第九話
陸に触れられて、自分の気持ちに気づくなんて。
ずっと友達だと思っていた。でも、意識しないうちに好きになっていた。
でも、私の思いは態度にも言葉にも出してはいけない。思いが実らなかったとしても、誰かにそれを相談できたら、言葉にできたらどんなに楽だろう。
自分の胸の内に秘めるしかないなんて、辛すぎる。
六月になり梅雨入りした。今年はカラ梅雨のようで、雨が降る日は少ない。それでも、やはり空気は湿り気を帯びていて重い。
私達三人の仲の良さは何も変わっていない。変わったのは、私の陸への思いだけ。たとえ、絶対に叶わない思いだとしても、無視はできなかった。無視することは、私自身を否定することでもある。
だから自分の中だけで、陸を思うことを許した。
「ゆず、今日、この後、時間ある?」
六時間が終了し、帰りのHRが始まるまでの時間。愛美が私の席に来て訊いた。「うん」私は頷く。今日は部活もない。
「じゃあHRの後に」
愛美は笑顔で手を振ると、自分の席に戻って行った。担任が教室に入って来て「席つけー。HRするぞー」と言った。
HRが終わると、愛美はまっすぐ私の席にやって来た。その表情から何を話そうとしているのか、わかりかねた。いい話なのか、悪い話なのか……
「ここで話す?」
そう訊くと、愛美は指先を顎の下に当て、少し考えてから
「中庭ででもいい?」
と言った。それに対して私は頷いた。
並んで中庭まで歩く。校舎の出口に近づくと、日差しが眩しかった。まるで、梅雨明けした後の夏の日差しのようだった。
一番手前にあったベンチに座る。
「……あのね」
スカートの上で指先を擦り合わせながら、愛美が口を開いた。重たい口調だった。いい話ではないのかもしれない。
「陸とは付き合ってないんだ」
言われた意味がわからなかった。
――付き合っていない?
頭の中で愛美の言葉を繰り返す。
「告白した時にね、言われたんだ。『好きな子がいる』って。今となっては、自分がどうしてあんなこと言ったのか、わかんないんだけど……」
愛美は一つずつ言葉を引き出すように話す。
「『陸がその子に思いを伝えるまでの間だけ、一番近くにいたい』って私が言ったんだ。陸は優しいから、私の気持ちを汲んでくれたんだよね。前より距離が近くなった気がした」
そう言って顔を上げる。二人は付き合っていなかった。陸には好きな人がいる。断片的に愛美が話した言葉が頭の中に浮かぶ。
「で、今日言われたの。『好きな子に思いを伝えようと思う』って」
愛美は私を見る。その綺麗な二重の瞳には、涙が溜まっていた。今にも溢れそうだった。
「ゆずだよ」
綺麗な形をした唇が、私の名前を呼ぶ。
「え?」
唯一発した言葉は掠れていた。
「陸が好きなのは、ゆず だよ」
愛美の瞳と私の目から涙が落ちたのは、同時だった。




