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終わったならまた始めればいいじゃないか-推敲Ver-  作者: 朝倉新五郎
第二章 国王と神
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1話 グレイス王国

 その王都はグレイシアと名付けられた。

 小高い丘にそびえるように建つ豪壮で美しい城と巨大な王宮、無限に流れ続ける清水の小川や泉

 大陸で最も新しい国であるにも関わらず、その美しさは列国の王都を遥かに凌ぐ繁栄した都だった。

 都市をぐるりと囲んでいる城壁は高く、そして2重になっている。

 内側の城壁の縱橫は約10キロメルト、400万人が居住できる。

 1つ目と2つ目の城壁の間は5キロメルト、いずれその外周部分も街となる。

 最終的には1500万人が住める巨大都市になるだろう。


 オサムは以前グリーシア皇帝から与えられた国土と新たにグリーシアから追加された領土を

 帝国から完全に独立させ小国ながらグレイス王国と名付けた。

 グリーシア帝国領時代から莫大な銀貨を使い、城下やその周辺も作り直し、未来への足場を作った結果である。


 オサムは国王として家臣3人に伯爵位を与えていた。

 グレイス王国君主グレイス王アキバ・オサム・グレイス、それに

 クイード・ローレンダーク伯爵

 タキトス・シュルツ伯爵

 ハンビィ・ストワード伯爵

 国王及び実質的な領地を持つ貴族はこの4名である。


 そして、オサムはリムルにグレイシア公爵位。その美しい都の名を与え正室とした。


 国の成立を宣言した後、諸国はこぞって国使を送り、また王自らがやって来る国も有った。

 4人のインペリアルセイヴァー、神々の守護者達の統べる国である。

 グランパープル聖国と並ぶ聖なる国として敬われた。


 国庫には晶石を換金した銀貨20億枚以上と金貨5億枚程が有り、経済的にも最も豊かな国である。

 だが、その富を狙って他国がグレイス王国に攻め入ることはない。


 王やクイード達があまりにも強大な力を持つため、もはやどのような国も手出しができない。

 グレイス王国に手出しすればそれがグリーシア帝国であろうと簡単に滅ぶだろう。


 徐々に、ゆっくりと準備された王都には、様々な仕掛けが為されている。


 地下深くに張り巡らされた下水道や、清潔に保たれた上水道と中水道。

 そしてその水道を機能させる巨大な湖100個分のマジックポットやマジックボトルと呼ばれる一種のマジックバッグから流れ出す水。

 王都を始め、各城塞都市には多くの公衆浴場が作られ古代ローマの様な様相を呈していた。

 公衆トイレもだが、オサムは国民を清潔に保つ努力もしていた。

 一部の青銅貨を小さく作り直し、銀貨1枚に対して1000枚分の価値にしていた。

 公衆浴場を利用するのはその青銅貨1枚、公衆トイレは無料である。

 都市内各所に水道管を引き、各戸には無理だが概ね少し歩けば清潔な飲水がいつでも手に入るようにしている。


 水源は岩から湧き出る清水を多くのマジックボトルに溜めたものだ。飲水として数十年分となる。

 北の土地で汲んで来た湖の水は浄化の魔法で飲料水にも出来るので水に関しては無限かと思えるほどに備蓄されていた。

 水の管理は特にオサムにとっては大切で、木材や石材よりも重視していた。

 農業用水の方はダムを始め灌漑施設を整え、元々肥沃だった農地の収穫は品種改良の成果も加えて倍以上となった。

 雨が少なくダムが枯渇した時のために、水量が多い時の余った水を大きなマジックボトルに貯めていた


