43・サザラント最強決定戦
その後、手紙をよく読んでいくと一都市の三人までの参加が認められるらしい。
「八都市あるわけだから……二十四人で一番を決めるということか?」
「いや、マスター。よく手紙を読んでみなよ。サザラント王国としても、王都から三人を選出するみたいだから、合わせて二十七人だね」
「ホントだ」
まあ二十四人だろうが、二十七人だろうがどちらにせよ俺が優勝するから関係ないだろう。
「マコトさん。こんな戦いに興味を持ってどうするつもりですか?」
エコーが首をかしげて尋ねてきた。
「戦いに興味……ってか、俺には『それ相応なポストを用意する』ってところが気になるんだ」
名誉の部分は一番興味がない。
別に名誉が欲しくて、異世界で好き勝手やっているわけではない。
「フラン。相応なポストってなんだと思う?」
「……騎士団長が殺害されたって言葉もあるしね。差し詰め『騎士団長』のことだと思うよ」
うむ、無難なところだろう。
膝の上に乗ったままのマリーズが、
「王様の側近ということも考えられる」
と淡々と意見を口にした。
「成る程……どちらにせよ、王様に近いところにいれるってことだよな」
「そうだろうね。王様から絶大なる信頼を得られると思うよ」
「俺はその『信頼』ってのが得たいんだ」
そう言うと、フランは目を丸くして、
「驚いた。君は王様に忠誠を誓うような人物には見えなかったんだけどね」
「はあ? なにを言ってる。俺があのおっさんに忠誠を誓うわけがないだろ」
「だったらなんで?」
「決まっている」
復讐のためだ——。
王様の信頼を得て、常に近いところにいる。王様は俺を信頼しているため、無警戒のはずだ。
そこで後ろから王様をぶっ刺す。
すると王様は震えた手を掲げ、息も絶え絶えにこう言うはずだ。
『フェイク。お前もか……』
と。
うん、我ながら完璧なシナリオである。
今から王様の絶望した表情が頭に浮かんできて、心の内で笑いが止まらない。
「マコトさん。グーベルグからいなくなるんですか?」
エコーが心配そうに声を出した。
「大丈夫だ。別にいなくなんてならないよ……多分な」
「なんでそんな自信なさげなんですか!」
「どちらにせよ、お前の元からいなくなったりしねえよ」
「マコトさん……」
俺がグーベルグから離れようが、エコー・フラン・マリーズの三人は連れて行くつもりだ。
折角手に入れた従順な美少女を手放してたまるか!
「それで三人って誰を選ぶつもりだい?」
「うーん、そうだな……」
口元に指を当て、頭に考えを巡らせる。
とはいっても、二人は確定なので残り一人だ。
「俺とマリーズ……後はアリサでも連れて行こうかな」
「成る程。それは最強パーティーだね。アリサっていうのは《ネドトロス》の元リーダーなんだろう? 腕っ節も強いはずだ」
「まあどちらにせよ、俺が勝つから誰でもいいんだがな」
と言うと、マリーズが頬をぷくーっと膨らませて、
「むー、マスター。マリーズも強い」
「おお、ごめんごめん」
「その決定戦でマスターにマリーズの力を全てぶつける」
「マリーズと戦う時は本気を出すよ」
傷つけない範囲ではあるが。
さて——これからの方針は決まった。
「まだトーナメントまでに二週間も期間があるのか」
「そうみたいだね。この二週間で優勝出来るように体を鍛えなくちゃね」
「はあ? 誰が?」
「えっ、君——いや、君は努力なんてしなくてもよかったか」
と言ってフランが溜息を吐いた。
努力なんてものは弱いヤツがするもんなんだ。強いヤツが努力とか格闘術とか身に付けたら卑怯だろ?
ってのを元の世界であった漫画で見た。
「マスター。マリーズはマスターに勝ちたいから訓練を付けて欲しい」
「戦う相手なのに、その相手から教えを請うか——」
「変?」
「いや、そういうの嫌いじゃないぜ」
頼もしい美少女だ。
ずっと膝の上に乗っているけどな!
いい加減、膝が痛くなってきたけどな!
マリーズは胸こそ貧相なものの、お尻が大きいのだ。
体は重くないから、我慢出来るけどね。
俺は二週間、みっちりとマリーズにエッチな特訓……じゃなくて、厳しい特訓を付けてやるか!
——かくして、サザラント最強決定戦への出場が決まったのだった。
■
二週間という時間はあっという間に過ぎ去ってしまった。
この間にマリーズとの特訓で楽しいことがあったが、わざわざ説明する必要もないので割愛させてもらおう。
戦いの当日……。
「じゃあ行ってくるよ」
見送りに来ていたエコー、フラン——そしてギルドの冒険者やメイド達に手を振る。
「頑張ってくださいね、マコトさん!」
「君の活躍を期待しているよ」
ここまで見送りに来てくれるのは意外だった。
人がごった返しており、まるでなにかのパレードをやっているかのよう。
「まあそんなに気張らなくてもいいよ。どうせ俺が勝つんだし」
照れ臭くなって、頭を掻く。
そういや——元の世界でもこんなに温かい視線を送られたことがない。
超能力は使えたが、いつも近付いてくるのは暗殺者や俺の力を利用してくる者達ばかりだった。
クラスメイトも俺の力を恐れているためか、一定の距離が離れていた。
あの頃はそれでもいいと思っていた。
凡人同士で戯れておけばいい、とまで思っていた。
でも——こんな風に温かい視線を送られるのも心地良いものだな。
「マコトさん」
「ん?」
人混みの中からエコーが一歩前に出て、真っ直ぐな視線を向けて言う。
「——生きて戻ってきてくださいね」
「いやいや! なんてこと言っちゃってるの! 俺が死ぬわけないじゃん!」
エコーにとっては心配かもしれない。
トーナメントは熾烈を極めるのかもしれないのだから——。
「いや、死ぬなんて思ってないですよ。マコトさん、王都に美女がいたら私なんかを見捨てて戻ってきそうにないんで」
「俺をなんだと思ってるのっ?」
どうせそんなことだと思っていた。
でもエコーの言葉を聞いて、ほっと胸が温かくなってくる。
——俺にはこれくらいで十分だよな。
「安心しろよエコー」
ポンと手を置いて、エコーの頭をくしゃくしゃと撫でる。
「絶対戻ってくるから。王都で洗練された美女よりも、俺にとったらエコーの方が可愛く見えるんだから」
「〜〜〜〜〜〜〜〜!」
エコーが顔を真っ赤にして、顔を俯かせる。
可愛いヤツめ。
「いちゃいちゃしてないで早く出発したらどうだい?」
フランが呆れたように溜息を吐いた。
「うん、それもそうだな。じゃあ——行ってきます」
「「「「行ってらっしゃい!」」」」
見送りに集まってくれた人達が声を揃える。
ちなみに王都までは馬車で行くことにした。
別にいつも通りダッシュで行ってもいいわけだが、今回はアリサもマリーズもいるので、のんびりとした馬車旅も良いだろう。
見送りの人達に手を振って、俺達は馬車に乗り込んだ。




