23話 世界の情勢とグランチューナー
オサム独りが何をやったところで各地の戦乱は収まらない。
わかりきっていたが、出来るだけ止めたいと考えていた。
しかし、他国の内政に干渉するのもどうかという悩みがオサムの行動を止めていた。
その代わり、一冒険者として大陸を廻り例の穴が無いか確認するように決めた。
城下の街で情報を集め、ダンジョンを回っていった。
ビーツの十数作目の鎧ともう数十本目かになる剣を腰と背中に挿し、楯を持ってグリフォンで飛んでいた。
数カ所おかしなダンジョンがあったが、例のダンジョンほどではない。
ドラゴンダンジョンで起きたら恐ろしいことになる。10匹でも暴れまわったらかなりの被害が出るだろう。
そもそも自分の行けない場所で起きるのだろうか?
オサムは自分の生活も大切にしたいと考えていたので一日以上屋敷を開けないと決めていた。
ファシリアは既に騎士になれるのだが、オサムやクイード達に触発され99での転職を考えているようだ。
その件は完全にクイード達やクラウド達に任せて自分は自分なりの鍛え方を行っていた。
インペリアルセイヴァーのレベル上げは行っていないが、30を越えていた。
どうやらここまでステージを上げてしまうと簡単には上がらない。
それは構わなかった。
事実上無敵であるのだからこれ以上鍛える必要はない。
ダークドラゴンを想定してグレートドラゴンを相手にしたが、一体なら苦労せず倒せる。
ダークドラゴンが一体何匹現れるのか、他の知らないモンスターが出るのか。
グランパープルで訊いてもわからないという回答しか返って来ない。
大陸の西端近く、ミスリル大公国にあるドラゴンダンジョンで、
ドラゴンダークネスというドラゴンと戦ったが、どうやらダークドラゴンでは無いらしい。
”穴”を見つけることは諦めていた。
「俺が警察みたいにパトロールする必要も無いだろう」
それが理由だった。いや、簡単に言うと面倒だったからだ。
オサムは冒険とリムルにしか興味がない。
世界を救えと言われてもピンと来ないのもあった。
のんびりと生活して、時々冒険がしたい。それだけだ。
その日は前日幾つかのダンジョンを回って遅くなっていたため、起きるのは昼頃になった。
食事の時間が皆と揃わないため、最近はカッシュの補佐をしているユゼムに任せることが多くなっている。
ユゼムは最初の屋敷の時代からカッシュの横で作っていたため、料理の腕に問題は無い。
トレモルはまだレパートリーが少ないようだ。朝食程度なら献立を任せられるようになっていた。
「おはようございます、ご主人様」とヴィオラが昼食を持ってきた。
リムルの気遣いだろう。
「リムルは?」とヴィオラに訊いた
すると
「リムル様はお出かけになられました。」という。
「一人で?供は?」と訊くと
クイード様とハンビィ様がご一緒です。
と言うのでオサムは安心した。レベル60に近い騎士が二人も付いていれば安全だ。
「買い物かな?」ヴィオラに訊くと「何もおっしゃらずにお二人を連れて行かれましたので」と答えた
『街に用事って何なんだろう?一人で出るのは始めてなんじゃないか?』
オサムは帰ってきてから聞くことにした。
オサムが部屋のソファーでいつも通り休んでいると、リムルが帰ってきた。
「勝手にお屋敷を出てしまい申し訳ありません」と頭を下げたが
「2人護衛が居れば平気だよ、あの3人はすごく強いからね」
オサムが続けて
「なんか用だったの?」と尋ねた。
リムルは「はい、これを」とペンダントを見せた。
オサムは
「ペンダント?言ってくれれば幾らでも買ってくるのに、欲しかった物?」と訊いた
「これは旦那様に。神殿の聖なる護りです。いつも危ないことばかりなさるので」
そう言ってオサムの首に掛けた。
「やっぱり心配してたんだね、ごめんねリムル」
オサムが言うと
「いえ、旦那様はもう誰よりも強いはずなので心配はしてませんが、なにか私にも出来ることを、と考えて。差し出がましいでしょうが」
リムルは答えたが
「んーん、すごく嬉しいよ、けどリムルの分も買ってくればよかったのに」
オサムはおそろいにしたかった。
「私の持っている銀貨ではそれ1つしか買えませんでしたので」
笑顔でリムルが言った。
「え?銀貨なら使い切れないほどあるよ?必要なだけ持っていけばいいのに」
オサムがマジックバッグをクローゼットから出して
「ほら、多分50万枚はあるはず、足りないならまた換金所で下ろしてくるし」
と言った。
リムルは
「いえ、私が侍女のときに頂いていたお給金です、銀貨60枚位で少ないですが」
と言った。
オサムは
「これリムルの貯金で買ったの?大事なお金だったんじゃ?」
オサムは嬉しかったが、この”護り”の重さに気がついた。