 貨幣価値も統一していた。元々有ったレセト金貨に通常流通しているシュレル銀貨、その10分の1の価値であるタイン銀貨。

 他にはシュレル銀貨の100分の1の大きなタイン青銅貨、それと同等の価値を持つタイン黄銅貨。

 これらをシュレル銀貨を基本にその50倍の価値に相当する50ドル金貨、シュレル銀貨は1ドル銀貨とし、1ドルを100セント1セントを10ペニーに統一した。

 10セントに相当する白銅貨、5セントには黄銅貨、1セントと1ペニーに相当する青銅貨を鋳造ではなく鍛造で作ることにした。


 夜の街の安全のために街頭も設置した。

 これは神聖魔法士のエターナルライトを使うのだが、深夜の街路も死角が出来ないように巧妙に配置されていた。


 また、木材や木炭を入手するために、各国の王や領主の土地に無償で道を作り、また、森を刈り開墾も行った。

 そこで手に入れた材木は手数料としてオサムやクイード達のグレートドラゴンで全てグレイス王国に運ばれた。

 オサムの考え方は、資源はできるだけ国外から調達する。であった。本国の資源は温存しておく。

 というよりも労働者の数が圧倒的に足りていない事も関係している。

 領土内の税を下げ、銀本位制で余剰物資となり他国に流出する前に買取り蓄えた穀物は数年分はあるだろう。これも放出するのは特別な時だけだ。


 人材面ではライツェン国王やフルグリフ侯爵に頼み、文官の数を揃えていた。

 グリーシア帝国時代の騎士やライツェン王国騎士家の次男や三男を国家騎士に取り立て、相応の住居を与えて住まわせている。

 領地は与えていないが立派な住居とかなりの銀貨、なにより聖国と呼ばれるグレイス国家騎士の身分を得て忠誠心は高い。


 他国の場合騎士団は国に属し、中でも強力な近衛騎士団が王直属となっているが、グレイス王国に王直属の近衛騎士は居ない。

 元々の従者である8名だけがオサムが信頼するいわば近衛騎士である。

 特別な騎士団は定員500名のエリートで構成される王宮騎士団と、能力で選ばれたグレイス黒狼騎士団がある。

 特に、黒狼騎士団は左肩の装甲部分を狼の頭の形にデザインし、ひと目でそれと分かる装備を特別にグレイス王から与えられた者達で城代や要塞の守備隊長に任命される。

 オサムによって巧妙に考えられており、名誉を重んじる騎士の思いを利用した制度だった。


 王宮騎士は他国の手前作ったもので、家柄を重視されるため張り子の虎のようなものだが、黒狼騎士団は違う。

 オサムが認めたものにグレイス王自らが、王宮騎士団を始め、クイード達やクラウド達、それに他の黒狼騎士団員が居並ぶ中で王から直接に装備を下賜される。

 その装備は黒に金をあしらった豪華なものであり、連絡用にペガサスやグリフォンも貸し出される。


 重視されるのは個人の能力だけである。そのため下級騎士や冒険者等の身分の低い者達はこの騎士団を目指す。

 このようにして団員と成るため、忠誠心も非常に高く、いわば王直属の近衛騎士と同等だという認識を持たれている。

 聖王、武王、賢王、最高の聖騎士と呼ばれるオサムがその能力を認めた騎士、それは王宮騎士以上に憧れの対象であった。

 他国の近衛騎士団長やグレイス王国の王宮騎士団員でさえこの騎士団に憧れを持っていた。



 これだけの国力や武力を有しながらもグレイス王国は戦を棄てた国であった。

 王であるアキバ・オサム・グレイスが極端に戦を嫌い、民を慈しむ。

 世界最強にして最も多くの知識を持つ名君と大陸各国に知れ渡っていた。



 しかしそれは表の顔であり、極めて親しい者はグレイス王がおよそ完璧とは程遠い人間であることを知っていた。


 「だれかー!おーい!」オサムが城の中で誰かを呼んでいた。


