9話 南の大国
グレイス帝国の9人のインペリアルセイヴァー達は誰かが冒険に行っている時でも常に7人は待機している。
オサムは国務があるためあまり城を留守にすることは無くなったが、それでも月に数回は行っていた。
しかし、必要なアイテムがある時にはクイード達が順に集めてきていた。
拡張に次ぐ拡張で当初の3倍にもなった王城や5倍になった城の敷地には
オサムの城、王宮、公爵家屋敷が3邸、伯爵家屋敷が5邸、
その他巨大な迎賓館や元々有った迎賓館、それにオサム自身の王宮ではない豪壮な屋敷が並び立つ。
元は小高い丘だが、北と東西へ石垣やコンクリートを使い拡張を重ねて、十分な広さになった。
王城へ登るにはかなりの道のりになるので、城門以外に直接敷地と繋げるようにとオサムが考えて
実験的にだが鉄筋コンクリートの高層ビルと鉄骨の高層ビルを敷地の左右に作って最上階を敷地と繋げていた。
クライアンが開発した魔法処理をすれば錆びない鉄が作り出せるのを知り、オサムは楽しんでいた。
エレベーターも試してみたが、長期間の可動は魔法では無理なため諦めた。
その代わりマジックアイテムでクライアンが作り上げた装置を設置した。
クライアンは研究が楽しくてしようがないらしい。
弟子たちに一般のマジックアイテムを制作させ、自身は研究に没頭していた。
ビーツはと言うと、これもまた次の装備は?と訊いてくる。
オサムはかなりの数の装備を次々に発注していった。
オサムは2人を呼んではクイード達が置いていくアイテムを整理させていた。
レアドロップもまた膨大な数がある。仕分けが必要だった。
そんな時にロウからの連絡が届いた。
南にある小国群が1つの大国にまとめられ、近々戦がありそうだ、という内容であった。
オサムはすぐにギルビィを向かわせ、情報を集めさせた。
「決してこちらからは手を出すな」と伝えて。
しかし40万人規模の軍勢が用意されているとギルビィから使いが来た。
まだ敵対してくるかどうかはわからないため引き続き監視をさせることにした。
「北を目指して向かってきている」と連絡が入った時に
オサムを筆頭にタキトスとレオン、ジンを連れて副都に向かった。
どうやら帝国の南方を侵略しようとしているようだ。
ロウはオサムが来たことで安心した様だった。
「まだ領土に侵入はされていませんが、南を全て平らげた者の国です」
そう言って地図を見せた。
「この辺りを全て平定したようです、西には大河があるため恐らくこちらに来るでしょう」
ロウの説明を聞き
「では戦になるな、国境で全滅させて都も落としておくか」
オサムは簡単に言ってのけたが。
「そうですね、40万程度なら30分も掛かりません」タキトスが同意した。
オサムは
「丁度良い機会だ、こちらの兵達にも我々の戦いを見せたい。正規兵はどのくらい居る」
ロウに尋ねると
「現在は志願兵のみですので50万程に減らしてます」と答えた
「では25万程を南に進軍させてくれ、確か新しく作った城塞都市が2つ3つ有っただけだな?」
オサムが確認すると
「そうです、あとは小さな町や村くらいです」とロウは答えた。
「ではその南の平原で迎え撃つことにする。兵達は俺の後ろに控えさせておけ」
そう言ってロウに準備させた。
緩衝地帯として開墾させずに置いた土地だが、この戦が終われば南の脅威はなくなる。
街を作って周囲を開発することが可能になる。
「よし、ではタキトスと俺2人で相手をしよう。ギルビィ、レオン、ジン、今回は見るだけにしておけ」
オサムは3人に確認した。
「わかりました。我々はまだ戦を知らないので戦い方を見させていただきます」
ギルビィは言った。
遥か上空からオサムとタキトスが見る限り北上してくるようだった。煮炊きの煙でわかる。
『このままだと国境を超えてくるな』オサムは考えて一旦戦場となるであろう平原に降りた。
