10話 大陸戦略
オサムはインペリアルセイヴァー用に作らせた豪華なレイピアを腰に下げ、城から出て城下の様子を見て回ることにした。
忙しかった頃には出来なかったのでぶらぶらと散策した。
3重の城壁に守られた王都は数え切れない数の人々が暮らし、30キロ四方ある。
5分に1人は警備兵を見かける。警察機構はしっかりしているようだ。
冒険者らしき者達も多い。商店街に入ると広い道の両側に店舗が並んでいた。
建物自体はオサムの指示で作らせたので画一化されているが、店舗内は様々に改装されていた。
「これが城下に何百もあるのか」自分で作らせたのだが直接見るのは初めてだった。
「それにしても歩くと広い街だなぁ」遠くに見える巨大な城門の建物を見て
「あれが8つ有って、また何キロか向こうにもっと大きいのがあるんだよなぁ」
設計はオサムがしたので概要は把握していた。しかし空から見るのと地上から見るのとでは違った。
「見たところ生活に困ってるような人は居ないな、外周にも行ってみるか」
そう言って開け放たれた城門をくぐった。
扉は鋼鉄で出来ており、厚さが1メルトはあった。それが2重になっている。
「我ながらとんでもない城門を作ったなぁ」としみじみ見ていた。
城塞の外周部に出ると、様相が変わっていた。
幅150メルトの道の両脇には神殿と換金所の建物があった。
「たしかこの区画はゼロから計画的に作ったんだったな」オサムは整然と整えられた建物群を見ていた。
生活に必要なものを売る建物や居住用の建物など、全て3階建ての画一化された建物が並んでいた。
「やっぱり生活に困ってるような人はいないな。」
帝都の内外を整備しているのだ。仕事が途切れることはありえない。
人々の幸せそうな生活を見て回り、オサムは城へと戻っていった。
「リムルー、この街は平和だね、少し散歩してきてわかったけど」
オサムが居間に座っているリムルに話しかけた。
「おかえりなさい、陛下」リムルは振り向いてオサムに言った。
「考えてたとおりの街になってた、良かったよ」オサムは長椅子に転んだ。
「それにしてもやることがない、ゴロゴロしてていいよな」
と言ってオサムはベッドに寝転んだ。
『あとは何かすることがあったっけ?』と考えながらオサムは眠った。
それから数ヶ月の間に次々とミーシャ、ヴィオラ、ファシリア懐妊の報告が届いた。
「お前達、相談したかのように続くなぁ」オサムが言うと
「忙しい時期が過ぎたので偶然重なったのでしょう」とクイードは言ったが
リムルも同様だった。
オサムにとっては第三子、リムルにとっては第二子となる。
ロレーヌもか?と考えて訊いてみたが、それはなかった。
カオスキーパーやモンスターの大群を片付けるくらいしか用がなくなっていたので、のんびり過ごした結果だった。
しかもクラウド達が殲滅に向かうのでますますオサムやクイード、タキトス、ハンビィの時間は余っていた。
オサムのレベルは200を軽く超え300に迫っていた。クイード達も100に近づいていた。
レベル200を超えてからオサムは気がついたのだが200以降必要な経験値が一定となっている様だった。
「なんかバグっぽいなぁ、想定外のレベルなのかも?」しかしオサムは誰にも言わずにいた。
その頃、クラウド達にも各国から縁談の話が届いていた。中には国王の姫も居たが、
オサムは「本人達に任せてるので」ということで通していた。
クラウド達も「相手は自分で選びます、グレイス帝国伯爵としてではなく個人として」
そう言うのでオサムは全て任せていた。口出しすることでもないし。と考えて。
子どもたちが生まれるまでは何もなければいいけどなぁ。オサムはのんびり構えていた。
帝国内や他国で流通する銀貨が出回り過ぎたためオサムはインフレを気にしなければならなくなった。
「銀貨ばかり何十億枚も使ったし、世界の経済規模を考えるとそろそろやめるか」
オサムはそう言って帝国の銀貨の殆どを一旦封印した。
代わりに金貨、それに以前と違う青銅貨や黄銅貨、白銅貨を数種類作らせたものを一気に放出した。