 「陛下、どうなされました?」

 エリスがオサムに声を掛けた。

 「あー・・・エリスか、良かった。あのさぁ城が広くて迷っちゃって、俺の部屋どこだったっけ?」

 オサムは以前の屋敷の20倍は有る城にどうしても慣れることが出来なかった。

 王宮であれば3階建てで造りも複雑ではないので自分の部屋にはたどり着ける。


 「フルグリフ侯爵閣下の城の何倍もでかいんだもん、迷路みたいだしさぁ何だよこの城」

 情けない声でオサムはエリスを頼った。


 「ここは以前グリーシア帝国の最前線の領土でしたから、元々のお城もライツェン国のお城より大きいと聞いております。

  それに、陛下の領土となった時から改装と拡張をご指示なさったのは陛下であらせられますよ?」

 エリスは言いながらオサムを連れて最上階へと続く込み入った階段を登っていった。


 最上階である5階の部屋へたどり着き

 「エリス、ありがとね。リムルー!」

 とまた情けない声でリムルを呼んだ。


 「どうされました?陛下また城の中でお迷いに?」

 図星を突かれたが

 「うん、もうやっぱりバルコニーから出入りするよ俺」

 と言うと


 「皆が驚くのでそれだけはおやめ下さい」

 とリムルに言われてしまった。


 以前、階段を使うと迷うからということで5階のバルコニーから飛び降りたり、地上からバルコニーに飛び乗ったりして見た者を驚かせてしまったのだった。


 「駄目かなぁ?」とオサムが訊くと

 「ご自由にしていただきたいのですが、陛下はグレイス国王ですよ?おやめ下さい」とリムルにきっぱりとまた言われてしまった。



 城や王宮自体も大きいが、庭も広大である。

 グレートドラゴンが4匹降りてもまだまだ余裕がある。

 丘の上の城の敷地だけでも小さな街なら一つくらい入ってしまう大きさだ。


 グレイス王国には8つの中規模の城塞都市と数多くの町や村が有った。

 必要は無いのだが、要衝には巨大な要塞が作られていた。


 貴族である3名の家臣は各々城塞やその周辺を領地として与えられていたが、王都の屋敷に住んでいる。


 オサムは人々の移動のために町や村、国土の隅々まで道路を整備している。

 これも古代ローマに習ったものだが、整備され舗装された道路は馬車等の移動を楽に出来るようにされていた。


 王国直属の騎士は国内全土で約3500人。これは戦力ではなく他国に対する見せかけだ。

 さらに傭兵を正規兵として雇い、総戦力を10万人とした。

 国家騎士や兵達は入念に教育を施され、一種の警察組織となっている。

 武力ではなく治安組織、大使やその武官。それがグレイス帝国の騎士や兵の在りようだった。

 これには毎年相当な銀貨が必要になるが、モンスターを倒せば3日もかからず稼げる額である。

 それゆえに王直轄領内の税は2割としている。


 庶民出身のオサムにとっては出来るだけ税を低くしたかった。しかし無税にする訳にはいかない。

 領内の者全てが幸福に暮らせる国、それだけを徹底した。


 王直轄もしくはクイードやタキトス、ハンビィが城主となっている城は、他の要塞も含め黒狼騎士団員の城代を使っている。

 これは攻め込まれることを想定していないためであるが、

 攻め込まれたとしても領土内ならグレートドラゴンで1時間以内に駆けつけて10万の兵でも片付けられるからだ。


 そして、アレシャルの塔と似たメラススの塔というものも国土の端に有った。

 以前オサムが大陸を飛び回っている時に入った塔で地下200層まである。

 オサムやクイード達の狩りは主にここで行われる。



 オサムは今まで以上に責任を持つこととなったが、幸いクイードとタキトス、ハンビィが軍事や外交で十分な働きをしている。

