3話 王国の進歩
オサムは各国から腕の良い職人や人材を引き抜いていた。
当然、以前オサムの屋敷を作った棟梁も既に城下に住まわせている。
引き抜かれた者の多くは遠い国からの移住になるが、誰もが喜んでやって来た。
グレイス王国の建築技術や土木技術は当たり前だが世界最高である。
徴兵もなく仕事に専念出来、家族も平和の中幸福に暮らせる。
多くの者がグレイス王国への移住を希望していた。
だがそれを受け入れるだけの住居は今のグレイスにはない。
オサムには分かっていた。住居を持てない者が流入してくるとスラムが出来上がったり犯罪が増える。
まずは一定以上の技術か財産を持つ者だけに移住の許可を出した。
王都を始め、国内の警備を厳重にし、許可を得ていない者の流入を一時的に遮断した。
その間に王都の外周側の地区に道路を張り巡らし、数百万人を受け入れられるだけの準備が整えられていった。
グレイス王国の元となるグリーシア時代の人口は約150万人である。その内騎士を含める兵士が20万人を占めていた。
兵士の家の者を除くと純粋な人口は80万人程度になる。
これは殆どが商人や技術者、農業従事者だが国の広さに比して少ない。
グリーシア帝都の人口よりも少なかった。
それがオサムがこのグリーシア皇帝直轄地を国王領として受け取った時から徐々に増え始め、騎士や兵士を引き上げ終わった時にも人口は最初よりも多くなっていた。
つまり、新規流入の土木作業員や建設作業者が兵とその家族の数を上回ったということである。
そしてオサムが国家樹立の宣言を行った時には人口450万人、国土規模と同等の人口となっていた。
人口の殆どが何らかの職人か商人、農業従事者であり、人口バランスは良かった。
しかしオサムが新たに指示した工事のため、商人や職人、労働者の数が足りなくなっている。
オサムは更に移住者を募り、土木や建築、建造などで城下は活気に満ちていた。
国内は銀貨や青銅貨、金貨で溢れ、各国から運ばれてくる資材や物品、農産物は膨大な量になった。
現在発展中の王国は大陸の中でも非常に安定した国となっており、冒険者や移住者も増えている。
法を遵守させるため、街を4つに割り、各地区に警察組織を作り正規兵に城下のパトロールもさせていた。
同じように王都以外の城塞都市にも作った。
オサムの世界のような近代国家にするのが目的である。
グリーシア時代雑多に入り組んでいた小さな城下は道を整備し、大通りを作り外周に近い部分と城近くで様相を変えていた。
同時に要塞化されていた丘の上は解体され、膨大な石材は現在の城や宮殿に再利用されていた。
商店や宿泊施設、直属の家臣や上級騎士などは城近くに置き、民衆は外周近くの区画へと住み替えさせている。
土木や建築の職人は王直属の組織とし、会社組織に近い集団とさせた。
外周側の城壁内はスラム化の危険があるため内側よりも道路を広く作った。
一番細い道路でも幅15メルト、大通りは今後のことを考えて100メルトの幅を確保した。
全部で12区画、5キロ四方のブロックを作り必要な公共施設を中心に街区を作り上げることにしている。
港も大規模に整備を行い、交易に使える巨大な船もかなりの数を作らせた。
郵便システムも確立させ、娯楽のための演劇場も作り楽団も揃えた。
人口が膨張したため一時的に落ち着ける住まいも城下の外周付近、城門近くに急遽用意した。そこならば常に警備兵や城兵が居るので安全だ。
いずれ住居街や商店街が作られれば外周部分でも普通の生活を営めるようになるだろう。
同時進行で城近くの庭園に巨大な屋敷をもう一つ作り、迎賓館として城と繋げることにした。
大量の資材と人員を投入し、王都は他国を凌ぐ最先端の都市となった。
王国直属の兵以外にも多くの召使いや侍女、侍従、文官を補充、教育し
王を頂点とするが、立憲君主制も交えた国作りが行われた。
ざっと銀貨3億枚程度の事業となる、維持に年間に相当な額が必要だがグレイス王国なら問題はない。
「これで文明的な街に仕上がったかな?」オサムは城の展望台から城下を望み一息ついた。