市場の兌換率は金1に対して銀50、銀1に対して青銅、黄銅、白銅100
ゆえに、通貨単位として50ドル金貨、1ドル銀貨、50グラムの銀貨から10枚の銀貨を作り10セント、白銅で10セント、黄銅で5セント、青銅で1セントと10分の1セント。
グレイス帝国の汎用通貨として作り上げた。広範囲で使われるであろうグレイス帝国の貨幣はいずれ大陸通貨となるはずだ。
銅や錫、ニッケルや亜鉛等の資源はかなりの量がグレイス国家造幣所で合金として蓄えられている。
市場に出回る金貨は主流となる銀貨、それに青銅貨、黄銅貨と比較すると多くはない。
銀貨との兌換率は50対1なのであまり使われないだろう。ただし、そのあたりは市場経済に任せればいい。
物資は帝国で押さえてあるので、流通量をコントロールすればいい。
金や銀、銅鉱山や鉄鉱石、石炭は多く産出させているがストックさせているため問題無い。
今出回っている銀貨の一部も税や穀物、塩等で回収しようと考えていた。
海岸部分に塩の精製施設を作り、大量に作られた。
同時に岩塩が砂漠で採れるためそれをグレイス帝国各地で売った。
副都のある旧シャングールは経済規模が大きいため問題は無いだろう。
南のルアムールは元々金銀での取引は殆ど無かったため、流通貨幣として必要なはずだ。
オアシス都市や北の都市群は人が住まず産業の無かった場所であるため今の流通量ではまだ足りない。
引き続き銀貨や新しい青銅貨等の導入を行うことにした。
新規に作る貨幣は既に出回っている銀貨以外は鋳造ではなく鍛造とした。そのための工場も既に作っている。
そして一旦バラ撒いた銀貨の回収が始まった。やはり金貨や塩、穀物でよく回収出来る。
旧シャングールの東側は金や銀をよく産出する。銀はグレイス帝都で管理し、金は全て新しい金貨製造のために一旦回収された。
そうこうしている間に次々と出産が始まった。
ウォース・ローレンダーク、イザック・シュルツ、リクソム・ストワード。
全て男児であった。
リムルの子もリューゼ・オルトール・グレイス。男児であった。
「やれやれだな、毎回慌てちまう」オサムが言うと
「戦場に立って敵を待ってる方が気楽ですね」ハンビィが答えた。
クイードやタキトスも安心したらしい。オサムの執務室に集まってきていた。
「モンスターの大群が現れる程度で何も起きなかったですね」
「そうだなぁ、それも全部クラウドやアンカール達で片付けてるし」
オサムは机に足を放り出して椅子にもたれかかっていた。
「平和なのは良いんだけど、やることがなくなったな、俺達」
そう言うと椅子をくるりと一周させた。
待つのは疲れる。期間がわからないなら余計だ。
大陸西側と南方は1年程度では変わらない。
オサムは何もしてこなかったわけではない。
絵画や彫刻などの美術品や音楽や演劇などの芸術を振興していた。
多くのその道の天才たちがグレイス帝都に集まってきていた。
城の敷地に巨大な美術館を建て、それらを展示、保管したがこれはオサムの趣味ではなかった。
後世に残すためにやっているだけだ。
文化の保護者として戦乱による破壊からそれらを守っていただけである。
大きな出来事が起きたのはそれから約半年後のことだった。
グリーシア皇帝が崩御した。
元々が高齢であったため、自分亡き後のこともオサムに託されていた。
後継者として長子を皇太子指名しており、その後ろ盾となるようにだ。
他の子供達は爵位を与えられ家臣と同様の立場であったが、次男だけは国を与えられ王となっていた。
そして内戦が起きた。
気が強く好戦的な次男アトロ・スパルトンに対し、
温和で優しい皇太子であるパトロス・グリーシアは話し合いで解決を諮ろうとした。
しかし、アトロはそれに応じなかった。
オサムはパトロス・グリーシアの後援者だったが、グリーシア帝国の内政には干渉しない。
国境付近に軍を待機させただけでグリーシアとの国境は越えなかった。
これもグレイス帝国の方針であり、変えることは考えていない。