 内政面でも整えられた文官機構は国の隅々にまで行き届いている。

 絶対王政の国家ではあるが、国王が一部の権利を行政や司法に委譲し、ある程度の裁量は各街や村で出来るようになっていた。

 だが、裁判には必ず神聖魔法士と黒狼騎士団員が付き、冤罪は起こり得ない。

 そしてこの国に牢獄は無かった。罰金刑と追放刑のみで肉刑や労働刑は廃止されている。


 そんな整えられた国だが、国王の一部の部分に致命的な問題を抱えていた。

 それを知れば後世の歴史家の中にはグレイス王オサムのことを威厳のない愚昧な王だと表現する者が現れるかもしれない。

 とにかく楽観主義で王妃に甘え、仕事は丸投げにする。必要以上には絶対に働きたくない王であった。



 余りにも城で迷うので、リムルや3人に「住むのは王城じゃなくて王宮にしない?」と提案したが

 「王が居城に住まずにどうされますか。今は戦乱の時代です、王宮で過ごすのは余暇の時くらいにして下さい」と諭された。


 オサムは諦めて、国家運営に必要な事を行っていた。

 他には国王のやるべきことではないが、グランチューナーと言う責任も果たさなければならない。


 オサム達4人は各国に持つ自領に、これも黒狼騎士団から選んだ領事や城代を置き、外交官兼調査官としてその国家の情報を本国に送らせていた。

 そして自らは暇を見つけてグレートドラゴンに騎乗し周辺の様子を見ていた。

 モンスターの群れが発生する兆候を知ることは出来ないのか、と。


 しかし、この数ヶ月全く現れる様子がない。

 その日も4人で回っていたが、時間になったので王国で合流した。


 オサムは3人に

 「メラススの塔で少し稼いでくる。お前達はこのまま領土内を見て変化がなければ城に戻れ」

 と指示し、塔へ向かった。


 「さて、今回は何回攻略するかな?5回もクリアすれば1000万枚になるな。」

 そう言って休みながら1日も掛けずに5回攻略してしまった。


 新たに作らせたマジックバッグやグランパープルのマジックバッグは3重構造になっており、ほぼ無限かと思えるほど入る。

 クライアンが苦心の末に作り出した最高のマジックアイテムの一つだった。

 これは水を蓄えるマジックボトルや国庫や倉庫に使っているマジックボックスと同じ作りだ。


 城下にグリーシア時代から有った換金所の建物も非常に立派なものに建て直しており、中には商店まで揃えていた。


 これは換金所で武器や防具、アイテムなどを購入することが出来るようにだった。

 換金所の隣にはビーツの巨大な工房を作り、その横にはクライアンのマジックアイテム工房を作って移住させた。


 ビーツとクライアンはどうしても手放したくない人物であり、

 弟子や職人のために工房近くに家屋を建て、ビーツやクライアンには屋敷を与え住まわせていた。



 オサムが換金所で晶石を換金すると1200万枚だった。

 「これで兵達の分は稼げたかな」


 同時に換金所に国庫分の蔵も作らせており、必要に応じて取り出せるようにしていた。

 「ではこれは国庫の方に入れておいてくれ、今何枚有る?」

 と受付の女性に尋ねると

 「現在グレイス陛下は5億枚程度、国庫分は3億枚程あります。」と返答された。


 「えぇ?3億枚?何故そんな多くなってる?」

 王国建国時には現金で持っていたために換金所には預けていなかった。

 それでは何か事業を行う際にいちいち王都から運ぶのが面倒だと言うのでどこの換金所からでも引き出せるように1億枚だけ換金所へ入れていた。

 しかし銀貨1億枚と言えばライツェン王国や隣国のグリオン王国の国家予算を軽く超える。