「タキトス、この平原が主戦場になると思う、後方に兵が来るまで待って戦闘開始としようか」
そう言ってギルビィ、レオン、ジンに警戒させていた。
1週間程でグレイス帝国軍騎兵25万が完全武装で現れた。
「ロウか、ご苦労。山の地形や敵の進軍ルートから考えて恐らくここが決戦場になると思う」
オサムがロウに言い「後方で待機させて見せるだけで良いが戦の緊張感は持たせておけ。万が一俺達が抜かれたときはそいつらを頼む」
そう命令した。
「ギルビィ、様子はどうだった?」オサムが進軍状況を尋ねると。
「山を超えながらここへ向かって居ます。恐らく二日後。私の計算ですが」ギルビィは答えた。
「もしかすると海側から船で来ている部隊もあるかもしれん、確認して敵なら連絡を。別の場所に上陸されると厄介だ」
オサムが指示するとすぐにギルビィは飛んでいった。
ギルビィが帰ってくると
「陛下の言うとおり海から進軍してくる部隊がありました。100隻程です。」
と報告した。
「なるほどな。タキトス、3時間程で戻る。タキトス以外は俺について来い」
オサムはそう言って3人を連れて飛んだ。
しばらく飛び
「あれか」と言うと「全員付いてこい!焼き払うぞ!見ておけ!」と言ってオサムは降下していった。
突然の巨大なドラゴンの襲来に船上はパニックになっていた。
矢を射かけてきたが、グレートドラゴンの鱗は通せない。
オサムはドラゴンのブレスで数隻炎上させた。
「ギルビィ!レオン!ジン!全て焼き払え!」オサムが叫ぶと
一斉にブレスで海上の船を焼き払っていった。
「これが戦というものだ!人を殺す恐ろしさを覚えておけ!奴らにも家族が居る!」
「しかし!やらねばならん時がある!それが今だ!」オサムはまた叫んだ。
10分も掛からずすべての船が焼け沈んだ。
「戻るぞ!」とオサムが平原に戻っていった。
4人はタキトスとロウの横に降りた。
「船を焼いてきた」とタキトスとロウに言い。
「戦とは恐ろしいだろう?奴らにも大切な人間が居る。しかし敵は叩かねばならん」
オサムが3人に言った。
「わかりました、これが戦ですね。陛下が戦を嫌う理由が分かった気がします」
ギルビィが答えた。
「そうか、ではお前達も今回の戦闘に加われ、嫌なら後方で見ていて構わん」
オサムは3人を試した。
「いえ、やります!」と3人は答えた。
「まずは俺とタキトスが先に攻撃する、お前達もナイトメアに乗って付いてこい」
「本物の戦を教えてやる」オサムは若干の不安を感じていたが、いざとなればタキトスと2人で十分ではある。
モンスターとの戦闘と人間との戦の違いを知って欲しかった。
そこから2日目の昼頃、敵軍が現れだした。
完全武装の25万人を見て相手は陣形を整えているようだった。
戦力だけで言えば40万以上対25万である。相手は余裕を見せていた。
「始まるぞ。ここは5人で殲滅する、ロウの兵達は見ているだけでいい。旗を立てろ」
そう言うとロウは命令を下し旗を立てさせた。
5人はゆっくりと距離を詰めた。
突然銅羅が叩かれる音が聞こえ、最前列が突進してきた。
オサムとタキトスはスキルや付加スキルを使って数百数千の敵を次々と切り裂いていく。
後に続く3人は2人が斬りもらした敵を薙ぎ払っていった。
5人は互いに距離を開けながら敵本陣へ苦もなく近づいていく。
一振りで1000人単位が吹き飛んでいった。
「フレイムスパーク!セイヴァースラッシュ!」オサムが縦一閃巨大な火柱の斬撃を放った。
敵軍は真っ二つに割れ、しかしなおも向かってくる。
ほぼ全てを片付けるまでやはり30分程度だった。
残ったのは数百人。しかしオサムが
「大将は誰だ!」と聞き
「俺だ!」と聞くとそいつを残して全てを斬り伏せた。今回は気分が悪くならない、慣れてしまったのだろうか?
