12・魔力を計りましょう
「なんで死んだことにされているんですか! 私は生きてますよ!」
「いや、止めたのに冒険者になってクエストなんか受けるから……スライムに食べられているかと思いましたよ」
「さすがに私でもスライムには勝てますからねっ?」
紙にプロフィールを書きながら、耳を傾ける。
……どうやらエコーが街の外にいたのは、クエストを受注したかららしい。
それがどんなクエストか知らない(っていうか興味もない)が、お姉さんに『死んだ』と思われていたことも。
エコーとお姉さんが楽しく(?)お喋りしている中、プロフィールを書き上げて、
「書けた。これでいいかな」
「はい、ありがとうございます。特に不備はなさそうですね」
「じゃあこれで俺も冒険者に?」
「いえ——あと一つだけ検査させてもらうことがあって」
検査?
身長でも測るんだろうか。
「魔力は計らせてもらいます」
とお姉さんの言葉を聞いて、つい顔をしかめてしまう。
「魔力か……どうして、そんなのを計らないといけないんだ?」
「普通は冒険者になりたての人は全員Gランクからスタートしてもらいます。
でもごくまれに魔力が高い人がいまして……例えば魔力300の人なのに、Gランクから開始は時間の無駄でしょう?」
「なるほど」
魔力が高ければ高いほど、高ランクから冒険者をスタートさせることが出来るということだ。
それにしても、薄々気付いていたがどうやらこの異世界では『魔力』だったり『魔法』が強さの基準として考えられているらしいな。
いくら腕っ節が強くても、遠くから魔法を放たれれば防ぐ手段はない、っていうな。
王様達が魔力にこだわった理由が分かってきた。
「では魔力を計らせてもらいますね」
そう言って、お姉さんは石のようなものを持ってきた。
「これは魔力を測定する魔石です。正確には計ることは出来ませんが、これで大体分かります」
半透明の石であった。
石を見ていると、向こう側でお姉さんの歪んだ顔が見えた。
「どういうことだ?」
「ここの魔力を込めていただくと、魔石の色が変わります。その色によって、魔力のランクが分かるんですよ」
ランク?
数値以外にも指標が存在するということか。
お姉さんの説明によると、
・魔力1〜100 青色
・魔力101〜200 赤色
・魔力201〜300 黒色
・魔力301〜400 銀色
・魔力401〜500 金色
・魔力501以上 測定不能
ということであった。
「一般人の魔力の平均が100くらいですから、魔石が赤色にでもなれば優秀とも言えるでしょうね。黒色にもなれば、Fランクから。銀色はDランクからスタートしてもらいます」
「なるほど」
数値で計れないのは、所詮その魔石が安物だからということだろう。
もしかしたら、すぐ死んでしまうかもしれないヤツに高価な魔石だったり、魔法を使うことが出来ない、と。
そう考えれば、城にいた怪しげな賢者とかいうヤツは優秀だったのか。
「じゃあお願いします」
石を手渡される。
「……えーっとどうすればいいんだ?」
「はい? 魔力を込めればいいだけですよ」
その「魔力を込める」っていう行為がよく分かんないんだけどな。
それじゃあ話も進まないし、石をギュッと握ってみようか。
うーん、特になにか変わったような気はしない。
「こ、これは……!」
握られた手をパーにしてみる。
手の平に乗せられた石を見て、お姉さんは驚きの声を漏らした。
「色が変わっていない……?」
……いやー。
なんとなく結果の予想は付いてましたけどね!
魔力ゼロって城で判明しているんだし。
「えーっと、色が変わらないということは?」
「そんなわけありません! ふざけないでください」
「ふざけてなんていないんだが」
「とにかく、もう一度です。もう一度、魔力を込めてみてください」
——それから。
何度やってみても、やはり魔石の色は変わらなかった。
「そ、そんなことが……」
お姉さんがあんぐりと口を開けている。
「どうやら、ふざけてなんていないみたいですね」
「俺は最初から言ってるよ。それで……最低ランクが『青色』なんだよな」
「ええ……でも色が全く変わらない、ということは魔力が存在していない。つまり魔力ゼロの状態なんです」
お姉さんが声のボリュームを間違ったせいで、ギルド中に声が響き渡ってしまった。
「クックク、あいつ魔力ゼロだってよ!」
「初めて聞いたぜ、そんな無能」
「生まれたての赤ん坊でも魔力30くらいあるのが普通なのにな」
クスクスとした笑い声。
やはり魔力ゼロというのは珍しいらしい。
「まあまあ——それで魔力ゼロだったら、冒険者になれないのか?」
「い、いえ、そんなことありませんが……本当にいいんですか?」
「なにがだ」
「魔力ゼロで冒険者なんて無謀です。もっと別の仕事をした方がいいんじゃ?」
論外だ。
何故なら俺は、元の世界にいる頃から働くということが大嫌いだったからだ。
冒険者なら超能力さえ使えれば、楽に稼げそうだ。
なにより異世界において華やかなイメージがあるからな。
「気遣いありがとう。でも俺は冒険者になるから」
「まあ……そう言われたら、私はこれ以上なにも出来ないですが」
まだ納得してなさそうな顔。
「では——はい。これが冒険者証明書です」
十五分くらい待たされた後。
お姉さんから手の平サイズの証明書を渡された。
冒険者証明書はペラペラの紙ではなく、元の世界に例えるなら免許証によく似ていた。
こんなに早く作れるとは。
なにか魔法が使われているのかもしれない。
「ふうん、結構作りはしっかりしているんだな。ランクは——」
そこで俺は証明書に書かれていることに目を疑う。
「……Hランクだと?」