22・戦力差はあるけど超能力でなんとかします
「はあ……君は面白いことを考えるんだね。ただ勝つだけじゃなくて、相手に屈辱を与えようとするなんて……」
アリサは呆れているのかどうなのか、目を瞑って溜息を吐いた。
「でもどうするつもりなんだい? 私達に特訓でもつけるつもりかい?」
「特訓? どうしてだ」
「だって……今から《ネドトロス》は君のものになったんだから、少しでも戦力にならないと……」
「ハハハ、なかなか殊勝なヤツだな」
戦力?
そんなの、お前等に期待しているとでも思ったのかよ。
「そんなの必要ない。騎士団なんか俺一人で十分だ」
「……不思議だね。ここで否定してやりたいところだけど、君の実力を見てからだと、とてもバカなこととは言えないよ」
「そして俺は考えるよりも行動したいタイプだ。だから早速、騎士団の方に接触したいと思う」
俺は眉間に人差し指を付けて、意識を集中させる。
——千里眼の超能力。
そうなのだ、またなのだ。
暗闇の中にじんわりと映像が浮かび上がってくる。
——そこは草原であった。
『ベヒモスと言えども、やはり騎士団長様の手にかかればイチコロですな!』
『我が騎士団長は最強だ!』
『ハハハ、止めたまえ。照れるじゃないか』
『今回の任務で臨時報酬が出ると思いますが、騎士団長様はなにに使われるご予定ですか?』
『そうだな……新しい剣でも買おうか』
『またまた! 絶世の美女でも買うつもりではないですか』
『ククク、それも面白いかもしれぬな』
『英雄色を好む——さすが英雄とも称される騎士団長様ですな』
——焚き火を囲んで、鎧を身につけた兵士っぽいヤツ等何人かが話していた。
街の外とは思えないほど、ヤツ等は油断しきった態度に見える。
いや、彼等にとってモンスターが蔓延る街の外でも余裕なのだろうか。
——その中で見知った顔があった。
フーゴだ。
フーゴは樽で作られたコップを片手に笑みを浮かべていた——。
「……よし、分かった。どうやら騎士団長殿とかいうヤツはこの近くにいるらしいぞ」
「はあ?」
アリサは理解出来ない、とでも言ったような顔をしている。
ヤツの顔を久しぶりに見ただけで、フツフツと怒りが込み上げてきた。
——ああ、早いとここいつの顔面をぶん殴りたい。
ってな。
「俺は顔が分かれば、そいつがどこにいるか分かる力も使えるんだ」
「驚いた。まさかクレアボイアンスの魔法も使えるなんてね」
前にも言われたようなことが耳に入るが、いちいち否定するのは疲れるので無視する。
「というわけで俺がこれからしようと思っていることは分かるな?」
「……大体、予想は付くが私の口から言うのは怖いので分からないふりをしておこうか」
「今から騎士団をぶっ潰しに行く」
それを聞いて、アリサは引いたような表情。
そして一回、溜息をつき近くにいたエコーが「まあまあ、マコトさんってそういう人ですから」と言わんばかりに肩をポンポンと叩いた。
「一つ注意しておくが、俺の命令は絶対だ」
「君に会ってからまだほとんど経ってないけど、君という人物が分かってきたような気がするよ」
「物分かりがいいじゃないか」
ニヤリ。
知らぬ間に口角が吊り上がっているのに気付いた。
体はブルブルと小さく震えている。
——恐怖している?
いや、違う。
これは武者震い……いや、復讐をこなさせそうなことの嬉しさに体が震えているのだ。
今すぐにでも俺一人でここを飛び出したい。
でもそれじゃあ、面白くない。
俺は拡声の超能力を使い、塔の中にいるであろう《ネドトロス》のメンバー全員に聞こえるようにして、
「おい! お前等。今から《ネドトロス》のヤツ等をぶっ殺しに行くぞ!」
と告げるのであった。
■
というわけで、騎士団のキャンプ地を襲撃して現在に至る。
「なっ……貴様は誰だっ!」
フーゴが俺を見上げ叫ぶ。
「ククク……俺の声を覚えていないか」
「どういうことだ? えぇい! その悪趣味な仮面を外せ!」
どうやら激昂しているようだ。
ちなみに今の俺、浮遊の超能力で月に重なるように浮き上がっている。
何故か? そんなもの、気分の問題である。
そして——《ネドトロス》の本拠地にあった仮面を被り、顔を隠しているのだ。
もっと……絶望のどん底に突き落としてから、俺の正体を明かした方が面白いからだ。
とはいっても、声は変えていないのでフーゴは俺だと気付くヒントが与えられていた。
だが、こんな低脳に俺の声なんて覚えられるわけないよな。
「我達は《ネドトロス》!」
大仰に叫んでみる。
「ネ、《ネドトロス》だと!」
「そうだ。我達はサザラントの転覆を謀っている。今日はその前夜祭だ」
「ふんっ、ほざけ! 貴様等みたいなオチコボレ……しかもたった一人で騎士団を相手にするつもりか?」
「はあ? 一人だと——」
右手を挙げる。
「うぉぉおおおおおおおお!」
その瞬間。
俺の背後から《ネドトロス》のメンバーが出てきて、騎士団の連中に襲いかかった。
「はっ……一人だろうが百人だろうが騎士団に勝てるわけがないだろう」
だが、そんな光景を見てもフーゴの表情からは余裕は消えない。
——連れてきた《ネドトロス》のメンバーざっと総数百人に対し、騎士団は三十人くらいだろう。
三倍の人数。
そう、これは最初から戦いではなく、騎士団が一方的に蹂躙されるはずであった。
しかしそれは両者が同じ実力だったらということ——。
「ぐへぇっ!」
「ダ、ダメだ! 最初から勝てるわけがなかったんだ」
「逃げよう! いくら魔法を放っても、それ以上の魔法で相殺されちまう」
……まあ予想はついていたけどよ。
最初はあれだけ勇ましく突進をかました《ネドトロス》のメンバー。
それがものの十五分で阿鼻叫喚に包まれている。
「やっぱダメか……」
あまりにみっともない光景に頭を抱える。
《ネドトロス》のメンバーが魔法を使えようが、プロの集団である騎士団に勝てるわけがない。
こうしている間にも炎の隕石が《ネドトロス》に襲いかかったり、逃げても追尾してくる雷の矢によって、戦況はどんどん崩れていった。
「ハハハ! 身の程知らずの連中め」
「敵は騎士団長だけだと思っていたか?」
「相手の戦力を見誤ったことがお前等の敗因だ!」
騎士団の連中を気分よくさせている。
腐っても騎士団。
フーゴだけではなく、一人一人がアリサ並の実力なのだろう。
ちなみにアリサとエコーは塔で留守番をさせている。
一応、こっちの戦力も隠しておく方が後々有利にことを進められると思ったからだ。
「仕方ない……やっぱ俺の力を使うか」
頭を掻きながら超能力を発動する。
サイコキネシスもパイキロネスもエネルギー弾も放ったわけではない。
だが発動した瞬間、一気に戦況は変化した。
「ど、どういうことだ? いきなりあいつ等の動きが素早くなったぞ!」
「魔力も上がってやがる。今まで手加減していたということか?」
「い、いや……そんなわけは……」
「うぉおおおおお! サンダー・コメットぉぉおおおお!」
《ネドトロス》のメンバーが押し出したのだ。
動きは疾風のごとく早くなり、暴風のように魔法がこの場を支配し出したのだ。
騎士団の連中が押され出している光景を、俺は空中から眺めていた。
——身体強化の超能力。