忙しく働いたため、さすがのオサムも疲れていた。
しかしインペリアルセイヴァーの体はその程度で悲鳴を上がるわけがない。
オサムは執務室からリビングに戻り
「あー、やっぱり疲れるなぁこれだけのことを一度にやると」
と言って長椅子に体を投げ出した。
「お疲れですか?」とリムルとロレーヌがやって来てオサムの近くに座った。
「ん、問題ないよ。少し頭を使っただけ」天井を見上げながら
「理想の国を作りたいから仕方ないよね、理想の世界か」と言った。
「陛下はいつものんびり過ごしていらっしゃったので、この数ヶ月は大変でしたでしょう」
ロレーヌはリムルと同様にオサムを気遣ってくれる。
「リムルの言うとおりロレーヌを娶って正解だったよ、良く俺を支えてくれたね、ありがとう」
オサムは感謝していた。
最初はリムルに遠慮していたが、リムルは王族とは数多くの妃や愛妾を持つ者だと知っている。
知らない者ならともかく相手はロレーヌである。グレイス国王となったオサムには自分よりも相応しいとさえ思っていた。
「そうですね、早くロレーヌにも御子を授けてあげてください」
リムルは嬉しそうに言った。
「いえ、私などにお気遣い無く。陛下に選ばれて娶って頂いたわけではないので」
ロレーヌは自身の立場を理解していた。
暫くするとクイードがやって来た。
オサムは起き上がり「どうした?何かあったか?」と訊くと
クイードの後ろに居たミーシャが姿を見せた。
「陛下、まだ時期は決めておりませんが、このミーシャを私の正妻としたく考えております」
クイードは決心した様だった。
ミーシャはライツェン王国からロレーヌの儀式の際に王の一団と共に来たのだが、
本国へ戻る際にどうしてもということでオサムが預かっていたのだった。
一月に一度程度クイードが男爵家へ送り迎えしていたが、その際に気が合ったのだろう。
「うん、いいね。時期が決まったら城の大広間で儀式をしよう」
オサムは即断した。
クイードの巨体と比べるとかなり小さく見えるが、似合っているように思えた。
「まあ座って、二人共」と言って座らせた。
「あー、ミーシャはライツェン国の宮中の男爵だったなぁ、俺のクラッセ公爵領からも誰か呼ぶべきかな?」
オサムは思い出した。
「こういうときはどうすればいいか知ってる?ロレーヌ?」
ロレーヌに尋ねた。
「ローレンダーク伯爵はグレイス王国の者ですから、グレイス国王陛下としてなさるのが良いかと」
と言われたので
「じゃあ、そうしようか。しかし各国に領地まだ持ってるんだったよなぁ、俺たち」
全て国家騎士団、特に黒狼騎士団から信用出来る者達を置いているが、時々様子を見に行かねばならなかった。
任期は2年としているが、任された領地全てを管理する激務であるので労らねばならない。
「ハンビィやタキトスに一度全領地を回るように言っておいてくれないか?クイードも出来るなら」
オサムはここ数ヶ月そのことを忘れていた。
そしてもう一つ重要なことを思い出した。
各国に持つ領地を見て回った時に知った、戦乱で親を失った子供達や働けるにも関わらず職の無い困窮者達だ。
国は彼等に庇護の手を伸ばさず、仕方なく野盗になったり盗みを働き罪を犯してしまう。
オサムは日本人であるため、ジニ係数を極力抑えたかった。貧しさや将来への不安は人の心を蝕む。
グレイス本国の大資本家と言えるのはオサムとクイード、タキトス、ハンビィだけだ。しかも桁外れである。
国家騎士の最上級に属する王宮騎士団の団長は年間に銀貨5万枚、団員で銀貨1000枚から1万枚である。
黒狼騎士団は名誉職的な意味合いがあるため、団長で年1万枚、団員は一律で2000枚としていた。
侍従や侍女が月に銀貨2~4枚、一番下級の召使は月に銀貨1枚、これに年2回月給6ヶ月分の特別手当が出る。これは他国と比べるとかなり高給となる。
余分に賃金を与えているのは、経済を回すことが目的であり貯蓄よりも消費させることが目的だ。
「クイード、頼みがあるんだが、各国の親を亡くした子供達や困窮者を一時的にその国に持つ誰かの領内に集めてくれないか?