 「陛下だけではなく伯爵様達3名も同様に国庫分に納められますので」

 そう答えられた。


 「そうか、ふむ」と言いオサムは城へ戻り3人を呼び出した。

 すぐに3人が王執務室、主室の横だが、そこに現れた。

 「今日換金所でお前達も晶石を国庫に納めていると聞いたが、自由にしてよいのだぞ?」

 オサムが言うと。


 3人は笑顔で

 「我々はもうそれぞれ2億枚以上の銀貨を持っておりますので、必要無いのです」

 と答えた。


 「そう言われればそうだな、俺も個人で5億枚預けている。そういうことか」

 オサムが言うと

 「そうです、もう我々に銀貨は必要ありません。領地の税も陛下に倣い2割としておりますし」

 続けて

 「たとえ飢饉となっても問題ないようにそれぞれが国民3年分の穀物をマジックボックスに蓄えております」

 と答えた。


 オサムは

 「お前達3人それぞれが3年分だと?国の倉庫用マジックボックスにも5年分以上蓄えてるぞ?」

 と言うと。

 「我が国は陛下の心が作った国。何があろうと民をいたわらねばなりません」

 「民の笑顔こそが陛下の望むもの。そのために我々も出来ることを行います」

 3人は完全にオサムに影響されていた。


 「そうか、お前達には色々と助けてもらっているな。何の礼も出来ないだろうがありがたく思う」

 オサムが言うと

 「これは陛下への御恩返しです。我々を導いてくれたのは陛下ですから。礼をするのは我々の方です」

 「下級騎士家も継げない我等が今では聖国グレイス王国の伯爵です。我々が陛下の事を考えるのは当たり前のことです」

 「陛下の助けになっているのかも疑問です。我々も聖騎士と呼ばれていますがまだまだ陛下に届きません」

 口々にオサムに対する気持ちを述べていった。


 オサムは

 「そうか、その気持は本当にありがたいな」と言うと

 「もったいなき、お言葉です」と3人は答えた。



 夜になりオサムはリムルと過ごしていた。

 「あの3人は俺には過ぎた家臣だよね、俺の考えていることを先回りしてやってくれてる」

 「それにこんな怠け者の俺の手足として立派に働いてくれているし」と言うと

 「陛下だからこそ皆がついてくるのです、一番近くに居させて頂いた私にはわかります。陛下が怠け者だと思っている者など居りませんよ?名君と呼ばれていますのに」

 リムルはそう言ったが


 「城の中で毎回迷うような奴でもか?」と言って二人で笑った。



 平和な日々が続く中、オサムはいつものようにゴロゴロとベッドに転んでいた。

 リムルが

 「陛下は自由ですね」と言ってオサムのベッドに腰掛けた。

 読書や仕事は出来るだけ執務室で行うことにしているが、王であるにも関わらず仕事は少ない。

 オサムが効率的に官僚機構を構築し、王の裁量が要らないように、つまりは自分が楽を出来るようにしていた。

 しかも出不精であり、王の代理人という形でクイード達3人にも重要な外交や実務は任せていた。


 「うん、けどその分ハロルドや事務官、クイード達や城代とか沢山の人達が苦労してるだろうけどね」

 と笑った


 「あの方たちはエリトール様のお屋敷の時からの方々が多いですから、わかってくれておりますよ。騎士の方や文官の方達も陛下の国で働けることを喜んでいるでしょう」

 リムルは微笑んだ。


 「リムルはもう公爵なんだから普通に話して良いんだよ?王妃が気を使うことなんて無いんだから」

 「特に侯爵閣下やクリューズやロレーヌ達ね、俺も時々ロレーヌ様とか言っちゃうけど、あ、俺今侯爵閣下って言ったか?同じだな」

 オサムもそう変わっていなかった。


