18話 幸福な日と黒騎士伝説の始まり
儀式当日二人は城に呼ばれた。恐らく大広間では既に準備が整っているのだろう。
執事のハロルドや侍女のエリス、召使いのアリエル、ミランダも一緒だった。
クイード、タキトス、ハンビィ、カッシュ、ユゼム、ケンテルは城の家令に呼ばれ何かを準備していた。
「ご主人様、私はドレスは要らないと申し上げましたのに」
リムルは儀式用のドレスに着替えさせられて居るようだ、衝立ての向こうから声が聞こえた。
「俺だってこんな着たこともない儀式服を着せられてるんだ、諦めろ」
オサムもこんな厄介なことになるとは考えていなかった。
「では、もうすぐにでも始まりますので。指輪はお預かりします」とハロルドが出ていった。
「え、ええええ~?心細いよぉ、もう・・・」
オサムは情けない声でハロルドの背中に向かって言った。
恋人居ない歴=年齢だった男であり、全く女性慣れしていないのにいきなり結婚だ。
己が招いた日々の忙しさのため、恋人同然となったリムルともあまり同じ時間を過ごしていない。
しかも異世界で全く知らない儀式である。不安になるのは仕方がないが、これでも世界最強の騎士の一人だ。
やはり、それとこれとは違う。と言うものなのだろう、いつもの豪胆さが全く無くなっていた。
城の執事が二人を連れて大広間の扉まで案内した。
「扉を開けますので、ゆっくりと壇上まで進んで下さい。私は後ろについていきます。」
その言葉でオサムはなんとか気を持ち直した。
扉が開き、二人は揃ってゆっくりと壇上へ向かった。
部屋には城の騎士やマンセル子爵家合わせて50名ほどが居る。
皆がそれぞれ着飾っている。領地を持つ騎士までの出席だがきらびやかである。
『どこが質素なんだよ!』とオサムは考えながらゆっくり歩いていった。
儀礼用の甲冑を着た騎士が8人剣を掲げている。
その中にクイードとタキトス、ハンビィにクリューズの顔が見えた。
他の者も見た覚えのある顔の騎士だった。
二人はその間を抜け、壇上へと上がり、司祭に一礼した。
司祭は何かの書物を読み上げ本を閉じた。
ハロルドが司祭にトレイを渡すと、そこに指輪があった。
司祭はリムルの指輪をオサムに、オサムの指輪をリムルに渡し
まずオサムがリムルの指に指輪をはめた。
続いてリムルがオサムの指に指輪をはめた。
そして、司祭はまた書物を開き呪文のような言葉を言うと全員が立ち上がり一斉に拍手が起こった。
オサムはわけが分からず呆然としていると、クリューズ達が部屋から出て着替えて戻ってきた。
すべての扉が開いたと思うと、一斉に食べ物と飲み物が大量に運ばれてくる。
その時、伯爵がオサムとリムルに近づいてきて
「すまぬな、このような質素な儀式になってしまって」と言ったが
『いやいやいやいや、質素じゃないでしょ?貴族居るじゃん?食い物すげーじゃん?』オサムは考えたが。
「いえ、このような立派な儀式をありがとうございます」と言いながら。
『じゃあ質素じゃない儀式ってどんなのなの?どこかの貴族とかも混ざるの?何百人になるの?何日続くの?』
半パニック状態で居ると
クリューズとロレーヌがやって来て
「やっとだな、まぁこじんまりとした式だが、仕方ないんだこれが精一杯でな」とクリューズが言った。
「立派ですよ!」とオサムとリムルが同時にハモった。
その言葉にクリューズとロレーヌは腹を抱えて笑った。
「二人同時に言うかよ、それ」とまだ笑っていた。
「さ、ここからは着替えて食事会だ。楽しくやれよ?二人共」と言ってロレーヌと消えてしまった。
二人は城の侍女に連れ出され、それぞれ着替えさせられて大広間に戻された。
「仕方ない、食うか、リムル」とオサムが言うと
「そうですね、ご・・・旦那様」とリムルが返事をし、食事を皿に取って食べてみた。
軽食程度だがこれはカッシュが作ったか教えたかだな?オサムのレシピの味だった。
二人は楽しそうに食事をしている伯爵に近づき、再び礼を言った。
その時伯爵が
「おい、オサム、あの黒い指輪は外したのか?ステータスが見えているぞ?」と言った。
