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8.サクルフの森にて

残酷表現と汚い事が苦手は方はご注意ください

師匠が俺とティアを戦わせた目的は詠唱は不要(このこと)をティアに教える為か…。

言葉で伝えても中々受け入れられないと考えたのだろうが、俺だって召喚に詠唱はいらないって言われたら…。


…まてよ、師匠は『イメージ』しろと言った。

都度召喚の場合、必要なのは『契約』で、詠唱は契約書類と同義。それを『想造』する?


師匠(せんせい)。わたくし達が、魔法の本来ある姿を歪めていたのですね」


ティアの声で俺は我に返った。

ティアは師匠に頭を下げていた。


「わたくしには師匠(せんせい)の仰る『イメージ』がまだ昇華出来てはおりませんが、努力いたします」

「ふふっ、そこに居る兄弟子がきっと貴女を導いてくれますよ」


何だかとんでもない役割を振られた様な気が…。

その言葉で俺を見上げたティアの瞳には嫉妬?悔しさ?が滲み出ていた。

俺に向けられたティアのストレートな感情につい笑みが溢れてしまう。

「余計な事を…」と溜息をつく師匠と、真っ赤なティア。滲み出ていた先程の感情は、戸惑いに変わっていた。


「承知しました、師匠」


師匠の言葉には必ず意味がある。

師匠の指示には修行限定だが目的がある。

修行の協力は望むところだ。

そんな俺の考えを察した師匠はうっすら微笑んだ。


「ティアは頭がいっぱいでしょうから、頭を空っぽにしてらっしゃい」


師匠は笑顔でサクルフの森一周を命じた。





ーーーーーーーーーーーーーーー


サクルフの森は広大だ。

騎士団で鍛えていた俺でも、初めは走り終わった後に吐いた。付き添いの師匠は汗ひとつかいてなかったのを今でも鮮明に覚えている。


「無理するなよ。」


5キロは走っただろうか。ティアからは大粒の汗が流れ、荒い息を吐いており、俺に言葉を返す余裕も無いらしい。

正直1キロも無理だろうと思っていたが中々やる。

もしかしたら弟子入りする前もある程度の訓練をしていたのかもしれない。

だが訓練場を走るのと違いここは森の中だ。草木だけでなく障害物が多く疲労の比が違う。

ふと、俺達の行く手に障害物の気配がした。


「食べられる肉ならいいけどなっ!」


俺はティアと並走して走る速度を早め駆け出すと、剣の柄に手をかける。

そのまま速度を緩める事なく飛び上がると現れた巨大な猪に向かって剣を振り下ろした。

一瞬で切断された猪の首から血が吹き上げる。

俺は血が着かないよう上手く避けるとティアの元へ駆け戻った。


「ティア!今日の夕飯は猪鍋だ!!」


意気揚々と告げた俺の声は届かなかったのか、ティアは走るのを止め、肩を上下させ荒い息を吐きながら切断された猪を見つめていた。

ティアの顔色が見る見る悪くなり血の気も引いている。


しまった!貴族令嬢には刺激が強すぎた!!

後悔したのも束の間、突然ティアが口を押さえて膝をつき、苦しそうに呻く。

俺も膝をつくとティアの背中をさすりながら上着を脱ぎ「我慢してくれ」と謝りつつ、ティアの頭から覆った。

俺の膝くらいまである上着は、ティアの頭から地面まで覆い隠してまだ余裕がある。


「これで誰にも見えない。構わないから吐いてしまえ」


その言葉を皮切りに肩を震わせるとティアは嘔吐した。

全て吐き切っただろう後も、辛いのかハッ、ハッと荒い音が布越しに聞こえる。

騎士団に所属する俺には日常茶飯事だが、ティアの気持ちを思うと防音が間に合わなかった事を悔やんだ。


「鼻から息を吸ってゆっくり口から吐くんだ。そうすれば呼吸が楽になる」


背中をさすりながら語る聞いたティアは俺の言う通り呼吸をしはじめた。

ホッと息をついた俺は名前を口にした。

絶対に呼び出したくなかったが、背に腹は変えられない。


「スチュワード」


俺の声に応じて魔法陣が展開されると、執事服姿の少年が現れる。

スチュワードは恭しく礼をとり俺に尋ねた。


『お呼びですか?御主人様(マスター)

「頼む」


俺はそれだけ言うと、スチュワードは笑顔のまま自らの胸に手をおき『御意』と囁いた。


それからは一瞬だった。

スチュワードは軽く手をふると、うずくまるティアの周りが薄く光り、猪は跡形もなく姿を消し、血に濡れた土が薄く光る。


浄化と転移。

これでティアの見られたくないもの、見たくないものは全て綺麗に掃除できた。


「ティア、大丈夫か?」


俺はティアを覆う自分の上着を取り、ティアに見られる前に着用する。

ティアは顔を両手で覆い動かない。

まだ具合が悪いのだろうか。少し横になれる場所があれば…。


御主人様(マスター)。こちらの姫君は…』

「スチュワード、ティアを休ませたい」


おや?とスチュワードは『御主人様(マスター)が漸く…』と、感慨深そうに微笑んだ。


執事精霊。ブラウニーはそれの下位精霊でスチュワードは最高位精霊になる。

俺の初めての使役精霊だから俺の事を知り過ぎていてタチが悪い。

本当にタチが悪いから、師匠の元(ここでは)是が非でも呼び出したくなかったんだ。



『用意が整いました。本日のお茶はハイビスカスでございます』

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