら「陛下の魔法はいつ見ても凄まじいですね、いつか言われましたが我々8人でも陛下には敵わないと思います」

 おそらく正しいだろう。オサムは事実上無敵だった。

 各国の脅威にはなっていないが、暗殺されそうになったこともない。

 勿論この世界には神聖魔法により毒殺は不可能なため料理の毒見役等は居ない。

 なによりも、オサムに恨みを持ったり害意を持つものがほとんど居ないのである。


 「こんなもんかな?あとは小さな岩をこの中に置いとこう」

 と建材になりそうな岩をその建造物の中に運び入れた。

 丸1日がかりの作業となったが、一つ目の島は完成した。

 通常の労働者達に任せればこれだけで1ヶ月以上は掛かっているだろう。

 その後フレイムナパームで完全に周囲を焼き払った。

 「これで人が住めるな」城壁の上に飛び乗り「うんうん」と頷き、ジンと一旦帰った。


 次の日にはもう一つの島、有期流刑者のための島だが、そこを同じように開発した。

 この島は比較的罪の軽い者達が使うので、前日の島よりも丁寧に作り、住みやすくした。

 1日島に泊まり、2日で仕上げて帰った。


 城に到着した時は夕暮れだった。

 「ジン、ご苦労。屋敷に戻ってゆったり過ごすと良いぞ」

 ジンを屋敷に帰し、オサムは城へ戻った。

 流石にもう城の中で迷うことはなかった。


 「順調順調」と言いながら剣や甲冑をクローゼットに仕舞い、リムルの隣の部屋に移動させたロレーヌに声を掛けた。

 オサムは子供が生まれてからリムルとは部屋を別にしていた。

 王妃付きの侍女が数名居たためだが、ドア1枚で出入りできるので問題はない。

 今回はその隣の部屋にロレーヌが移った。ロレーヌにも専属の侍女が付いていたが、子供部屋は同じにした。

 「今日も一緒に食おうよ、ロレーヌ」

 ロレーヌは読んでいた本にしおりを挟んでテーブルに置き、子供達とオサムのリビングへやって来た。

 リムルも共に自分の部屋から出てきて子供や侍女もオサムのリビングの大きなテーブルを囲んだ。

 オサムが侍女に「一緒に食うか?」と訊き、侍女達は驚いて「とんでもありません」と言ったが強引に席を与えた。

 「こんなにいつも一緒に居ると家族みたいに思えてくるんだよ」とオサムが言ったが、ダメ押しはリムルが言った「子供達に作法を教えて下さいね」という言葉だった。 


 「今回は新しい流刑地でしたか?見つかりました?」リムルは席に座った。

 料理が運ばれて来るが、侍女たちは自分達が食事するより王子や王女の食事を手伝っていた。

 「そうだね、砂漠よりは暮らしやすいと思うけど、どうだろう?」

 オサムにもわからなかった。


 「それにしても陛下は民をいたわりますね、死罪も労役も無いと知った時は驚きました」

 ロレーヌは昔を思い出しながら話した。


 「うん、牢は作りたくないし、建設や開発は労働者に任せたほうが経済が回るしね」

 「だけど流刑はほんとに辛いと思うよ?何もかも自分達でしないといけないから。今回の島だと穀物も自分達で作ることになるね」

 オサムは1年から永年の流刑まで作っていたが、帰れた者は何らかの職人になっていた。


 「さぁ、今日はカッシュの新作だな、南方のスパイスを利かせてる、美味い」オサムはこの時間を楽しみにしていた。

 侍女達は遠慮しながら食べていたが、ニコニコと笑いながら王子達の世話もしていた。



 数ヶ月が経ち、流刑地が変更されたということで、まずは南の島に1500人程度が移された。

 砂漠はオサムとロウが尽力したため暮らしやすく刑罰に向かない土地になっている。


 連れてこられた流刑者達は頭を抱えた。建物を作るところから始めなければいけない。

 中にはすがりつく者も居たがクイードは耳を貸さない。


 「お前達にはこの島を開発してもらう、それが刑のうちに入っている。資材は森や山にある、石切場への道は陛下が用意なされた」

 「刑務官は居らぬので好きにせよ、穀物の種も穀物も2年は困らぬ量が城壁内に蓄えられている。」

 「建築や開発に使える道具もすべて用意した。せいぜい楽に暮らせるように頭を使え」

 クイードはそう言い残して帰った。


 オサムとジンが作った直径500メルト程の簡易城塞には既に倉庫が建てられていた。

 倉庫には十分な量の穀物が用意され、各種食物の種や苗木があった。


 オサムはそこを永年流刑者の島としていたのだが、10年未満の有期流刑者用にはその北西にある島を開拓していた。

 技術者を連れていき、しっかりとした小さな城塞都市を作り2000人が住めるようにしている。


 有期流刑者はその島に1000名程が連れてこられた。

