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兄弟子である王子殿下は秘密を抱える妹弟子に恋をする  作者: 岡出 れい
反旗の狼煙

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37. ふたりの時間

イーサンを止めに入ったのはオスカーだった。

侍従数名を連れてティアの庭園にやってきたオスカーは、蹴られて傷だらけになっているオスカーに視線を送るとイーサンに向けて頭を下げた。


「その下僕のために、陛下のお御足を傷つける訳には参りません。さあ宰相も待っております。離宮へ戻りましょう」

「そうだな。ああ、そうだ!汚らしい下僕に余の足が汚されてしまう」


息をあげながらイーサンは塵を見るような目でローランを見下ろし、馬鹿にしたような声で叫ぶ。

オスカーがイーサンに同意する様子を見せると、ようやく機嫌を良くしたイーサンはティアには目もくれずに庭園を立ち去った。

後を追うようにしたオスカーは、近くに控えていたサラの耳元に素早く身を寄せると囁く。そしてサラは小さく頷くと、すぐに主人であるティアの元に駆け寄った。


ティアは跪いて口から血を流しているローランの顔にそっと触れる。涙こそ流していないが瞳は潤み、ローランに触れる指は震えていた。


「ごめんなさい。ごめんなさい…」


そうティアは呟くようにローランに謝罪を繰り返す。

そんなに悲しむ必要なんて何もないのに、そうローランが思ったところでティアを呼ぶサラの声が聞こえた。


「姫様。この護衛は手当てが必要ですので護衛を交代いたします。それまで部屋でお待ち下さい。」


そしてサラはローランを見ると「立てますね。姫様を部屋までお連れしたら交代なさい」と指示を出す。

困惑するティアに対し、ローランは全てを理解した風に頭を下げた。


「さあ、姫様参りましょう」

「サラ!ですがこの怪我で…」


サラはティアの言葉を最後まで聞かず、ティアの手を取る。ティアはサラの行動に驚いた様子だったが、ローランが立ち上がるのを見て、諦めたようにサラに引かれて歩き始めた。





ーーーーーーーーー


ティアの自室に戻ったのは部屋の主人であるティアと、侍女にあるまじき暴挙に及んだサラ。そして傷だらけになったローランだけ。


サラはティアの手を離すと、ティアに向かい頭を下げる。


「先程の騒ぎのため姫様が体調を崩されたと人払い致します。何しろ突然の事なので交代の護衛が来るまで時間がかかるでしょう」

「…サラ…あなた…」


ティアもサラの意図に気付いたようで泣き笑いのような顔をする。

「私も所用がございますので席を外します」サラは微笑むとローランに頭を下げて退室した。


そして今、ローランとティアはふたりきり。


「多分オスカーだ。あいつ来るのが遅いと思ったら色々段取りしてくれたみたいだ」


先程サラに囁いたのは、この機会にティアとローランの時間を作れるよう調整した事だった。

蹴られる事まで想定していたのは癪だが、ティアとふたりきりになれるなら怪我の功名だとローランは喜ぶ。

ふとティアの両手が喜ぶローランの顔を包みこんだ。


「血で汚れるよ」

「ローラン。貴方は手の心配ではなく自分の心配をして下さい」


ティアの声に若干の怒りがこもった。ローランは困ったように眉を下げると「本当の事なのに…」と、そうして「パナケア」と囁く。

魔法陣が発現すると水色の長い髪、真っ白な肌を持った女性が姿を現した。パナケアと呼ばれた女性はローランに向かいそっと息を吹きかけるような仕草をすると、ローランの身体を光が包みこむ。

ローランの血が止まり、傷がみるみる癒えていく様子を、ティアは驚いた様子で見つめている。

血の汚れはそのままだが傷が全て癒えたところで、ローランはパナケアに向かい「助かった」と礼を言う。

それを聞いたパナケアはひとつ微笑むとその姿を消した。


「ティア、傷は塞ったけど血で…」


汚れているから…ローランの言葉はティアの唇に塞がれて最後まで発する事が出来なかった。

言葉は無いが、ティアの唇から感謝と悲しみと、少しの憤りが伝わる。

ようやくティアに触れる事が出来たローランは、幸せそうに微笑むとそっと目を閉じた。


「兄を止められずごめんなさい…」


唇を離しながらローランに謝罪する。

オスカーが何故ティアを推したのか、あの様子を見て、理解出来たような気がする。


「ティアが怪我や火傷をしなくて良かった。あんなのは修行に比べたら大した事はないよ」


間違いなく修行の方がキツイし、シリルが治癒魔法を使えるせいで容赦がなかったので、慣れるまでは毎日傷だらけだった。実際ティアもそうだったろうと目で伝える。


「それでもわたくしは心配でした。…それに…」


少しだけ頬を染めながら視線を逸らして呟くように


「わたくしがローランを治癒したかった」

「ティアは聖魔法を?…ああそうか、王族だから…」


ティアは召喚で治癒されたのが、それも女性体だった事に嫉妬しているようだった。

以前属性の話をした時には治癒魔法を扱う聖属性について話していなかったが、セウェルスの王族は基本的に聖魔法が使えるという事をティアの言葉で思い出す。


未だに顔が赤いティアがおかしくてローランは笑みを溢すと、ティアを抱き上げて願う。


「じゃあティアの聖魔法で俺を癒して」


ティアはその言葉の意味を理解し耳まで赤くなると、頷いてからローランの身体に腕を回した。

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