「いつか旦那様に御恩を返させていただこうと思っていたので、思い切っちゃいました」
笑顔でリムルはそう言った。
「ありがとう、大事にする。ありがとうね、本当に」
とリムルを抱き締めて
「大金を持って銀貨の価値がわからなくなってたけど、これは違うね、リムルの想いがこもってる」
嬉しくてつい泣きそうになってしまった。
オサムはリムルから貰ったペンダントを見ながら
「確か日本にいる時にお金じゃ買えないものがあるって言ってたな、こういうことか」
そう言って胸にしまった。
「リムルー?」オサムが呼ぶと
「なんですか?どうかされましたか?」と隣の部屋からリムルが出てきた。
「なんでもないけど、一緒にいたくてさ」
オサムが言うと
「いつも一緒ではありませんか、お元気無さそうですけど大丈夫ですか?」
リムルはオサムの様子を見てそう訊いてきた
「んーん、違うよ、すごくゆったりした気分。リムルが大好きだっていう気分」
「しばらくは一緒に居るね、大陸のダンジョンを回るのも少し休む」
オサムは寝たまま天井を見ていた。
「この世界が終わるまで・・・俺がそうはさせないけど」
ダークドラゴンの事が頭をよぎった。
『何が出てきてもこの世界とリムルは守る、俺が守る』改めてそう考えた。
しかしこれからオサムのグランチューナーとしての役目が重要になってくることをまだ知らなかった。
その日、オサムは焦っていた。侯爵が持つ城の1つ、以前グリオン王国から割譲された領土の支城が大量のモンスターに襲われたという報告が入ったのである。
早速用意はしたが、今回はクイード達3人も連れて行くことにした。
それぞれにペガサスとグリフォンの呼び笛を与え、自らもグリフォンを使った。
「場所はわかっている、お前らも付いてこい、もう十分な力があるだろう。見せてみろ」
『どの程度のモンスターが居るのかわからないけど、自分以外で使えるのは3人だな』そう考え
「用意しろ、敵の数はわからんがここは4人で食い止める!」
3人にそう言うとグリフォンにまたがり4騎が飛んだ。
現在の侯爵領内でオサムを除いて最強レベルの騎士はクイード達3人である。
装備もオサムが使っていたものばかりなので強力だ。
「いいか、お前達は倒せる相手だけ倒せ、決して無理はするな、危険な敵は俺が斬る」
そう言って戦術を確認した。
3人は「はい!」と言って付いて行った。
眼下に見える城は以前オサムが落とした城だった。報告の通り大量のモンスターに囲まれている。
「まずは城壁を上る敵を、その次に地上に降りて殲滅開始!」
オサムが命じると3人は急降下していった。
城内からは歓声が上がったがまだ早い。
『これだけの数4人で捌けるか?』オサムはグリフォンから地上すれすれでナイトメアに乗り換えた。
グランドエッジやウイングソード等スキルを駆使して1箇所に陣取った。
そこから反時計回りでモンスターを斬り倒してゆく。
クイードは城壁の上を走っていた。
ハンビィは両手に剣を持ち城壁を登ろうとする敵を下から次々と斬っていく
タキトスはハンビィと共に周囲に死角が出来ないように巨大な両手剣で敵を薙ぎ払っていった。
オサムはそれを横目に見ながら徐々に外へと輪を広げていく。
「何だこいつら、いつものモンスターと違うぞ?」
インペリアルセイヴァーとなったオサムはボスクラスの敵に一種の恐怖を与えられる。
しかし、今回の敵にはそれがない。
ホブゴブリンやゴブリンガード等知性を欠くモンスターはともかく、ゴブリンナイト以上の敵でさえ突進してくる。
「クイード!タキトス!ハンビィ!こいつらは普通のモンスターじゃない、気をつけろ!」
と言い城を取り巻く外周のモンスターを中心に狩っていった。
『何処かに何かが居るか有るか、グリーシアのダンジョンにあった暗闇の穴か?』オサムは考えながら戦っていた。
城の周辺はクイード達3人と城の騎士や剣士に任せ雑魚を蹴散らしていった。
その時オサムの目に巨大な物が見えた。
「あれは?マズい!グアンランじゃねーか」
周囲のモンスターを構わず踏み潰しながら城に向かう巨体を見てすぐにオサムは反応した。
ナイトメアから飛び上がり一閃、グアンランの首が落ちて倒れた。
「何だこれは、どうなってやがる?」
考える暇もなくナイトメアに踏み潰させ、自らはスキルで大量の敵を斬っていった。
「ん?あれは?」グレイトジャイアントやシールドドラゴンが集まっている丘に人影のようなものが見える。
まずはこの大量の敵を片付けてからだ。
その頃になるとクイードやハンビィ、タキトスらは城壁の下の敵を片付けていた。
城内の騎士や剣士は弓を手にして城壁から攻撃している。
『半分以上片付けたか?』しかしモンスターの数は減っていってるが新たなモンスターも居る。