オサムは大将だと言う者を引きずりながらロウ達のところに戻ってきた。
「お前が南の国を平定したのか?」と聞くと
「そうだ、お前達はバケモノか!?帝国の剣よ」と言われて見ていると
”ロードナイトのレベル50”と見えた。
「相当鍛えたようだが、俺達に勝てると思うか?」
オサムが見下ろすと
「無理だ、俺は自分を無敵だと思っていたが・・・」敵の大将は震えていた。
「名はなんという?」
オサムが問うと
「ジャグア・ドン・グエン」と答えた。
「そうか、俺はアキバ・オサム・グレイス。この帝国の皇帝だ」
そう言ってからジャグアを睨みつけ
「お前の国を帝国にもらうぞ?」と言った。
ジャグアは
「まだ平定したばかりの国だ、お前には統治できんぞ」と言った。
「俺は、お前の国をもらうと言った。統治はお前がすればいい。属国となれ」
オサムは言葉で遊んだ。
「ロウ!」とオサムは呼び
「このジャグア・ドン・グエンと申す者の国を属国とする、このあたりの城塞全てに監視を置け」
そう命令した。
そしてまたジャグアに向かって
「次は無いぞ?殺す」と脅した。
「戦など仕掛けられるわけがなかろう、こんな国に」ジャグアが恐怖を露わにしたので
「分かればいい」と言ってタキトスにジャグアを「見張ってろ」と渡した。
「ロウ、兵達はしっかり見ていたか?俺達の戦いを」と訊くと
「全て見せました。今頃は恐怖しているでしょう、陛下」と答えた。
「ならば良い。これを見せておきたかったのでな」オサムはゆっくりと話した
ロウは背筋に冷たいものを感じていた。
「ではジャグアよ、お前を国に戻す、しっかりと統治せよ」とジャグアに言い
「タキトス、お前達はこれが終われば帰っていいぞ、あとは俺の仕事だ」そう言って帰らせることにした。
そして兵達の方を向き
「グレイス帝国の兵士達よ!安心せよ!我々が居ればお前達誰一人とて傷つけはさせん!引き続き帝国を守ってくれ!」
と叫び、ロウに
「では帰り支度を」と言って兵たちのところに向かわせた。
「では行くか、ジャグア」グレートドラゴンを呼び出し、ジャグアを掴ませた。
オサムはそのまま飛び立っていき、都と思われる大きな街の中央付近の広場にジャグアを置いて自分は飛び降りた。
「ここがお前の都で合っているか?」と訊くと
「そうです、あれが居城です」と震える指で大きな建物を指差した。
オサムは
「もう攻め込んでくるな、さもなければこの国を完全に滅ぼす、お前も斬る」
そう脅してから
「グレイス帝国の属国の件は誓えるか?」と畳み掛けた。
「わかりました陛下。もう逆らおうとは考えられません」
ジャグアは硬直したまま小刻みに揺れ、そう言った。
「では、統治は任せる。また来るぞ」
オサムはそう言い残してグレートドラゴンで帰った。
オサムは一旦副都に飛び、ロウと話をまとめてから帝都へ戻った。
途中各都市にも降りて見て回ったので、タキトス達に遅れること4日の後帰ってきた。
「ただいま帰ったよー」と言って城の入口に入ったが
「え?またわからんぞ?増築しすぎたか?」と戸惑っていると
「おかえりなさいませ、陛下」とハロルドが来た。
「すまん、俺の部屋を見失った」オサムが言うと
「最上階の奥でございます」と上を指差した。
「あ、そっか、こっちは吹き抜けにしたんだった」と広いロビーの真ん中に立つと
「ほいっ!」と5階まで飛び上がった。
手すりを乗り越えて着地し「よし!15.00!」と両手を広げていると
「陛下、またそのような登り方を」
リムルが近寄ってきた。
「いいじゃん、そのためにここだけ吹き抜けにしたんだしさ、降り方はわかってるし」
と言って今回は譲らなかった。
「ここは俺専用の通路だもんねー」と楽しげにしていた。
「ちょっと着替えてくる」と言って「ここだ、この部屋」と入っていった。
リムルはオサムについて部屋に入った。
オサムはガチャガチャと鎧を脱ぎ、平服に着替えて部屋を出ようとすると居間にリムルが座っていた。
「今回も無茶をしてきたとお聞きしましたが?」
リムルはタキトスから全て聞いていたようだ。
「南の帝国もご領内に納めてしまわれたとか、しかもお一人でその皇帝をお連れになって」
「強い奴だったからね、分かるんだよ、俺達の強さが余計にね」
オサムはジャグアの事を思い出していた。ロードナイトのレベル50。
インペリアルセイヴァーのレベル150のステータスを見れば力量の差はすぐに分かる。
「俺はなんとなく気に入ってね、とりあえずは自由にしてもらうことにした」
世界で自分達以外に初めて見つけたロードナイトだ、気になっても仕方がない。
それに、もう絶対に逆らわないという自信があった。
