11・冒険者ギルド
それからはなんのトラブルもなく、グーベルグに到着した。
グーベルグは王都には劣るものの、街並みを歩いている人も多く、活気がある。
「——やっと着いたか」
とはいっても、四時間くらいしかかかってないわけだが。
うーん、と背伸びをする。
「マコトさん……何者ですか? これだけの魔法を使えるということは……まさか高ランク魔法使い?」
「俺は魔法使いじゃないよ」
「嘘です! ドラゴンを一発で倒したり、身体強化の魔法を見れば……マコトさんが高ランク魔法使いであることは一目瞭然です」
ビシッ、と指を突きつけるエコー。
うわー、この子面倒臭いなー。
まあいいや、適当に合わせておこう。
「そういや、ドラゴンをお金にしたいんだけど?」
「冒険者ギルドに行けば、ドラゴンの素材を換金することが出来ます! 案内しますよ」
「頼むよ」
ギルドの場所はさすがに知らないしな。
それにしても、冒険者ギルドか。
本当に異世界に来たんだなー、と実感する。
俺が知っている冒険者ギルドは、依頼をクリアしてお金をもらったり、モンスターを売ったりしてお金にするところだ。
そこに行けば、お金を稼ぐ手段が見つかるかもしれないな。
どちらにせよ、早い段階でギルドには行かなければならないのだ。
「こっちです!」
エコーを先頭にして、グーベルグの街並みを歩く。
エコーが歩くたびに、頭から生えているネコミミが左右に揺れていた。
「そういや、なんで耳なんか生えてんの?」
「ああ、私は獣人族ですからね」
「獣人族?」
「そんな珍しいものでもないでしょう?」
獣人族——。
まあ獣と人が合わさったような種族、という覚え方で十分だろう。
異世界なんだし、色々な種族が一緒に暮らしているのもおかしくない。
「よかったら、触ってみます?」
エコーが両手でネコミミを持つ。
「な、なんだと……!」
ネコミミを見る。
モフモフして気持ちよさそうだ。
元の世界でも猫の耳は触ったことはあるが、これだけ大きいものに触るのは初めてだ。
「いいですよー。耳を触るくらい。敏感ですから、あんまり強く触ったらダメですよ」
「じゃあ遠慮なく」
恐る恐るネコミミを触ってみる。
「あっ!」
手が触れた瞬間、エコーの口から喘ぎ声が漏れた。
「ん? もしかして痛かったか?」
「い、いえ! そんなことはないのですが……っていうか、優しく触りすぎて余計に感じるというか……あっ!」
おっ、これ面白いな。
ネコミミがエコーとは独立して、動いているように見える。
癖になる触感、と表現するべきだろうか。
調子に乗って、ネコミミをぐしゃぐしゃに触ってみる。
「……だから! 敏感ですから、あんま触っちゃダメって言ったじゃないですかー!」
あっ、怒った。
エコーは目に涙を浮かべて、俺から距離を取った。
「悪い悪い。ちょっと触りすぎたか?」
「ぐすん。私……よくよく考えれば、お母さんにしか耳を触らせたことなかったでした」
「よかったら俺の耳も触ってみるか?」
「いいんですか!」
すぐに元気になって、エコーが俺の耳を触る。
俺の耳は敏感……ということはないので、なんの声も上げない。
「獣人族の耳とは違います! ちっちゃくて可愛いです!」
「それはよかった」
機嫌が直ってよかった。
結局、ギルドに着くまでエコーは耳をずっと触り続けていた。
なにが楽しいやら。
「ここが冒険者ギルドか〜」
冒険者ギルド。
その建物の中に入ると、ジメジメした視線を向けられた。
「ふん、見ない顔だな」
「お前みたいなヒョロヒョロが来ていい場所じゃねーぜ」
「怪我する前に帰りな」
そんな声が辺りから聞こえてきた。
「うるさいな……こいつ等、ちょっと懲らしめてもいいか?」
「ダメです! マコトさんなら、ここにいる冒険者は一掃出来ると思いますが、怒りの沸点が低すぎですよ!」
そのやり取りを聞いて。
先ほど、挑発してきた男達がゲラゲラと笑う。
「面白いことを言ってくれるな、小僧」
「おい、外に出な。ボコボコにしてやる」
「二度とそんな口がきけないようにしてやるよ」
それはこっちの台詞だ。
とはいっても、こんな掃きだめみたいな連中を相手にしている方が時間の無駄だ。
グッ、と怒りを抑え部屋の奥にあるカウンターまで行く。
「ようこそ! ……あれ? 見たことない方ですね。もしかして冒険者志望の方ですか」
「なっ……なっ!」
そこの受付にいる女の人を見て驚く。
なんというか……エコーにも劣らない、超絶な美少女だったのだ。
エコーにはない大人の女性の雰囲気を醸し出している。
「おいおい、この世界は美少女ばっかかよ」
「この世界?」
エコーが隣で首を傾げる。
……コホン。
仕切り直し。
俺は動揺を隠し、受付のお姉さんに、
「冒険者志望? 冒険者っていうのになったらどうなるんだ?」
「冒険者になればクエストを受注することが出来ます——具体的には」
お姉さんの話をまとめると、
・クエストをクリアすれば報酬金を得ることが出来る。
・クエストの難易度によって、ポイントが与えられそれを溜めれば冒険者のランクが上がる。
・ランクは高い方から、SS・S・A〜Gの九段階。
・ランクが上がれば上がるほど、高難易度のクエストを受注することが出来る。
ということであった。
「それじゃあ……例えば、DランクがSランクのクエストを受注しようと思ったら?」
「当然、出来ません。Dランクの方はDランクのクエストしか受けることが出来ません」
まあ、異世界もののテンプレと言ったところか。
クエストを地道にこなしていけば、ランクを上げられることが出来るだろう。
それに重要なのは『報酬金』という部分だ。
やはり俺の想像していた通り、冒険者になれば異世界で生活していくのに困らないらしい。
「じゃあ——冒険者にさせてくれるかな。もしかして、身元がはっきりしてないと無理?」
「いえいえ、そんなことありません。冒険者には誰にでもなれますから」
お姉さんがニッコリと笑みを向ける。
その後、一枚の紙を差し出して、
「じゃあここに名前や経歴を書いてくれますか? 冒険者登録するのに必要ですので」
「分かった」
ペンを取って、サラサラと文字を書いていく。
——何故かこの世界に来てから、人の喋っていることも分かるし文字を読むことが出来る、というのは前にも言っただろう。
書くことも……日本語で書きたいな、と思っていることを頭が勝手に翻訳してくれる。
不思議な感覚であった。
「マコトさん、『出身地:不明』ってふざけているんですか? ちゃんと書いてくださいよ」
「まあまあ……そういう方もいますから……ってエコーさんっ?」
初めてエコーの存在に気付いたのか、お姉さんが身を乗り出す。
「あ、あなた……死んでなかったんですか?」