 「侍女の時の言葉遣いが抜けきらなくて、でも初めてお会いした時から2年以上ですか、

  私はあの日から自分を変えたくないのかもしれません。陛下の寵愛を失うのが怖いのでしょうか?」

 リムルが目を伏せると瞬時にオサムが


 「そんなこと絶対に無いから、だからリムルを正室にしたし、側室も娶らないでしょ?」

 オサムにはリムル以外に心を動かされる女性が居なかった。

 ロレーヌやライツェン王の城で出会ったミーシャ、城の騎士ファシリアは美しいがリムル以上では決して無い。

 国のために必要であっても政略結婚は絶対にしないと決めていた。リムルだけに時間を使いたい。

 もしどうしても必要ならクイード達にでも押し付けるだろう。



 そんな時に部屋がノックされた。

 リムルが応対に出ると侍従に連れられたロレーヌとクリューズだった。


 「陛下、いきなりの訪問。ご無礼をお許し下さい」

 そう言って2人は膝をつき、深々と頭を下げた。


 「ロレーヌ様にクリューズ様、お久しぶりです」

 リムルが言うと


 「グレイシア王妃陛下、そのようにお呼びなさらないで下さい」

 リムルの名は長くなり、リムル・メル・グレイス・グレイシアである。

 ”メル”は第一王妃を示す称号である。

 「私は今でも気持ちは侍女のリムルですから、お二人共リムルとお呼び下さいね」

 そうリムルに言われた2人は困ってしまった。

 「いいよいいよ、2人には世話になったし、俺のこともオサムで良いからね」

 とオサムも2人を困らせた。


 「そうは言われましても、グランパープル聖国と並ぶ聖なる国の国王様ですし」

 「ペガサスも頂き、自由に来ることが出来るようになりましたが、ライツェン国王陛下でさえ膝をつくお方に対して・・・」

 2人がそう言うと


 「陛下かー、あのときは俺もどうしたら良いか混乱したよ」

 「でもまぁほら、それはいいじゃん?何かの用で来たんでしょ?急ぎなら今聞くよ?」

 オサムは軽く流した。


 「本日は私用なのですが」ロレーヌがリムルをちらりと見て

 「私を陛下の側室にして頂けませんでしょうか?」

 とロレーヌが言った。


 「まぁ、どうかなされましたのですか?ロレーヌ様」

 とリムルが言うと


 「はい、縁談を持ちかけられておりまして・・・形だけでも陛下の側室にしていただければ断れるかと思い」

 ロレーヌは膝をついて

 「お願い出来ませんでしょうか?もちろん側室として立派に務めさせていただきますが」

 

 そう言われてオサムは

 「でも俺にはリムルが居るし・・・」

 言いかけた時にリムルが

 「良いではありませんか陛下、私にはまだ子が出来ませんし、ロレーヌ様にはお世話になりましたでしょ?」

 子供が出来ないのはオサムが夜のダンジョンで遊び回っているからなのだが、どうしても照れてしまい苦手だったため、逃げていた結果である。


 『いいのか!?ホント嫉妬心とか無いのかなこの子には、身分の事を気にしてる様子も全然ないし』

 オサムは考えて


 「俺なんかよりもっと良い人が居ると思うよ?ほんとに俺でいいの?その縁談の相手もマンセル子爵が選んだんなら良い人なんじゃないのか?」

 オサムは昔からだが自分の価値を全く分かっていなかった。

 グレイス王国国王がどれほど各国国王から敬われているのか。王女を側室にと考えている国王がどれほど居るのか。

 民に優しい人格者で、オサムの事を哲学者と言う者も居り、聖王、賢王、神の守護者、武王どれだけの名で呼ばれているのかを。


 「陛下がまだエリトール家の頃よりお慕いしておりました。王妃陛下が居られましたのではっきりと申し上げませんでしたが」

 ロレーヌは顔を少し赤らめて話していた。

 

