表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
41/50

41・夜這い(?)そして復讐

 ——透過の超能力。


 透視の超能力と名前が似ているように思えるが、実際のところは全然違う。


「テレポートは一度行った場所にしか使えないからな……」


 上手くイメージが出来ず、最悪の場合亜空間へと飛ばされる可能性もあるからだ。

 当然、リュクレース王女の部屋には鍵がかかっているだろう。

 ドアノブを回したら「カチャカチャ」という音がし気付かれてしまうかもしれないので、わざわざ試すような真似はしないが。


「早速中に入るか——」


 透明人間の状態で透過の超能力を使う。

 そのまま扉に体当たりするかのように進むと——そのまま扉をすり抜けてしまった。

 はい、透過とは壁や扉をすり抜ける超能力ですね。テレポート使わなくても、これくらいは容易いのです。


「ここがリュクレースの部屋か」


 広い。メッチャ広い。

 俺が通された部屋も広いかと思ったが、段違いの広さである。


「一人で使うのは持て余すだろ……」


 ってなくらいだ。

 月明かりを辿りに、進んでいく。


 すると——部屋の最奥さいおうに天蓋付きのベッドがあった。

 もちろん、このベッドも大きく三、四人は優に寝られそうなベッドであった。



 ——すやすや眠ってやがる。



 当たり前かもしれないが、ベッドではリュクレースが横になっていた。

 瞼は閉じられており、呼吸する度に胸が上下している。

 無防備なランジェリー(っていうのか?)を身に付けており、いつもより肌の露出面が多かった。



 ——ゴクリ。



 うん?

 今、俺が唾を飲み込んだ音だろうか?


「ん〜、ん……」


 リュクレースが寝返りを打ったせいで、太ももが露わになる。

 細いながらも肉感があり、抱きつきたくなるような太ももである。

 胸元が緩く、角度次第ではリュクレースの桃色の突起が見えてしまいそうである。



 ——見てくれだけはいいんだよな。



 それは俺も認めるところである。

 こうやって眠っているリュクレースを見ていると、無意識に両手が伸びてしまう。



 ——いかんいかん! 俺はなにを考えている!



 首を振って、手を引っ込める。

 このままリュクレースの体をメチャクチャにしてみたかった。それも復讐だと考えることも可能である。

 でも——なにを隠そう俺は童貞だ。やっぱり初めては相手が納得した時でないとね!



 ——さっさと復讐を実行しましょうか。



 スイッチを切り替える。

 復讐っていってもお姫様に魔法をかけてやるだけだがな。

 とびっきりの魔法をな。

 俺はリュクレースの顔を見つめ、超能力を発動する。


 ——パチン。

 と最後に指を鳴らして、超能力の発動終わり。


「ん〜、ん……」


 おやおや、これだけのことをやられてもすやすやと眠ってやがる。


「明日起きてからビックリするんだな……」


 そう耳元で囁いた。


「ん……わたくしは美しい……」

「!」


 一瞬起きたかと思って、バックステップを踏んでしまったがどうやら寝言らしい。

 その証拠にリュクレースは変わらずすやすやと寝息を立てるばかりである。

 無論、例え起きたとしても透明化しているので気付かれることはないが。



 ——こいつ、どんな夢見てやがんだよ。



 まあいい。

 良い夢を見られるのも今夜が最後だろう。


「せめて今夜だけは良い夢見ろよ」


 そう言い残して、さっさとリュクレースの部屋から出た。


 ——ドクンドクン。

 廊下に出て、胸に手を当てると心臓の鼓動が早くなっていった。


 おそらくさっきので緊張していたからだろう。

 気付かれないように復讐をすることが?