ある程度集まったらこの国に連れてきて、そうだな、大人は労働者として職を与え、子供には教育を施したい。
犯罪者予備軍なので国にとっては鼻つまみ者だろう?もし何か問題になればハンビィに話をさせろ、あいつは外交に向いている」
「わかりました、今日からでも動ける者から」クイードは紅茶を飲み干した。
「他に何か有るかな?変わったこと」オサムが尋ねると
「何やらハンビィがファシリアを連れて冒険をしているようですが。それ以外は、そうですねぇ」
とクイードが答えた時にヴィオラが紅茶を淹れ直した。
「あぁ、タキトスはヴィオラを気に入っているようですね、ミーシャの話になるとあいつはヴィオラの話をしだしますから」
クイードが言うと
「え!?」とヴィオラが反応した。
「あ、ヴィオラ居たんだったな、すまん。タキトスの話は直接聞いた話ではないので気にしないでくれ」クイードは軽く流したが
「そうなのかぁ、タキトスがね。じゃあヴィオラに爵位を与えておく?貴族にしたほうがタキトスもヴィオラに言いやすいだろ?ロレーヌどうすればいいかな?」
と勝手にオサムが暴走し始めてしまった。
「まだヴィオラの気持ちを聞いてませんのでなんとも」とロレーヌは答え
「タキトスの事をどう思っている?」とヴィオラに訊いた。
「陛下の次に尊敬しております。お優しく楽しい方で、立派な聖騎士様ですから、あの方を好きでない者はこのお城には居ないでしょう。
でも私は陛下の侍女ですし、爵位などとんでもありません」
ヴィオラがそう答えると
「ふーん、じゃあまんざらでもないんだ?タキトスの事。あいつの屋敷の方に移るか?」
オサムは勝手に話を進めていく。
「ヴィオラ、誰かにタキトスを越させるように言ってきてくれるか?」
しばらくしてタキトスが急いでやって来た。
「何でしょうか陛下、モンスターの大群でも?クイードも来てるんだな?ん?ミーシャを連れて?あぁ、儀式の話か?」
タキトスは既に知っていたのでその件で呼ばれたのだと考えた。
「そうではない、急がせて悪かったなタキトス。なにやらヴィオラに関心があるようだとか?クイードから聞いたが」
オサムが言うと
「クイードお前、陛下に言ったのか?」
タキトスは少し怒ったがオサムの前なのでそれ以上言えない。
「ヴィオラをお前の侍女として、後々爵位でも与えようかと考えているがどうだ?正室として娶れるぞ?」
オサムは何も考えず完全に暴走していた。
そのやり取りを見ているヴィオラはハラハラしていた。自分の知らないところで話が進んでしまっている。
タキトスは後ろを振り向きヴィオラを見て
「そのようなこと聞いたことがありません」狼狽した。
「俺はリムルに公爵位を与えて正室にしたぞ?俺はお前達がどうしようと文句は言わんが?」
「ヴィオラ、どうだ?この話」とヴィオラに訊いた。
「そんな、シュルツ様のご迷惑になります」
ヴィオラは答えたが
「ほら、ヴィオラが困ってるぞ?どうするタキトス?」
からかい半分だがオサムは絶対の忠誠を誓われている国王である。しばしばその立場を忘れるが。
「わかりました、そのようにさせていただいて良いなら、ヴィオラはそれで良いのか?」
タキトスはヴィオラに真意を確かめようとした。
「ありがたい話ですが、その、正室ですか?私のようなものが聖騎士シュルツ伯爵様の?」
「うむ・・・俺はそう望んでいるが、今日からでも我が屋敷に来てくれるか?」
タキトスはやぶれかぶれになっていた。
「じゃあ決まりだな、ヴィオラはタキトスの屋敷に。侍女としてではなく俺が子爵位を与えるので客人として入れ。それで身分の差は解消されるだろう?」
ここになるともうオサムは楽しんでいた。クイードも笑いをこらえていた。ミーシャは微笑んでいた。
「儀式はクイードとタキトス同時でいいか?ハンビィももしかするとだな」
完全にオサムは遊んでいた。タチの悪い国王である。
しかしリムルやロレーヌはともかくクイードやクラウド達、子爵時代の者達も家族のように思っている。
出来れば幸福になってもらいたいと常に願っている。
「ハンビィにも今度確かめてみよう、ファシリアだな、面白くなる」
と言って紅茶を飲んだ。
3人が大陸内の領地を確認に回っている頃、ツォレルン男爵がミーシャのことでやって来た。
本来オサムは面倒くさがりなので、謁見は殆どしないのだが、ツォレルン男爵となれば別だ。
「下の娘ミーシャがローレンダーク様に迎えられると聞きましてやってまいりました」
