13 邂逅、影の席の間にて
「私たちは恋愛結婚だったのよ。」
「あの夫婦は政略結婚だった。」
どこまでも噂は付きまとった。
「あの人は人の心など持っていない。」
「心が凍てついているかのようだ。」
答えを得る必要があった。
「氷室さんが心がないと言うのならば、影の席の座を得たからなのではないでしょうか?」
そんなたった一言で、自分は駆け出したのだった。
---
落ちた。
受験やテストに関するあれそれではない。
そちらに自分は抜かりない。
物理的な意味で、落ちている。
どこまで続くのか目を細めるのと同じ頃、無機質な地面が見えて息を飲んだ次の瞬間には、重力が反転していた。
どたりと情けなく床に倒れこむ。
通ってきたはずの空洞は消えていた。
「ここはどこだ?」
一見して学校のように見える。
しかし壁は赤と黒の市松模様で、どう見ても静かに勉学に励める場所ではない。
「おやおや影の国に特別ゲストのご登場だ。」
どさり、人の形をした影が地面に血のようなものを垂れ流しながら倒れた。
「生身の人間を殺すのは初めてだ、そろそろ残飯には飽きてきた頃でね。」
年若い、焦げた茶髪の男は藍色の瞳を細めて、楽しそうに笑った。
仕込み杖は鋭利な剣になっている。
あれに切られたらあいつの言う床に転がる残飯と同じになってしまう。
「君はどう抗うかな?
諦めるか、生きるために勇気を振り絞るか。
さあ、魅せてくれ。」
ギラギラと怪しく瞳を煌めかせ、男が、剣を振りかぶる。
「まだ死ぬわけにはいかない……!」
神秘学で防壁を作り、一先ずは耐える。
だが次の手がない。
防いでいるうちに何か策を考えなくてはいけない。
そう思っているうちに、時計の音が辺りに響いた。
「おっと、3時のお茶の時間だ。
……君は運がいい。」
そう言うと、男は驚くほどあっさりと身を引いた。
「私はトウエイ。冬が永遠と書いて冬永だ。」
「どこをどう見ても、健康で健全、かつ紳士的な快楽殺人者だろう?」
「……ここはどこだ?」
その質問に、冬永はすらすらと回答を用意した。
「君は影の席を得る為の入り口を開いたのだ。
影の席を得たいのなら現、影の席に座する者より素晴らしい神秘をもって『影を持ってくる』ことだ。
だが、ここから出たいのなら簡単だ。
出口まで案内しても良い。」
「君は私に似ているからな、特別だ。」
ところで、君の名前は?
問われて、自分がまだ名前を名乗っていない事に気付いた。
「俺は、キネヤ イズミだ。」