オサムはデモン、グレイトジャイアント、ナーガ、オルロヤルビィを片付け、人影に近づいて行く。
「なんだアイツは、人間か?」と言い、周囲の敵を薙いでいった。
オサムが近づいてくるのを見るとその人影は後ろに下がった。
同時にシールドガーディアンとゴォスが現れた。
「その程度の相手で!」と一撃で切り裂いた。
「見えた!」オサムは法衣を来た何者かを視界に捉えた。
そのまま走り真っ二つにすると、後ろに暗闇が見えた。
「穴だ!」オサムは以前見た闇の空間を見つけた。
しかしそれは次第に小さくなり消えていった。
「さっきの奴か」考えるのは後にしてボスクラスの中でも強敵に絞ってオサムは倒していく。
雑魚やブラスドラゴン程度なら3人が片付けてくれるだろう。
時間にして2時間以上、数万のモンスターを倒し切り終わったかと思った時、甲高い雄叫びを上げて黒いドラゴンが飛び去っていった。
「あれは?ダークドラゴン?」
見たこともないドラゴンにオサムの口が勝手に動いた。
3人と合流し一旦城に入ることにした。
「しかし、お前達強くなったな」とオサムが言うと「エリトール家の従者ですから」
息を切らせてクイードが言った。
城に入ると大歓声で迎えられたが、
城代に「被害は?」と聞くと
「ほとんどありません、怪我人が数人、治癒魔法で治療しています」
「そうか」と答えてオサムは芝生に寝転んだ。
『あの人間型がダークドラゴン?それとも召喚者か?』オサムは考えたが謎を解くつもりはない、戦うだけだ。
クイード達3人が「ご主人様大丈夫ですか?」
そう言ってオサムが地面に突き立てた剣を抜こうとした。
重すぎて一人では持てないので3人で引き抜きオサムの横に置いた。
「なんて剣だ」とハンビィが言ったので
「あぁ、シュバルツスレイヤーだ、お前達ではまだ使えんだろう。刀身はシルバードラゴンの鱗や牙、角で出来ている」
オサムは空を見上げたまま言った。
「マンガで見た、実際に作ると俺でも扱えるようになるまで時間がかかったが」
そう言ってオサムは眠ってしまった。
起きると、昼を過ぎた頃だろうか、太陽がほぼ真上に来ていた。
あぁ、そうか、久しぶりに戦ったんだったな。
自分の横には一杯の晶石の入ったグランパープルのマジックバッグが置かれていた。
「なんだこれ?」とオサムが気付いた時、城代のトライトンが近くのベンチから立ち上がりやって来た。
「今回は急ぎ駆けつけていただきありがとうございます、どうにか城を守れました」
そう言って膝をついた。
「ん?あぁ、トライトンか、俺はいいよ。今回頑張ったのはあの3人だからね、えーと・・・」
オサムがキョロキョロと探すと
「御三方には城の部屋にて休んで頂いております。閣下も城の方へ」
と言われたが
「俺はここでいいよ、それより何か飲むものあるかな?水で良いんだけど。」
芝生に寝転んだまま言った。
「外で寝てる方が多いからね、俺」
と言うと、急いで水が運ばれてきた。
「ありがと。で、今回の心当たりは?」トライトンに尋ねると
「それが全くありません、近くに大きなダンジョンもありませんし」
そう返事された。
「そうか」とオサムは水を飲んだ。
近くにダンジョンが無いというのであればあれだけの数のモンスターはあの穴から出てきたことになる。
前回はグリーシア、そして今度は旧グリオン、距離がかなり離れている。
次はどこだろう?期間はどれくらいか?規則性はあるのか?すべてが謎だった。
「では」と起き上がり、地面に置かれた剣を背中に戻した。
グランパープルのマジックバッグも腰に装着しグリフォンを呼び出した。
「3人には動けるようになったら戻るように伝えてくれ」と言い残し屋敷に戻った。
馬房の前で鎧を脱ぎ、ケンテルに「洗っておいてくれ」と言って屋敷の3階へ上がった。
モンスターを倒しても血飛沫がかかることはない、全てが晶石になってしまう。
今回は純粋に汚れてしまったからだった。
帰ってすぐにリムルがやって来たが
「少し考えたいから一人にしてくれないか」と書斎にこもった。
1時間程してオサムは鎧を着てグランパープルに飛んでいった。
そして今日あったことを詳細に”守護者”に話した。
「それはカオスキーパーと呼ばれる者だな、ドラゴンはダークドラゴン」
「カオスキーパーとは?」とオサムが訊くと
「わからぬ、以前のグランチューナーがそう呼んでいたが。アキバ・オサムよ、お主も知ることに」
「ダークドラゴンとカオスキーパーは同時に現れ、前後してモンスターの群れが発生する。そう言っていた」
それだけ聞くとオサムは帰っていった。
「カオスキーパーか、手応えがまったくなかった。幻影かもなぁ」侯爵の城が見えた時
「そうか、ここは俺の家か。守らないとな」と屋敷の前に降り立った。