南東の国境付近に領土を持つアトロは隣接するパルトス王国と組み、20万の兵で周辺を攻略した。
オサムは歴史上そんな例を知っていたため放置していた。
3割の国土がアトロに征服されたが、皇帝に即位したパトロス・グリーシアは帝都周辺に兵をまとめただけだった。
総兵力50万人。この内乱で多くの者が難民となりグレイス帝国に逃げてきた。
一時的な住居や食料、仕事などは与えるため、難民といえども移住者と変わらない暮らしが出来る。
また、グリーシアの混乱を避けて、交易商もグレイス領地を通るのでグレーシアは疲弊した。
オサムは一度アトロに会うことにした。
黒騎士の装備ではなく、儀礼用の威圧感のない軽装甲冑だ。
もちろんビーツにレアアイテムを使わせて作っているため、防御力は普通のフルプレートを軽く凌ぐ。
腰にはレイピア。これも刀身はシルバードラゴンの鱗と角で作らせた。
インペリアルセイヴァーレベル50の剣。
そしてオサムはアトロの居城の庭にグリフォンから飛び降りた。
騎士や兵が一斉に出てきたが「王と話がしたい、グレイス皇帝だ」と言うと暫くして城に案内された。
アトロは「グレイス皇帝陛下が何をされに?説得ですか?」とオサムに敵意を向けると。
「そうではない、反乱の真意を聞きに来た。それが済めば帰る」
オサムはそっけなく返答した。
それを聞き、アトロは
「兄のような気質ではこの国は守れませぬ、東や南方に敵が居ると言うのに」
「父上はこの帝国を良く統治しておりました。兄には無理だという私の判断です」
アトロも国を思っての行動のようだった。
オサムはそれを聞きながらも
「だから国を割るのか?もう既に我が帝国に数万の者が難民として入ってきたが?」
「民を恐怖させるのがお前の帝国統治のやり方なのか?」
オサムは問い質した。
「それは私も望むところではありませんが、これ以外に方法を考えられませんでした」
アトロが言った瞬間
「馬鹿者が!前皇帝の遺志に逆らい、他国の援助を受けて内乱を起こす」
「お前のやっている事はこの帝国の弱体化だ。他国に借りも作ることとなる」
オサムは自分よりかなり年長のアトロを叱りつけた。
「国を思っているのはお前もパトロスも同じだ。しかしパトロスは守りに徹している」
「国中の城塞に抵抗するなと伝えても居る。お前が帝都を攻めれば恐らく死ぬつもりで居る」
パトロスの性格をオサムはよく知っていた。
「他国からの軍に荒らされた国土を良く見ることだな、前皇帝なら決してやるまい」
「お前が始めたことだ。私は様子を見るだけにする。軍は出さぬ。好きに荒廃させよ」
そう言い残してオサムは一旦パトロスの居るグリーシア帝都へ去っていった。
アトロは数日の間考え、帝都へ直接軍を動かした。
そこは50万の兵に守られていたが、パトロスが全軍の司令として甲冑を着ていた。
グリーシアの紋章が浮き彫りにされた甲冑と楯、馬用の甲冑の装飾。それだけでわかった。
アトロが軍を進めると、中央の兵が道を作りパトロスが先頭に出てきた。
数百騎を引き連れてアトロはパトロスに声が届く距離までやってきた。
よく見ると、爵位を持つ弟達もパトロスの軍に居た。
パトロスが
「アトロよ、これ以上の戦は私の望むところではない。一騎打ちで決めたい」
そう言って剣を抜いた。他の兵は抜刀していない。
アトロは
「兄者が私に勝てると思うてか!」と怒鳴ると
「思っては居らぬ、しかしこれでお前が勝てば、アトロよ、お前が皇帝だ」
パトロスが答えた。
アトロは好戦的だが馬鹿ではない、パトロスの真意を知った。
パトロスはアトロに帝位を譲るため、敢えてアトロの手で死のうとしている。
「安心せい、この50万の軍は動かぬ。お前は帝国の敵ではないのでな」
その言葉にはパトロスの思いと覚悟が込められていた。
アトロが単騎で馬を進めると、それに応じてパトロスも進めた。
70万の軍勢の中央で一騎打ちが始まった。
数度打ち込んだだけでアトロの優勢が分かった。
一旦離れ
