41・夜這い(?)そして復讐
——透過の超能力。
透視の超能力と名前が似ているように思えるが、実際のところは全然違う。
「テレポートは一度行った場所にしか使えないからな……」
上手くイメージが出来ず、最悪の場合亜空間へと飛ばされる可能性もあるからだ。
当然、リュクレース王女の部屋には鍵がかかっているだろう。
ドアノブを回したら「カチャカチャ」という音がし気付かれてしまうかもしれないので、わざわざ試すような真似はしないが。
「早速中に入るか——」
透明人間の状態で透過の超能力を使う。
そのまま扉に体当たりするかのように進むと——そのまま扉をすり抜けてしまった。
はい、透過とは壁や扉をすり抜ける超能力ですね。テレポート使わなくても、これくらいは容易いのです。
「ここがリュクレースの部屋か」
広い。メッチャ広い。
俺が通された部屋も広いかと思ったが、段違いの広さである。
「一人で使うのは持て余すだろ……」
ってなくらいだ。
月明かりを辿りに、進んでいく。
すると——部屋の最奥に天蓋付きのベッドがあった。
もちろん、このベッドも大きく三、四人は優に寝られそうなベッドであった。
——すやすや眠ってやがる。
当たり前かもしれないが、ベッドではリュクレースが横になっていた。
瞼は閉じられており、呼吸する度に胸が上下している。
無防備なランジェリー(っていうのか?)を身に付けており、いつもより肌の露出面が多かった。
——ゴクリ。
うん?
今、俺が唾を飲み込んだ音だろうか?
「ん〜、ん……」
リュクレースが寝返りを打ったせいで、太ももが露わになる。
細いながらも肉感があり、抱きつきたくなるような太ももである。
胸元が緩く、角度次第ではリュクレースの桃色の突起が見えてしまいそうである。
——見てくれだけはいいんだよな。
それは俺も認めるところである。
こうやって眠っているリュクレースを見ていると、無意識に両手が伸びてしまう。
——いかんいかん! 俺はなにを考えている!
首を振って、手を引っ込める。
このままリュクレースの体をメチャクチャにしてみたかった。それも復讐だと考えることも可能である。
でも——なにを隠そう俺は童貞だ。やっぱり初めては相手が納得した時でないとね!
——さっさと復讐を実行しましょうか。
スイッチを切り替える。
復讐っていってもお姫様に魔法をかけてやるだけだがな。
とびっきりの魔法をな。
俺はリュクレースの顔を見つめ、超能力を発動する。
——パチン。
と最後に指を鳴らして、超能力の発動終わり。
「ん〜、ん……」
おやおや、これだけのことをやられてもすやすやと眠ってやがる。
「明日起きてからビックリするんだな……」
そう耳元で囁いた。
「ん……わたくしは美しい……」
「!」
一瞬起きたかと思って、バックステップを踏んでしまったがどうやら寝言らしい。
その証拠にリュクレースは変わらずすやすやと寝息を立てるばかりである。
無論、例え起きたとしても透明化しているので気付かれることはないが。
——こいつ、どんな夢見てやがんだよ。
まあいい。
良い夢を見られるのも今夜が最後だろう。
「せめて今夜だけは良い夢見ろよ」
そう言い残して、さっさとリュクレースの部屋から出た。
——ドクンドクン。
廊下に出て、胸に手を当てると心臓の鼓動が早くなっていった。
おそらくさっきので緊張していたからだろう。
気付かれないように復讐をすることが?
いやいや、女の子の寝顔なんて滅多に見ないからね。
【side リュクレース王女】
「ん——よく寝ましたわ」
リュクレースは上半身を起こし「うーん」と背伸びをした。
窓から差し込んでくる朝日が気持ちいい。
「それにしても……昨日は良い夢を見れましたわ♪」
どんな夢かは忘れたのが残念であるが——。
良い夢を見られた理由はなんとなく分かっている。
昨日の主要八都市会談である。
リュクレースは王様から予め「会談中は入ってくるな」と言われていた。
そんなことは分かっている。会談はほとんどが他愛もないこととはいえ、政治に絡んでいない自分が出しゃばってもなんらメリットがない。
それなのに——リュクレースが会談の場に顔を出したのは別の理由。
「ふふふ。皆様、わたくしを見ていましたわね」
そう。
リュクレースは他の異性から見られることをこよなく愛する。
リュクレースは自分がキレイなことを知っている。可愛いことを知っている。
彼女が歩けば『ダイアモンドが落ちるよう』と称される通り、様々な男性が振り返る。
それはガールフレンドとデート中の男であっても、だ。
男性の心を惑わし、揺さぶる。
そのことに彼女はなによりも感情を高ぶらせる。
そして——期待させておいてどん底に叩き落とす。
そのことに彼女はなによりも快感を覚えるのである。
「異世界からの召喚者……名前は忘れましたけど、あの方の時は最高でしたわね。思い出しただけで身震いしてしまいそう」
リュクレースは両腕で自分の体を抱き、軽く震える。
もう少し遊んであげようと思ったが、あの男は逃亡を試みようと企て、失敗し死んでしまったのが残念であった。
「さて——そろそろ朝食の時間ですわね。あの間抜けな領主と一緒らしいですし……今日はどんなことをして注目を浴びようかしら」
リュクレースがベッドから降りると、どこからともなくメイドが現れ彼女に服を着させようとした。
——最初に異変に気付いたのはその時であった。
「だ、誰ですかっ! どうしてお嬢様の部屋に!」
メイドの一人が叫んだ。
「あら、なにを言っているのかしら?」
なにを言っているか分からず、リュクレースは小首を傾げた。
「だ、誰かっ! 侵入者です!」
「おのれ! 王女様をどこにやった!」
場が騒然となる。
「い、一体なにが……」
メイドの一人がリュクレースを羽交い締めにしようとする。
しかしリュクレースはそれをすり抜け、部屋の外に出て駆け出す。
(なにが起こっているのかしら……?)
廊下を駆け回っている間にも、兵士やメイドが自分を取り押さえようとしてくる。
それをリュクレースは避けて、朝食が用意されているであろう食堂に向かう。
(お父様に会えば……お父様に会えば全てが収まるはずですわ)
どうして自分が追いかけなければならない。
自分は王女様ですわよ。
訳も分からず——時折、足が絡まって転けそうになりながら、なんとか食堂へと辿り着く。
「お父様!」
バン!
勢いよく扉を開ける。
中には王様、そして八人の領主が揃っていた。
全員の顔がゆっくりとこちらに向けられる。
「お……」
王様の怯えたような表情。わなわなと震える口から言葉が零れる。
「お主は誰じゃ?」
「え……」
その時、リュクレースの中でなにかが切れてしまったかのような感覚に陥った。
「陛下! 大丈夫でしょうか!」
動けずにいると、後ろの扉から何人もの兵士が入ってきて彼女を押さえつけた。
「は、離しなさい!」
リュクレースは兵士達の太い腕の中で暴れ回るが、か弱い力では逃げられるわけもない。
「動くなっ!」
「あなた達! 誰にこんなことをやっていると思っているのですか!」
怒鳴るが、それで兵士の動きを止められるはずもなく——それどころか臆する様子もない。
彼女は藻掻きながら、たまたま食堂に置かれた一枚の鏡を見つけた。
鏡に映った自分の姿を見た瞬間——絶句。
(だ、誰——?)
これがわたくし?
奇しくも鏡を見て思ったことは、周りの人と同じことであった。
そう——。
鏡に映っている自分は美しいどころか、これ以上ない醜く潰れたような顔だったのだから——。




