19・VS 《ネドトロス》の首長
【side 《ネドトロス》の首長アリサ】
「アリサ様! 大変です。侵入者です!」
「こらこら、もう少しおとなしく入ってこれないかね——」
《ネドトロス》の本拠地。
塔の最上階で——首長であるアリサは優雅にワインを傾けていた。
(少々、骨のあるヤツが来たようだな)
塔にマサトという侵入者が現れなお、アリサは余裕の態度を崩していなかった。
実際、数は少ないが塔に侵入してきた者は初めてではない。
しかし侵入者は一人残らず排除してきた、という実績。
そして仮に——この最上階。アリサのいる部屋まで辿り着いたとしても、撃墜出来るという自信。
その二つがあるため、これだけの危機的な状況になっても、アリサはワインで頭を酔わせておくことが可能であった。
「ですが! 今回の侵入者は少々違うようなんです!」
「うむ? 少々違うとは?」
「は、はい。どんな魔法も通用しないんです! さらに強力な魔法も使ってきて……おそらく、高ランク魔法使いと考えられます」
部下から侵入者の話を聞く。
それによると。
どんな魔法を使っても無効化され、仮に無効化されなかったとしてもそれ以上の魔法で返される。
(推定魔力は300といったところか)
聞きながら、アリサは冷静に分析する。
魔力300といったら、Aランクに匹敵する。
(私が本気を出す必要が出てきたか……)
よかろう。
最近は戦いを部下に任せて暇になってきたところだ。
グイッ、とアリサはワインを飲み干す。
「ククク……もしかしたら、ここまで辿り着くかもしれないね」
「そ、そんな!」
「なあに、そんな慌てなくてもいい。君は新人だから知らないと思うが、私の魔力を知っているかね?」
「い、いえ……」
「私は魔力は400を超える」
「そ、そんな……!」
部下が驚き、尻餅をつく。
驚くのも無理はない。
魔力400といったら、Sランクにも相当するのだ。
これはサザラントの騎士団としても、一人いるかいないか。
いや——賢者にも匹敵するだろう。
「ど、どうして……い、いや……」
「ククク……それなのにどうして、こんな秘密結社の首長をしているんだ、と言いたいんだな?」
失礼にあたると思ったのか、部下は口を塞ぐ。
部下の疑問は仕方ない。
何故なら——魔力400もあれば、どこの国の騎士団にも引っ張りだこ。戦いでなくても、賢者として王の側近に置いてもらえたり、魔法研究所でも重要なポジションに就かせてもらえるだろう。
「これは私なりの復讐なのだよ」
——そう。
元々、アリサは高名な魔法使いの両親から生まれた子どもであった。
小さい頃は貴族として贅沢三昧の生活を送ってきた。
それにより、アリサは魔法の才能に恵まれていた。
「しかし……両親が王に騙されてしまってね。王も優秀な魔法使いでありながら、どこにも属さない両親を煙たがっていたんだろう。
騙され、お金は全て没収されてしまった。そこからは転落人生。両親も私が幼い頃に自殺してしまってね……」
「そんなことが……」
そこからアリサは復讐の鬼となった。
この《ネドトロス》をもっと大きくして、サザラント王に復讐してやる。
それを一心にして組織を大きくし、もう少し王の心臓に我が刃が届こうかとしている。
(それまで私は誰にも負けるわけにはいかないんだよ……)
久しぶりに、そう感傷に浸っていると。
「おう、邪魔するぞ」
部屋の扉を蹴破って、そこから一人の少年が顔を出した。
意外にも早い到着に対しても、アリサは余裕の態度を崩さない。
「ククク……待っていたよ」
「ああ? もしかして歓迎されているのか、俺?」
「ひ、ひぇえ! マコトさん、そんなわけないでしょう!」
少年の隣には可愛らしい少女がいる。
——奴隷だろうか?