ツォレルン男爵はかしこまってと言うより縮こまってオサムの前に居た。
「そのようですね、クイードが直接行ったのですか?」と尋ねると
「はい、ミーシャを連れてお越しなさいました、良いのでしょうか?聖国グレイス王国の聖騎士様の正室に我が娘などを」
ツォレルン男爵は宮中貴族のため格式や身分を気にしているようだった。
「それと、このパスポートですか?グレイス王国の印章があるだけで他国の領土を素通りさせて頂けました。
一体グレイス陛下はどのような知識の持ち主なのでしょうか?賢君とはお聞きしておりますが」
「城下を見ても素晴らしく整っていますし」
「それについては国家機密となっているのでお教えできません、申し訳ない」
オサムの元の世界のシステムなど教えられるわけがない、実行によって知らしめるだけだ。
「いえ、そのような。私が愚かでした。本来お会いすら許されぬお方ですので」
ツォレルン男爵は萎縮した。
「で、用件は何でしょうか?」オサムが尋ねたが
「いえ、お礼だけのために来ました。娘をよろしくお願いいたします」
と言ってツォレルン男爵は部屋を出た。
『まぁミーシャとの話で何泊かしていくだろうし、用事があればその時聞けばいいか』
オサムは頭を使いすぎて休みたかった。誰とも会いたくない。
もうすぐ臨月を迎えるリムルに甘えるわけにはいかないし、とロレーヌの部屋へ降りた。
部屋を開けるとロレーヌは一人ゆったりと読書をしていた。
「陛下、いかがなされました?」と読んでいた本に栞を挟みテーブルに置き、扉の方に歩いてきた。
「疲れたか寂しいかその両方か、ロレーヌ、しばらく話の相手をしてほしい」
と言って靴を脱いでベッドに飛び込んだ。
「もう、陛下は働き過ぎなのですよ、今はリムル様もご無理出来ませんし、私で良ければいつでも」
と言いながらベッドに入ってきた。
「どうされました?お疲れのようですが」
うつ伏せで唸るオサムを見て背中を撫でた。
「疲れた、国王なんかより前のほうがよかった。ロレーヌー疲れたあー」
「わかりました、陛下。お気の休まるまでご一緒に居りますから」
ロレーヌは扉の方を見て
「またあの札をノブに付けたのですか?」とオサムに訊くと
「そうだね、誰も入ってこないようにした」と言ってまたロレーヌを抱きしめた。
甘えに来たためそんなところを誰にも見られる訳にはいかない。
この姿はリムルとロレーヌにしか見せないと決めていた。
エリスやハロルド、ヴィオラ達には情けない部分を知られているが、弱い部分は見せていない。
日が暮れ
「あぁ、もうすぐ夕食か、一旦戻るよ。ロレーヌありがとう、気疲れが取れた」
と部屋着から平服に着替えて出ていった。
この部屋にも自分用の部屋着を何着も置いてある。ロレーヌの部屋もオサムの寝室だった。
そしてロレーヌはオサムが自分に弱い面を見せてくれることが嬉しかった。
各国家を見て回らせ、城代に報告書を書かせるという任務を終えて3人が帰ってきた。
今日の夕食は厨房の近くにある小さな食事室、とは言え30人以上は入れるのだが。そこで摂ることにした。
クイード、タキトス、ハンビィと4人だけの夕食である。
オサムは「で、どうだった?まずは各地の戦乱、そして今回の本題で頼む」と3人に尋ねた。
「概ね問題はないかと思います。やはり陛下と我等の領地が各国の戦に楔を打ち込んでいますね」
「クイードの言うとおり、グレイス王国国王陛下と我が国の存在は大きいようで、小競り合い程度で済んでいます」
「グレートドラゴンを見ただけで争いをやめることもありました、陛下の策は実を結びつつあると思われます」
3人が各自で見聞きしたことを報告して、各領地の城代に作成させた書類をオサムに渡していった。
「そうか、争いを全く無くすことはできんが、詰まらぬ争いが減るのは良いことだな。それと本題の方は?」
オサムは国作りに実感を感じた。各地の争いは減っているようだ。
「国によって違いはありますが、やはり孤児や困窮者は居ました。私が見た限りは西方諸国に多いですね、戦が続いているからでしょう」
「南西諸国は比較的少ない、と言う程度で全体で見ると100万人以上は居るかと。全員を我が国に越させるのですか?数が多すぎませんか?」
その意見は全く正しいが、オサムはその状況を放置するつもりはない。
