5話 ミシュルと日常
リムルがスウェンに付きっきりなため、オサムの足は自然とロレーヌに向かった。
もう殆ど城から出ないロレーヌのために国外や世界のいろいろな話をした。
意外な事にロレーヌは読書家であったため各国から書籍を買い集め城内に大きな図書室を作った。
集められた書籍は古今東西あらゆるものが揃っており、世界最大の蔵書数を誇るようになっていった。
オサムはどうせなら書き写された本よりも原書を、と銀貨に糸目をつけず購入したためかなりの金額になった。
だが、その噂を聞きつけた原書を持つ国が、手元に書き写した本を残し、原書をグレイス王国に寄付をしだしたのである。
ロレーヌは喜び、オサムはそれが嬉しかった。
オサムは週に数日気まぐれにメラススの塔に出かけては剣を使いこなせるように鍛錬した。
数ヶ月の間平和な日々が続き、気がつくとオサムはレベル120のインペリアルセイヴァーとなっていた。
「どうやら上限が無いようだな、HPが100万近くになっている。」
戦いの中で確認した時にオサムはそれを知った。
ビーツやクライアンに次々と新作を作らせては装備を試していた。
「俺の装備好きは治らんな、作らせ続けるか」と言いながら城と換金所、ビーツやクライアンの工房を廻った。
その頃になると各国の困窮した民達はグレイス王国で新たな人生を始めていた。
よく働き、よく学ぶ者が多く、国家に保護された子供達は夢を持って学校に通っていた。
ビーツとクライアンの弟子たちは通常の装備や規格通りの物を作るが、本人達は研究の日々だ。
より良いものを求めて知恵と腕を揮っていた。
オサムはオサムの方でまた忙しくなりそうだった。
ある日のことロレーヌが
「陛下はいらっしゃいますか?」とオサムが甲冑と剣のデザインをしている時に執務室にやって来た。
「どうかしたか?ロレーヌ」とオサムが尋ねると
「このところどうも体調が良くなかったのです、確信が無かったので陛下には言っておりませんでしたが」
ロレーヌは気分が悪そうに見えた。
オサムは
「子供が出来たのか?」と言うと
「恐らくですが、しかしほとんど感じません。リムル様より軽いかと」とロレーヌが答えた。
「しばらく休め、侍女も増やすしリムルや俺が行くようにする。と言ってもお前は読書三昧だったな」と立ち上がり
ロレーヌを抱え上げ部屋まで運んだ。
侍女に「ハロルドに侍女を4名にするように伝えてくれ、暫くの間は誰かは寝ずに付いておくようにと」
そう言ってオサムはベッド近くに椅子を持ってきて座っていた。
「辛い中俺の小難しい話の相手をしてたのか?何故言ってくれなかった」とロレーヌの頭を撫でた。
「陛下のお役に立ちたくて、申し訳ありません」
「気付いてやれなかった俺が悪い。お前は騎士だから体力があっただけだろう?」
「今日は用が無いのでこの部屋に泊まる、お前の横で寝よう。気持ちだけでも楽になるだろ?」
とオサムはロレーヌを気遣った。
「神聖魔法士を連れてこい、ロレーヌを眠らせる」と侍女に指示した。
「お前は黙っていると無理をする、しばらくはよく眠れ。カッシュにも喉の通りやすいものを作らせる」
そう言って、眠らせるまでずっとロレーヌの手を握っていた。
数週間もするとロレーヌは元気になっていた。
「陛下のお話し相手も夜のお相手も出来ますし、もう問題ありません。
休養中に陛下が書かせたという本も読みました、不思議なものでしたが面白かったです」
ロレーヌが言うと
「夜の相手?それは駄目だろ?知識がないからわからないけど、無理をするとお腹の子に障るんじゃないか?」
とオサムは断った。
「では側室を取るか、誰か侍女を愛妾として召し上げられては?今はリムル様もスウェン王子に掛り切りでしょう?」