ジャグアのステータスを見たが、明らかに剣士レベル50で転職している。インペリアルセイヴァーには成れない。
3日後ロウから書状が届いた。
正式にジャグアの帝国ルアムールがグレイス帝国の属国になったとのことだった。
近い内に皇帝本人が直接帝都に行くとも書いてあった。
『やはり判断が早いな、見込んだ通りの男だったか。よかった』オサムは思い
「直接ね、何に乗って来るんだろうな、楽しみだ」と独り言をした。
そしてその1週間後にジャグアが衛兵に連れられてやって来た。
「よう、ジャグア、何に乗ってきた?」と訊くと
ジャグアは
「ガルダですが、呼びましょうか?」
そう言ってオサムと共に庭に出て笛を吹いた。
天空から巨大な鳥が降り立ち、庭にふわりと降りた。
「私のガルダです」ジャグアが言った。
「初めて見るな、南方のダンジョンか?」オサムは訊いた。
「我が国、いや、今は陛下の領土ですがその西にあるムーラの塔の最上階に居ます」
ジャグアは説明した。
「ジャグアの国で良い。ただし帝国ではなく王国としてグレイス帝国に組み入れられるが」
「それで?その塔はどこにある?詳しく知りたい」
オサムの冒険癖がウズウズと動き出した。
「いつでもお連れ致しますが?陛下」
話を聞くとアレシャルの塔やメラススの塔と同じように山の上にそびえているという。
ということは地下にはドラゴンやヴァレス、ワイバーンも居るだろう。
オサムの知る限り、ドラゴンは地下に居る。そして横穴から出入りしているのだろう。
一度オサムは山の中腹から入ってみたが、途中で迷いそうになったのでやめた。塔を下るほうが簡単だからだ。
そうこうしている内にクイードを初め8人が集まってきた。
「これは、グリフォンでは無いですね、巨大な鳥だ」
ハンビィが言い
「見たこともないモンスターだな、あ、ジャグア。お前の鳥か?」
タキトスが言うと
「ジャグアは我が帝国の国王だ、陛下と呼べ」とオサムが言った。
「ではジャグア・・・陛下の国は正式にグレイス帝国に?」
タキトスが訊いてきたので
「そうだ、南方全ての地域を国王として治めさせる」
「それで良いのだな?ジャグアよ」オサムがそう言うと
「その通りです、私では到底かないません」ジャグアが両手を合わせて礼をした。
「グリオン、エスカニア国王と同等の地位を与える。領土の規模は桁が違うがな」
オサムが言うと。
「この方々は陛下の家臣ですか?全ての方が陛下と同じ”帝国の剣”ですが」
ジャグアは驚きを隠さなかった。
「世界は広い、痛感しました。グレイス皇帝陛下にこれを」
と地図を見せ
「今回陛下の領土となった証です」ジャグアは跪いてオサムに渡した。
それを受取り
「何日くらいここに滞在できる?」とオサムは尋ねると
「3日程度なら、家臣が国を束ねてますので」
ジャグアは答えた。
「よし、じゃあメラススの塔に行ってみるか、今から」
「クイード、ハンビィ、クラウド、アンカール、付いてこい」
オサムはそう言ってジャグアを塔に連れて行った。
「ここが我が帝国の最強のダンジョンだ。入るぞ」と言って全員で降りた
「誰か2人は常にジャグアに付いておくように」とだけ言って
「まずは俺から、順番だ」と最初の階のゴブリンキングを一撃で倒した。
「半日掛けるつもりでいいぞ、次はクイード」
と言って1階層毎に入れ替わってボスモンスターを倒していった。
アレシャルの塔と比べてメラススの塔は数段手強い。
最後の200階層のグレートドラゴンはオサムが倒した
ワープポータルで地上に出た時は日が傾きかけていた。
「少し時間を掛け過ぎじゃないですか?陛下」とクイードに言われたが
「1日10回も20回も倒すようなペースじゃ見せられないだろう」
オサムはそう言って
「どうだった?」とジャグアに聞いたが
「途中からは私では倒せない敵ばかりでした・・・」
そう言ったきり黙ってしまった。
「じゃあ夕食にするか、今日は男10人で食うぞ」
オサムはそう言って城に帰った。
城の食事部屋には迷わず行けた。
ジャグアとオサムが待っていると、クイード達8人がやってきた。
カッシュに言い付けた通り、料理がこれでもかと言うほど運ばれてくる。
「こんな料理は初めてです、陛下。素晴らしい!」とジャグアは食事を楽しんだ。
オサムは
「それは良かった、昨日の敵は今日の友と言うだろう?意味はわからんが、まぁそういうことだ」
適当に言った。
「ダンジョンはどうだった?」と訊くと
「私には到底攻略できるものではありません、世界の広さを思い知らされました」
ジャグアは率直な感想を述べた。
「うん、ロードナイトのレベル50だとあのダンジョンの攻略はまず出来ないな」
ジャグアの言葉を通訳するようにオサムは努めていた