「何故兄者はこのような事をするのです、我が軍の倍以上の兵力を持つのであれば戦えば良いではないか」
アトロが問うと
「一兵たりとて死なせたくないのだ、私ごとき皇帝のためにはな」パトロスは答えた
「皇帝を斬れば帝位はお前に渡る、皆にもそう言い聞かせてある、さぁ来い」
パトロスが剣と楯を構えた。
更に数度打ち合うとパトロスは馬から落ちた。
立ち上がりはしたが「それ、好機だ、私を斬れ」パトロスが言うと
アトロは剣を向け、暫くしてその剣をパトロスが立つ近くの地面に投げ捨てた。
「出来ませぬ」アトロは言った。
「何故だ?あと一振りでお前は皇帝になれるのだぞ?」パトロスが馬の横に立って言う。
「できませぬ、兄者。愚か者の私を斬ってください」アトロが言うと
「私がお前を斬ることなど出来ぬ、お前のほうが強い」パトロスが返した。
その言葉を聞き、アトロは馬から降りて兜を取り膝をついた
「これならば兄者でも斬れます」アトロは言ったが
「無理だ、お前は大事な弟でありこの国の柱だ、グリーシアを頼む」
パトロスがアトロの放り投げた剣を目の前に置き、自分も兜を取った。
「さぁ、斬れ、アトロ」と言ったまま立っていた。
その時、アトロが剣を取り、自分の首に当てたのでパトロスはアトロを蹴り飛ばした。
「お前ではない、私を斬れ」パトロスは続けた。
アトロは
「出来ませぬ、兄者は帝国を、私は我が事を考えておりました」そう言って剣を捨てた。
「アトロよ、お前も帝国のことを考えての事だろう?」パトロスが言うと
「兄者には帝国を守れぬと考えていただけで。しかし兄者が正しい」
アトロはパトロスの考えに振れて考え方を変えた。
「良いのか?私では帝国は守りきれぬぞ?」パトロスが言うと
「赦されるなら、私が守り抜きます」アトロは答えた。
「そうか、では守ってくれ。帝位は要らぬのか?」パトロスは確認した。
「要りませぬ、一人の家臣として働きます。兄者の剣として。」アトロはもう帝位に拘らなかった。
「そうか、では頼む、南東の敵は手強いらしいがお前が居れば安心だ」
パトロスはアトロの反乱を不問にしようとしていた。
「何か罰を、そうでなければ皆が納得しませぬ」アトロが言うと
「では、お前から王位を取り上げ辺境の軍を任せる。伯爵に降格だ。領地はそのままで良い」
パトロスはそう言うが、実質的には処分がないのと同じようなものである。
「アトロよ、それで良いか?」パトロスが訊き「はい」とアトロは答えた。
これを持って約2ヶ月のグリーシア内乱は治まった。
アトロは領地まで戻り、パルトス王国の軍を返した。
「皇帝の器ではないな、グレイス皇帝陛下のおかげか」
自分は辺境軍の司令程度が似合っている、そうアトロは考え直した。
ある日の夜、オサムは寝付けないため深夜に書斎へ足を運んだ。
エターナルライトを隠すための分厚いシェイドを外して一冊の本を読み出した。
それは蒸気機関とガソリンやディーゼルエンジンについての本だった。
一度読んでいたが、蒸気機関以外はオサムにとって難しいものだったためじっくりとは読んでいない。
オサムは船を作る準備をしていた。
南を大きく周り、ルアムールとの交易に使おうとしていた。
船体は魔法で処理された分厚い鉄板で作ってある。全長250メルトの巨大な双胴輸送船である。
船は出来たが、肝心のエンジンや燃料が難しい。
オサムは実験的に石油精製プラントを作っており、
1日10キロリットルのガソリンや軽油、灯油、重油等を作っていた。
ガスは要らないので全て燃やしていた。
重油と灯油は城や屋敷の風呂や公衆浴場で使っている。
火の魔法士や薪や石炭での手間を省くためだが、増産の必要は無いようだった。
エンジンは設計図を見ながら部品を作成してみたが今の技術ではかなり難しく、すぐに故障する。
しかし、蒸気機関はかなり大きなものまで作れるようになっていた。
外輪船ではなくスクリューの船である。就航の時期を待っている段階だ。
オサムの世界の技術と魔法で作り上げたのでかなり良く出来ている。
