129. ひとまず脅威の排除
「どういう状況なんだ、これは?」
「僕にもわかんないよ!」
何故、ボス格魔物と精霊が行動を共にしているのか。混乱する俺たちが落ち着くのを待ってくれるほど、魔物どもは甘くない。巨大狼の咆吼で手下の銀狼たちが次々と襲いかかってくる。
「雪だるま、危ない!」
「ユユ!」
「ユユ~……」
先ほどまでは危なげなく戦っていた雪精たちも、銀狼たちに押されている。俺たちのフォローがなければ消滅しかねない状況だ。幸いなことに、多少ダメージを負っても周囲の雪を吸収することで回復できるらしい。そのおかげで、どうにか持ちこたえている。
「さすが、ボスだけあるな」
手下の銀狼は、これまで戦ってきた奴らと同じ種類だ。だが、動きが格段に良くなっている。理由として考えられるのは、ボス格の存在。おそらく、配下の能力を高めるスキルか何かを持っているはず。だが――……
「ふむ? この【統率】が怪しいな」
スキル看破で確認したところ、初見のスキルが幾つかある。その中でも配下の能力を高めているとすれば【統率】というスキルだろう。
ただ、字面から考えれば、強制的に従えるようなスキルではなさそうだ。他のスキルにも洗脳系統のスキルはない。ちび狼を操って支配下にでも入れているのかと思ったが、そういうわけでもないらしい。
「おっと!」
手下たちでは押し切れないと判断したのか、巨大狼が俺に飛びかかる動きを見せた。その巨躯からは想像もできない素早い動きだ。そのスピードはコークスローで対峙した赤い巨人に匹敵するほど。だが……今の俺なら対処できる!
振り下ろされる爪の一撃をかいくぐり、ヤツの体の下へと潜り込む。そして、そのまま殴りつけた。体格差を考えれば無謀だが、そんなもの、圧倒的なステータスの前には意味をなさない。めきっと鈍い音を立てながら、ヤツの巨体が飛んだ。
だが、腐ってもボス格。手下の銀狼なら消滅不可避の一撃を受けても余裕がある。吹き飛びながらも体勢を立て直して上手く着地した。
まあ、それは問題ない。ボス格はそこらの雑魚とは比較にならない強敵なのだから、そのくらいはやってのけるだろう。想定外だったのは別の事だ。
「わふっ!?」
「あっ……」
なんと、あの巨大狼、ちび狼を乗せたまま突撃してきたらしい。ちび狼は必死にしがみついていたようだが、今の間に振り落とされてしまった。
「ジンヤ!?」
「すまん! 忘れていた!」
ペルフェが非難するような口調で俺の名を呼んだので、素直に謝っておく。だが、ちび狼を乗せたまま突撃してくるとは思わんだろ。
落下のショックで目を回したのか、ちび狼はふらふらと足取りが覚束ない。仲間だと思われているのか、狼たちに襲われることはなさそうだが、好き勝手に動き回られると危険だ。俺たちの攻撃に巻き込まれかねない。
「ルゥルリィは、あのちびを保護しといてくれ」
「助ける!」
俺の要請を聞いたルゥルリィはすぐさま行動に移した。棘の生えた蔦を振り回し、狼たちを牽制しながら、ちび狼の元へと向かう。あのちびの立場がよくわからんので、素直に保護されてくれるとは限らないが、同じ精霊のルゥルリィなら上手くやってくれるだろう。どうにもならなければ、睡眠の花で眠らせることもできるしな。
「ペルフェは雪精たちのフォローを」
「仕方がないか~。大物はジンヤに譲るよ」
「ユユ、ユユ!」
「ユユ~!」
「キミたち、気合いをいれるのはいいけど、空回りしないでよ!」
ペルフェには雪精たちの面倒を見てもらおう。あれで、面倒見がいいからな。意思疎通もできるようなので適任だ。
「さて、やるか!」
「ガルアアアア!」
俺はもちろん、巨大狼担当だ。向こうもやる気のようで、大変結構。正直、スキルを奪うことを考えると、ボス格くらいの方が逆にやりやすい。ある程度雑に扱っても、死なないからな。
「ガァアア!」
「よっと」
巨大狼が俺を踏みつけようと、飛びかかってくる。それをあえて避けず、反撃もせず、インベントリから取りだした――――盆栽で受ける。変幻自在ツールを盆栽にしていたのを忘れていた!
鉢は無事だが、立派な枝からは葉がむしられ、見るも無惨な姿になってしまった。こんな姿はルゥルリィに見せられない。すぐに盆栽状態を解除して、大盾へと変形した。武器にしなかったのは、ダメージを与えすぎないためだ。スキルを奪うまでは死んでもらっては困るからな。
「グガア!」
「大人しくしてな!」
巨大狼の攻撃を大盾でいなしながら押さえ込む。体格差はひどいが、押し負ける気はしない。どうやら、筋力に関しては俺の方が勝っているようだ。
ヤツの鼻先を盾で殴りつけ、怯んだ隙に左手をヤツの体に押しつける!
「手始めに、これだ!」
スキルドレインを発動し、スキルを奪う。最初に選んだのは【統率】だ。これが手下の力を強化するスキルなら、雪精たちも余裕が出るだろうと考えて選んだ。
「お、もう出たのか!」
ほとんど待つことなく、俺の手の中に青い結晶体が生まれた。どうやら、この狼、敏捷特化のようだ。他のステータスは然程でもないのだろう。もちろん、そこらの雑魚と比べれば数段上だろうが。
何にせよこの速さでアーツが発動するなら、結晶体を盗るチャンスは幾らでも作れる。あとはもう消化試合みたいなものだな。
俺の予想通り、巨大狼はその後も何もできないまま、10分も経たずに光の粒となって消えていった。魔物寄せの香の効果が続いているので、魔物の出現は続いているが、統率者がいなくなり、強化もされていないような魔物は俺たちの敵ではない。雪精たちでさえ、余裕があるように見える。このまま何事もなく、効き目が切れるまで対処できるだろう。
問題があるとすれば……やっぱり、あのちび狼だな。何だって、こんなところに一人でいたんだ?