「100万が500万でも我が国で受け入れる。その準備も進めている。まずは俺とお前達の領地内に保護して十分に食わせてやれ、全てはそれからだ」
「穀物が足りないなら国庫から持っていけ、銀貨が必要なら何億枚使っても構わん、出来るだけ多くの者を救済しろ」
オサムは少子高齢化の進む日本からやって来ている。
その日本は一部で移民によってそれを解決すると言う意見が出ていることを知っていた。
日本では難しいだろう、だがグレイス王国は大陸交通の要衝であり、周囲を他国に囲まれた大陸国家だ。
人種も様々で他国と比較すると先進国かも知れないがそれほど差はない。将来のために若者や子供を受け入れるべきだと考えていた。
「俺の国作りに必要なことだ、よろしく頼む」
それに対して3人は「分かりました」と納得した。
オサムの考えていることは分からない。ただ今ではなく将来のことを考えて行動していることは理解していた。
各国の難民の話が終わったところで、オサムは別の話題に移ることにした。
「話は変わるがハンビィ、お前はファシリアを連れ出して冒険に行っているらしいが、どういうことだ?」
オサムが問い、後の2人は少し笑っていた。
「はい、ファシリアがロードナイトになりたいと言っておりましたので、その・・・」
ハンビィは言葉を詰まらせた。
ファシリアはグレイス王国の客人の身分である。勝手に連れ出して良いものではない。
「ただの護衛か?鍛錬に付き合っているだけというか?」
少し笑みを浮かべながらハンビィに問うと
「ファシリアの身を案じて付いて行っております。気が合いますので。
しかし、お役目に差し障りが無いよう努めているつもりです。陛下のお気に障ったでしょうか?」
ハンビィは叱りを受ける覚悟をしていた。
「そうではない、お前がファシリアの事をどう考えているか知りたいだけだ。クイードとタキトスはもう正室を決めた。お前はどうかと問うておる」
「ファシリアをですか?私が娶るかどうか・・・そういうことであれば」
ハンビィは少しの間考え
「迎えたいとは考えております。しかし陛下の客人でありますゆえに、未だ伝えてはおりません」
と答えた。
「ではファシリアをこの場に呼んで問うてみよう」
オサムはそう言って侍女にファシリアを連れてくるよう言い付けた。
暫くしてファシリアがやって来た。
「陛下、お呼びでしょうか」と言って入ってくると
「近頃ハンビィと鍛錬に行っていると聞いてな、何故ハンビィを選んだ?」
オサムがファシリアに問うと
「ストワード様は悪くございません。私の身を案じて、いえ、私がお頼みしてのことです」
冒険に出かけるのにいちいちオサムに報告する義務は無いのだが、ファシリアは狼狽した。
この場でハンビィが責められていると思ったのだろう。
だがハンビィが
「ファシリア、どうやらそうではないらしい。クイードやタキトスが正室を娶るので、我等2人の事を気にかけてくださっているようだ」
と説明した。
しばらくファシリアはわけがわからないような表情をしていたが
「ストワード様の正室に私がですか?それは、大変嬉しく思いますが、下級貴族の私では身分が違いすぎます」
ファシリアは顔を伏せた。
しかしハンビィが
「そこは考えなくても良いのだ。私もそろそろ妻を迎えたいと考えていてな、どうだろうか」
ハンビィは他の2人と比べると生真面目な部分があった。
タキトスは侍女であるヴィオラを迎える。オサムにより既に爵位を与えられ貴族になってはいたが元は町娘である。
グレイス国王であるオサムもそうだ、この国では身分の壁は存在しない。
「陛下のお許しは恐らくこの場でいただけると思う。どうだ、私の妻になってくれまいか」
ハンビィがはっきりと意志を示したのでファシリアは
「私のような者で良いとおっしゃられるならば、喜んでお受け致します」
と答えた。
「ということです、陛下」ハンビィは嬉しげだった。
「では決まりだな。3名それぞれ用意をしておけ、儀式はグレイス国建国の日とする。よいか?」
とオサムが言うと
「はい、お願いいたします、陛下。ありがとうございます。」
3人が膝を付き、オサムに礼を述べた。
「では、ファシリアはハンビィの屋敷に移るように。皆の指輪のことはビーツに頼むと良い」
オサムがそう言って4人を帰らせた。
ドア越しでも分かるような声で3人が話しているのがわかった。
「やれやれ、これで一仕事終わったな。あとはリムルの事に集中できる」
オサムは体を椅子に投げ出して一息ついた。




