第八話
テストの結果は散々だった。それは当然でもある。いつもに増して、私はテスト勉強に身が入らなかった。無意識のうちに、陸と愛美のことを考えてしまう。
あの日、美術準備室の窓から見た、二人の後ろ姿を何日経っても鮮明に思い出す。
二人はどんな会話をしていたのだろう。あの後、どうしたのだろう……
私は完全に自分を見失っていた。
机の上に置いたりんごをぼんやり見つめる。デッサンをしようと思って、家から持って来たものだ。
写真をモチーフにした作品の方は、さっぱり進んでいなかった。写真を見るのが辛くなったのだ。写真に写っている私のように、愛美と陸の前では、心から笑えていない自分に気づいたから。
りんごから窓の外の景色に視線を移す。夕焼けに染まった街が、オレンジ色に輝いている。それが妙に切なく私の目には写った。
と、その時。
首の後ろが、ひやっとした。
「ひゃっ!」
驚いて声が出る。肩もびくんと動いた。何が起こったのかと思い、慌てて振り返るとペットボトルを持った陸が立っていた。
悪戯っぽい笑顔を浮かべている。ペットボトルを私の首筋に当ててきたのだ。それがわかると、無性に腹が立った。
「もう! 何⁈ びっくりするじゃない!」
「ごめんて」
私の怒った声に陸は全く動じない。飼い主と犬のようだ、と思う。きゃんきゃん吠えて主張する犬に、全く動じない飼い主。
陸は私の前の机に座った。
「これ、やる」
そう言ってパック入りのジュースを机に置く。そのジュースは校内の自動販売機で売られているものだった。
「好きだろ? それ」
「……うん」
私はジュースに目を向ける。果肉入りのオレンジジュース。確かに好きで、よく飲んでいる。
「何か最近、元気なくない?」
「えっ」
陸の言葉に驚く。私の心の内を見透かされているようだった。
「ゆずが元気ないと、張り合いがない」
陸は自分用に買ったサイダーのペットボトルのキャップを捻る。プシッといい音がした。ペットボトルに口をつけると、そのまま三口程飲んだ。微かに出っ張って見える喉仏が上下するのを見て、何だか恥ずかしい気持ちになる。
陸を友達というより、異性として認識した瞬間だった。
「悩みとか困っていることあったら聞くよ。俺でよければだけど」
「……ありがと」
嬉しくて拗ねたような言い方になってしまった。そんな私を見て、陸は徐に手を伸ばすと私の頭をそっと撫でた。その手が大きくて温かいことがわかる。髪の毛の間にその指が入り込む。
愛美にもこんな風に触れるんだろうか……そんなことを思うと、心臓をぎゅっと捻られたような苦しさを感じる。
陸は、はっとした表情で私の頭から手を離した。さっき触れたことを、なかったことにするように、陸は再び無言でペットボトルを口にした。やけに顔が熱い。
急に恥ずかしくなって私は席を立つ。そして、美術準備室に飛び込んだ。水道の鏡に映る自分を見て驚いた。耳まで真っ赤になっていた。
――私は陸が好きなんだ