オサムは右手を見て
『手袋を外した時に一緒に外れたかも?左手につけてればよかった!』と慌ててさっきの部屋に戻って
侍女に手袋と黒い指輪の事を言うと「探します」と言うので、一旦大広間に戻った。
出来るだけ目立たないようにしたが、騎士の内の何人かが気づいたらしい。
「おい、あれ、エリトール卿のステータス」という言葉が幾つか聞こえた。
オサムは
『勘弁してくれよぉ・・・』と思ったが、もう仕方がない。
伯爵に近づいて
「何人かの騎士が気付いたようです、もう隠せません。閣下の言葉でなんとかして頂けませんか?」
と懇願した。
伯爵は笑い
「やはりな、気付かれてしまったか。こういうことは遅かれ早かれ知れ渡るものだ。黒騎士の噂もすぐに広まったであろう?任せておけ」
と壇上にオサムを連れて行った。
「皆の者!」とよく通る声で
「この我が筆頭騎士エリトールはロードナイトだ!伝説の中でしかその名を知る者はおらぬだろう!」
続けて
「世界広しといえど、エリトールに勝る騎士はおらぬ!我が領土、我が国の守護神となろう!」
最後に
「しかし!このことは他言無用!我が守護神の力は必要な時にのみ使われる!誰であろうと他者に漏らすことは許さぬ!」
伯爵がそう言うとパチパチと拍手が起こり最後には大拍手となった。
そして、怒号のようにエリトール様万歳の合唱が響いた。
伯爵はオサムに
「これでこの城以外には漏れぬ、安心して良いぞ」と言われたが、人の口に戸は立てられない。いずれ広まるだろう。
街で黒騎士装備の状態でバレるのとは訳が違う。女性も多いこの場で発表してしまったからには仕方のないことだった。
『安心なんてできねぇよ、もうこの人は・・・』とオサムは思いながらも伯爵に感謝していた。
その後30分ほどして、城の侍女が指輪を持ってきてくれた。
オサムはそれを右手の中指に嵌めようとしたが、やはりきつかったのでビーツに頼むことにした。
「すまぬな、大事な物だったので助かった」と、とりあえず右手の小指に嵌めた。
オサムはめでたくリムルを妻にしたが、問題が2つあった。
1つは侍女長が居なくなることだ。エリスにはまだ早いが、もう侍女ではなくなるリムルが教えるわけにも行かない。
2つ目に屋敷の改装が必要になる。
この世界では貴族が夫婦でベッドを共用することはないため、リムルにもオサムと同程度の部屋が必要となる。
侍女長に関しては解決は簡単だった。伯爵に頼んで1名若い侍女に来てもらった。
元々のリムルの同室の侍女で、ヴィオラ・ポートレというリムルの後輩だ。
これはリムルへの配慮で、先輩や同期の者ではリムルが命じにくいと言う伯爵の判断だった。
もう一つの問題である屋敷の部屋は以前の棟梁を呼んでリムルの部屋を取り壊し、別の部屋と繋げて大きな部屋に広げることにした。
早速頼んだので改装に関しては5日程度で終わるだろう。
次はハイドステータスの指輪のサイズを変えてもらうため、ビーツのところに行った。
これは出来上がるまで鍛冶屋に居ないといけないが、すぐに一回り大きくして右手の中指のサイズに変わった。
オサムはロードナイトの存在が伝説級のものだとは考えても居なかったので、隠し続けることにした。
ライツェン国にロードナイト在り。と喧伝すれば周辺国との戦争も無くなるのだが、今度はオサムに取り入ろうとする者や籠絡、暗殺の恐れが出てくる。
静かに暮らしたいオサムにとって、それは避けたいことだった。
他にはこれと言ってすることはなかったが、オサムはその立場に見合う武器を発注した。
パラディンの重厚な鎧を凌駕する重量級の甲冑や華麗に装飾された剣や楯である。
また、戦闘用の強力でロードナイトの力でも破壊されない魔剣も必要だ。
これにも多くのレアアイテムをつぎ込んだ。
2メルトを超える長大な両手剣を片手で扱えるようになったオサムの力は魔剣以外の武器は破壊してしまう。
巨大なバトルアックスと巨大な両手剣を頼んだ。やはりどちらも黒い装備とした。
また、儀礼用だが戦闘も可能な甲冑、これは戦場で指揮官として陣地に居座る時のためだが必要だった。