今後の事やカオスキーパーの事を含め色々と話しをし、食事と休息は終わった。
1日だけ滞在し、ジャグアはやはり国が気になるということで朝に飛び立っていった。
「ムーラの塔か、時間がある時に行ってみよう」オサムは楽しげだった。
これで大陸の南方に橋頭堡が出来たことになる。大陸南の中央部には大国や小国が数あるが、それも統一されようとしていた。
他にはグリーシア帝国の東南部に数か国、これはいずれグリーシアが取るだろう。
ジャグアの国が足がかりになることには間違いない。ルアムール王国、死守すべき領土がまた増えた。
しかし、オサムの考えとは微妙に違ってきている。
大陸統一は今のオサムの頭にはなかった。
「連邦制、その頂上にグレイス帝国を置く。そのつもりだったのになぁ」
リムルが眠ってしまい、オサムは一人別室のベッドで今後の事を考えていた。
新たに帝国に組み入れたルアムール王国もオサムの手で道路網やインフラが整えられることになった。
今度の国は巨大な帝国だったため、最初にグレイス帝国の者が手本を見せて教え込み、その後はジャグアに任せることにした。
資金として銀貨3億枚を渡し、ルアムールの国土は様相を変えていった。
道路だけではなく河も整備し、軍や統治組織も整えた。
数十万の兵士は土木作業員でもあり、着々と隅々まで統治出来るようになっていった。
オサムは民に危害を加えたり他国に攻め込む事が無いように厳命し、内政は充実した。
「俺ではこんなこと考えられない」ジャグアは副都でロウから渡された本を読んでいた。
「勝てるわけがなかったな、あの方には」本を閉じ。
「帝国法か、ここまで考えられているとは、大帝国を維持出来るのにも納得できる」
ジャグアはガルダに乗って王国全土を見て回った。
「職がなく貧しい者も飢えない国造り、民は宝か。穀物も帝国から頂いたし、もう戦乱は起きぬようにせねば」
眼下に広がる一変した国土を見ながらジャグアは出来る限りの事をやると決めた。
副都に飛んだ時にロウから
「陛下は神か救世主だろう」と言われたが、自分でもそう考えるようになっていた。
「私は陛下程私欲がなく民を思う方をいまだ知らぬ」ともいわれていた。
ジャグアは国内でよく産出する宝石を膨大な量集め、マジックバッグで帝都に届けさせた。
しかし、代わりに銀貨2億枚と青銅貨や黄銅貨50億枚が送り返されてきた。これからの流通の基本として使え。とのことだった。
ルアムール王国は税や国内外の取引全てに銀貨を使う事となった。
自分が起こした統一の戦乱の復興も行い、文字や貨幣を統一した。
王宮からそう離れていない場所のオサムが作った城塞都市は帝都と副都の大使の居城だったので内政に対する干渉も無い。
ジャグアはオサムに守られながら国造りをしていることを思い知らされた。
一方オサムは南方を手に入れたことでスパイス等を簡単に入手出来るようになっていた。
定期的にかなりの量を買い付け、カッシュに試させた。
オサムが説明したので、カッシュの料理のバリエーションは更に増えた。
副都からもロウが材料と旧シャングールのレシピを送ってきていたので世界一の味を極めていった。
引きこもり体質のあるオサムにとっては料理と冒険、それに皆との時間が楽しみだ。
国土の整備については殆どが終わっており、城の文官に任せていた。
しかし
「何もすることが無いよー」オサムがまた駄々をこねだした。
リムルとロレーヌは「ゆっくり出来るじゃありませんか」そう言って慰めたが
「ムーラの塔に行ってくる」と言って城を出てしまった。
そして3週間程経つ頃に帰ってきた。
400回程度クリアして飽きたらしい。
「珍しいモンスターが多かったな」と言っただけだ。
オサムはその頃になると身長が2メルトに近くなり、タキトスを追い抜きクイードに届くかという程になっていた。
それに合わせて甲冑や剣も新しく作らせていた。
「こっちに来て何年になるんだろうなぁ、季節もないしカレンダーもないから」
と、オサムは自分が何歳になったのか忘れていた。27か8だな、多分。
「28ってことにしとこう。」オサムはどうでもいいことなので自分で決めた。
「多分働き盛りで何でもやってる時期だよな、サボり過ぎかなぁ」オサムはそう言うが
大帝国を作り上げ、しっかりと内政、外政やグランチューナーの務めも果たしている。
オサムにはそれらに対して”働いている”という実感が無かっただけだった。
実際のところ持ってきた本も全て読み終わり知識は世界一であり妻も子供も2人居る
巨大な事業をいくつも手がけている、世界の富の9割以上を持っている。
誰かに言われてではなく、自分が好きでやっていることだから趣味の範囲だと考えてしまっていた。




