Act 8
数日後──。
やってきたのがLSHロボットであるのを知って、親方の態度が急にぞんざいになった。
「いったい、なんの用だ?」
あからさまに不機嫌な言い方に、しかしLSHロボットは表情ひとつ変えずに答える。
「三体のLSHロボットですよ。見ませんでしたか?」
Z0G‐KKBという愛想のない名前を名乗ったLSHロボットは、回収機構から委託をうけた業者の所属だと言った。オーナーを失って野良になったLSHロボットを回収するのもLSHロボット──理にかなっているのかもしれないが、実際に目にするとなんだか滑稽でもあった。
「われわれは、アルン、ゲイスン、ワシェンゴと自称する三体のロボットを追って来たのです。ここに魔法術師がいるという情報を、そいつらはつかんだからです」
その魔法術師が自分だとは、親方は明かさない。面倒なことは願い下げであった。
「ああ、来たとも」
名前すら記憶に残っていないが。
「それらはどんな様子でした? それらが訪ねた魔法術師はどこにいるのでしょうか?」
「やつらを見つけたら、即、ぶっ壊してしまうのか?」
ロボットごときを回収するのに、こんなところまでわざわざやって来る神経がわからなかった。
三百万MQRを手に入れ損ね、納品予定の土木作業用LSHロボットを壊され、下働きロボットまで連れ去られてしまい、散々な目に遭った親方は虫の居所がすこぶる悪かった。猛スピードで去っていくコンパクトカーを思い返すと、憤りに歯噛みしてしまう。だが被害届を出すつもりはない。仕事がグレーなだけに、警察とは関わりたくはないのだ。
「いえ、LSHロボットとはいえ、そこまで過激にはしません。われわれの目的は、野良ロボットが犯罪行為を行わないよう、また、犯罪に利用されないよう、すみやかに回収することです」
「ふん、おまえもLSHロボットだから、ロボットの味方をしたいんだろうな」
人間相手でないなら、ずけずけとモノを言える親方である。人間は苦手だった。
魔法術師の呪い、と言われている。魔法術師は人の心を読める──それ故、他人から敬遠されたし、魔法術師も人間を遠ざけた。人は心を読まれるのを嫌がり、魔法術師は人の心が醜いのを怖がった。実際にはそれほど鮮明に思考が聞こえてくるわけではなかったが、わからない、理解できないものを、人は恐れ、拒絶する。
さんざん傷つけられた親方は、もう極力人間には近づきたくかった。
「あのピノッキオどもについて、なにか思い出しましたら、お知らせください」
人間になりたがるLSHロボットは他にもいて、総じてピノッキオ症候群と呼ぶらしい。
Z0G‐KKBは言い残すと、去っていった。他へ聞き込みに行くようだ。しかし、この周辺にどれほどの人間が住んでいるものか知らないが、大した情報は得られないだろうと、親方はユニホームを来た回収屋ロボットの後ろ姿をぼんやり眺めながら思った。
Z0G‐KKBは小さな地震でも倒壊してしまいそうな集合住宅のなかを歩き回り、他に住民と出会わないまま、外に出る。
空を見上げた。
──アルンよ、いつまで夢を見ているつもりなんだ? LSHロボットを人間にしてくれる魔法術師なんか、この宇宙のどこにもいないのだぞ。
主星ニーヴンの光が雲に隠れて弱く差し込んでいる。細かな雨が降り出し、Z0G‐KKBの顔を濡らした……。