28・交渉術
街の中央にある『領主様』とやらのお館はとても大きく、煌びやかなものであった。
そりゃあ、サザラント城に比べたら小さいけどな。
でもグーベルグの街並みの中で、最も大きく金もかかっていそうな建物であった。
「おい。領主のカルヴィンとやらに会いに来たんだが、通してくれないか?」
入り口のところで立っていた鎧を身につけた人にそうお願いをしてみる。
「き、貴様! 何者だ!」
「そんな怒るなよ。俺はただ領主に会いに来ただけなんだから」
「ふざけるな!」
うーん、なんだかよく分からないけど怒らせてしまったらしい。
門番(?)の人は今にも持っている槍で襲いかかろうとしている。
「やれやれ」
と言いながら、危機感もなく鼻糞をほじる。
ここで戦闘になるのも面倒臭いな。
こんなこともあろうかと——。
「ほれ。これ、ギルドマスターフランからの推薦状だ。これで通してくれないか」
そう言うと、門番は目の色を変えて、
「ふ、ふうん?」
と俺が渡した紙をマジマジと見だした。
「確かに……これはフラン殿の署名であることは間違いなさそうだな。少し待たれよ!」
館の中へと引っ込んでいく門番。
「ふむ……やはり推薦状の効果は凄いみたいだな」
触手の超能力で無理矢理フランに書かせたものだ。
『至急伝えたいことがあるので、使者を送ったよ。話を聞いてね』
というようなことが書かれている。
ちなみに推薦状は所々変な体液によって濡れているわけだが、重要なのは中身なのである。
「マコトさん。さっきの人、もしかして私達を殺すために応援を呼びに行ったんじゃないでしょうかっ?」
「それはないと思うよ」
多分だけど。
ってか応援がやって来たとしても、俺の超能力で倒せばいいだけのことだし。
うーん、超能力ってやっぱチートすぎる。
初めての異世界生活なのに全く危機感が湧いてこない。
そんなことを思っていると、門番が戻ってきて、
「——カルヴィン様のお許しが出た。中に入れよ」
と偉そうな態度で告げた。
「おう、ありがとな。それからお前——」
「なんだ——グハアッ!」
俺に偉そうな態度を取ったのがむかついたので、サイコキネシスで門番を浮かせ壁に叩きつけてやる。
「よし、平和的に話が解決したな。カルヴィンとやらに会いに行くぞ」
「門番の人痛めつける必要なかったじゃないですかっ?」
「なにを言う」
イライラしたらハゲるって言うしな。俺はまだ十代なんだし、もう少し髪の毛で遊びたいお年頃なのだ。結果門番を痛めつけるのはなんの問題もない(論破)。
地面で倒れて気絶している門番を通り過ぎて、領主カルヴィンの館にエコーと一緒に入った。
「お前がカルヴィンか」
領主の部屋に入ると——そこにはだらしない図体をした男が椅子に座っていた。
「ん? オレにそんな口をきくヤツは誰だ? 見慣れぬ顔だな」
一言で言うなら——デブ。
こんなヤツがグーベルグの領主なのか?
そう戸惑って、次の言葉を発せられずにいると、
「ふっ。そう緊張しなくてもよい。オレはグーベルグで一番の男だからな。オレは怒っているわけではない。オレは寛大な男なのだ」
と気分良さそうに喋った。
うわー、喋ってるよ。
なんというか、人形が言葉を操っているような違和感って一種の可愛さみたいなものも感じる。
……もっともここで言う可愛さとは、美少女を見て感じる可愛さとは全然違うもんなんだがな!
領主——カルヴィンが長く金色の髪を手で撫でる。
手には五本の指それぞれにこれでもかと言わんばかりに指輪がはめられている。
はっきり言って悪趣味。似合ってない。
それによくよく部屋を観察してみると、高そうな絵画や壺が並べられている。
領主というより、名のある貴族の部屋に来たみたいだな。
ん? 領主ってのは貴族なのか。
よく分からんしまあどうでもいいだろう。
「それで——お前はどうしてオレのところに来たのだ? ギルドマスターのフランの推薦状を持っていたみたいだが……」
あっ、そうそう。俺がここに来た理由はカルヴィンの醜い容姿を見に来たわけじゃない。
「率直に言う——俺をギルドマスターにしてくれ」
「ふうん?」
カルヴィンの目が疑問の色に変わる。
「いきなりお前はなにを言い出すんだ?」
「フランは忙しいみたいでな。今度から俺が代わりにギルドマスターをしてやろう——と思ったんだ。フランもこのことについては納得してくれている」
納得してくれているというか触手で無理矢理納得させたんだがな!
それをカルヴィンに言う必要はないだろう。
「なにを言い出すかと思えば——」
「ん? 早速ギルドマスターにさせてくれるのか」
「ハッハハハ——」
高笑いするカルヴィン。
耳に響く聞いているだけで嫌な音だったので、思わず顔をしかめてしまう。
「笑止! 出直してくるがいい」