 帰れる者の島と帰れぬ者の島は広大な海が遮っていた。


 属国であるグリオン、エスカニアとルアムールを除く帝国全土の犯罪者がこの程度である。

 他は罰金刑を受けた者も居るが窃盗等の比較的軽い罪だ。

 当然罪を重ねれば流刑に処される。


 オサムは性善説信者でも性悪説信者でもない。ただ、罪には罰を、それだけだった。

 しかし効果はすぐに現れた。

 砂漠のオアシス地帯なら良いか。と軽く考えていたものが絶海の孤島への追放である。

 元々低かった帝国の犯罪率は更に低下した。


 

 やるべきことをやってしまうとまたオサムは「暇だ」だの「やることがない」だのと言って

 リムルやロレーヌを困らせた。

 「陛下がお暇ということは平和な証拠なのですよ」ロレーヌに言われてもやめない。

 「陛下はいつまでたっても昔のままなのですね」リムルはクスクス笑って聞いていた。


 「だってさぁ」オサムが言い終わる前に

 「私とリムル様がどのようなお話でも聞きますから」ロレーヌが言うと「そうですよ、陛下」リムルが続けた。


 オサムは

 「う~・・・・」と唸っただけで「まあいいや」とリムルの膝に頭を乗せてソファに寝転んだ。

 そして

 「うん、これだけでいいや」納得したようだった。

 その部分だけは、皇帝そして4人の父親だとは考えられない程オサムは成長してなかった。


 こういうときはオサムのあの癖が出る。

 早速西グレイス帝国に飛ぶと、城塞建造や道路網の整備等を確認しながら各地のダンジョンを廻った。

 事前に調査させていたが、ある程度頭に入れた後全てのダンジョンを好きなだけ攻略していった。

 

 見たことのないモンスターやダンジョンを全て何回も覚えるまで挑戦し続け、3週間後帰ってきた。



 「ただいまー」と言って帰ってくると入り口に甲冑と何振りかの剣が置いてあった。

 ハロルドを呼んで

 「これ何?」と尋ねると

 「ビーツ様がつい先日持ってこられました。あまりにも重いのでここに置くようにと陛下に申し使ったとか」


 オサムはその甲冑と剣を見ながら

 「そうそう、これを待ってたんだよ」と目を輝かせていた。


 シルバードラゴンやゴールドドラゴンの鱗や角を打ち伸ばした板で作り

 ダークオネスの染め粉で黒く染め、クシャナの籠手やシールドガーディアンの肩鎧や魔法石

 シールドドラゴンの鱗、ゴォスの胸当てを加工して内張りに使い

 ゴーレムの腕輪、オーガナイトの腕輪、デモンの指輪、フフストの革を加工して組み込み

 魔法石や他のレアアイテムをつぎ込んだ世界最強の甲冑だった。


 剣もシルバードラゴンとゴールドドラゴンの鱗と角をメインに使った大剣。

 あとは片手用の剣とサーベル。

 今のところオサム以外には扱えない代物だ。


 とりあえずオサムは一旦鎧を脱ぎに部屋へ帰り全てクローゼットにしまうとまた降りてきて

 「ハロルド、ちょっと侍従を2、3人呼んでくれないか?」鎧を着込みだした。

 侍従に手伝わせ、マジックバッグを腰に取り付け背中に大剣と楯、腰に片手剣を装備した。


 「うん、少し重いな」と背中の剣を軽々と抜いた。

 「これも少し重い。インペリアルセイヴァーレベル350か、さすがビーツとクライアン」

 そしてそのままグレートドラゴンでメラススの塔まで飛んでいってしまった。


 「魔法無しでどのくらい行けるかな?」オサムは降りていったがグレートドラゴンでさえ1撃だった。

 「へぇ・・・こりゃすごい、理由がもうわからん」

 30分でクリアしてしまった。1階層に付き10秒を切る早さである。

 「魔法無しでグレートドラゴンを1撃ならもうこれが限界だなぁ、1日40回か、休み無しで」

 オサムはワープポータルで地上へ戻り、城へ帰った。


 夕方クイード達を呼び、大剣を持たせてみた。

 「なんですか陛下、この重さは」とクイードでも振るには苦労するようだ。

 「インペリアルセイヴァーの350なんて異常ですよ、陛下」


 「メラススの塔を魔法無しで30分だった」オサムが言うと

 「もうそれって降りるついでに斬ってますよね?」タキトスが笑った。


 「そうだなぁ、階段まで走るほうが時間を取ったな、晶石を集めずに降りた」

 とオサムは楽しげに話した。



 オサムの言葉によるものかも知れないが、大陸南西の国々の一部で民衆が暴動を起こしているらしい。

 「民を大事にしろ」という言葉が間違って伝わっている可能性があった。


 オサムはロウに使者を飛ばし大量の紙を持ち帰らせた。

 そして各国の文字でこう書かせた。


 ”我グレイス帝国皇帝は戦から民を救うのみであり、各国の定める法に干渉せぬ”