「まだ早いな。海図もないし」と言い、オサムは本を閉じた。
シェイドをかぶせ、薄明かりにしてから書斎を出てベッドに入った。
次の朝、クラウド、アンカール、ギルビィ、レオン、ジンが執務室に揃ってやってきた。
「どうした?」とオサムが訊くと
「我々の妻ですが、全員決めました。レオンとジンが決めるまで待ってたので時間が掛かりましたが」
クラウド達の話では
クラウドとギルビィは侍女、アンカールはエスカニアの子爵令嬢、レオンはグリオンの騎士、ジンは町娘とのことだった。
「お前達にも色々と飛んでもらっているからな、見つかったなら良い」
「いつ祝福の儀式を行うかは俺の一存でいいな?いつでもいいので連れてこい」とオサムは取り仕切った。
3ヶ月後、5人の儀式を行った。
また各国から使者や国王が来たが、慣れているためオサムは煩わされることもなく宴は終わった。
夜になり、部屋へ帰ると
「混乱もなく上々の儀式だったな」寝間着に着替え、リムルとロレーヌに話した。
「そうですね、何度目かになるので全てうまく行きました」
ロレーヌはまた身籠っていたが、わかったばかりだったので出席していた。
リムルはもう歩き出したスウェンとミシュルの面倒を見ていたが、殆ど侍女がやっていたため疲れはない。
今回はグレイス王国建国の日ではなく、グレイス帝国発表の日にした。
穏やかな平和の中で子どもたちは育ち、オサムは幸せであった。
もちろんリムルやロレーヌもそうだろう。
グレイス帝国は安定しており、民達は幸せだった。
しかし、先のグリーシアの内乱のように突発的な戦が起きるかもしれない。
事実パルトス王国がグリーシアに攻め込んだが、逆に敗れた末グリーシアに取り込まれた。
大河の西に残る脅威はタウール王国とミトワ帝国が分裂した南北ミトワ王国だけである。
その先には大河と山に囲まれた大国ムールラントがある。しかしムールラントの東はルアムール王国、ジャグアの国だ。
レギオーラ、グレイス、グリーシアの南方には大小様々な島が点在し、
その向こうにもちょっとした大陸があることは知っていたが、まだ未開の土地といっても良い状態だ。
放っておいても良いだろう。そうオサムは考えていた。ロムドール大陸だけで十分だった。
大陸の西側でも小さな動きがあった。
レギオーラ国王の第一王位継承権を持つオトラ姫がライツェン王国ネシュア皇太子に嫁いだ。
これは将来レギオーラとライツェンが一つの国となることを意味する。
オサム達も久しぶりにライツェンに向かった。
ロレーヌは身重だがミシュルを連れて行くこととなった。
飛んでいけばすぐだが、同行する侍女、侍従、召使い等人数や荷物がかなり多いため陸路を数多くの馬車で進んだ。
遠回りになるが舗装路が整っているためグリオン側から入った。
しかし重量のあるもの、例えば鉄などはグレートドラゴンで運び済みだった。
時間には余裕があるので、ロレーヌとミシュルをマンセル子爵に預け、自身はフルグリフ侯爵の城で休んだ。
束の間であったがオサムにとっては懐かしく楽しいひとときを過ごした。
マンセル子爵にとっては初孫となるため、ミシュルをかわいがっているらしい。
超大国グレイス帝国の姫だが、マンセル子爵にとってはただの孫だ。オサムもそうロレーヌに言ってある。
2日滞在し、次はクラッセ公爵領に入った。ここも舗装されており、隣のエリトール子爵領と繋げている。
そこでも1日滞在しライツェン王国の城に入った。
オサムは早速ライツェン王に会った
「これはグレイス皇帝陛下、よくいらっしゃって下さいました」
王がすぐに執務室を出て自室のリビングにオサムを連れて行った。
「お忙しい中ありがとうございます」王に言われて、オサムは相談を持ちかけた。
「陛下から賜っているクラッセ公爵領とエリトール子爵領をグリオン、レギオーラの近くに転地出来ないでしょうか?」
「飛び地が多すぎて管理が行き届きませぬゆえのお願いですが」
王はしばらく考えて
「そうですな、フルグリフ侯爵領とその南の土地との交換ということでいかがでしょう?