そして黒い甲冑の最新物も注文した。。
それらには城のガース書記官や魔法に詳しい者の協力を得て魔石をふんだんに使うことにもした。もちろんレアアイテムも大量につぎ込む。
そのために魔石の採れるというダンジョンに行くことにした。
伯爵領の一番端、グリオン王国と接する場所だ。
徒歩で行くと3日は掛かるが、ペガサスならゆっくりと飛んでも1時間もかからないためオサムはそのダンジョンへ向かった。
かなり強力なモンスター特にナイトメアが多数出るということだが、オサムには関係がなかった。
むしろナイトメアを召喚できるアイテムであるナイトメアの呼び笛を入手したかったのだ。
戦場では今の馬では脚も持久力も保たない上、馬を攻撃されればひとたまりもない。
その点ナイトメアであれば全く心配はなくなる。
馬鎧を必要とせず、矢も槍も剣も通用しない。モンスターとして見ればドラゴンより少し弱い、と言う強さを誇る。
また足場を気にせず走る事が出来るため、通常の馬の倍以上の速さを誇りながら地面を選ばない。
しかもその漆黒の体と燃え上がる炎赤のたてがみや蹄は敵への威嚇にも十分に使えるのでどうしても欲しい品だった。
しかし、
オサムがダンジョンに入る前に上空から見ていると進軍してくる一隊があった。
数はおおよそで1000程度だ。その道の先には小さな町があった。
敵であれば町に攻め入られる危険がある。城壁に守られた街ではないので簡単に蹂躙されるだろう。
確認のため、低空で近づくとそれはグリオン王国の部隊だった。
「クソ、今度は伯爵の領地に侵入してきやがったか」とオサムは怒りを覚えた。
伯爵に連絡して部隊を派遣してもらう時間はない。
オサム一人で何とかするしか無かった。しかし1000人である、意志をくじくことが出来れば逃げ帰るだろうと考えた。
そうでなければ全滅させる以外に方法はない。
そして、ギリギリの高度で部隊の上を飛行し、威嚇した。
しかし敵はオサムには気が付かない。ペガサスが飛んでいる、程度にしか思わなかったのだろう。
オサムは部隊の先頭の騎士の前に降りた。
ペガサスを降りて地上に立ち、ロードブレイドを抜いた。
両手用の剣だが、片手で軽く持てるため楯も装備した。
先頭の敵が「く、黒騎士だ!」と慌てたが後方が進んでくるため前に進むしか無い。
敵はオサムのステータスを見ようとしたが見えないため偽物と判断したのかもしれない。
実際に、クイード達もオサムと同じような黒い装備なのでその情報は伝わっているはずだ。
オサムは戦闘態勢を取った。今の力が対人戦闘でどの程度使えるのかは分からない。
しかし以前の戦闘時よりも格段に強くなっているはずだ。
進軍が止まらないのであれば、やはり打ち砕く他無い。一つ深呼吸をして、殺す覚悟を決めた。
オサムはその時、風のような速さで斬り込んだ。
自分でもそのダッシュ力に驚いたが、一跳びで10メルトは進んだ。
どうやら全力を出すと今までの感覚では制御不能に陥るらしい。モンスターと戦う時とは勝手が違う。
まずは馬を奪うため騎士一人を素早く叩き斬り、引きずり下ろしてそのまま騎乗した。
そこからはこの間のようなものだ。しかもオサムはあの時よりかなり強くなっている。
無言のまま最前列の十数騎をウィンドソードで一瞬で斬り倒した。
「デモンスラッシャー!」と剣を振ると赤い剣撃が無数に飛び数十人が倒れた。
「ウィンドスラッシュ!」横一線の剣撃が飛び、それでまた数十人が倒れる。
しかしそれはオサムにとって威嚇に過ぎなかった。
予想外の自分の強さに酔っている場合ではない、追い返し、二度と攻め入られないようにせねばならない。
前列はほぼ一掃したため、敵の後方に向かって突き進んだ。
あとに残るのは無数の敵の骸だけである。
オサムは強力なスキルを連発した。
敵の反撃はビーツの鎧と楯で苦もなく防ぐことが出来る。
ドラゴンとの戦闘にも耐える甲冑なのだから少々強い程度の騎士やパラディンの攻撃が効くわけがない。
1000人もの部隊が10分と立たず最後列の100人程を残すのみとなった。
