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45. ティターニア聖王陛下

「刻の魔法⁈」


ティアとオスカーは同時に声をあげた。

シリルはニッコリ微笑むと、


「刻の魔法は古代魔法のひとつで、その名の通り刻を戻す事ができます」


それからシリルは、ローランの刻を怪我をする前まで戻した事。だが戻せるのは僅かな、それも特定の対象だけと告げた。


「あのスチュワードが泣きながら私に助けを求めに来ました。その途中でスチュワードが消えて…。本当は駄目なんですが…この子を失いたくなくて、私は禁忌を犯しました」


禁忌と言いながら、その顔に後悔や恐怖の色は無い。

ひたすら我が子にするように、優しくローランの頭を撫でている。


シリルの話が衝撃的で、ティアはもちろん、流石のオスカーもついていけてないようだった。


「この子はスチュワードに全てを護るよう命じたみたいですね」

「なっ、なんて⁈」


その言葉にオスカーは言葉を失う。ティアも壁に叩きつけられた護衛騎士、また階下に見える貴族達を見渡すが、怪我はしているものの誰一人死んでいない。


「僅かな魔力の持ち主でも暴走がこの程度で済む事はありません。この場を護る魔力と…あとは無意識でしょうね。自分の生命を守る為に魔力を使った事で、スチュワードを維持出来なくなりましたから…」


本当に無茶ばかりする子ですと、シリルは眠るローランの額を小突いた。


「スチュワードが懸念していたのはその為か」


オスカーは呆れたようにローランを見つめると言葉を詰まらせる。

あの時、カラドボルグの力とローランの魔力があれば、暴走したイーサンの攻撃を受け止める事は出来た筈だ。それをしなかったのはローランの魔力が護る為に使われたから。カラドボルグがイーサンを貫くだけだったのは、ティアの目的を果たす為。


「それでお前の生命を危険に晒したのかよ…」


大馬鹿野郎だ…と続く言葉は嗚咽になって聞こえない。ティアは初めてみるオスカーの姿を見て、自身も同じ気持ちだと涙を溢す。


「わたくしの民を護ってくれたのね」


感謝の気持ちを込めて、ティアはローランの額に口付けした。




()()。その青年は…まさかクルドヴルムの…」


ネヴァン公爵の声にティアは顔をあげる。

その顔が険しいものに変わったのをシリルは静かに見つめた。


(これがセウェルス聖騎士団長ですか…)


スチュワードを見ていたか、会話からローランの出身を悟ったのだろう。

ティアは背後に立つネヴァン公爵に頷く事で肯定しつつ、厳しい声で命じた。


「手を出すことは許しません」


ネヴァン公爵はゆっくりティアの隣に進むと膝をついて、眠るローランを穏やかに見つめ思い出すように静かな声で語り始める。


「クルドヴルムは勇敢な将ばかりでした。敵ではありましたが、認めていた。いつか酒を飲み交わしてみたいと、そんな夢を抱く程には…」

「ネヴァン公爵…」

「この青年が起きたら礼を言わないといけませんな」


そう言うと目尻の皺を深くして笑い、立ち上がる。

後処理があると告げ、ティアから離れようとした時「お待ち下さい」とシリルの声で引き留められた。


シリルは()()瞳でネヴァン公爵を見ると小さく微笑み、悪戯っ子のような顔をして人差し指を唇に添え「お手伝いをお願いしても?」と依頼する。

規格外の美貌に流石のネヴァン公爵も一瞬固まるが、すぐに平静を取り戻すと頷いた。

満足気に頷くと、シリルはティアに視線を移した。


「折角ですから、禁忌を犯したついでにティアを確固たるものにしてあげましょう。二人へのご褒美です」


そう言って、ローランを挟んでティアに手を伸ばすと、その額にトンと指を添えた。


「さあ、ネヴァン公爵、フランドル公爵。ティターニア()()陛下を皆様の前にお連れ下さい」


3人とも訳が分からないといった様子だったが、シリルの指示通りティアの両脇に立つと、それぞれティアの手を取り壇上の中央へ移動した。

慌ただしく動いていた騎士団も、治療を受けている貴族達も、ティアの姿に動きを止めて注目する。


それを確認したシリルは僅かに口を動かした。

その瞬間、ティアの額から光が溢れ出し会場を包み込む。全員眩い光に目を閉じるが、光が収まり目を開けると



負った怪我も、破壊された会場も、全て元に戻っていた。



貴族や騎士団の面々はその奇跡に驚愕する。

そうしてその奇跡を起したティアに視線を集める。




「万歳」




と、誰かが言った。

それに呼応するように声が広がる。


シリルの意図に気付いたオスカーはネヴァン公爵に目配せすると、二人同時に叫んだ。


「ティターニア聖王陛下!万歳!!」





ティアへの称賛で会場が震えるのを見届けたシリルは、ローランの頭をゆっくり撫でると


「貴方の選ぶ未来がどの様なものであっても、私は貴方の味方ですよ。ローラン」


少しだけ眉を下げて微笑んだ。



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