ロレーヌはオサムに言ったが
「要らん」と一言で拒否した。
リムルとロレーヌ以外は必要ない。オサムはそう考えていた。
以前でさえリムルに固執していたのであるから当然のことだった。
それに夜暇なら冒険に行けばいい。やることもまだまだ山ほど有る。
「それより休んでいてくれ、ロレーヌ」と本を置いてロレーヌをベッドに寝かせた。
そして、椅子をベッドの傍まで持ってきて続きを読み出した。
「もうしばらくはお前に付いておく、断らせん」と読みながら言った。
「陛下の強情には慣れております。ありがとうございます」
ロレーヌはオサムが傍に居てくれることが幸せだった。
その頃、クイードとタキトス、ハンビィは順に塔をどれだけ攻略出来るか競っていた。
3人が城の休憩室に集まり
「1日で7回が限界だな、陛下は20回は可能だと言うのに」
クイードが言うと
「そうだな、俺も7回が限度だ、ハンビィは?」
タキトスがハンビィに訊いた。
「8回は流石に無理だな、俺は二刀流なのでスキルは多いが」
3人は溜息をつき
「陛下は強すぎる。レベルが120まで上がっているし、インペリアルセイヴァーには限界が無いのかもな」
クイードが言うと
「そうか、限界がないということはどこまでも強くなれるということだ」
タキトスが気が付き
「よし、ビーツの鍛冶屋に行くか、陛下のデザインがあるはずだから作らせよう」
クイード達は城下のビーツの鍛冶場にやってきた。
「これは御三方揃って一体?」とビーツが尋ねると
「今我々が持てる剣の中で最高のものを打って欲しい、陛下と同じでもいい」
「レベルは40程度だが」
3人に囲まれながらビーツはオサムから手渡されたデザインとそれのレベル等詳細を確認していた。
「クイード様とタキトス様はこの大剣はどうでしょう?ハンビィ様は片手剣ですね?
クレイモアでも片手で扱ってしまわれるでしょうが。」と言いながら
「幾つか陛下が実験で作ったものがありますな、皆様奥へどうぞ」と3人を連れて行った。
かなり広い工場だが、その一角に20振り以上の剣が見えた。
「これらですが、陛下から申し出があれば御三方に渡すよう言い使っております
「手にとっても良いか?」とクイードが言うと
「どうぞ」とビーツが答え、3人は1振りずつ確認していった。
「これは陛下が使っていたものか?」とタキトスが訊くと
「新しい大剣を10振り程お渡ししたので、陛下が置いて行かれ打ち直してみました。
確かそのデザインで4振りはあるかと。ハンビィ様が扱える剣も10振りはあります」
「まだ少しレベルが足りないが、これを持って帰ってもよいか?」クイードが大剣を軽く振って言った。
「俺もこれを」とタキトスが片手で大剣を掲げて歪みを見ていた。
「皆様にはご自由に、と言われておりますのでどうぞ」ビーツが勧めた
「俺にはそれは無理だな、ではこの3つを」
とハンビィが手にしているのは本来ロードナイトでも両手でしか扱えない剣だったが、
2本を軽々と扱っていた。
「では、また強くなってくるのでもう少しレベルの高い剣を用意しておいてくれ」
そう言って3人は帰っていった。
「まったく、聖騎士様ってのはバケモノばかりじゃわ」と楽しそうにビーツは独り言を吐いた
3人はまた一人ずつ日を変えて塔攻略の回数を競っていた。
「俺はレベル50で1日10回いけるようになった。剣の力も大きいな」
クイードが言うと
「俺はまだ10回にギリギリ届かないな、レベルは51なのに」
タキトスが悔しそうに言った
「レベル51で昨日11回行けた、確実に強くなっているな」
ハンビィは嬉しそうだった。