『このことを伝えさせるためには少しは残さないとな』とオサムは考え、
10騎程度を残して全滅させた。
それにしてもまた殺しすぎた、とオサムは胸が悪くなった。
一番豪華なプレートアーマーを装備した者の前に、残った騎士が並び防御陣を敷いた。
「あいつが大将だな?」オサムは呟いた。
オサムは「見逃してやっても良いが、どうする!」と叫んだ。
すると見る限り一番強いのであろう巨躯の騎士が巨大な斧を振り上げ突進してきた。
クイードを超える巨体から振り下ろされる戦斧の威力であろうと、ゴールドドラゴンの攻撃程ではないだろう。
オサムはあえてその強烈な斬撃を剣で受け止め、跳ね返した。
斧は宙を舞い、ザクッと地面に刺さった。
次の瞬間オサムはその騎士を甲冑ごと真っ二つに切り裂いた。
「次は!誰でも良いぞ!全員でかかってこい!」とオサムが吠えると
ジリジリと距離を取り始めた。
オサムは敵から5メルトの位置まで近づき
「我が名はエリトール!ライツェン王国フルグリフ伯爵の筆頭騎士だ!黒騎士と呼ばれている!」
続けて、
「このような蛮行を行うのであればこの身一つで城の1つでも2つでも落としてやる!」
その黒騎士という言葉と見せつけられた戦闘によって敵は戦意を完全に喪失したようだ。
豪華な甲冑の騎士が
「ひ、引けば見逃してくれるのか?」と訊いてきたので
「この場は見逃してやる、しかし、お前達の領地までこのまま進み城を3つ落とす!」
オサムは本気だった。単身で城を落とす。それがどんな伝説を作るかはわかっていた。
しかし、放置しておけばまた攻めてくる恐れがある。それを思い止めさせるには圧倒的な恐怖を与えるしか無い。
「わかった、この場は引く、見逃してくれ」敵の大将が言ったので
「では行け、帰った頃にはお前の城は落ちているだろうがな。」
敵に言葉が届いたかわからなかったが一目散に引き返していった。
オサムは馬を降りて、ペガサスを呼んだ。
騎乗し、グリオン王国の中で一番近い城を見つけた。城塞都市である。
「あいつらが帰る場所はこの城だな?」
上空から見る限りそう大きくない城塞だった。フルグリフ伯爵の街の方が大きい。
だが、砦というほど小さくもない。
ライツェン、グリオンの国境から数十キロ入った場所なので戦用ではないのだろう。
「よし、まずはあの城から落とすか」
簡単に言ったが出来るのかどうかは分からない。試してみるだけだ。
オサムはあえて城塞の外に降り立ち、固く閉ざされた門を一閃で叩き斬った。
分厚い木で出来た扉が一瞬で崩れ落ちた。
門の番兵は「く、黒騎士!」と叫び城へと走っていった。
城までの道は敢えて自分の姿を見せつけるかのようにゆっくりと歩いた。
都市に住まう者や商店は自分の目の前で居なくなり、閉められた。
だがオサムは街を壊すつもりはない。あくまでも目的は城を崩すことだ。
そのままゆっくりと歩きながら10分程度で城門に着いた。
矢が雨のように降ってくるが楯で防ぐこともなく暫く立っていた。
カツンカツンと甲冑に当たる音が響く。この鎧は長弓でも強力なクロスボウでも貫けない強度を誇っていた。
ある程度そのまま待ち、無駄だと思い知らせた上で城門を叩き斬った。
力を入れすぎたのか、門の上の石の砦も崩れ落ちた。
「我は黒騎士!この城を今から落とす!」と宣言し
「女子供は隠れておれ!歯向かうなら遠慮なく斬る!」
と叫びゆっくりと歩いていった。
実際には非戦闘員を傷つける気は毛頭ない。それどころか逆らわなければ騎士や剣士も斬ろうとは考えていない。
人を殺すとまた胸が悪くなる。出来れば避けたいところだ、しかしそうも行くまいとオサムは覚悟した。
また殺す覚悟である。自分の力なら一方的な虐殺になる、そしてこれは守るための戦いだが、攻め込んできたのは自分だ。
葛藤と戦いながらオサムは呼吸を整えた。誰も出てくるな、と願いながら。
だが、その想いは届かなかったようだ。
矢が効かないとわかったのか、城の前にずらりと200人程度の騎士や剣士、戦士が出てきた。
「良いのか!逆らわなければ城を崩すだけにしておいてやる!」
