第七話
定期テストの準備期間に入り、部活は休みになった。どういう訳だか、そうなると私は無性に美術室に行きたくなる。現実逃避したいのだ。
今日も三十分だけ美術室に行くことにした。陸に借りた画集を見て以来、作品を描いてみたいと思うようになった。そう、あの奇跡の写真を作品として描きたいと思った。
まずはそれをスケッチブックに試し描きしてみることにしたのだ。
誰もいない美術室は、侘しささえ感じる程、静まり返っている。
アラームを設定しておかないと、きっといつまでも現実逃避を続けてしまう。スマホのアラームを三十分後に設定する。
次に写真を開く。
画面の中に写る私達。この時は、愛美と陸が付き合うようになるなんて、想像もしていなかった。でも、この頃から愛美は陸に好意を寄せていたのだろう。
そう思うと、また胸の辺りが苦しくなる。
――集中!
心の中でそう言って、スケッチブックを開いた。
……カラララ……カラ
アラームが鳴る。あっというまに三十分が過ぎた。スケッチブックには大まかな姿、形しか写せなかった。
ゆくゆくは水彩画として仕上げたいと思うけれど、このペースだと、なかなかの時間がかかりそうだ。
「んーっ……」
と声に出し背伸びをしてから立ち上がった。スケッチブックと筆箱を片付けるために、準備室へ向かう。
棚の下に絵筆が一本落ちているのに気づいた。陸のものだった。何かの拍子に落ちたのだろう。陸の棚に目をやると、その中には雑多にものが詰め込まれいた。
カルトンとスケッチブックを棚の端に寄せ、その隙間に絵筆を置く。
陸は教室の机や鞄の中も、こんな風にぐちゃぐちゃなのだろうか……
『あれー? どこいったかな』
『もぅ、ちゃんと片付けないからだよ! しょうがないなぁ』
――愛美は陸の鞄の中を一緒に探す
そんなやりとりと光景が頭の中に浮かぶ。実際には、そんなやりとりを聞いたことも見たこともないのに。
例えば、陸の上履きが靴箱の中で、ひっくり返っていたら、それをそっと直すのは愛美だ。教室にある個人ロッカーで、陸のロッカーがもので溢れ、扉が半開きになっていたら、さりげなく中のものに触れ、扉をきちんと閉めるのも愛美だ。
きっとそんな風に、二人は二人にしかわからない出来事を共有していく。私と陸が共有する物事よりも、愛美と陸が共有する物事の方が、親密さを増すだろう。
――陸のことは私が一番知っていると思ってた
気づくと下唇を噛んでいた。
何かに呼ばれるように、顔を上げると窓が見えた。準備室の南側には窓がある。そこからは校門へと続く通路が見える。そこに人影を見つけ、私は窓際へと寄る。
それは陸と愛美だった。寄り添うようにして歩いている。後ろ姿だから表情は見えないけれど、何か楽しそうに話している雰囲気がある。
――当たり前じゃない。二人は付き合っているんだから
心の中の私が言う。
――でも、嫌だよ
もう一人の私が反抗する。
いてもたってもいられなくなり、私は鞄を引っ掴むと美術室を飛び出した。