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11.ローランの失恋

『それで御主人様(マスター)はティア様に愛の告白、いえ独白をしたと』


フェンリルに乗って丘の上に辿り着いた俺達は、事情を知ったスチュワードに呆れられた。顔には笑顔がはりついているが、俺には分かる『この馬鹿御主人様(マスター)』とその顔は言っている。

わかってるよ!俺だって口に出すとは思わなかったんだ。

スチュワードから顔を背けて俺は回想した。





「俺はティアに恋したのか?」


俺の口から溢れた台詞は当たり前だがティアの耳にも届き、その瞬間ティアは石像のように固まってしまった。身体は硬いのにティアの体温はみるみる上がり、全身真っ赤になる。

俺も自分の発言なのに頭が真っ白になって、出せた言葉は「ごめん、独り言だから気にしないで」だった。

気にして欲しいのに、気にするなって矛盾してるじゃないか!

ティアは真っ赤な顔でコクコクと頷き、フェンリルは意味が分からず首を傾げた。






…何言ってるんだ俺。

大声で叫びながら転げ回りたい気持ちに駆られる。

そういえば俺は昔よくこの丘へ逃げていた事を思い出した。


この丘の名は「竜の丘」と呼ばれている。

竜騎士の練習場が近くにあり、竜が飛ぶ姿が見れる事が名の由来らしい。

丘の上からは遠目だがクルドヴルム城も見る事が出来る。


今、丘の上にはどこから用意したのか肌触りの良いマットが敷かれ、その上に茶器を載せたトレイが置いてある。

フェンリルはそのままティアのソファー代わりとしてティアの背中を陣取っていて羨ましい。

ティアといえば先程から俺を見ると真っ赤に固まってしまい、スチュワードの淹れたハイビスカスティーを飲んでいる時も、顔を合わせてくれなかった。

スチュワードやフェンリルには笑顔を向けているのに不公平だと思ってしまう。


『ティア様、我が御主人様(マスター)の幼い頃にこの丘で「女なんて大嫌いだ!」って叫ばれた事があるんですよ』


ブッっと俺は口にしていた紅茶を吹き出しそうになる。

何を言ってるんだ!とスチュワードを見ると、スチュワードは遠くに見えるクルドヴルムの城を見ながら語りだした。


御主人様(マスター)はご自分の意思に関わらず、幼い頃から婦女子の心を虜にする特殊な体質の持ち主でございました。媚薬を盛られたり、襲われそうになったり…ああ、無論私がおりましたので何事もございませんでしたが。そんな事もあり御主人様(マスター)はあまり女性が得意では無いのです』


ティアはスチュワードの話に目を丸くし、ようやく俺に視線を向けてきた。

恥ずかしいから止めて欲しいが、ティアが俺を見てくれている事が嬉しくて何も出来ずにいた。


『ですからよく城を抜け出してはここで…』


クスリとスチュワードは微笑み、ティアに向かって頭を下げた。


『私共にとって御主人様(マスター)の変化は僥倖なのです』


ティアは困ったようにスチュワードを見たあと、俺に向かって頭を下げた。


「ごめんなさい、ローラン。わたくしには結婚しなくてはならない方がおります」


俺は恋心を自覚したと同時に失恋したらしい。

頭の中がまた真っ白になって…いや、何かティアが気を使わないで済む返事を返さなくては…。

時間にすれば僅か数秒、俺にとっては永遠のような時間だった。


「ティアに結婚する相手が居る事は分かった。分かったが…俺はまだ諦めたくない。修行中は兄弟子としてティアを導けるよう最大限努力する。俺の気持ちは気にしなくていい。だけどいつか、俺は改めてティアに想いを伝えるよ」


俺は愛を語る男達をいつも一歩引いてみていた。

何故諦めないのか、女などいくらでも居るだろうに…と、不思議でならなかったが今なら分かる。

まだ会って2日目だ、これから距離を縮めていけばいい。

前向きな俺の心に反して、ティアは哀しそうに微笑んでいた。


「わたくしの結婚は、わたくしの目的の為、決定事項なのです。それを覆す事は出来ません」


ティアの手は膝の上で固く握りしめられていた。

ティアの言葉から相手に対して恋愛感情が無い事は分かったが、結婚する意志は堅そうだ。


スチュワードは残念そうに『左様でございますか』と溜息をついた。

俺はティアへ笑い掛ける。


「うん、それでも。ティアが俺の事を、気持ちを忘れないでいてくれるよう頑張るよ」


それはティアを困らせるだけなのに。

結ばれる事が無いと分かっているのに、なんて我儘な感情なんだろう。

だけど俺はただ、何もせず諦めるのは嫌だった。

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