魔物に奪われた遺跡2
「あれからここを取り戻せってのか?」
「その通りです」
スタットは今一度クルカンを見る。
過去の魔族だってケラエルアランを取り戻そうとしたことがあるだろう。
それでもここはいまだにクルカンの巣である。
大森林の奥地で一体で生き抜いているということは、それだけ強い魔物なことは想像に難くない。
「……ここが無事なのはいいが……頭の痛い問題だな」
スタットは深いため息をついた。
簡単な問題ではないだろうと思っていたけれど、クルカンからケラエルアランを取り戻すのはかなり困難なことであることが改めて分かった。
「とりあえず、気づかれる前に帰りましょう。ここが無事で、まだあいつがいるのが確認できたので目的は果たされました」
ケラエルアランを出て、出入り口を再び封じておく。
他の魔族がこんな奥地にまで来ることはあり得ないだろうが、魔物が入り込む可能性がある。
今は大人しくしているクルカンが、自分の巣穴に他の魔物が入ってきた時も大人しくしていることはないだろう。
ケラエルアランは今のところまだ無事でいるが、クルカンが暴れてしまうと壊れてしまうかもしれない。
用心を重ねて、ちゃんと封じておくに限る。
「……あとは帰るだけだな」
「あれ? マルデュスのやつは? ん?」
一人いない。
ふと気がついたらマルデュスという人がどこにもいなくなっていた。
ケラエルアランから出る時には確かにいたし、閉じていく出入り口に取り残されていないことはみんなが見ていた。
キョロキョロと周りを探す魔族の男の頬に何かが垂れてきた。
頬に触れる。
指先についたそれは生暖かく、ややドロリとした赤い液体だった。
「…………マルデュス!」
それが血だと気づいた男が顔を上げる。
まず見えたのは体だった。
ただ頭がない。
頭から胸にかけて何かにかじり取られたように無くなっていた。
本来なら頭があったはずのところから見えるのは女性のような顔。
「ラミアだ!」
口の下を血まみれにし、あごから血が着衣もない胸に垂れていく。
さらに下を見ると下半身が蛇のようになっている。
上半身が女性、下半身が蛇の魔物のラミアが上にいた。
下半身の蛇部分を木に巻きつけ、マルデュスだったものを持ち上げている。
「逃げるぞ!」
「だが、マルデュスは!」
「もう死んでる!」
生きているなら助けるという選択肢もあったかもしれない。
しかし頭がもう無くなっているのだ。
服装からマルデュスだと判断しているが、本当にマルデュスなのかと確かめることすら今はできない。
頭がなくなって生きていられる人などいない。
「逃げるんだ!」
「でも……」
スタットはもうマルデュスを見捨てて逃げるつもりだった。
けれどもせめて死体だけでも男は渋った表情を見せる。
「もう俺はマルデュスを見捨てるという判断をした! もう他のやつを見捨てるような判断をさせないでくれ……!」
スタットの顔も苦悶に満ちている。
たとえ頭がなくとも、たとえ死体になったとしても仲間を見捨てていくことが簡単な判断なわけがない。
助けられるなら助けたい。
しかし今の人員でラミアと戦うのは厳しい。
ラミアを倒せるかも分からないし、戦っている最中に他の魔物も寄ってきてしまうかもしれない。
せめて生き延びて死を伝える。
今すぐに一人でも多く逃げればより逃げられる可能性は高まる。
「走れ!」
スタットとカティアが走り出し、他の魔族たちも続いて逃げる。
ラミアは特にスタットたちを追いかけなかった。
追いかける価値もないと思ったのか、あるいはマルデュスだけで満足したのか。
ラミアは端が割れるようにして大きく口を開いてマルデュスをの体をそのまま飲み込んでいってしまったのだった。




