21. 家族会議
ローランの話を聞いたローゼは「ふむ」と顎に手をやり色々と思考を巡らせていた。
「影によると現王が即位してから貴族や役人の腐敗が激しく、地方は大分疲弊しているようです。また最近になり反乱が起きるかもと聞いていましたが、王女殿下の事でしたか」
シャルルが考え込んでいるローゼに補足するように説明した。
「ローゼは認めたが、セウェルスなど放っておいて自ら滅びれば良いと儂は考えているぞ」
国王は渋い顔をしてボヤいていた。ローゼは執務机に座る父親を見てニコリと邪悪な笑みを浮かべると「お父様、我が国でも反乱を起こされたくなければ少し黙っていて下さいね」と言った。見慣れた光景ではあるが、その原因が自分であるためローランの胃が痛くなる。シャルルは「陛下に対して不敬ですよ」とローゼを嗜めるが、ペロリと舌を出しただけであった。
「表立っては動けなさそうだな。シャルル、影にローランを護るよう伝えてくれ。こいつは猪突猛進だから危なくて敵わん」
「承知致しました」
シャルルが頷いた。いやっ!とローランが腰を上げかける。
「姉上。俺の事は良いからティアの事を」
「それはお前の役目だローラン。お前がティターニア嬢を護るのだろう」
我に返りローランは再び腰を下ろした。それを見てからローゼは続ける。
「どうやら私と新セウェルス国王とは気が合いそうだ」
「いや、ティアと姉上全然違うし」
間髪入れず突っ込むローランに、ニコニコ表情を変えないローゼからティーカップが豪速球で飛んできたので、ローランは割らないように慌ててキャッチした。
「話の腰を折るな馬鹿者。言いたいのは私がセウェルスに戦を仕掛ける気が無いと言う事だ」
「姉上?」
「私はあの大戦を知っている。数え切れないほど兵士の命が奪われた。大好きだった叔父上の命もだ…」
竜騎士団長だった王弟、ローラン達の叔父は15年前の大戦で命を落としている。ローランは2歳だったので覚えていないが、3歳年上のローゼには叔父との思い出が残っていた。
「だからこそだ、儂はあやつを奪ったセウェルスが憎い。セウェルスを許す気にはなれん」
国王は底冷えのする声で呻いた。ローゼは国王を見ると首を振る。
「だからこそ、です。お父様。私達が何故争うのか、そもそも何故争いを始めるようになったのか。私は賢者の弟子になりセウェルスにも赴むきました。そこで感じたのはクルドヴルムもセウェルスも変わらないと言う事です」
国王を見つめるローゼは為政者のそれであった。
「国には民が居て、それぞれ同じように生活を営んでいる。戦に良い事など何一つ無い。友人や家族、大切な者を亡くす悲しみは繰り返すべきではありません。
ですからずっと、私が即位した暁にはセウェルスと和平を結びたいと考えていました」
「和平など…。ローゼ、お前は祖先にどう顔向けするのだ」
「そもそも戦は竜王陛下が望まれている事でしょうか。私はそうは思わない。故に祖先の皆様方に恥じる事は何一つございません」
ローゼの言葉に国王は呻いた後「分かった。好きにしなさい」と肩を落とした。
姉上は良き王になる、そうローランは思う。傍若無人で人を人とも思わないところはあるが、王として相応しい資質を兼ね備えている。ティアの目的が達成され、ティアが女王となれば姉上の良き協力者となってくれるだろう。もちろん障害は多いが、それは側近が努力していけば良い。
ローゼはローランの驚くような、それでいて畏敬を込めた視線に気付くと、ニッと微笑む。
「私の望みはお前とティターニア嬢達にかかっている。あちらは任せたぞ、ローラン」
「必ずっ!!姉上の期待に応えてみせます」
ローランはローゼに向かい深く頭を下げた。
 