 ”国家への不当な要求に対しても同様である。騒乱に対してはグレイス帝国の知る所にあらず”

 ”各国はグレイス帝国に属する国家ではなく、我グレイス皇帝に無用な気遣いは不要”


 それをクライアンに印刷させ、各国の街にバラ撒いた。


 オサムはこうなることも少し考えていた。

 グレイス帝国の属国も含め内政に干渉しないのもそのためだった。

 各王達が勝手に拡大解釈してオサムの理想を履き違えて信じてしまっていたのだ。


 「馬鹿共はつけあがる、いつの時代も権利権利と言って義務を果たそうとしない」

 オサムは腹を立てていた。


 直接国々を周り、王に会い真意を伝え、戦による蛮行がない限りグレイスは態度を変えないと告げた。

 その文書を見、オサムの言葉を聞いた各国国王は正常な国家運営に戻そうとした。


 時には苛烈な処分も行われたが、オサムにとってはそれは自業自得である。

 法を犯した償いは時として命で支払う必要が有る。各国の法に任せていた。


 この中世の時代に民主主義など殆ど存在しない。絶対王政が支配する時代だ。

 トチ狂った民衆のリーダーは国家のガン細胞であり早期に治療する必要がある。

 それにこれはただの強訴だ、権利だけの主張をオサムはひどく嫌悪していた。


 数ヶ月もすると民衆は鎮圧された。各国に有るオサム達の領内に逃げ込む者もいたが放り出させた。

 この暴動で何百、何千人が死罪となったかにはオサムは関心がなかった。

 行いの責任はその身をもって償わねばならない。ただそれだけのことである。


 グレイス皇帝は後ろ盾ではないと知った民衆は元の生活に戻っていった。


 このオサムの行いに対しリムルは

 「民におやさしい陛下が何故このようなことを?」と訊いてきたが

 「帝国領土でない国の法まで曲げるわけにはいかない」とだけ答えた。


 そしてこのことはクイード達8人にも徹底させた。

 この意味を一番深く理解したのはやはりハンビィだった。


 何を捨て、何を残すか。ロウが行った皇帝一族殺しの一件である。

 あのときオサムは止めようとはしなかった。そういうことだ。とハンビィは考えた。


 「陛下の軸は振れない、まっすぐに天を指している」

 ハンビィがクイードとタキトスに言った。


 「我々にはわからぬな、しかしそれで良いわ、我等は陛下のために働く」

 クイードは豪快に言い切った。


 「少なくとも陛下は俺が正しいと思える道を歩んできた。俺もその道を陛下の背を見て歩く」

 タキトスもそう言った。



 その頃、オサムは不思議に思っていた。

 砂漠地帯や森林地帯はともかく旧シャングール領内にモンスターは居ないのか?