「とは言え、晶石だけでいくらになった?このレースで稼いだ額20億枚は下らんだろう?国庫が恐ろしいことになってたな」
クイードが言うとタキトスとハンビィも大笑いした。
「確かに。50億枚を超えてたな、国庫分」と笑いながらタキトスが言った。
「しかし、陛下の事業には足りんかもしれぬし、ロレーヌ様の御子がお生まれになるまでに100億枚にしておくか?」
3人はとんでもない話題で盛り上がっていた。
その時声を聞いたのかオサムが休憩室に入ってきた。
「これは、陛下。いかがなされました?」とクイードが尋ねた
オサムは椅子に腰掛けながら
「先ほど晶石の換金に行ってきたのだがな、50億枚を超えて居たぞ?お前達の仕業か?」
笑顔でオサムが問うと
「先程はその話で盛り上がっておりまして、皆で笑っていました」タキトスが言った。
「アレシャルかメラススの塔に行っているのか?アレシャルなら俺は魔法無しで1日20回程度だがお前達は?」
オサムが訊くと
「はい、大体10回前後です、今のところ」
とハンビィが答えた。
オサムはそれを聞いて
「10回もか?!それならもうモンスターの群れも全く問題ないな。とはいえ、お前達も早く子供を作れよ?可愛いぞ?」
とオサムは言い
「お前達に追い抜かれるのが嫌だからじゃないからな?」
そう言うと4人で大笑いした。
クイード達3人が集まって居る時、ファシリアやミーシャ、ヴィオラもそれぞれの屋敷を行き来し楽しんでいた。
ヴィオラが
「このあいだですが、指輪のことを旦那様に尋ねたら、ゴールドドラゴンの鱗と角で作ったとか。
ファシリア様やミーシャ様もそうでしょう?他国では国王でも持っていない国宝級のものらしいです」
というとファシリアも
「私は騎士でしたからドラゴンの強さはよく知っています。確かシルバードラゴンで
アレシャルの塔の80階層・・・ゴールドドラゴンならもっと深いでしょうし、
20人の騎士と強力な魔道士達でも勝てるかどうかという相手らしいです。それを一人でって呆れました」
ミーシャは
「全ては陛下のお導きでしょう。旦那様達はひとえに陛下のためだけを考えておりますね。
私達への愛情の深さも陛下に倣っているようです、陛下は特別と申しておりました」
ミーシャが続けて
「私達は素敵な方々と出会えて幸せですね」
と言うと
「大陸中を探しても陛下や旦那様達、あのように私欲の無い方々は居られぬでしょう」
ヴィオラは答えてファシリアも同意した。
「それに、戦や冒険で未亡人になることも考えずに済む位に安心できる強さもお持ちです」
ファシリアは騎士なので3人の強さをよく知っている。騎士程度では計り知れない強さだ。
「そうそう、陛下は昔お城を切り崩したんですよ?ライツェン国王陛下のものも」
ヴィオラが言うとミーシャが
「私はその場に居りましたが、グリオン国のお城を崩されたのを知って試したらしいです」
と言ったが、真相は知らないようだ。
そんな会話が3人の夫人の毎日の楽しみになっていた。
オサムはロレーヌが完全に安定したので会食の場に連れ出すようになっていた。
今回はロレーヌの懐妊祝いを兼ねて以前のエリトール騎士家の時の宴席だった。
グレイス王であるオサム、クイード、タキトス、ハンビィ、
リムル、ロレーヌ、ミーシャ、ヴィオラ、ファシリア、エリス
ケンテル、カッシュ、ユゼム、アリエル、ミランダそれにハロルドである。
「今夜は祝いも兼ねてだが、皆の力があってこそグレイス王国が成り立っている。
ここに集まってもらったのは、私が騎士位を頂いた時からの者とロレーヌ
それと従者であったクイード、タキトス、ハンビィの夫人だ」
「お前達に支えられ、私は王となれた。感謝する。これからもよろしく頼むぞ皆」
