92. 不審な男(自分)
さて、コマタたちの協力を得られることになったとはいえ、現状は何の手がかりもない。やれることと言えば、スキル看破を使って【凶魔の贄】の保持者を探しつつ、その周辺を探ってみることくらいか。それならば、当初の予定通りギルドへと向かい、行き交う探索者のスキルを片っ端から読み取っていくことにしよう。
そのためにもペルフェの協力がいる。人通りの少ない路地に入って、とあるものに変化してもらった。サングラスだ。
『ぶぅ……。なんだよこれ』
「何を言っているんだ。なかなか格好いい防具じゃないか」
『え? そ、そうかな? えへへ』
不満そうだったが、サングラスは防具だと言い聞かせることでペルフェの機嫌は直った。チョロいヤツだ。
まあ、嘘は言っていない。というか、普通にそこそこ良い装備だった。
【サングラス】〈アーマニア:ペルフェ〉
◆分類◆
防具・装飾品(軽装)
◆防御性能◆
物理防御:D 魔法防御:D
◆特殊効果◆
暗闇の状態異常への耐性を付与する
サングラスになってもらったのは、スキル看破していることを悟られないようにするためだ。あのアーツを使うと、目が光るからな。これで多少は目立たなくなるだろう。
そうして、俺はギルド近くの路地裏から大通りをチェックすることにした。完全に不審者だが仕方がない。幸いなことに、衛兵隊に通報されるようなこともなく、スキルの情報は集まっていく。だが、結果はとても幸いとはいえなかった。
「……思ったよりも不味い状況だな」
看破した探索者の二割程度が【凶魔の贄】を所持していたのである。まだ、潜伏しているような状態なのか、保持者は全員がスキルレベル0という珍しい表記になっていた。おそらく、レベルが上がるとセイヤやシャスカのように夢遊病のような状態になるのだろう。レベルアップの条件は不明だが、常時発動型のスキルと考えると、単純に時間経過である可能性が高い。
「全員のスキルを取り除くとなると、大変だぞ……」
スキルドレインについて明かすつもりがなければ、昼間にスキルを抜き取るのは難しい。ファントムスタイルでやるとしても、探索者からスキルを奪えることはあまり知られたくない。
そんなわけで、夜にこっそりとやろうと思っていたが、この人数では一人で対応するのは無理だ。一カ所に集まっているのならともかく、探索者たちはそれぞれ別の拠点がある。居所を把握することすら難しい。
昼間に堂々とやるなら、一芝居打つ必要がある。いっそ、解呪師でも名乗ろうか。問題は、本人が【凶魔の贄】を認識できていないことだろうか。“あなたは呪われています”と言ったところで、怪しいヤツと判断されるのがオチだろうな。
「……ん、あれはエメラか?」
スキル看破のために、道行く探索者たちに視線を向けていると、見覚えのあるガラデンを見つけた。珍しく一人なので少々判別に自信がないが、おそらくあれはエメラのはずだ。
普通なら『パワー&パワー』は狩りに出ている時間である。とはいえ、彼らとて休む日もあるだろう。さほど気にせず、流れ作業のようにスキル看破を使った。
「おいおい、マジか」
スキルリストの最後に、もはや見慣れた文字が見つかる。言うまでもなく、【凶魔の贄】だ。おまけに、症状が進行しているのか、スキルレベルが1だった。
ひとまず、スキル看破は中断だ。どのみち、【凶魔の贄】を持つ探索者が多すぎて、これ以上見つけても対応できない。ここはエメラを優先した方がいいだろう。知り合いでもあるし、症状が進行していることも看過できない。
路地を抜け出して、エメラに声を掛けた。
「エメラ!」
「え……? ああ、ジンヤか。何なの、その格好は?」
おっと、サングラスか。慌てて出てきたので忘れていた。どうりで路地から出たとき、周囲の奴らがぎょっとしていたわけだ。いや、サングラスなんて別に珍しくもないだろう。単純に驚いただけだな、きっと。不審者に思われたわけではない……はず。
おっと、そんな埒もないことを考えている場合ではなかった。話も聞きたいし、こちらの事情もある程度説明しておきたい。訝しむエメラの手を引き、また別の路地へと導く。
あれ、これも不審者ムーブか? いや、気にしてる場合ではない。
「ちょっと待ちなって。いったい、どうしたの?」
「ああ、すまない。ちょっと聞きたいことが……いや、その前にこっちの事情を説明しよう。実は――……」
少し見た限りだが、エメラはまだ正常……普段のエメラと変わらない。おそらく、明確な効果が出ていないか、出ていたとしても夜だけに限定されている状態なのだろう。
だとしたら、強引にスキルを奪う必要はない。それよりも、事情を説明してエメラたちにも協力して貰おう。さすがに一人で手に負える状況じゃない。
「あたいはそのスキルをいつの間にか持っていて、夜になると不審な行動をとるかもしれないってこと?」
自分で言うのもなんだが、かなり不審な登場をしたという自覚はある。それでも、エメラは冷静に俺の話を受け止めてくれたようだ。もちろん、完全に信じたというわけではないだろうが。
「ああ、そうだ。ステータスでも自分では認識できないらしいから、実感はないだろうがな。証拠として、今から俺がスキルを抜き出してみせるから……」
「いや、待って! そういうことなら、まずはあたいの話を聞いて」
早速、スキルを抜き出そうとしたところで、ストップがかかる。できればこちらを優先したいところだが、“そういうことなら”という言葉が気になった。少なくとも夜になるまで影響はあるまいと見て、エメラの話を促す。
「なんだ?」
エメラが少し焦ったような表情を見せて口を開いた。
「実は昨日の夜から、ニーデルの姿が見えないんだ。それで、手分けして探してるんだけど……今の話を聞いたらもしかしてと思って」
「……ありえるな」
なんてこった。昨日街を抜け出したのは、セイヤだけじゃなかったのか。