 ジャグアはロードナイトのレベルを50まで上げている。

 初級冒険者が倒せる程度のモンスターそれに強力なダンジョンは南方にいくつも存在する。


 思い立ったらオサムの行動は早い。すぐに単騎でロウの屋敷へ向かった。


 予め巨大な庭を作らせておいたのでそこに降り立ち「ロウは居るか」と誰かを呼んだ。

 ロウは気が付いたのだろう、庭に出てきた。

 「皇帝陛下、本日は何事かございましたか?」ロウはルアムールに異変かと思った。


 オサムは

 「大した用ではないが、聞きたいことがあってな、良いか?」と言うと


 「ここで立ち話も何でしょう、庵に行きましょう」そう言ってロウは案内した。


 近くには家令や執事が居り、使用人5名程が大きな屋敷から茶や菓子等を持ってきた

 「陛下のおかげで東は安定しきっております。北方騎馬民族も全て同化させました」

 「オアシスや北方森林地帯も見て回った限り民達は平和に暮らしております」

 「これも慈悲深く聡明なる陛下あってこそのことです」

 ロウはあらためてオサムに礼を述べた。


 「そうか、俺も見て回っているが年々良くなってきている」

 「この屋敷と庭園は落ち着くな、昔を思い出す。それで聞きたいことなのだがな?」

 オサムが話しだした。


 「この国、いや、旧シャングールや北方にはモンスターは居ないのか?」

 オサムが不思議そうに聞くと


 「シャングールの初代皇帝が化物の巣穴を全て塞いだためここ200年は見かけぬようです」

 ロウを見ると確かに剣士でも騎士でもない。ジャッジマスターである、そのレベルが以前より上がっていた。

 モンスターを倒す以外にレベルアップの方法が有るのかもしれない。


 「場所は分かるか?興味がある」オサムが言うと

 「地図を見ればわかりますが、敢えて巣穴に?」ロウが疑問を投げた。


 「そうだな、また塞ぐとして少し見て回りたい、地図は有るか?」

 と言うとロウが地図を持ってこさせた。

 オサムはそれを見て

 「やはり多いな、全て封印されている、か」オサムが言うと


 「初代皇帝はこれら全てを廻った後に封印したとか、それまでは化物が数多く居たと聞きます」

 ロウは地図に印を付けていっていた。

 物腰柔らかな長髪の美男子で有るロウは全ての所作が優雅である。


 「そういうことか。封印はまた行うので開けても良いだろうか?」と尋ねると


 「陛下の国です、しかし民が襲われるやもしれませんので」

 ロウが心配している様だったので


 「数名と調査に来るだけだ。神聖魔法を使った分厚い封印用の鉄の扉を用意させる、それでどうだ?」

 とオサムが訊くと

 「それでしたら問題は無いでしょう」とロウは承諾した。



 オサムは一旦帝都に帰り、クイードたちを呼びその件を話した。

 「見知らぬモンスターが居るだろう、手伝ってくれ」とオサムが言うと


 「では私達も」と全員が同意した。


 「まずは見て回って、入口の大きさの鉄の扉を作る。ダンジョンに入るのはそれからだ」

 オサムが言い、東側ダンジョン攻略が始まった。



 全てのダンジョンを見終わるには2ヶ月かかった。

 攻略するには同じかもっと多くの期間が必要だろう。

 入り口調査中の期間を使って次々と扉を作らせておいた。

 封印用の扉は神聖魔法やマジックアイテムを使いオサム達にしか開けられないように作った。


 まずは全てのダンジョンの封印を誰にも開けられない扉に変える。

 恐らくこのままでは封印は解けてしまうだろう。


 初代皇帝が考えたのかは分からないが、ダンジョンは街からかなり遠かった。

 恐らく住民が近付けないように街作りをしたのだろう。


 封印の扉の設置にまた2ヶ月を掛けた。


 慎重に準備を行い、オサムだけが冒険に出た。

 と言うのもヒマだったからだ。


 「最初は全部俺ねー」と言って飛び出していった。

 昼だけダンジョンに入り、眠るのはロウの屋敷だ。

 

 「この国は日本とも中国とも微妙に違うんだよなぁ、西洋人の考える日本みたいなもんか」

 屋敷を見て料理を食い、寝て。冒険をする。


 オサムは毎日が楽しかった、グレートドラゴンに匹敵する敵も居た。

 何回も何回も同じダンジョンをクリアし、10箇所クリアすると帝都に戻った。


 大体隔週毎に通う感じである。


 これでまた多くのレアアイテムが手に入った。

 2週間もするとクイード達も順にやって来ていたので相当な量である。


 塔もあったのでその上下をクリアした。

 地下100階層にはグレートドラゴンではない強力なオロチというモンスターが居たが、

 オサムは一撃で斬り倒した。

 


 リムルやロレーヌ、ファシリア達は「また新しい遊び場所を見つけたんですね」

 とだけ言って楽しむオサム達を送り出していた。


 オサム達は一通り遊び尽くすのに半年以上を掛けた。


 そしてその後何者も出入り出来ないように固く封印をして終わった。

 しかし帰ってきても9人は北のあのダンジョンのボスがどうのとかあのモンスターは等で盛り上がっていた。


 その一方女性たちは、

 クラウドの妻メリルス、アンカールの妻ラーラ、ギルビィの妻フォーセリア、レオンの妻シュレイヌ、ジンの妻イサベル

 この5人が加わっており、総勢10名で茶会を行っていた。


 始めの頃は侍女であったメリルスとラーラ、特に花屋の町娘であったイサベルは遠慮していたが、

 オサムが5人全員に帝国子爵位を勝手に与えて貴族にしてからの婚姻である。

 ロレーヌとリムルが直接屋敷まで呼びに来るので茶会に出席していた。


 しかし時間が経つにつれ気遣い無用の雰囲気が醸成されていったため気楽に10人が集まり楽しむようになった。

 そして各夫の話や自分達のことで話は尽きなかった。

 しかし全員が思っていたのはオサム達9人が居なければこんな穏やかな日々は無かっただろうということだった。

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