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17.ティターニア

ティア…ティターニア・ルグ・セウェルスが決意したのは彼女がまだ14の時であった。


ティアには家族との思い出がない。

父である先王は大戦で負った傷が元でティアが産まれてすぐ崩御した為、ティアが知る父は肖像画だけ。

母もまたティアが幼い頃に亡くなり、ティアの肉親は10歳離れた兄がひとり。しかし家族として接した事はない。


国王イーサン・ルイ・セウェルス。

少年の頃に即位したイーサンは宰相フランドル公爵の傀儡と囁かれていた。


事実イーサンはフランドル公爵に全権を与え、自身は王宮の奥に引き籠もり滅多に姿を現さない。

姿を現したとしてもフランドル公爵の言葉に肯くだけ。

そのためセウェルスはフランドル公爵に擦り寄る貴族、フランドル公爵と敵対する貴族、また様子を伺う貴族と3つに割れてしまっている。


14歳のティアにもこの状況が良くない事は充分理解できた。

しかし傀儡と呼ばれてもイーサンはティアにとっては唯一の肉親。ティアは兄に進言するため何度もイーサンの元を訪れたが、一度も対話する機会には恵まれなかった。


このままでは内乱が起きる。国が割れれば国民が苦しむ事になる。

焦りに駆られる中、状況を変える出来事が起こった。





「姫様、フランドル公爵令嬢がお越しです」


侍女サラの言葉にティアは少し驚き、読みかけていた本を置いて立ち上がった。

フランドル公爵エブリンはティアの数少ない友人である。

父親である宰相への嫌悪感はあるものの、エブリンは明るく優しい心根の持ち主であった為、ティアは信頼を寄せていた。


前触れも無いとは珍しい。ティアは疑問に思ったが断る事なく自室に招き入れるようサラへ指示する。

しばらくすると、エブリンが入室する。

その後ろにはエブリンの護衛が1名追従していた。


「げきげんよう、エブリン。今日はどうなさったの?」


そう言ってから、ティアは手でエブリンを長椅子へ誘導する。

しかしエブリンは動かない。エブリンはカーテシーを行うとその状態のまま低頭する。


「突然訪問し申し訳ございません、ティターニア殿下。ですがどうしてもお話させて頂きたい事があり参りました」

「エブリン?」


いつもと様子と違うエブリンにティアは戸惑う。

どうしようと助けを求めるよう護衛を見てティアは一瞬固まった。

髪色を変えているが護衛の顔は見覚えがある。


「あなた達は下がりなさい。ああ、サラ。貴女は残って頂戴」


部屋に居る護衛とサラ以外の侍女に退室するよう指示を出す。

護衛は慌てるが、ティアがもう一度命令すると何かあったらすぐ呼ぶよう伝え渋々退室した。

そして残ったのはティアにサラ、エブリンと護衛であった。


「ここに居るサラはわたくしが最も信頼している侍女ですので構わないでしょう。オスカー…オスカー・アルトワ伯爵」


ティアは護衛を見ながら良く通る声で護衛の名を呼んだ。

名を呼ばれた護衛は跪きながら、変化を解く。

良くある茶色の髪色が燃えるような赤色へ変化した。


ティアの目の前に跪くのは、エブリンの兄。

フランドル公爵の息子であり、兄であるイーサンの側近でもあるオスカー・フランドル。

今は公爵家が管轄する伯爵領を継いでいるが、次期公爵になる男であった。


「御前に侍ります事をお許し下さい、ティターニア殿下」


そう言って、オスカーは顔を上げる。

真っ直ぐティアを見つめる瞳はエブリンと同じ深い緑色。そこには迷いのない強い意志を感じる。


「サラ、お茶を用意を。アルトワ伯爵、エブリンも、長い話になるでしょうから座って下さいな」


ティアはそう言うと、再度長椅子を誘導した。

オスカーとエブリンは礼を解くと並んで長椅子へ腰掛ける。

対面に座ったティアはサラの淹れた紅茶が入ったカップに手を掛けると、それを一口飲んでからソーサーに戻す。

そして二人に向けて優雅に微笑んだ。


「あなた方がわたくしに伝えたい事とは何でしょう」


分かっているのにティアは敢えて尋ねる。

オスカーは持っていた書類の束を懐から出すと、両手でティアへ差し出した。


「ティターニア殿下。私達は貴女に王になって頂くために参りました」


オスカーの言葉にティアは笑みを深める。

これが、内乱を抑止出来る転機になる可能性への喜び。そしてそのためには…


国王を…兄であるイーサンを弑する必要がある


…兄に対する愛情故の悲しみ。

それを誰にも悟られないよう、ティアは微笑む。



「話を聞きましょう」






それから2年。16になったティアは賢者シリルの門を叩く。


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