 いやいや、女の子の寝顔なんて滅多めったに見ないからね。



【side リュクレース王女】


「ん——よく寝ましたわ」


 リュクレースは上半身を起こし「うーん」と背伸びをした。

 窓から差し込んでくる朝日が気持ちいい。


「それにしても……昨日は良い夢を見れましたわ♪」


 どんな夢かは忘れたのが残念であるが——。

 良い夢を見られた理由はなんとなく分かっている。


 昨日の主要八都市会談である。

 リュクレースは王様から予め「会談中は入ってくるな」と言われていた。

 そんなことは分かっている。会談はほとんどが他愛もないこととはいえ、政治に絡んでいない自分が出しゃばってもなんらメリットがない。

 それなのに——リュクレースが会談の場に顔を出したのは別の理由。


「ふふふ。皆様、わたくしを見ていましたわね」


 そう。

 リュクレースは他の異性から見られることをこよなく愛する。

 リュクレースは自分がキレイなことを知っている。可愛いことを知っている。

 彼女が歩けば『ダイアモンドが落ちるよう』と称される通り、様々な男性が振り返る。

 それはガールフレンドとデート中の男であっても、だ。

 男性の心を惑わし、揺さぶる。

 そのことに彼女はなによりも感情を高ぶらせる。


 そして——期待させておいてどん底に叩き落とす。

 そのことに彼女はなによりも快感を覚えるのである。


「異世界からの召喚者……名前は忘れましたけど、あの方の時は最高でしたわね。思い出しただけで身震いしてしまいそう」


 リュクレースは両腕で自分の体を抱き、軽く震える。

 もう少し遊んであげようと思ったが、あの男は逃亡を試みようと企て、失敗し死んでしまったのが残念であった。


「さて——そろそろ朝食の時間ですわね。あの間抜けな領主と一緒らしいですし……今日はどんなことをして注目を浴びようかしら」


 リュクレースがベッドから降りると、どこからともなくメイドが現れ彼女に服を着させようとした。

 ——最初に異変に気付いたのはその時であった。



「だ、誰ですかっ! どうしてお嬢様の部屋に!」



 メイドの一人が叫んだ。


「あら、なにを言っているのかしら?」


 なにを言っているか分からず、リュクレースは小首を傾げた。



「だ、誰かっ! 侵入者です!」

「おのれ! 王女様をどこにやった!」



 場が騒然となる。


「い、一体なにが……」


 メイドの一人がリュクレースを羽交い締めにしようとする。

 しかしリュクレースはそれをすり抜け、部屋の外に出て駆け出す。


(なにが起こっているのかしら……?)


 廊下を駆け回っている間にも、兵士やメイドが自分を取り押さえようとしてくる。

 それをリュクレースは避けて、朝食が用意されているであろう食堂に向かう。


(お父様に会えば……お父様に会えば全てが収まるはずですわ)


 どうして自分が追いかけなければならない。

 自分は王女様ですわよ。

 訳も分からず——時折、足が絡まって転けそうになりながら、なんとか食堂へと辿り着く。


「お父様!」


 バン!


 勢いよく扉を開ける。

 中には王様、そして八人の領主が揃っていた。

 全員の顔がゆっくりとこちらに向けられる。


「お……」


 王様の怯えたような表情。わなわなと震える口から言葉が零れる。



「お主は誰じゃ?」



「え……」


 その時、リュクレースの中でなにかが切れてしまったかのような感覚に陥った。


「陛下! 大丈夫でしょうか!」


 動けずにいると、後ろの扉から何人もの兵士が入ってきて彼女を押さえつけた。


「は、離しなさい!」


 リュクレースは兵士達の太い腕の中で暴れ回るが、か弱い力では逃げられるわけもない。


「動くなっ!」

「あなた達! 誰にこんなことをやっていると思っているのですか!」


 怒鳴るが、それで兵士の動きを止められるはずもなく——それどころか臆する様子もない。

 彼女は藻掻もがきながら、たまたま食堂に置かれた一枚の鏡を見つけた。

 鏡に映った自分の姿を見た瞬間——絶句。



(だ、誰——?)



 これがわたくし?

 奇しくも鏡を見て思ったことは、周りの人と同じことであった。


 そう——。


 鏡に映っている自分は美しいどころか、これ以上ない醜く潰れたような顔だったのだから——。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