そんな言葉が守備兵に通用するわけはないのは分かっていた。斬るしか無い。
オサムは駆け出し、その全てを瞬く間に斬り伏せた。
血まみれのまま、今度は城の門を斬り開け中の柱や壁を切り崩して行くと、城の一部が音を建てて崩れた。
『やりすぎたかな?』と考えながらも落ちてくる石を楯と剣で払い除けながら進んでいった。
その姿はグリオンの者達にとっては悪夢だろう。巨大な石を盾の一撃で吹き飛ばしていた。
ゆっくりと城内を歩きながら内部を破壊していった。
やがて大広間に着くと、侍女や文官、子供等が集まって怯えていた。
見る必要もなく非戦闘員である、手を出す気はない。
しばらく見ていると恐怖のために身動きができないようだった。
その時、上を見ると天井が崩れ落ちてきた。
オサムはとっさに走り、そこに居た侍女や子供をその身を楯にして守った。
「早く逃げろ、これ以上は何もせぬ!行け!」とオサムが言うと、全員が城の外に出ていった。
全員が出たのを最上階まで上がって確認し、切り崩していった。
そしてある程度破壊が終わるとオサムは3階のテラスから地上へ飛び降り、
「女子供で怪我をした者は居るか?」と執事のような男に尋ね、その男は黙って首を振った。そして「ぜいぶ・・・全員無事です」声を振り絞ってそう言った。
確認を済ませた上で、中途半端に残っている城を切り刻み、石材の山へと変えた。
「ならば良い」と城の門、今は瓦礫の山だがそこから歩いて出ていった。
これで一つ目の恐怖は刻みつけることが出来た。あと2つ。
オサムは広場に出たところでペガサスを呼び、次の城を目指した。
北へと進路を取り、しばらく飛んでいるとガーミング伯爵領に攻め込んだ部隊の城と思われる城塞が眼下に見えた。
オサムはさっきと同じ方法で城を目指した。
まずは城壁の門を破壊し、ゆっくりと大通りを城の方へ向かって歩く。
それだけで恐怖を撒き散らすことが出来る。
効率が良いのか悪いのかわからなかったが、多くの人間に黒騎士の恐怖を刻みつけたかった。
10分以上誰も居なくなった道を歩き、城へたどり着いた。
しかし今回は矢が飛んでこない。
代わりに「黒騎士だー!黒騎士が来た!」と城内がパニックになっているようだった。
どうやらやはりガーミング伯を襲った者達の生き残りはこの城に居るようだ。
十分に恐怖を味あわせたのだろう、しかしオサムは手を抜かない。
城門をウィンドソードで叩き切り、入り口を無防備にした。
そして暫くの間それ以上手は出さず、また相手の出方を伺うように立ち尽くして待っていた。
城内の騒がしさでパニックが起きているのがよく分かる。
「女子供や戦闘の出来ぬものは外に出ておけ!今からこの城を破壊する!」
と、言ってから「ジャイアントキル!」と城の入り口を破壊した。
しかしオサムはそのまま数十メルト下がり、剣を地面に突き立てて待っていた。
暫く待つと、ぞろぞろと女や子供、およそ戦闘は出来そうにない者が庭に出てきた。
「お前達で全員か、下がっていろ!」と叫び城の中に入り守備のために残ったのであろう騎士や剣士をなで斬りにしながら最上階に着き、そこから
「ジャイアントキル!ブレイドスラッシュ!ウィンドソード!」
剣士や騎士のスキルだがオサムが使うと桁が違う。石で出来た壁や柱が支えを失って崩れていく。
今回の城は以前の戦相手の城という事で破壊の限りを尽くした。
修復不可能な状態にまで壊すのが目的だ。屋敷であろうと小屋であろうと全てを破壊した。
ひとしきり暴れまわって、もう切り崩すべきものがなくなったので、オサムは城から離れた。
外から見た時はもうそれは城ではなく、ただの瓦礫となっていた。
オサムは皆が集まる城の庭に行き「責任者はどこだ!俺の前まで来い!」と叫んだ。
しかし誰も来ない。
「そうか、皆殺しでいいのだな?誰か命を差し出すやつは居らぬのか!」もう一度叫んだ。
すると、恐らく家令か執事長であろう白髪の男が立ち上がりゆっくりと近づいてきた。
「私がこの城の一切を預かる者となります、どうか他の者は見逃してください」
卑屈になるでもなく恐怖しているでもなく覚悟を決めた男の目であった。