 「そう言えば、何回かあったね、あれ本気だったの!?」

 オサムは自分の鈍感さには自信があったが、それでもからかわれていると思っていた。


 「やはりお気付きになられていませんでしたか、私はこういうことが苦手なもので」

 ロレーヌの言葉にオサムは考えていた。


 「んー、どうしよう?俺はリムルが大好きなんだけど、それでもいいのかな?相手はほとんど出来ないと思うよ?苦手なんだよね俺」

 オサムが尋ねると

 「側室ですから、陛下のお慰みとして使っていただいて構いません」

 ロレーヌは答えた。


 「そんなこと言わずにもっと自分を大事にしようよ?混乱して此処に来たんなら考える時間上げるし、俺から子爵に手紙を送ってもいいよ?」

 ロレーヌは自分にとっては大切な人間の一人である。自暴自棄になっているのなら止めなければならない。


 「陛下のその優しさと強さに惹かれて居りました」

 ロレーヌの言葉にリムルが反応し

 「ロレーヌ様も私と同じお気持ちでいらっしゃったんですよ、私にはわかります」

 とリムルがオサムに言う。


 「いや、あのねリムル」一息置き

 「側室ってことは一緒にベッドに入るって事だよ?良いの?俺がロレーヌに取られちゃうかもだよ?」

 オサムが言うと

 「いえ、そのようなことは決して致しません。王妃陛下が苦しまれるならこの命を絶ちます」

 ロレーヌは騎士なので本気だろう。


 「私は陛下のお傍に居られれば幸せです。それよりロレーヌ様のお願いを受け入れて差し上げて下さい」

 オサムはこれはもう俺がうんというしかない状況だなぁ、けどこの状況、即断即決が必要か。と考え

 『そもそもリムルとの仲を進展させてくれたのはロレーヌだし、恩はあるよなぁ』そうも考えて

 「分かった、じゃあロレーヌ、俺の側室に娶るよ」オサムは折れた。


 「今から子爵様を説得に行こうか。下で待ってるから居りてきてね?」

 そう言ってオサムは風のように走り、バルコニーから飛び降りた。


 「あ!またそのようなことを」リムルが慌てたが、2人はもっと驚いていた。


 「いつもあのように出ていかれるのですか?」とクリューズが問うと

 「はい、帰りも飛び乗って来ます。ロレーヌ様、叱って下さい。私では言うことを聞いてくれません」

 とリムルは溜息を付いた。


 通常の騎士にはオサムのような芸当は出来ないので2人は階段で城の庭まで降りた。

 オサムは既にペガサスを呼んで待っていた。

 「やっぱり飛び降りたほうが早いよな?どうしてダメって言うんだろう?」

 2人にも訊いたが、クリューズとロレーヌは苦笑するしか無かった。



 1時間と少し、話しながらゆっくりと飛んでオサム達はフルグリフ侯爵の城のマンセル子爵の屋敷前に居りた。

 子爵は窓からペガサスを見たのだろう、1階まで降りてきていた。

 そして屋敷の扉を開けて出てくるなり

 「ロレーヌ!お前のために良い縁談を持ってきたのに名も聞かずに飛び出しおって!」

 「クリューズ、お前もお前だ!ロレーヌの従者でもないのに!」

 その時一番後ろに居たオサムに気がついて


 「これは、グレイス国王陛下。ロレーヌはグレイス王国に行っておりましたか。じゃじゃ馬娘を叱って頂けたのですか?」

 マンセル子爵にそう言われて、オサムは頭を掻きながら


 「申し訳ないですが、ロレーヌを側室に娶りたいとお知らせに参りました」

 とだけ言って頭を下げた。

 これ以外に言い方が思い浮かばない。本当ならもっと丁寧に挨拶をして土産の一つも持ってくるのだろう。


 しかし子爵は驚き

 「グレイス王国の?陛下の側室ですか!?」

 何とも言えない驚き方をしていた、腰でも抜かすんじゃないかという程に驚愕しているようだ。

 それはそうだ、各国の王女が望んでも断られ続けていると聞いている。それと比べてロレーヌはただの子爵令嬢である。

 オサムは

 「そうなります、いきなりの申し出、申し訳ない」

 とまた頭を下げた。


 子爵は

 「おやめ下さい陛下、どうぞこのじゃじゃ馬を引き取って下さい、お願いします」

 「このことに比べれば伯爵家との縁談など紙屑同然です。先方には説明をして断って参ります」

 と膝をついて

 「どうかロレーヌをかわいがってやって下さい、グレイス陛下」


 「はい、心配はおかけしません、時々こちらの屋敷にも帰らせますし」

 オサムはそう言い

 「えーと・・・結納金と支度金ですが」と言ってごそごそとマジックバッグの中を探していた。

 オサムは何か急に必要になったときのために常に銀貨5000万枚程を複数のマジックポーチに入れ、愛用のマジックバッグに収めていた。

 「ああ、これだ、これでいい」と、一番小さなポーチを見つけた。記号を記してあり中身がわかる様になっている。

 そのマジックポーチをマンセル子爵に渡し

 「銀貨200万枚入っています、ロレーヌに良いドレスを作って上げて下さい」

 と言った。


 「200万枚?結納金でそのような額聞いたことがありません、王国同士の婚姻では無いのですから」

 そう言って返そうとしたが

 「側室と言えども国王の花嫁です、準備はそれで。もし余るのでしたら数年程度領地の税を下げられてはどうですか」

 といって受け取らなかった。


 「では、式は3ヶ月から半年後、詳しい日取りはまた連絡します。ロレーヌはこのまま1週間ほどお預かりします」

 と言ってオサムとロレーヌが飛んでいった。


 飛んでゆくペガサスを眺めながら

 「クリューズ、お前の入れ知恵だろう?」

 子爵はクリューズに笑顔で言ったが

 「ロレーヌ様の意志です。背中は押しましたが」

 と言ってクリューズも笑った。

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