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45・おじいちゃんをイジめるのは罪悪感があります

 開会式では王様の偉そうな話を聞かされるだけで、特に面白いことがないので割愛させてもらおう。



「さて……一回戦の相手は」



 開会式の時に配られたトーナメント表に視線を落とす。


 ——サザラントの八都市からそれぞれ三人ずつ代表が選出されている。

 なので出場メンバーは二十七人となっている。

 勝ち抜き方式で俺の名前が書かれた左端のブロックからでは、四回勝てば決勝戦に——そして五回勝てば優勝となるらしい。


「アリサかマリーズと当たるには、どちらにせよ決勝に行かないといけないのか?」


 一方、アリサとマリーズの名前は俺から離れたブロックに書かれていた。

 そりゃそうか、同じ領主でつぶし合いをしても、旨味がないからであろう。


「頑張る」

「買い物を忘れないでくれたまえよ」


 グーベルグの頼れる二人の代表は拳を握る。

 まあ組み合わせ的に決勝戦で俺と戦えるのはどちらか片一方であるが。

 二人の実力を考えるに、決勝戦はマリーズとアリサのどちらかと当たることになるだろう。

 二人はやる気と自信に満ちた表情のまま、控え室へと戻っていった。


 一方、俺は会場に残っている。

 何故なら……。


「今から一回戦なんだからな」


 一回戦——ってか、トーナメントの第一試合は俺なのである。

 試合が始まる前なのに、スタジアムは熱気に包まれている。

 トーナメント表を見るに一回戦の相手は聞いたことがない名前だったので、大したことがないんだろう。

 まあ徐々に敵が強くなっていくのが王道なんだしな。



『これより第一試合、冒険都市フェイク様と騎士都市ヴァロ様との試合を執り行います』



 スタジアムに響き渡るアナウンスの声。

 その一声が放たれた矢先、爆発したようにスタジアムに歓声が響いた。


「ここまでくると緊張するな……」


 緊張なんて俺らしくない。

 だが、スタジアム全体が震える歓声なんて今まで経験したことがなかった。

 元の世界でも——誰かからの羨望とか歓声なんて無縁の生活を送ってきたからな。

 与えられるのは俺に対する『恐怖』の眼差しだけだった。


「よっしゃ! 気合入れて頑張るとするか!」


 頬を両手で叩いて、ステージへと上がる。


 ステージは地面より一段高くなっていて、スタジアムの形状に合わせるように円形になっている。

 上がると、観客の視線が一斉に集中するのが感じ取れた。

 俺に続いて、対戦相手もステージに上がってくる。



「ククク……まさか一回戦の相手が貴様とはな」



 対峙した相手が笑いを零す。


「…………」

「クジ運が悪かったな。領主自ら出てくるということは、相当腕に自信があるのじゃろ?」


 確かにクジ運が悪かった。

 だって、目の前にいる相手はヨボヨボのおじいちゃんにしか見えなかったからだ。

 マジかよ。超能力なんて使わなくても、ワンパンで倒れそうだぞ。


 お年寄りと女・子どもには優しくする。

 それが俺のモットーなのだ。


「…………」

「じゃが、相手はこの儂じゃ。たったの四人パーティーでドラゴンを倒したという伝説もある。さらに単騎でオークに勝ったこともあったな」

「…………」

「どうした? 怖じ気づいたか? 今なら降参出来るぞ」

「…………」

「ククク……そちらの方がお利口かもしれぬな。降参すれば怪我をしなくて済むのだからな」

「…………」


 ……なんでこのおじいちゃん、一方的に喋り続けているのだろう。


 まあ歳がいったら、話が長くなるっていうんだしな。

 折角気持ちよく喋っているんだから、口を挟まない方がいいだろう。



『さーて! 実況はこのわたくし、ミアンダちゃんがお届けしますよ!』



 地が震えるような歓声を切り裂くようにして、実況の人の声が響いた。



『なんとなんと! 一回戦から超注目カードです! 騎士都市のヴァロは街の騎士団長を担っていた人物です。現役の時は四人でドラゴンを倒したという伝説も残っています。久しぶりの戦いを見るために、騎士マニアの人もこぞって会場に訪れています!』



 騎士マニアってなんだよ。深い世界だな。



『一方、冒険都市のフェイクは全てが謎! 強いのか弱いのかも謎! しかし領主になっているんですから、多分強いんでしょう!』



 情報量少なすぎだろ。


「ククク……どうだ? 実況の声が聞こえるじゃろ? ここにいる観客も全員貴様が負けると思っている」

「…………」

「さあ降参しろ。さあ!」

「……お前さ」


 いい加減話を聞いているのも腹が立ってきた。

 頭を掻いて、イライラを声に乗せる。


「弱いヤツ程よく吠えるって言葉聞いたことねえの?」

「な、なんじゃと?」

「お前、実は弱いんだろ。だから俺に降参して欲しい、と。そりゃそうだよな。俺が降参したら戦わなくて済むんだから」

「き、貴様——誰に向かってそんな口を! 最近の若い者は——」


 頭の天辺からつま先まで顔を真っ赤にして、ガミガミと説教を始めやがった。

 五月蠅うるさかったので、両手で耳を塞ぐ。



『ルールはステージから出て十カウント以内に戻れなければ、即敗北となっちゃいます。後、ギブアップの宣告があっても敗北になるので、命がヤバいと思ったら活用してくださいね〜』



 ああ、そんなルールだったのか。

 そりゃ良かった。

 目の前のおじいちゃんはむかつくが、なんの恨みもないからな。

 殺すのは忍びない。

 こいつ、死にかけでも『ギブアップ』なんかしそうにないし。



『——では始め!』



 唐突に試合が開始された。

 おじいちゃんが腰から剣を抜き、


「ククク……いくぞ! 久しぶりに血が騒ぐわ! 我が秘技をお見舞い——グハッ!」


 ——地面を蹴った瞬間である。



 ——サイコキネシス。



 おじいちゃんに超能力をかける。

 サイコキネシスによって体が持ち上がったおじいちゃんは、そのままステージ外まで吹っ飛び、壁へと叩きつけられた。

 両手両足を大の字に広げ、壁にめり込んだおじいちゃん。


「……終わりかな?」


 一歩も動かずに試合が終わってしまったぜ!

 おじいちゃんの目は瞳孔が開ききっており、とても動き出すようには見えなかった。


「おーい、審判の人よ。十カウントはいいのか?」

「え、ええ? そ、そうですね!」


 ぽかーんと光景を見ていた審判。

 俺が話しかけたら、慌てて「ワ、一! 二!」とカウントを始めだした。


 周囲の歓声も止んでいる。

 審判のカウントコールが空しく響き渡った。


「テ、テン!」


 十カウントが告げられると。

 一気に歓声が怒号のようにして降り注いできた。

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