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兄弟子である王子殿下は秘密を抱える妹弟子に恋をする  作者: 岡出 れい
反旗の狼煙

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44/50

44. ティアの祈り

※残酷表現がありますので苦手な方はご注意下さい

深々と刺さった剣はローランの身体に留まり、斬られた身体から大量の血が噴き出していた。

そしてイーサンを突き刺すカラドボルグの刀身も真っ赤な血で濡れている。


ローランは誰より強い。だから多少の傷を作る事はあっても致命傷を負う事は無いと勝手に思い込んでいた。だからこそ明らかに致命傷とわかる傷を見ても、こんな事は起こる筈が無いと、ローランがこんな怪我をする訳ないと、ティアはただ恐怖に震え、嫌々するように首をふった。






「…ティア。君の役目を果たせ」






ローランの静かな声がティアの耳に響いた。

話すたびに口からも血を吐いているのか、その声はくぐもっている。それでもティアにはローランの声が一字一句明確に伝わった。


そこからは勝手にティアの体が動いた。

膝をつくローランの背中越しに、イーサンを見るとその首へ狙いを定める。



(切断魔法(ヴォンカッター))




ティアから放たれた刃がイーサンの首を切り裂くと、その首が勢いよく飛びあがり、残った胴体は鮮血を噴き出しながら、カラドボルグを刺したままグラリと後ろに倒れ込んだ。

そしてローランもそのまま自らの血溜まりへ倒れ込んだ。


「ローラン!!」


ティアは急いでローランを上向かせると、治癒魔法を詠唱するが声は上擦り上手くいかない。

ティアはボロボロと溢れ落ちる涙をそのままに、何度も詠唱を繰り返した。

遠くで「治癒士を呼べ」と指示するネヴァン公爵の声が響く。


「殿下!ローラン!!」


ようやく駆けつけたオスカーも血溜まりの中で膝をつき、ローランに向かって怒鳴りつけた。


「死ぬな!!死んでも死ぬな!!」


ローランの口元が笑みをつくり「無茶苦茶だ」と囁くと、泣いているティアに無事な方の手を伸ばし、触れる。


「怪我してない?」


そうローランはティアに微笑むと、今度はティアが爆発した。


「わたくしの心配をするより自分の心配をしなさい!!死んでごらんなさい!わたくしもすぐに後を追うわよ!わたくしを護るのでしょう!!」


ティアは泣きながら感情のままに叫ぶと、ローランは嬉しそうに目を細めた。

その様子を見ていた「こんな時に喜ぶ奴があるか」とオスカーは悪態をつく。


「ごめ…パナケア…呼べない…みたいだ」

「わたくしが治すわ!だから死なないで!!」


ローランが血を吐きながら謝るのを見てティアは悲鳴にも近い声をあげた。

ティアは再度詠唱をはじめる。ただの治癒魔法ではこの傷は塞がらない。ティアが知る最高位の聖魔法でも治せるかは分からない。その最高位魔法の詠唱は長く、ティアを焦らせた。


(死なないで、死なないで!わたくしから奪わないで!!)


ようやく詠唱を終えたティアの手から光が発せられる。その光は浅く呼吸をするローランを包み込んだ。

ゆっくりと傷が塞っていくが、ローランは大量に吐血した。


「ローラン!!」

「嫌よ!わたくしを置いて行かないで!!」


オスカーが叫び、ティアは泣きながら触れていたローランの手を強く握りしめた。

ローランはオスカーに視線を送ったあと、ティアを見てから穏やかに微笑み、僅かに口を動かすと



ゆっくりと目を閉じた。



ローランを喪うかもしれない恐怖のあまり、ティアの身体がガクガクと震えだす。

治癒魔法の効力はまだ続いているが、致命傷を負ったローランが間に合うか分からない。

オスカーも泣きながらローランの名を叫んているようだったが、ティアにはもう何も聞こえない。




ふと、ティアの背中に温かなものが触れる。




泣きながら見上げた先にある姿を見てティアは安堵し、子供のように泣きじゃくった。

オスカーはその姿を見て固まっている。



「二人ともよく頑張りましたね」



ティアを優しく見つめる紫色の瞳。ひとつに束ねている白銀色の髪。優しいシリルの声がティアの耳に届く。


「ローラン。貴方は本当に…」


目を閉じているローランに対して呟いたシリルの声に僅かな怒気が含まれる。

そのまま自らの手をローランの傷口へかざすと、詠唱をはじめた。


ポウッ…と弾ける音に合わせてローランの身体がまばゆく光り出す。目を開けていられない程の光にティアとオスカーは耐えきれず目を瞑り、近くに立つネヴァン公爵も腕で目を隠すように庇った。







「終わりましたよ」


シリルの声を合図にティアとオスカーは目を開けた。

ローランの目は閉じられたままだが、先程まで血塗れだったローランの身体は団服も含めて一切の傷も、汚れも見当たらない。

ティアは恐る恐るローランの胸に耳を寄せて目を閉じる。


ローランの心臓は一定のリズムを奏で、それに合わせて胸がゆっくりと上下している。

その音を、団服から伝わるローランの熱を感じるだけで、またティアの瞳から大粒の涙が溢れ落ち、汚れひとつない団服に染みをつくった。


「賢者シリル…?」

「はい、オスカー・アルトワ伯爵。ああ、フランドル公爵ですね」

「これは一体…」


ティアの上で会話が交わされているが、オスカーが困惑している様子だ。


「何故私達の周りに一切の血が無くなっているのでしょう」


その言葉にティアはローランから顔をあげる。

オスカーの言葉通り、先程までこの場所はローランの血溜まりが出来ていた。

だが周りを見渡しても、赤く染まっているのはイーサンの周りだけ。


「私が使ったのは治癒魔法ではありません」


オスカーの疑問にシリルはローランの頭を撫でながら答えた。


「私が使ったのは刻の魔法です」



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