「お前は斬らぬ、誰も斬らぬ。黒騎士が来たとだけ伝えておけ、それで良い」
オサムがそう言うとその男は膝から崩れ落ちた。
それを見ながら放置し、オサムはその場でペガサスを呼んで飛び立って行った。
「あとひとつ!」
オサムは出来るだけ大きな城塞都市を探していた。有力な諸侯か王直轄の街を。
「それらしいものはないな、砦程度を壊しても何もならないし」
オサムの中ではこれは戦争ではなかった。圧倒的な力を見せつけ恐怖を植え付けるためのものだ。
「王都でも壊すか?いや、そうすると東のエスカニアか南のグリーシアが攻め入る危険があるな」
出来るだけ住民を害せずにやらねばならない。出来れば兵を斬ることも避けたい。
「あ、あそこは大きいか?伯爵の街程度はあるな」
オサムはその街のやはり城壁の外へ降りて同じように城門だけを叩き切った。
そしてまた歩き出した。今回の城の守備兵は果敢に挑んできたが、オサムは剣と楯で殴っていった。
両刃の剣のため峰打ちが出来ない、剣の腹で殴るようにして斬ることはなかった。
運が良ければ生きているだろう。と言うような戦い方だった。
城へたどり着く間に数十人が住居や店の壁に叩きつけられていた。これでも手加減はしているつもりである。
オサムは先程の2つの城と比較してかなり大きな門を「ロードスラッシュ!」と一撃で瓦礫に変えた。
これはロードナイトにしか使えない剣技でかなりのSPを消費する。だが威力は絶大だ。
瓦礫となった城門を軽やかに跳躍してオサムは城の敷地に入った。
やはり大きな城である。伯爵の城よりも一回り大きい。
オサムが眺めていると城の中から、そして壊した城門を登って城外から騎士や剣士が集まってきた。
「200以上は居るか、斬りたくないな」
オサムは目標を城正面に定め一直線に駆け出した。
「ハードストライク!」騎士の上位スキルで頑丈な城の正面が切り崩された。
そして振り向き
「この俺とやるのか!この黒騎士と戦おうと言う気概を持つのならば無駄に死ぬな!」
敵のグリオン兵にするとこの言葉はおかしい。だがオサムはこれ以上命を奪いたくはなかった。
しかしやはりどこにでも不器用な者は居る。オサムの前に一人のパラディンが立った。
「お前は死にたいのか?一騎打ちで勝負するとしよう。無駄な犠牲は出したくない」
オサムがそう言うと
「望むところよ!我は白銀騎士団団長リクス・マーカイウス。お前は?」と訊かれ
「我が名は黒騎士エリトール、それで十分だろう?」とオサムは剣を構えた。
「いざ!」とマーカイウスは重厚な剣で襲ってきたが、オサムはその剣を一撃で遠くまで弾き飛ばした。
「お前は死ぬな、気に入った。これは恥ではない。3日もせぬうちにわかろう」
オサムはくるりと城の方を向き「今からこの城を切り崩す!全員出て庭に避難せよ!」と叫んだ。
しばらくするとやはりぞろぞろと非戦闘員が出てきた。
最後に出てきたのは武装しているが、甲冑の豪華さから考えてこの城の主のようだった。
未だ騎士や剣士に囲まれていたが、オサムは誰も着いてこれない速さで城の中に突進して破壊を始めた。
柱や壁を切り、天井を突き破り、最上階から頑丈に作られた城を一人で破壊し尽くした。
瓦礫の中から漆黒の甲冑が現れたのを見たときには全員が戦意を喪失していた。
「これで3つの城を落とした!王に伝えよ!その気になれば王城を含めて全ての城、要塞を破壊し尽くしてやると!」
そう言い残してオサムはペガサスで去っていった。
『3つ、これで敵国の中央に情報が届くだろう』と考えて、最初の目的であるダンジョンへと向かった。
初めて入るダンジョンだったがアレシャルの塔よりはマシだろう。と気楽に入った。
言われていた通り、その中には魔法石がそこかしこの壁に埋まっていた。
だがモンスターの質もそれなりにである。最弱でもオークナイト、オークメイジだ。
ナイトメアも地上階から出現する。初期騎士クラスのパーティでは余裕を持って魔法石を集めるのは無理だろう。
だがオサムは出てくるモンスターを片っ端から切り伏せ、短刀で魔法石を収集していった。