どちらにせよ、少女に気を取られる必要はなさそうだ。
「ああ——そうだ。歓迎するよ。久しぶりの『客人』だからね」
アリサは背もたれに体を預けながら、強者のオーラを身にまとっている少年を眺めていた。
■
最上階に辿り着いたと思ったら、これまたキレイな金髪をした女の子がいた。
——リュクレース王女並じゃないか?
リュクレース王女はマジで嫌いだが、その容姿は認めている。
「おい、お前は使用人かなにかか? リーダーを出せ」
そう問いかけると、女の子は「ククク」と笑い出し、
「なにを言っている。私こそが《ネドトロス》のリーダーだ」
「なっ——」
驚きを隠せない。
だって目の前の女の子は二十そこそこに見えたんだからな。
とても《ネドトロス》とかいう胡散臭い連中のリーダーには見えなかったからだ。
「私が女だから驚いたのか? 見かけで侮るなよ。私は——」
「いや。こんな掃きだめみたいな場所で、お前みたいな可愛い子がいることに驚いたんだ」
「な、なにを言っている!」
気紛れで褒めたら、《ネドトロス》のリーダーだと語る女の子は顔を真っ赤にして、両手をバタバタとさせた。
——うーん、可愛い。
「マコトさん! なに鼻を伸ばしているんですか」
エコーが俺の腕にしがみついてくる。
リーダーとかいう女の子も魅力的だが、やっぱエコーの胸も捨てがたいなー。
腕に当たる胸の柔らかさを感じながら、リーダーを観察する。
うん——スタイルも良い、じゃなくて微かに気品があるように見えた。
それと兼ね備えて、凛とした佇まいを見るに自信にも溢れているように感じた。
——こんな侵入者、一捻りにしてやる。
と。
「まあお前がリーダーだというなら、リーダーだと信じていい。俺は《ネドトロス》と交渉しにきたんだ」
「交渉? ここまで来るのに、私の部下を何人も傷つけてくれたみたいだね。それなのに冷静に交渉のテーブルに上がると思うのかい?」
「お前がどうこう考えようが関係ない」
「そうかい——じゃあ私も関係ないね!」
女の子は目の色を変え、バッと手の平を向けた。
そこから現れたのは、植物のツタであった。
「——プラント・バインド」
そう唱えると、ツタはどんどん伸びていき俺の元まで襲いかかってくる。
「やけに好戦的だな」
これも魔法だろうか?
うん、見るにこの塔で見た中で魔法の鋭さが違う。
やっぱりリーダーというのは本当だろうか?
そんなことを考えていると、ツタが俺とエコーの体へと絡まり、拘束されてしまう。
「ハハハ! 名乗り遅れたね、私は《ネドトロス》の首長アリサ! Aランクの魔法使いであり、サザラント王国に破滅をもたらせる者だ!」
うーん、油断してしまったか。
自分の力だけではツタによる拘束を解けそうにない。
「ママママ、マコトさん! Aランク魔法使いですよ! やっぱり私達が敵う相手じゃなかったんですよ」
同じように拘束されているエコーが声を上げる。
首だけ動くので、エコーの方へ視線を動かすと——ツタが良い具合に絡まっており、パンツが丸見えになっている。
「うーん、水色か……」
「マコトさん?」
「いや、こっちの話だ。気にするな」
パンツとか、太股とか、さらには服がはだけ胸元とか……。
色々なところが丸見えになっているが、命の危機を感じているためかエコーは気にしている様子がない。
「ハハハ! どうだい? 私の部下を傷つけてくれたんだ。殺される覚悟は出来ているだろう? このまま身動き出来ない君達に対して魔法を浴びせて——」
「殺される覚悟?」
そんなの一度たりともしたことがない。
俺は超能力を発動する。
すると、今まであれだけ強く締め付けてきたツタが灰色になり、そのまま地面へと落ちてしまった。
まるで枯れてしまった植物のように。
「ど、どういうことだい——?」
さすがに女の子……アリサも戸惑っている。
「魔法、魔法って言ってもこれって植物だろ? 水がなければ枯れるのも無理はないな」
水分吸収の超能力——。
いや、もうなんでもありなのだ。