22. 山脈に眠る
家族の了解を得られた後にすぐ出発する予定だったが、城の面々に引き留められ一泊する事になった。
夕食の場では何処から聞きつけてきたのか「祝!初恋 ローラン殿下」と罰ゲームを思わせる横断幕が掲げられ、城中の男性達に祝われ、城中の女性達からは泣かれた。
(この城は温かいな)
主役であるローランは揉みくちゃにされながらも、城で働く皆の態度に心が温かくなる。
皆にティアを紹介したいという気持ちと、それが出来ない事の申し訳なさと、複雑な感情であった。
翌日、家族で見送りに出ていたローゼがローランの元へ歩みより耳元でそっと囁く。
その言葉にローランは目を見開いてローゼに視線を送ると、ローゼは優しく微笑んでいた。
そうしてローランから身体を離したローゼはいつものように弟の背を叩く。
痛みで前屈みになったローランに笑いかけながら
「こちらこ事は気にせず精一杯やってこい。万が一失敗しても骨は拾ってやる!」
そう高らかに宣言する。
ローランは大きく頷くと、竜に騎乗する。
そして「必ず成功させてみせるよ!」と片手を力強く掲げ、家族に見守られるなか飛び立った。
ーーーーーーーーー
クルドヴルムを出発して3日。
ローランは大陸を縦断している山脈の中心部を目指していた。
この山脈には名前がない。
神が住まうとされる山脈に名を付けることは不敬にあたるとされている為らしいが、単に四大国に跨る山脈の名付けで諍いが起きないようにしただけと、ローランは思う。
「フレイ!寒くないか?」
フレイは大丈夫という風に「グルル」と鳴く。
出発する前にシリルから渡された魔法石の効果でローランとフレイの周りに薄い膜が覆われ、一定の温度を維持出来ている。
しかし眼下に広がるのは一面の銀世界。
魔法石の効果を解くと、あっという間に凍えてしまうだろう。
師匠から山脈の中心部に大きな洞窟があると聞いた。
洞窟の中に始祖が使用した聖剣が眠っているそうだ。
洞窟の入口が雪で覆われていないか不安だが、幸いにも天気は良く視界はクリアになっている。
「あれか?」
太陽の光で雪が反射し見え難いが、山脈の中に大きな空洞が口を開けているのをローランは捉える。
フレイを誘導しそこへ向かうと、槍のような氷柱が幾重にも重なる洞窟の入口が現れた。
雪崩が起きないようゆっくりと降り立つ。
ローランから離れる事で魔法石の効果が切れる前に、フレイの召喚を解いた。
そうして一人になったローランは頭上に広がる氷柱を見て「いきなり落ちて来ないよな」と呟く。
(まあ悩んでも仕方ない)
ローランは洞窟に向かって歩み始めた。
暫く薄暗い洞窟の道を進むと、突然視界が開けた。
目の前に広がる光景にローランは感嘆する。
洞窟の入口も広かったが、今ローランが立つ場所は更に大きな空洞になっている。
空洞は青く光る石が壁となっており、頭上には隙間があるのか太陽の光がまるで糸の様に降り注いでいる。
そして目の前にはキラキラと輝く水が張られていた。
幻想的な光景に目を奪われるが、何かがおかしいとローランは首を傾げる。
この空洞が洞窟の最深部らしく、先に道は見えない。
だが見渡す限りどこにも聖剣は無い。
まさかと、ローランは嫌な予感に眉を顰めた。
そうして目の前に張られている水を見つめる。
(まさか、水の中って事か?)
ローランは大きく息を吐くと、上着を全て脱いで上半身だけ裸になる。
幸い魔法石があるので寒くは無いが、どこまで深いのか分からない以上、息が続く保証がないのが懸念された。
(なるようになるか…)
ローランは大きな深呼吸を何度か行うと、息を止めて水に飛び込んだ。
水はどこまでも透明で、不思議な事に七色の身体を持った小さな魚が泳いでいる。
目的が無ければ息が続く限り見ていたい光景だが、今はその余裕も無く、下に向かって泳ぎ続けた。
(息…もつか?)
水上にあがる分まで息が続くようにしたいが、その余裕は無いかもしれない。
懸念が現実になる可能性を帯びて、今まで以上に力強く泳ぎ始めたローランの視界の先に淡い光が見えた。
急げとローランは光に向かって泳ぎ続ける。近付くと改めて見えた光景にローランは瞠目した。
目の前に見えるのは3本の剣と1本の槍。
それは地中に刺さってはおらず、宙に浮いている。
それを囲むかのように楕円形をしたドーム状の膜が覆っていて、中には空気があるようだった。
ローランが膜に手を伸ばすと、グニュリとローランの手が膜を突き抜ける。どうやら妨害はされないらしいとローランはドーム状の膜を突き抜けた。
水中に現れた空間に、ローランは体勢を崩し地面に叩きつけられる。それよりも想像以上に深いこの場所に辿り着くで無理をしたのが苦しく、何度も咳を繰り返す。
“おやおや、竜の子が其方を迎えにきたのかの?”
突然聞こえた声にローランは驚き顔を上げ、声のした方を見て、呆気にとられ口をポカンと開く。
目の前には柄に宝石が散りばめられた曲刀がフワフワと浮きながら、同じように浮いている黒光りする槍に話し掛けていた。
「武器が…話してる⁈」
ローランはずぶ濡れの身体を起こすと、目の前で起こっている状況に声をあげた。