エリトール子爵領はクラッセ公爵領に組み入れて。皇帝陛下の家臣の方の領地も1箇所にまとめましょう」
王の提案に
「それは助かります。もうグリオンはライツェン国に攻め入る事はありませんので」
オサムは答えた。
「それはそうですな、グレイス帝国は戦を仕掛けぬ国、皇帝陛下が戦嫌いですから」
「我が国もレギオーラとは繋がりますゆえ、ムラトワ、レーラリアに戦力を集められます」
王に許諾されたことでライツェンに持つ領土がグリオンと接する土地となった。
更にレギオーラ国王とも相談し、グレイスとライツェンの間へ領地替えしてもらった。
これによりグレイスの真北が埋まり、ライツェン国とスムーズに行き来出来る様になった。
「他国にある領土はそのままでいいか」オサムは急がなくても良いと考えた。
そして豪華な式典が始まった。流石に国家同士の婚姻である。
ライツェン国中の貴族が集まり、他国からの使者や国王の数も多い。
ただし、西側は防備しておかなくてはならないため、その諸侯達は来ていなかった。
1週間の間祝宴は続いた。元来このようなことの苦手なオサムはまたテラスに出ていた。
クリューズに頼むわけにもいかないので、最も真面目なハンビィに相手をさせていた。
帝都から近いためオサム以下公爵3人伯爵5人、その夫人と子供全てが来ていた。
それぞれは儀礼用の服で腰にはレイピアだが、全てが装備レベルロードナイト80~95であった。
つまりはレイピアで城を叩き切れる。
クイード達もクラウド達も既に正室を持っているため、それらの話題は出なかったが他の事を訊かれていた。
グレイス帝国で領地を持つ聖騎士8人は各国にとっても特別な存在である。
王宮騎士団や黒狼騎士団の団長や隊長クラスもオサムに同行していたが、それらは質問攻めに遭っていた。
領地を持たない者であり、庶民出身の者でさえもグレイス関係者という事で色々と訊かれていた。
皆はバルコニーに勝手にテーブルと椅子を持ち出し一人で飲食をしているオサムを見つけてやって来た。
「陛下、このようなところではなく各国の王と話をしたほうが良いのでは?」
ハンビィは言うが、もう既に簡単に済ませてあった。
特にムルトワ国王とレーラリア国王とは
「ライツェンは大恩のある国ゆえ戦の際にはグレイスはライツェンを援護します」
これだけで2国の王はライツェンにもレギオーラにも手出しはできなくなる。
ライツェン王は既に戦を仕掛けることはなくなっていたのでライツェンが戦火に巻き込まれることはない。
各国から祝いの品が届けられたが、やはり驚かれたのはグレイスの物だった。
鉄は重量にして100万トン。1国で使い切れる量では無い。
それに宝石の散りばめられた王冠や王笏にティアラ、
しかもシルバードラゴンやゴールドドラゴンの角と鱗で作っている。
他にもプラチナで作った豪華な腕輪や黄金と宝石で作ったアクセサリー等も贈った。
各国国王は驚きを隠さず「グレイス皇帝はやはり違う」と言われた。
この程度の物はグレイス帝国にとって宝物ではない。オサムが宝だと思っているのは民達である。
それに、オサムが質実剛健な皇帝であるためか、クイード始め公爵、伯爵、騎士団長も質素に暮らしていた。
こういう場では時としてハプニングが起きることもある。
敵対する王同士も集まってくるため少しのきっかけで争いが始まる
ムルトワの向こう、ゴータス国王とその西のアスタ国王がいざこざを起こしそうになっていた。
バルコニーからそれを見ていたオサムは素早く2人の間に入り
「めでたい席ではお互いお国のことは忘れて楽しまれては?」
オサムはにこやかだったが言葉は威圧的だった。
それでその場は治まったが
「困るよね、こんな時に」リムルとロレーヌが座っているところに行ってボヤいた。
「陛下は言葉だけで争いを止められますからね」ロレーヌが言い、リムルは笑っていた。
前後合わせて10日間程続いた宴が終わり全員が帰路に付いた。
護衛は居るがハンビィとジン、それにオサムが帝国仕様の豪華な馬車に乗り、他の6人は先に帰らせた。