奥へ下へと行くに連れて上質な魔法石が採取出来た。
ナイトメアを何匹斬ったかわからない。最下層である12層目まで降りる間に数百個の魔法石を手に入れていた。
しかし最下層の魔法石はそれより上の階の物より大きく質がいい。
しばらくの間陣取って、ナイトメアや時々現れるヴァレス。徘徊しているオーガナイト等を倒しつつ最上等の魔法石を採取し続けた。
数時間も滞在しただろうか、ナイトメアの呼び笛を数個手に入れ、魔法石は大量に採取できた。
あとは帰るだけである。
上りは下りよりも簡単だった。階段やスロープの場所は覚えているのでスムーズに登れた。
「危ないダンジョンだな、魔法石が貴重な意味がわかった。けど時々来るとするか」
オサムは呟いたが、かなりの量の魔法石は入手できた。
ダンジョンから出ると日が傾きかけていた。
オサムはナイトメアを試すのは後日にすることにして、ペガサスで一直線に帰っていった。
「ただいまー」
いつものように屋敷に入ると、食事の用意で皆が忙しく動いているようだった。
「なんか寂しいぞ?」とオサムは呟いたが、出迎えるのだけがハロルドや召使の仕事ではない。
兜を取って、階段を登り自分の部屋へと帰った。
新婚だというのにオサムは家に落ち着かない。
ヴィオラがまだ屋敷のことを覚えていないため、リムルも動いているようだった。
「あ、おかえりなさいませ、旦那様」リムルはオサムが女性誌を見て作らせた部屋着を着てヴィオラに指示をしていた。
「いいよいいよ、今忙しいだろ?着替えてすぐに食事室に行くからさ」
オサムは自分の部屋で鎧を脱ぎ、武器を置き、腰のバッグをベルトごと外してクローゼットに押し込んだ。
ジャージに似せて作らせたが、この世界でも違和感の無い装飾の入った部屋着に着替えてオサムは食事室へ向かった。
それにしても皆かなり忙しそうに動いていた。オサムは一人食事室で待っていたが、やっと収まったようで全員が集まってきた。
最初にヴィオラが食事室に来て皆と食べたときには驚いて「皆さんは御主人様と同じ食事なのですか?」と言っていたがそろそろ慣れたようだった。
それよりもリムルがまだ”リムル様”と呼ばれることに慣れていないようだった。
皆が集まったところでオサムが「さて、今日もカッシュとユゼムの料理が食えるな。今日はなんだ?」と聞くと
「ラガールの塩釜焼きがメインで、後は牛フィレ肉の煮込みスープにライ麦パン、それにサラダです」ユゼムが答えた。
するとヴィオラが「取り分けるのですか!?御主人様と同じものを?」と驚いていたが、
皆は慣れ切っているので「ん?」と言う顔をしただけだった。
「ヴィオラ、いい加減に慣れろよ、御主人様は貴族だろうが平民だろうが区別しないんだって教えただろ?」タキトスが言った。
戸惑うのも仕方がないが、ずっと城で暮らしていたヴィオラには驚きの連続だろう。
まず、召使にも広めの個室が与えられており、侍女部屋や召使部屋のようなものはない。
次に、主人であるオサムが従者のクイード達はおろか、ユゼムやケンテルと共に風呂に入る。
水洗トイレにも当初は戸惑ったらしい。そして主であるオサムと全く同じ食事で、しかも同じ食卓を囲むのである。
調度品や服も、オサムが晶石を換金して稼いでくるのでいきなり大量に与えられてしまう。
「面食らうのも仕方がないよな?ヴィオラ。城とは全く違うだろう?」オサムが訊くと
「はい、その、なんと言いますか、申し訳ないと言う気持ちでいっぱいになります」ヴィオラは答えた。
「はははは、やっぱりか。まあそのうち慣れるだろうから、楽しんで仕事をしてくれ」オサムは気遣った気はなかったのだが
「ご主人様、これに慣れるにはかなりかかりますよ」とタキトスが笑って答えた。
「何も気にせずにすれば良いですからね、ヴィオラ」とリムルも微笑んで言った。
一人増えて13人となったが、やはり皆で食べる食事はオサムにとって楽しみの一つだった。
オサムやクイード達が冒険に出ていない日の夜は一家団欒とでも言うべき雰囲気を醸し出していた。