と言って食事が始まった。
ヴィオラが嫁いだため、侍女長はエリスとなっている。まだ若いがかなりしっかりしてきた。
ケンテルは馬係から宮廷厩舎長となり大勢の部下を指導している。
カッシュは料理長、ユゼムは副料理長として常に150名程の料理人を鍛えている。
アリエルとミランダは召使いから王妃付きの侍女となり侍女長のエリスを手伝って城の雑事をこなしていた。
ハロルドは家令となり10人以上の執事及び執事補佐と共に城や王宮の一切を仕切ってくれている。
「こうやって揃うのは久しぶりですね、あの頃を思い出します。まだまだ弱かった」
クイードが口火を切り
「私どもが陛下や伯爵様達と食事など、身に余る光栄に感謝いたします」
ハロルドが代表して皆の気持ちを述べた。
「俺はかまわないよ、皆の顔を見ると落ち着くからね。月に1回位こうするかなぁ?子爵になったときの奴らも今度集めようかな」
と昔のオサムの話し方で話し出したが、誰も違和感を感じなかった。
「普段は王様してなくちゃいけないけどさ、この顔ぶれは落ち着くよ、ほんと」
「それで、皆今の仕事に不満とか無い?あるなら直接言ってくれればいいからね」
「で、カッシュ。今日は下拵えも全部任せてきたのかな?」
とオサムが訊くと
「教え込んだ料理がきちんと出来ているか確かめるためにも全て任せました」
と答えた。
「そっか、それでこの味ならかなり鍛えられてるな、宴席でも各国の使者や国王が驚いてた」
オサムに言われカッシュは
「全て陛下に教わったものですが、私なりにアレンジを加えてみたりしております」
そう言われ
「そうだねぇ、俺の知らない料理も出てくるし毎日楽しみにしてるぞ」
オサムがカッシュを褒めると皆が、その通りと言わんばかりに頷いた。
ハンビィが
「私の屋敷の料理人もカッシュの古い弟子ですから、食事の時間が楽しいです」
と言うと
「何故このようなお料理が作れるのですか?ライツェンのお城でもこんな御馳走は無かったですよ?」
ミーシャが尋ねると
カッシュは
「陛下がレシピを限りなく教えてくれますので、各国の料理長にも負けない味を探求しております」
と答えた。
「手紙を持ってきただけの使者が1週間も帰らないこともあるもんなぁ、多分大陸一の料理人だと思うよ?カッシュ」
オサムにそう言われてカッシュは嬉しくて更に腕を磨こうと誓った。
「ハロルドもエリスも忙しいだろうけど頼んだよ。アリエルとミランダもリムルとロレーヌを頼む」
オサムが食べながら言うと
「陛下、お口にものを入れながらお話なさらないほうが」とやんわりロレーヌに諭された。
「ロレーヌもそういうところ、変わってないね」とオサムは笑った。
タキトスが
「変わらぬのは皆同じです。皆陛下の事が好きなのです」と皆の気持ちを代表した。
その日の夕食は全員にとって楽しいひと時だった。
料理に関して言えば、一番下の召使までがカッシュ達の料理を口にしている。
パンとスープに焼いた肉、などというものではなく、様々な料理が日替わりで出て来る。
ただ生きるためだけに食っていた時と比べると、王都で働きだした日からは別世界の食事となった。
中には食事のためだけに身を粉にして働く者も居るくらいだ。
食うや食わずの生活が、王城や王宮で働くことで一変してしまう。
しかも身分に関係なく職業を選ぶことが可能だ。
中にはカッシュに料理を習ってから街で店を開く者も居た。
王都や他の都市で働いても他の国で働くより稼げる上に安全で福祉も施設も整っている。
一度グレイス王国に来たものは他国には交易や公務以外では行かなくなるようになってしまっていた。
グレイス王国国民の権利は高く売れるのだが、誰も売るものは居なかった。




